猶予の一年
会社を辞めて、三ヶ月。
あっという間だった。
何もしていないのに、時間だけが進むのは不思議だ。
お金のことが一番怖かった。
生きるにはお金がいる。
「今は休むことに専念してください」
主治医は言っていた。
でも、休むにもお金がいる。
眠れない夜、スマホの光だけを頼りにネットの海に潜った。
「退職後 傷病手当」
検索窓に打ち込む指は、少し震えていた。
退職後にも手当を受け取れる条件を一つずつ確認する。
① 業務外の病気やケガの療養
YES
② 仕事に就くことができない
YES
③ 連続3日を含み4日以上就労不能
YES
④ 被保険者期間1年以上
YES
⑤ 退職日に受給中、もしくは受給可能
YES
YES、YES、YES。
まるで試験の答え合わせみたいだった。
全部に丸がついたとき、胸の奥に小さな安堵が灯った。
傷病手当は通算1年6ヶ月。
在籍中に6ヶ月分受け取った。
残り、12ヶ月。
一年。
一年の収入が、かろうじて確保できる。
良かった、と思った。
この重い体を引きずって、
人の視線に怯えて、
面接で自分を売り込むことを、
今すぐしなくていい。
救われた気持ちと同時に、
別の声がささやく。
——先延ばしにして、どうなるの?
履歴書の空白は伸びていく。
世間は止まらない。
同級生は昇進して、結婚して、子どもを産んでいるかもしれない。
私は、部屋の中で、
一年を数えている。
安心と不安が、同じ重さで胸に乗っている。
でも。
今すぐ未来を決めなくてもいい、
という事実は、確かに私を少しだけ救った。
休むことは、逃げだろうか。
それとも、治療だろうか。
まだわからない。
ただ、今は何も考えずに休みたい。
それだけが、本音だ。
一年。
長いようで、きっと短い。
でも今の私には、その“一年”が、
溺れないための浮き輪みたいに見える。




