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極東、その片隅

何か趣味を…と思い。

気がつけば大人になって、誰しも働かなくてはならない。

昨今、AIに取って代わられるなんて騒ぐ事もあるが心配ない。

多分、今の仕事は機械やAIでは代行不能だと思う。そもそもの就業人数の少なさや、誰でも就ける訳でもない間口の狭さ、年々増加する闇バイトやら不良外国人…アレ?世間様なみに俺の仕事も危うくなってる?

まぁいいとしよう。俺、こと宮白(みやしろ)の仕事は…ウェットワークがメインになる。暗殺、破壊、時々窃盗etc…依頼によってはお断りするけど、大体持ち込まれる仕事はそんなところだ。

今日も今日とて張り切ってお仕事中である。

本日は単純明快な「裏切り者を消して欲しい」という依頼。少々手間なのは見せしめであることを解る様に発注者の流儀に則った仕事の仕方を求められる点だ。


夜、家々の明かりが消えるかどうかの時間、俺は指示された住所に誰もが使うナビアプリに従って作業車を走らせる。どこの建築屋さんも使う作業車を路肩に停めて、ハッチバックから道具を出して装着する。どこでもみるバンなので短時間は路肩に停めていても怪しまれないし、目立ちもしない。キャリアには脚立なんか積んだくらいにして。

華々しい撃ち合いやカーチェイス、チュドーンなんて軽快な爆破工作…なんて仕事は画面の中だけで、現実はもっとしょっぱいモノである。某緑の工具メーカーのインパクトドライバーに自作した特殊なカッターを差し込む。今日のターゲットは三人家族の旦那さんだ。依頼人を裏切って何かしたらしい。そこは重要ではない。

空き巣よろしく一階の庭の窓をガラスカッターで丸く切り抜き、鍵を開け、靴を脱いでお邪魔する。他人の家に土足で上がっては掃除する奥さんに申し訳ないので…もちろん奥さんは外出中、娘さんは地方の大学に通っているので家にはいないはずだ。調べたところ、奥さんはご友人と今頃は居酒屋で盛り上がっている事だろう。一階のクリアリングに移るため、インパクトを腰に戻し、サプレッサーを取り付けた45口径のHK45を構える。某公安のほぼ生身の元刑事や、世紀の大泥棒の三世の仲間の様にリボルバーなんて洒落込みたいんだが、住宅街で使うには非常にうるさい。仕方ないのでオートマチックの拳銃を使う。


一階を探索したが、やはり人影はない。家族写真なんか飾って、いい家族なんだろう…なにか匂う…キッチンか?

キッチンの鍋を覗いてみると茶色い液体に肉と根菜、脂が浮いている…豚の角煮だ。大根も一緒に煮込まれている。飲みに行くのに旦那さんにはちゃんと晩飯を用意していたらしい。いい奥さんじゃないか。鍋に脇には茹でて水気を切った…これはほうれん草か?小松菜か?が置いてあった。色味に気を遣っている。いいじゃないか。白髪ネギがあれば完璧だ。


さて一階のクリアリングを済ませ、二階に上がって書斎を開けるといた。本日が命日となるターゲットが。迷う事なく銃口を向けるとそれはもうテンプレなセリフを言ってくれる。

「ちょっと待ってくれ…出来心で裏切るなんてつもりはな…」

パシッパシッ…パシッ

心臓に二発、頭に一発。ジャスト30秒で高跳びする銀行強盗も使う手法なので、おそらく国際的スタンダードと思われる。そんな手順で銃弾を叩き込んだ俺は、渋々ターゲットの首を切り裂く。流れる血を眺めながら


「悪趣味だなぁ…裏切り者が死んだら処刑されたって解るもんじゃん。」


と、ぼやくがこの首を切り裂く一手間に別料金を頂いてるので思いとは別に熟す。

ってかこいつまだ角煮食ってなかったんじゃないか?もったいない。

そんな事を想像しながら落ちた薬莢を拾って腰袋に放り込む。いつものことだが現場作業員の格好をして仕事をする。この辺はちょっとドラマや映画っぽいと思う。今のご時世、昼も夜も現場作業員の皆さんは働いている。そんな人たちに紛れさせていただいているという寸法だ。これが意外とどこでも怪しまれない。忍び込む道具や、多少の武器を持っていてもバレないのだ。おかげさまで繁華街のど真ん中で仕事をさせていただいたこともある。ご安全に…なんて思いながら作業車に道具を戻し、銃をバラして銃身を抜く。ライフリングから足がつくのは周知のことだろう。一度使った物は別の仕事では使わず、保管して依頼者ごとに使い分けている。

職業柄、依頼者も限られてくるので毎回捨てなくてもいい。寓話のお兄さんは海に捨てていたが、あれは多分、大手企業だ。うちの様な…俺の様な個人事業主にはそんな贅沢は出来ない。クーッ羨ましい!


さて、自宅近所のスマートETCを降りて俺はスーパーマーケットに向かっていた。ありがたいことに24時間営業である。カートにカゴを乗せて店内を颯爽と歩く。まだ2時間サスペンスの放送時間内であるので、人もまぁまぁいる。調味料類は大体あるので食材だけあればいいだろう。

とりあえず小松菜を一束、長ネギに豚バラブロック…あとは芋焼酎。これは鹿児島のものに限る。スタンダードに富乃宝山がいいだろう。

会計を済ませて、自宅に帰る。言い訳のしようのない違法な道具をまとめたケースと買い物袋を持って、アパートの階段を上がる。人を呼ぶには手狭なワンルームのアパート。実家を出て何年経ったか、歩いて行ける所に母親は住んでいるが、別に住んでいる。凄腕の営業マンだった父親は女にだらしなく、母親に離婚を突きつけられた後は首都圏のどこかでタクシーを転がしているという話だ。なるほど、営業ができたなら向いているのだろう。


とりあえず一度、食材は冷蔵庫に仕舞い、作業着を洗濯機に放り込む。帰宅後は風呂に限る…と言いたいが、起きて風呂に入り、帰宅しては風呂に入るのがルーティーンである。風呂は魂の洗濯であると第三東京の人が言っていたから間違いあるまい。

この前、彫ったばかりの左肩の保護シートが少し剥がれかかっている。三、四日経ったことだし、剥がしてもいいだろう。これがお湯の中で剥がさないと、実に痛い。数少ない趣味の一つが刺青なのでここは我慢しよう。二十歳の頃に彫ろうと思ってようやく彫り始めた。うん。美しい。伝統的な物には職人の心意気を感じられて、惚れ惚れする。完成が待ち遠しい。


さて、風呂から上がった俺は左肩にオロナインを塗りながら、冷たい麦茶を流し込む。風呂が魂の洗濯なら、風呂上がりの麦茶は魂に潤いと言った所だろう。



小鍋にお湯を火にかけつつ、豚バラブロックを半割にして脂身から焼く。沸いたお湯で小松菜を茹でる。塩を入れると色よくなんて聞くが、入れても入れなくても変わりはない…と思っている。

茹で上がった小松菜を水に取って絞る。この鍋をさっと洗って、卵を固茹でにする。あのご家庭は大根を入れていたが、俺はゆで卵を入れたい。小松菜を3cmくらいに切って皿にあけとく。ラップをして冷蔵庫にしまいつつ、豚バラを転がす。全面をカリッとするまで焼き上げて流水に晒す。動物性の脂が焼けるのはいい匂いだ。食欲を呼んでくれる。あのキッチンにあった角煮はどんなモンだったのだろうか…ちょっとつまんでみるべきだったか。


脂を流したら鍋に豚を放り込んで水を注ぐ。豚が十分沈むくらい注いで、火にかける。大体、90分ほど下茹でしておく。竹串が刺さるくらいなんて言うが、人それぞれ力加減ってのがある。再現性のない説明に意味はない。

水を継ぎ足しながら90分ほどキッチリ茹でた豚をまた鍋ごと流水に晒す。お湯が冷水に入れ替わるまで水を垂れ流し、水に入れ替わったところで豚バラをいい感じの大きさに切り分ける。4〜5cm角くらいがいいところだろう。

水と正油、味醂、芋焼酎に砂糖を合わせた煮汁に豚とゆで卵をを放り込む。酒を料理に入れるのは味を繋ぐ為…と聞いた。料理酒ではいかんのだ。飲んで不味い物を入れて旨くなる訳がない。

放り込むと言いつつ、綺麗に鍋に並べる。綺麗に並べる意味は特にないが、気持ちの問題だろう。火にかけて、煮立ったところで長ネギの青身も鍋に。何故かと聞きたくもなるだろうが「コレはそう言う物」だからとしか言えない。様式美くらいにでも思ってくれ。試したが違いは特にない。沸いた頃に落とし蓋を入れて…中火というかトロ火というか…で煮込む。長ネギがクッタクタになったところで更に2割ほど煮込んでやる。

そこから長ネギを取り出したら、また更に煮汁が半量になるまで煮る。イギリス人も驚きの煮込み具合である。

煮る、じっくり煮込む、さらに煮る、もうちょっと煮る、念の為もう少しだけ煮てみるってな。

さて煮上がったところで煮汁だけフライパンに移してとろみをつける。

皿に盛った角煮に煮汁をかけて、冷蔵庫の青味を添えてやる。

そうよ。これが食べたかった。これからは襲撃時間を考え直そう。毎度、人様の晩飯に当てられてたんじゃたまったモンじゃない。


敷きっぱなしの万年床に腰を下ろして、テーブルに皿…味噌汁、白米、角煮、お新香…を置く。完璧だ。

まずは味噌汁を一口。うん。美味い。余談だが、コレは母親の作った味噌を使っている。

そして、角煮を口に運ぶ。執拗に下茹でしてイギリス人も驚きの煮込みを実施した結果、歯も要らぬ柔らかさ!

口に広がる甘みは砂糖によるものもあるが、動物性油脂特有の深い甘みが広がる。追ってくるのは正油のキリッとした味、その直後に豚の旨みが口腔を席巻した。


「あぁ…旨い…うん。」


とろみのついた煮汁を纏った小松菜も旨い、旨みを吸ったゆで卵も最高だ。たまらん。


洗い物を済ませて、布団に潜る。今日も平和だ。

明日、ガス代払ってこよう…忘れてた。あれこれ考えてるうちに意識が途切れた。

続けたいですね。

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