表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライフコース  作者: 只野 唯
ショートケア編
36/37

こもれび


 ピンポーン。

思ったより大きな音が、静かな廊下に広がった。

心臓が一瞬、跳ねる。


少し間があって、ガチャ、と電子錠の外れる音がした。

扉が、ゆっくりと内側から開く。


「こんにちは、高橋さん」


迎えてくれたのは、心理士の佐藤さんだった。

今日でまだ二回目。

名前も、声も、完全に馴染んでいるわけじゃない。


それでも、“知っている顔”がそこにあるだけで、体の強張りが少しほどける。


「こんにちは……」


自分の声は少しかすれていた。

室内は、想像よりも普通だった。

白い壁。木目の床。丸いテーブル。


観葉植物がひとつ。

どこかの誰かの家のリビングみたいで、病院らしさはほとんどない。


数人の利用者さんが、思い思いの距離で座っている。


誰もこちらをじっと見ない。

ちらっと視線が動いて、すぐに戻る。

値踏みされる感じがないことに、驚く。


「今日は見学なので、座っているだけでも大丈夫ですよ」


佐藤さんは、私の少し後ろに立ちながら言う。

背中を押さない。

前にも立たない。


絶妙な距離。

丸テーブルの端の席に案内される。

椅子に座ると、足の震えがやっと自分にだけ分かる程度になる。


ここにいる人たちは、どんな人なんだろう。

どんな理由で、ここに来ているんだろう。

でも、不思議と聞きたくはならなかった。


自分のことも、まだ話せないのだから。

部屋の空気は静かで、無理に明るくもなく、暗くもない。


まさに、こもれび。

強すぎない光の中で、私はただ座っている。

できていることは、それだけ。


でも、それだけで十分だと、今は思えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ