第2話 TSして少女になり何をなす?
鏡に映る姿を見て戸惑った。
そこに映し出されたのはあどけない少女の姿――
私が動くとそれに連動して鏡に映る少女も動く。
それを見てそれが自分だと自覚した。
な、なんで少女の姿になってしまったのだろうか……
なぜ、自分の姿が少女になってしまったのか考えた。
これは夢――?
夢にしては妙にリアルで、意識もはっきりとしていた。
ベタ過ぎる気もするが、ほっぺたをつねってみる。
「痛い……」
痛みもリアルだ。
なんでこうなった?
もしかして、これはVRのようなリアルなバーチャル空間。
いや、これもあり得ないだろう……
そもそもこれだけリアルなVR技術があれば、とんでもない噂になっているはずだ。
いろいろ思考してみたが、どれもあり得ないという結論に達した。
――そして、最後に思いついたのはあのゲーム『魔法少女学園』を遊んでいた際に起きた不思議な現象。
選択肢の意味―― おぞましい文字化けが司会を侵食して、体や精神を侵食して何かを書き換えられるような……
あのまま意識を失って、今に至るわけだ。
にわかには信じられないがアニメやノベルでよくある異世界転移もの――
安直ではあるが、それが一番しっくり来た。
異世界転移して、特殊能力で無双するなんてあこがれてはいるが……
よりにもよって、幼女姿――――
魔法少女はワクワクするが、愛でる方がメインで決してなりたいわけではなかった。
「憧れの転移先が幼女だなんて……」
自分と思えないくらいのかわいらしい少女の声で独り言をぼやく。
そうなるとこの世界は『魔法少女学園』――、って考えるのが普通だろう。
もっとも記憶に新しいプレイしたゲームとなるが……
鏡に映る少女はゲーム内で見た記憶がない――
おそらく重要じゃないただの脇役なのだろうか……
もしかして、転移とかじゃなくて、単なる幼女になっただけ?
いくら思考しても、結論にたどり着くことは決してなかった。
とは言え――、不安や恐怖はこれと言って浮かばなかった。
元の世界に対して不満があったわけではないが、満足はしていない。
何より――――
「転生先はどうであれ、転生なんてわくわくする展開にオタクならワクワクしないわけないよな!」
………………
…………
……
少女の姿に転移して数日が経過した――
案外不便すると思っていたが、無意識に少女のしぐさや癖、知識が頭にあったらしく、女の子らしい生活は苦も無く送ることができた。
多少のラグがあったが、それまで過ごしてきた友人、家族といった私の知らない記憶が流れ込んできて、自然と立ち振る舞えるようになっていた。
名前は篠原希望。小学4年生。家族構成は――両親と妹の4人。
妹の朱莉は1歳年下。どこにでもある一般家庭だ。
まず、私はこの世界がなんなのか収集を始めた。転移前の世界と全く変わらない文明機器、幸い転移前の記憶のおかげでおぼつかない少女の姿でも機械の操作はこなれたものだった。
調べたものはテレビ、PC、新聞、果てには本屋や図書館まで出向いてどういう世界であるかを調べた。
それで分かったこと――、ここは間違いなく日本である。
しかも、私の予想通り、魔法少女学園あのゲーム世界であることを確信した。
妙にいい加減な設定だったから覚えている。まず、年号は開幕世紀という雑なネーミング。日本なのに大統領制をとっているところ。細々としたツッコミはいくらでもでてくる。おそらくゲーム制作者が名付けたのだろう。
そして、何より現在は開幕世紀14年ということ。
魔法学園の主人公久遠ほのかが魔法少女学園に入学するのが開幕世紀17年―――― つまり、私とほのかは同年代ということになる。
とはいえ、私が遊んだ範囲では私のような登場するキャラクターはいなかった。学園にいたネームドのキャラたちが近しい存在というわけでもない。なので、同じ世界であるとはいえ、入学するかは定かではないのだが……
だが、この世界に来たからには試さざるを得ない。それがオタク――、もといゲーマーとしての宿命だろう。
魔法学園の中で魔法力をコントロールして引き出す場面が描写されていたことがある。
魔法少女の力の源、それが魔法力――
所謂、|不可思議な力を行使するための源となる。
魔法少女はこの力を行使して困った人たちを助けているのだ。
つまり、この力が学園に入る適正といっても過言ではない。
(ゲームでは入学からなのでどういう審査なのかは分からないが……)
魔法少女のゲーム内では|ほのかが一番最初に試して魔法少女としての適性を調べていた。
同じことを再現できれば、私にも魔法少女の適性があるかもしれない。
ひかりは自分の部屋に入り、カーテンを閉めて電気を消す。
視界は深淵に飲みこまれ、音も静寂となっていた。
ベッドの位置に座る。
そして――、ひかりは目を瞑り、深呼吸をして頭を空っぽにして瞑想する。
五分――、集中力を絶やさずに瞑想に励む。
ひかりの身体の周囲にもやのような少し重いものを体にまとっていることを感じ取った。そして、意識することでそのもやを動かしていく。
ひかりは目の前に小さな球体が浮くイメージをして――
しばらくの間、それを繰り返す。
そして――、ゆっくりと目を開けた。
すると、小さくはあるが目の前に見える光の玉が動いていた。
あった! 私にも魔法力が――!!
年甲斐もなく廚二心がくすぐられ喜ぶ(――と言ってもいまは少女だが)
すると集中力が切れたせいだろうか、あっさりと玉は消えて行った。
これは、かなり修練に励む必要がありそうだ。だが内心ワクワクしていた。
魔法を使えることは夢の一つと言ってもいいだろう。
――――――
――――
――
また、朝が来た。
子供にも大切な仕事がある。それが学業だ。ひかりも例外ではなかった。
大人になってからは疲れがしんどくて朝起きるのに苦労していたが……
子供の身体は体力が無尽蔵というのを痛感した。さっっと、ベッドから起き上がる。
ひかりは起きて軽いストレッチをしていた。
しばらくして、1階のリビングから大声で母親の呼び声がひかりの部屋まで大きく響いた。
「ひかりーーー! もうすぐ学校の時間でしょ。早く降りてきてご飯食べなさい!!」
時計を見ると、登校時間が迫っていると察した。
「は、はーい!! いまいく!!」
おっさんだった時はだらしなかった身だしなみも不思議と小奇麗になっていた。
カッターシャツを出したり、乱れた服装だったこともあるが、ひかりになってからはキチンとしていた。髪の毛も寝癖を取り整える。
ひかりは着替えをさくっと済ませ、1階へと降りていく。
リビングへ行くと、テーブルにはいつもの朝食。パンやサラダが並んでいる。
ひかりは母親の顔をちらっと見て声をかける。
「お母さんおはよー」
「はい。のんきなこと言ってないで早く食べなさい。遅刻するでしょ!」
どうやら遅刻するギリギリの時間のようだ。それでも早々と食事をさせようとするのはきちんと子供の事を考えている良い親だと思った。
とはいえ、ひかりは母親に小言を言われながら急かされ、あわてて食事をした。
リビングにはひかり以外に妹のあかりが座っていた。
あかりはすでに食事を終えかけていた。
ひかりと目を合わせながらあかりは口を開く。
「お姉ちゃん最近、夜遅いよねー。何してるの?」
「なんで夜更かししてるって思うの?」
「だって、お姉ちゃんの部屋夜中明るいもん。トイレ行った帰りに見ちゃったんだ」
それは明かりではなかった。おそらくひかりが魔法の特訓をしていたところを見たのだろう。
だが、そんなことを明かすわけにはいかない。
この世界でも魔法は特別な力なのだ。おいそれと一般人が知ることは許されない。
まぁ、この世界でどの程度魔法が認知しているかは知らないが……
そもそも魔法少女学園の外の世界がどうなっているかなどゲームでは出てこない。
ただ、もう少し用心深くなった方が良いだろうとひかりは思った。
「あかり。明るかったならごめんね。ち、ちょっと漫画見てて……」
「そうなんだー。まぁ私は別にかまわないよー」
あかりは気にしてないようだった。
しかし、許してくれたのは妹までだった。
「まったく…… もっと早く寝なさい!」
親は許してくれなかった。
まぁ、仕方ないか……
「はい。気を付けます」
「よろしい! じゃあ、さっさと食べて学校へ行く!」
早々と食事を急ぐ。
前世のときは放任主義だった。そう考えると、教育が行き届いている。良い母親なのだろうとひかりは思った。
こうやって食事をするようになって朝はかなりゆとりのある生活を送っている。
転生する前――、おっさんのときの私は朝にとてつもなく弱かった。
毎日が家をでるまでRTAのような状態だ。もちろん朝ごはんはない。ベッドを飛び起き、素早く着替える。そして、髪の毛をとき、歯磨き、髭剃り……
その間、わずか10分程度。そんな生活を送っていた。
そう考えると今の生活はとても新鮮である。
ひかりは部屋に戻りランドセルを背負った。
「ひーかーりーちゃーーーーん!
ちょうど良いタイミングで玄関口から声が聞こえた。
「ひかりーー! さやちゃんがお迎えにきたから急ぎなさい!」
「はーい!」
ひかりは玄関まで早々と降りると、そこには自分と同じくランドセルを背負った少女の姿があった。
「ひかりちゃん、おはよー!」
元気に挨拶するその子は滝川沙耶。ひかりの親友にして、小学校1年生からずっと仲良しの存在である。
ポニーテイルが似合い、すらっとした体立ちはスポーツをやってきたからだろうか。エネルギッシュであった。きっと若いころは私もそうだったのだろう(今は若くなったが……)
「さやちゃん、おはよー!」
ひかりは挨拶をして、さやと一緒に学校へと向かった。
道中――
「ひかりちゃん、昨日マジカルキュアー見た?」
「ごめん。昨日は見れなかったんだ」
「えー、マジカルキュアーがすごかったんだよ。あのね――――」
などとたわいのない話をして、学校へとたどり着いた。
二人で教室へ入る。扉は昔と変わらず引き戸である。こういうところは変わらないんだなぁっとしみじみ思う。
「おはよー! さやちゃん、ひかりちゃん!」
少女たちが声をかけてくる。
「お、おはよー……」
朝からみんなのテンションが妙に高い。若い子特有の甲高い声もおっさんの私からすると非常につらかった……
教師が入ってきて、授業が始まる。
授業は非常に退屈だった。何せ小学4年生の授業内容だからだ。
まぁ、いまの年齢を考えたら当然の事ではあるが……
あまりに退屈すぎて、魔法力向上の修行をこっそりと行っていた。
だから、魔法力の修行をこっそりと行った。
この世界でどれぐらい魔法力が認知されているかは分からないが、少なくとも学校では認知されていないことはわかる。
なぜなら、ひかりが練習をしていて魔法力を体からだしても誰一人として指摘をしないからだ。
まずは魔法力のコントロール。
瞑想して……
次の瞬間――
ひかりの頭に乾いた音でパンッっと頭に衝撃が走る。
まるで教科書で小突かれたような……
ひかりはゆっくり目をあけて、その先を見ると、先生がたっていた。
「ひかりさん、授業中に寝るとは何事ですか?」
「ご、ごめんなさい……」
それはそうだ、瞑想なんて寝ているようにしかみえないか……
授業中の修行はやめよう。
おとなしく授業を受けることにした。
そして、休み時間――
「でね~~……」
「そうだねーーー」
なんというか、少女たちの表情がころころ変わり面白い。
おっさんが眺めていると分かったら事案ものだろうが……
「ねぇ……」
この時間は退屈だ。することがないなら魔法力の総量を上げる修行を――
「ねぇ、ひかりちゃんってば!」
さやにひかりの身体を揺さぶられ、ぐわんぐわんとして、思いにふけているところを現実に呼び戻された。
「ど、どうしたの? さやちゃん」
「ひかりちゃんはどうするーー?」
「どうするって?」
「もう! ひかりちゃんはきいていなかったの? みんなで日曜日に駅前のお店に遊びにいこうって話をしていたんだよ!!」
お、おう! そんな話で盛り上がっていたのか……
日曜日は自宅でゆっくりすごしたくもあるが……(おっさんにはつらい)
「それじゃー、私もいく」
ひかりの返事に、さやはうれしかったのか笑顔になり、皆に改めて話しかける。
「じゃあ、日曜日の朝10時にパンダ公園の前で待ち合わせねー」
さすがに、友達との交流は大切にしないとな! うん。決して幼女が何をして遊ぶのかに興味があるわけじゃないぞ?
そんなこんなで日曜日の予定が決まった。
それにこの世界が魔法少女学園とどのぐらい食い違った世界なのかを知る必要もあると思っていた。
魔法がある時点で多少、世界が食い違っている可能性もある。
それに――
私は魔法が使えるのだ。魔法少女学園へ行くことは可能かもしれない。
あの一瞬に映りこんだイベントCGが脳裏から離れない。
思い出すたびに戦慄し、何か嫌な予感を思い出すのだ。
あのイベントCG通りだった場合、魔法少女の存在そのものは……
いや、結論を勝手にだすのはやめよう。すべては行ってみればわかるだろう。
そして私は――――




