好きのかたち(過去)
一時期、男性アイドルにハマっていた。
正確には、ハマっている“ふり”をしていた。
クラスの女の子たちは、放課後になると目を輝かせてスマホを囲んでいた。
新曲の話、ライブの話、推しの尊さ。
彼女たちはキラキラしていて、世界の中心に好きな人がいるみたいだった。
私はその輪の中に入りたかった。
だから覚えた。
メンバーの名前。
誕生日。
代表曲。
口に出せば、それっぽく聞こえる言葉。
「私も◯◯くん好き」
そう言えば、仲間になれた。
でも、心の奥はどこか静かだった。
高校生のとき、三人でライブに行った日。
人混みと熱気。
ペンライトの海。
ステージに立つ彼らは、たしかに眩しかった。
トイレに行った友達を待っているとき、
隣の子がぽつりとこぼした。
「グッズも買わないのにオタク名乗らないでほしいよね」
軽い調子だった。
でも言葉は鋭かった。
ひゅっと、喉の奥が締まる。
あの子のことを、そんなふうに思っていたんだ。
そして同時に、思う。
私はどうなんだろう。
CDは買った。
ライブにも来た。
ペンライトも振っている。
でも——
私は“ちゃんと”好きなんだろうか。
彼女たちみたいに、
寝ても覚めても考えて、
お金も時間も惜しまず、
人生の中心に置くほどの熱量はない。
同じ人を好きでも、好きの形は違う。
でも、好きの形が違うと、
ときどき分かり合えない。
“オタクらしさ”という見えない物差しがあって、
それに足りないと、資格がないみたいな気持ちになる。
私はずっと、何かを“ちゃんとやれているか”を気にしてきた。
ちゃんとした友達。
ちゃんとしたファン。
ちゃんとした人間。
でも本当は、
好きに正解なんてないと思いたかった。
静かな好きもある。
遠くから見ている好きもある。
ハマっている“ふり”から始まる好きだってある。
あの日のライブの光を思い出す。
眩しかったのは、彼らだけじゃない。
夢中になっている友達たちも、同じくらい眩しかった。
私は、その光の中で、
自分の居場所を探していただけだったのかもしれない。




