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しばらくして現れたジヴァという女性は、なんというかワイルド…いや、女豹だった。
ボンキュッボンという3次元とは思えないスタイルに、並々とした艶やかな黒髪。思わず吸い付きそうになるふっくらとした唇に、こちらを値踏みするような眼差し。この人あれだ女王様だ、と俺は確信した。
「ジーニー久しぶりじゃないの。今度はどんな厄介事?」
「酷いなぁ。厄介事じゃなくてフレッシュな人材を運んで来たのにぃ」
女王様を前にしながらもいつもの態度を崩さないジーニーに、俺は尊敬の眼差しを送った。
「人材って、何、その子のこと?」
そうそうと返答しながら、ジーニーは俺を砂漠で拾ったこと何かを説明した。
「というわけで所有印も無いしさ、ここで雇ってあげてくれない?平凡だけど」
そんなジーニーの言葉に俺は勇気を出して女王…ではなくジヴァさんをしっかりと見据えお願いした。俺のことなのにジーニーにばっか頼るのは嫌だったから。
「お、俺、この国のことも知らないし、最初は迷惑かけるかも知れません。ですが一生懸命仕事覚えますからどうか働かせてください!!」
最敬礼も最敬礼。土下座する勢いで俺は頭を下げた。ジヴァさんは小さく息をつくと、やっぱり厄介事じゃない、と呟いた。
「もう、しょうがないわね。ジーニーはうちのお得意様だし、わかったわ。雇ってあげる」
その代わりキリキリ働くのよ、とジヴァさんは俺の顎を魔女のような指先で持ち上げ、妖艶に微笑んだ。
「よかったね」
声のした方へ目を向けるとジーニーが爽やかに微笑んでいた。つられて俺も笑いながら、ありがとうございますと感謝の意を伝えた。
そんなほんわかした空気に浸っていると、カチャカチャと小さな金属がぶつかるような音がきこえた。発信源は、ジヴァさんの手にのせられた巾着袋のようだ。
「はい。じゃぁこれ代金ね」
そう言うとジヴァさんはジーニーにその袋を渡した。
「まいどー」
さも当然と袋を受け取るとジーニーはまたねぇ、と間延びした一言を残してあっという間に去って行った。 一方俺はジーニーにお別れの挨拶をしなきゃ、なんてことを考える隙も無いままにジヴァによって裏口から屋内へ引き入れられていた。
「フフフ…代金分しっかり働いて貰うわよ」
ジヴァさんの長い指先で顎を撫でられながら、俺はその言葉の意味を考えた。
代金分…
代金分……
代金分………!?
そこでようやく俺は自分が売られたのだということに気づいたのだった。