昼下がりのファミレス(過去)
窓際の席に座ると同時に、ふたりして無言でメニューを開いた。油膜のついたビニールの感触さえ、もう慣れ親しんだものだ。
「どうする?」
ページをめくりながら彼氏が言う。
私は写真の中央に大きく載った“おすすめオムライス”に視線を止めた。
特別に好きなわけじゃない。けれど、見慣れた黄色が、迷わなくていい色をしていた。
「オムライスにしようかな」
そう言うと、彼氏はふっと笑った。
「また? オムライス好きだね。いつもそれじゃん」
そう言われて、私はメニューの角を指先でつまんだまま、小さく頷いた。
“好きだから”じゃなくて、“間違えないから”。
そう言い返せばよかったのかもしれない。でも、わざわざ伝えるほどの話でもない気がして、喉の奥に押し込む。
私の好きなものが、ほんとは何なのか、自分でもよくわからない。
でも、この店のオムライスは、いつだって想像した通りの味で、私を裏切らない。
「そっちは?」
聞き返すと、彼氏は迷いなく指さした。
「ハンバーグ。ほら、新メニュー出てるし」
その軽さが少し眩しかった。
やがて店員が注文を取りに来て、トマトソースの香りが漂うのを想像しただけで、心の中に小さな安全地帯が灯る。
私は今日もオムライスを頼む。
ただ、安心したいから。
いつもの味で、今日の私をつなぎとめたいだけ。
彼氏は知らない。
私が“いつも”を選んでしまう理由を。
そして、あの時の私は、知られないままの方が、楽だった。




