表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライフコース  作者: 只野 唯
ショートケア編
32/38

提案

 診察室はいつも同じ匂いがする。消毒液と、紙のカルテと、少し乾いた空気。

「眠れるようにはなりました」

 私がそう言うと、主治医は静かに頷いた。

「それは良かったですね」

 パソコンの画面に何かを入力しながら、先生は続ける。

「ただ、生活のリズムはまだ整いきらない、と」

「……はい。起きても、何をすればいいのか分からなくて」

 朝は来る。目も覚める。でも、その先がない。時間だけが、白いまま広がっている。

 先生は少し考えてから言った。

「ショートケアを利用してみますか?」

 聞き慣れない言葉だった。

「ショートケア……ですか」

「デイケアの半分の時間だからショートケアです。まずは短い時間から、生活リズムを整えたり、人と関わる練習をしたりする場所です」

 デイケア、という言葉も私はよく知らなかった。

「デイケアは、精神疾患を持っている方が通院しながら生活リズムを整えたり、社会復帰を目指したりする場です。ショートケアは、その第一歩ですね」

 第一歩。

 その言葉に、胸が少しだけざわついた。歩く前に、立ててもいない気がするのに。

 先生は机の引き出しから一枚のチラシを取り出した。緑色が基調で、柔らかい字体が並んでいる。

「無理にとは言いません。選択肢の一つとして、考えてみてください」

 選択肢。

 会社を辞めてから、私の毎日は真っ白だった。選ぶものがない世界は、自由というより、空白だった。

 会計を済ませて外に出ると、外の光が眩しかった。

 帰宅してから、私はチラシをテーブルに置いたまま、しばらく見つめていた。やがてパソコンを開き、病院名と「ショートケア」を検索する。

 チラシと同じ緑が基調の、落ち着いたホームページが表示された。

 スクロールする。

 プログラム一覧。作業療法。軽い運動。グループワーク。カフェタイム。

 そして、目が止まる。

 ◆どんな方が利用しますか?

 ・体力回復を目指したいと思っている方

 ・生活のリズムをつくりたい方

 ・人とのつきあい方を学びたい方

 ・いずれは就労にチャレンジしたい方

 ・自分の悩みを相談する場所が欲しい方

 ひとつ、ひとつ、心の中で読んでいく。

 全部に、当てはまった。

 

 第一歩。

 半分の時間。


 私はチラシをもう一度手に取り、次の診察日をカレンダーで確認した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ