便り
「自立支援制度?」
病院の受付で差し出された紙を、私は両手で受け取った。
受付のお姉さんは、柔らかく頷く。
「自立支援医療は、治療にかかる医療費の自己負担を軽減するための制度です。長期的な治療は費用がかさみますから、ぜひ申請してみてください」
長期的。
その言葉が、静かに胸に沈む。
私はまだ、どこかで「すぐに治るはず」と思っていた。いや、思おうとしていたのかもしれない。
二週間ごとの通院。今日で三度目の受診。
診察室の前の椅子に座りながら、白い壁を見つめる。消毒液の匂い。静かな足音。遠くで聞こえるプリンターの音。
一ヶ月経っても、私は会社に行けなかった。
朝になると体が固まる。電車を想像すると息が浅くなる。セキュリティーゲートの前で立ち尽くす自分の姿が、何度も頭に浮かぶ。
今日は、求職延長の診断書をもらいに来た。
本当は、そんな紙をもらわずに済む自分でいたかった。
このままじゃ駄目なことは分かっている。
分かっているけど、どうしようもない。
診察室で先生に状況を話すと、先生は静かに頷き、キーボードを打った。
「焦らなくていいですよ。今は回復を優先しましょう」
優しい言葉なのに、少しだけ苦しい。
焦っているのは、たぶん私だけじゃない。
上司とは、定期的にやり取りをしている。
電話はできない。
着信音を想像しただけで、心臓が跳ねる。声を出そうとすると喉が詰まる気がする。
だから、メッセージだけ。
『傷病手当の申請書類送りました』
『後日返送します』
『診断書はいつ頃になりそうですか』
『次回受診時にいただける予定です』
最近の連絡は、どんどん事務的になってきていた。
以前は、「体調はどう?」と一言あった気がする。それがなくなったのは、私が長引かせているからだろうか。期待を裏切っているからだろうか。
スマホの画面に並ぶ、短い文章。
そこに感情はない。
いや、あるのかもしれないけれど、読み取る余裕がない。
診断書の入った封筒を受け取る。
ずしりと重い気がするのは、中身の紙のせいじゃない。
自立支援制度の案内も、バッグに入れた。
長期的な治療。
その言葉が重かった。




