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ライフコース  作者: 只野 唯
ショートケア編
33/40

提案2

ショートケアの説明を受けてから、二週間が経っていた。

チラシは何度も読んだ。

ホームページも何度も開いた。

緑色の落ち着いた画面。

「どんな方が利用しますか?」の項目。

全部に当てはまると思いながら、申し込むボタンはないことに安堵していた。

診察室で、私は正直に言った。

「参加したい気持ちはあります。でも、迷っています」

主治医は、いつものように大きく反応しない。ただ、小さく頷く。

「迷いますよね」

否定も、説得もない。

一拍置いてから、さらりと言った。

「今、担当の心理士に会ってみますか?」

あまりに軽い調子で言うので、一瞬聞き間違えたかと思った。

「え、今日ですか」

「ええ。たまたま時間が空いています」

逃げ道が用意されていない提案。

でも、強制でもない。

「穏やかな人です。急がせません。あなたのペースを尊重するタイプです」

二週間前にも聞いた言葉。

まるで安心材料をそっと差し出すみたいに、同じトーンで繰り返す。

心臓が少し速くなる。

今ここで断ることもできる。

「また今度にします」と言えばいい。

でも、断って家に帰ったらどうなるか、簡単に想像できた。

布団に横になりながら、

“あのとき会っておけばよかったかな”

“やっぱり逃げたよね”

“どうして私は決められないんだろう”

ぐるぐる、ぐるぐる。

今日の診察を何度も再生して、自分の言葉を反芻して、勝手に落ち込む。

それが目に見えていた。

「……会います」

自分の声が、思ったより小さい。

主治医は「分かりました」とだけ言って内線を取った。


事務的なやり取りのあと、「少しお待ちください」と受話器を置く。

待合室とは違う静けさが診察室に落ちる。

エアコンの風の音がやけに大きい。

不安は消えていない。

むしろ増えている。

でも、不思議と後悔はまだ始まっていなかった。


数分後、ノックの音がした。

「失礼します」

扉が開く。

私は椅子の上で、ぎゅっと手を握りしめる。

手のひらがじとっと湿っているのを感じた。

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