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「姉ちゃんちょっと付き合えよ!」
「ちょ、お兄さん止めてください」
仕事に慣れた、とか言って初心を忘れた罰なのだろうか。俺は酔っ払いにからまれていた。普段なら私よりいい女がとかお店の名前を出して適当に回避するのだが、今日の酔っ払いはしつこかった。断ってもことわっても絡んでくる。終いには肩を組まれ、強引にどこかへ連れて行こうとする。
足を踏ん張って精一杯抵抗するが、全く歯が立たない。次第に呼び込みをしていた店の前の通りを離れ、薄暗い路地の方へと連れ込まれた。
お店の評判やいつかこの酔っ払いが客になるかも知れない可能性を考えると、手は出せない。それにジヴァさんやお店のお姉さん方にだけは絶対に迷惑をかけたくなかった。どうにかこの酔っ払いを宥め穏便に逃げる方法は無いかと抵抗しながら考えを巡らせているときだった。酔っ払いが俺の胸を鷲掴みしてきたのは。
同じ男同士のはずなのにその瞬間に俺が感じたものは、恐怖だった。逃げ出さなければならない。さっきまで穏便になんて考えていたはずなのに、知らぬ間に俺は必死に抵抗していた。
「離せ!離せっ!!」
「暴れるんじゃねえ!!」
なりふりかまわず身をよじる俺を酔っ払いは平手打ちという方法で大人しくさせた。口内が切れたのだろうか。鉄の味が広がっていく。
「あぁ、なんだ。胸つかまれて感じたのか?」
そんな見当違いのことを言いながら、酔っ払いは俺を壁に追い詰め身体全体をつかって俺の自由を奪う。両手で押し返そうと試みるも、途端に片方の手で俺の両手を拘束した。そうしてから空いている方の手で俺の頭を掴み上を向かせると好色そうな笑いを浮かべた。
「この変態!離しやがれ!!」
精一杯虚勢をはるものの圧倒的とも思える力でねじ伏せられている事が恐ろしく、自分でもどうしようもないぐらい声が震えていた。
「このじゃじゃ馬が!お前は大人しくアンアン喘いでいればいいんだよ!!」
そう言うと酔っ払いの顔が俺に向かって近づいてきた。酒臭い息が吐き気を催させる。何をしようとしているのか察した俺は、最後の抵抗とばかりに顔を横にそらした。頭を掴まれているため髪がひきつり痛みが走ったが、そんなことを気にする余裕は無かった。
女になってしまったからなのか。元の身体でもこうだったのか。いずれにせよ碌な抵抗もできずにこんな状態になってしまったことが情けなく、思わず涙をこぼした時だった。
「何をしている!!」
連れ込まれた路地一杯に男の声が響いたのは。