第3話 この力は何のためにあるのか?
――日曜日、朝10時。
中心に巨大なパンダに模した遊具が象徴として近所から親しまれている通称パンダ公園。
ひかりは友達同士と買い物へ行く予定だ。その待ち合わせでひかりは公園の中心に立っていた。
転生前の影響か、女性の服装は気恥ずかしく、中性的な服装を好んで選んでいたのだが、友達と遊びに行くと母親に話したら、めいっぱいおめかしされた服を準備された。それはひらひらのスカート、フリルの付いたカッターシャツ。熊さんのヘアピン。鏡で見るとどことなくいつもよりも、可愛らしく、少女らしく品のあるコーディネートだ。
しかし……、女児の服装はやっぱり慣れない。スカートも履き慣れず、下半身がすーすーと風通しが良い。実際、おっさんが着ていると考えると、ぞっとする。一体どんな不審者なんだよ!?――と、我ながら思ってしまう。
だけど、見た目は女児そのもの。周りからはそう見えているよな……?
だが、周りの反応は特にない。それ相応に見えているのだろう。
本当に大丈夫だろうな……?
などと自らの中でひかりが自問自答しているときだった。
「ひかりちゃーん! お待たせ!」
とことこと小走りで駆け寄ってくる女の子――、さやちゃんだ。
朝から元気でうらやま――いや、私も今はそうか。
「さやちゃん、おはよー。今日はよろしくね」
「ひかりちゃん、おーはーよー!」
どうやら私とさやちゃんが早く来たようで他の子はまだ見かけない。ちょっと早すぎたかな……?
しかし、二人でとりとめのない話をして楽しめていたので、退屈はしなかった。その間、他の女の子たちも集まってきた。
女の子同士の話も正直悪くない。他愛もない話だったが、とても充実していた。歩きながら話も弾み、駅前へと向かう。
学校での出来事、昨日のテレビの話、今のはやりもの――そして、今日何をして遊ぶか……etc
駅前まで大人のアシで10分程度の距離。幼い足だと30分ほどかかったが、女子トークに花が咲き、あっという間に到着した。
駅前――
都会というにはほど遠い。小さな百貨店、飲食店、ゲームセンターなどがぽつぽつと存在する程度、だが女児にとってはこれだけ遊べる場所があるだけで十分。
同級生はみんなこの町の中心街をみるだけで、キラキラと目を輝かせていた。
小さな繁華街だが、異世界にいるかのような目の輝き――
「まず何するー?」
「お買い物したいー!」
「じゃあ、そうしよー!」
自然と何をするかが決まっていった。買い物にいくようだ。両親から幾分か小遣いをもらっていたが、私はほしいものややりたいことがあったわけではないので、この子たちに付き合う形で、何かに使えることができればいいだろう。
女児が好きそうなものは百貨店の4階だったか……
買い物ということは百貨店――案の定、女の子たちは百貨店へ向かっていった。
そして、一同は百貨店4階に到着した。
目的があるのだろうと思っていたが、目的もなく一つ一つ見て目を輝かせていた。
転生前は買いたいものを決めて買ったらさっさと退散していた。
こういった部分が女は買い物が長いと言われるゆえんかもしれない。
やがて、一同は小物売り場へと向かった。
そこにはキャラクターのついたキーホルダーやシュシュといったものが売られてる。女の子たちは小物を見ながらどれを買うかで盛り上がっていた。
「ひかりちゃんは何か気に入ったのあった?」
一同から一歩離れたところで見ていたひかりにさやは話しかけてきた。
こういうことを気に掛けることができるぐらいだ、根もいい子なのだろうな……
しかし、ひかりには小物の良さが分からなかった。後ろから女子たちを眺めていた。
さやに声をかけられ、ひかりは愛想笑いで答えた。
「私は特にないかなー?」
そんなひかりの手をさやが握り、引っ張っていく。
「じゃあ、わたしが選んであげるね!」
転生してしばらく経ち、女児として過ごした。小奇麗になったし、おめかしもするようにはなった。しかし、可愛く見せたいなどの気持ちがさっぱりと湧かなかった。
おっさんとしては小物をつけても恥ずかしいだけなのだが……
そんなひかりの思いはつゆ知らずさやはいろんなこものを見繕った。そして、ひかりにつけては似合う似合わないといった品評会を女子たちが始めてしまったのだ。
自分で言うのもなんだが、転生した私を鏡で何度も見ているがかなりの美人である。
だから、何を付けても可愛く見える。ただ、それはあくまでおっさんだった私が転生していないことが大前提だ。
皆に一押しされ、うさぎのヘアピンをしぶしぶと買うことにしたのだった。
やがて、各々ほしいものをレジへと持っていき、会計を済ませる。
そして、次の場所へと向かった。その場所は洋服売り場――
もちろん買うほどのお金はない。ウィンドウショッピングというやつだ。
女の子たちは可愛い洋服を眺めながら、会話を弾ませていた。
そして――、その矛先がまた私へと向かう。
さやが洋服を持ってきて、ひかりに着るように勧めてくる。
「ひかりちゃんにこれ似合うと思うなー」
「あははっ…… さすがにお店の人にめいわくだよ」
それとなく断る。そう――買うわけではないのだ。それではお店の人に迷惑というもの……
「ひかりちゃーん、お店の人は着ていって大丈夫だって!」
な、なんだって――!?
「むしろ、ひかりちゃんに着てもらって写真を撮らせてほしいっていってるよ~~ おみせのモデルさんになってほしいんだってさー」
ななな、なんだって――!!??
そして、店員と女の子たちの連携により、ひかりだけのファッションショーが開かれることとなった――
「ひかりちゃん、着替えた?」
「う、うん……」
「じゃー、あけるよー?」
更衣室のカーテンを開ける。
そして、ひかりの姿を見た一同はおぉーっと声を発した。
ポーズをとらせられ、写真を撮られていく。
もういっそ、殺せ……
かくして、一人ファッションショーが終わるまで小一時間かかるのだった。
それから、フードコートへと移動してお昼ご飯を楽しむ。
そこでも会話が弾んだ。
転生前はこんな楽しみ方をしたことはなかったなぁ……、サッカーボール片手に一日中サッカーを公園でやっていたものだ。これが男子と女子の差か!?
歳をとったせいもあるだろう。ここまで目をキラキラさせながら買い物一つで楽しめるなんて羨ましいと思った。この子たちの時間を壊しちゃだめだ、そうひかりは考えて気を使っていた。心地よい反面、気まずさもあったのだった。
食事も終わり、次に何するかを話し合う。ひかりは相槌を打ちながら合わせていた。
「じゃあ、つぎはゲームセンターにしない?」
「いいね。いこー」
「ひかりちゃん、ゲームセンターだって!」
どうやらゲームセンターに決まったらしい。
一同は食事を片付け、ゲームセンターへと向かう。
ゲームセンターは百貨店のすぐ横にある。そこまで歩くのに時間はそんなにかからなかった。
そして、ゲームセンターに入店すると―― まず目に入ったのがクレーンキャッチャー。
可愛いぬいぐるみが置かれている台に彼女たちは釘付けになっていた。
女の子の一人が台にお金を入れて、ぬいぐるみをとろうとするがアームが弱すぎて、ぬいぐるみは持ち上がらなかった。
そんな状況を見て女の子はがっかりしていた。他の子たちも落ち込む。
「私がやろうか?」
見るに見かねたひかりは名乗り出るのだった。
「ひかりちゃん、こういうのできるの?」
「うーん、多分何とかなるかも?」
「本当!?」
食い気味に見つめる女の子。
転生前の事だ――、会社帰りに欲しいプライズを取るためにゲーセンに通っている。それゆえに撮り方は大体わかっている。この構造ならとれないことはない。
まぁ、その分、お金がゲームセンターの養分へとなっていったが……
この手のクレーンキャッチャーはさっきも見ていた通りアームが弱い。一定のお店側が設定した金額までお金をいれなければ、アームが強くならない。所謂、確率機というものだ。だが――、やりようはある。ここに狙いを定めてアームを落とせば!
ひかりはかつてない集中力を見せていた。
アームはぬいぐるみのはしっこのタグの隙間へと入り込む。
そして、タグもろともぬいぐるみは引き上げられた。
アームから穴には落ちなかったが、これは捕った判定になるものだ。
店員に声をかけ、ぬいぐるみを渡してもらう。
「すごーい! ひかりちゃんってプロなの?」
「あはは、プ、プロじゃないけど、こういうのは得意かな」
「じゃあさ、わたしこれがほしい!」
そう言って、女の子が別の台を指さす。
「しょうがないなぁ」
ひかりは得意げに次の台へと向かった。
こういうのも悪くないかもな。そう思った。
――――――
――――
――
女の子たちはゲームセンターも堪能して、時刻は17時前、そろそろ門限が近い。
帰路へと着こうとする。
最初こそ、ぎこちなく乗り気ではなかったが、今日は楽しかった。
ひかりは心の底からそう思った。
充実していた。願わくばまた、みんなで遊びに行けたらいいなぁ。
次の瞬間――
一瞬、ひかりは不穏な気配を感じた。
それは魔法力を獲得しているひかりだからこそ感じた周囲のエネルギーの揺らぎのようなもの。不穏な空気を感じた。
感じ取った瞬間、すぐ近くの通路から女性の叫び声が聞こえた。
タイヤが地面にこすれるブレーキ音、それとエンジン音が近づいてくる。
ひかりは危険が迫っていると悟った。
「みんな! にげ――」
だが、その危険が迫るのがあまりに早すぎた。声をかけるのが間に合わない。
一瞬で、目の前の視界に入る歩道を暴走する軽トラック。
直線状に向かっている。ひかりは一瞬で状況を思考する。
彼女たちを退避させる時間はほぼないに等しい。ならば――
ひかりは咄嗟に魔法力を展開。そして、車の向かう方へと立ちはだかる。
魔法力の力を緻密にコントロールして、手と足に振り分ける。
そして、正面から暴走する車を受け止めた!
ドンッっと強い衝撃音! そしてタイヤの摩擦する音が聞こえてくる。
身体がきしむ音――
少女の身体でそれを受け止めるにはあまりに重すぎるエネルギーだった。
そんなに長く持たない……
ひかりは声を振り絞る。
「み、みんな逃げてぇえええええええええ!」
しかし、咄嗟の事で全員フリーズしている。
徐々に後ろへと押され始める。足の踏ん張りがきかない……
「うっ、ぁああああああああああああ!」
女の子たちは完全に混乱していた。
その間、わずか数秒にも満たない時間――
だが、私もそんなに長くはもたない……
私は覚悟を決めた。
彼女たちが逃げ切るまで尽きるなよ私の魔法力と力ぁあああ!!
「くぅううううううううう うぁあああああああああああああ!!」
だんだんと後ろへ押されはじめ、手は軋みを見せる。
せっかく転生したんだ…… 転生物に付き物の最強スキル特典ぐらいあってもいいだろ。少女たちを守る力ぐらい見せてみやがれ!!
何か、彼女たちを守れる力を!!!!!!!
「!?」
次の瞬間――
淡い光が目の前に広がった――
何が起きたかはわからない。
トラックの運転手は気絶していたのであろう。その光により目を覚まし、咄嗟にハンドルを切ったのだった。
――それから。無我夢中だった。何が起きたのかもよく覚えていない。
視界がぼやける。ひかりの手足からは血がしたたり落ち、激痛――
しかし、ひかりは満身創痍の身体でゆっくりと歩いて行った。
向かった先は――、トラックが向かった先にいた倒れこんだ女の子。
ひかりの友達であるしおちゃん――
地面には血だまりができ始めている。
ひかりはしおちゃんの元へと歩みより、ゆっくりと声をかけた。
「しおちゃん…… おきて……」
しかし、目を覚まさなかった。
「なんで…… おきてよ…… ねぇ……」
一人の少女が犠牲になったのだった。
これは私の現実なのだ。しおちゃんを守れなかった……
私は泣き叫んだ。
自分の無力さに……
そして、意識がブラックアウトしていく。微かにわかるのは救急車の音だった。
――――――
――――
――
ひかりが気が付くと、そこは見知らぬ天井――
あたりを見渡すと、ベッドの上だった。
あぁ、病院か……
目の前には涙ぐむ両親、妹の姿があった。
「おねえちゃんーーーー!!」
「ひかりー! 大丈夫?」
そういって、抱きしめてくる両親。
後で、事件の詳細を知ることとなったのだが、運転手は心臓病で一瞬息を失った。
そして、暴走して歩道へと車で暴走――
犠牲者は4名、そのうち1名が私の守ろうとした少女しおちゃん。
これが事の顛末だ。
私は転生して、多少浮かれていたのかもしれない。魔法力があることで何でもできると勘違いしていた。だが、私は守ることが出来なかった。
これが私の現実だ。私は無力だ。
私がもっと、力をもっていたら救えていたかもしれないのに……
私は絶望した。




