英国紳士は少女漫画の世界に行きたい
私は英国紳士。突然だが、少女漫画の主人公になりたい。昨今は日本のマンガブームなので、試しに色々と手を取ってみたのだが、私の理想郷がそこにあった。こんな荒れた世界を飛び出して少女漫画の世界に旅立ちたい。
「その願い。叶えてあげましょう」
天から声が響くと私の意識は遠のいていった。
目が覚めると、日本式の洋室。私は吊りスカートを履いていた。目の前でおかっぱの少女が漫画を読みながら、煎餅なるケーキを食していた。
経験したことのない記憶が頭になだれこむ。どうやら、目の前のおかっぱの少女は私の姉らしい。
お盆に乗せられたお菓子に姉は手を出す。
「おやつもーらい」
「あーこれあたしのだから」
腹が鳴り本能的に返答してしまう。
「早いもの勝ちだよーん」
くっ。おかしい。女体化したからには蝶よ花よとイケメンにちやほやされるはずなのになんて自堕落な日常を……。確かに、少女漫画の主人公のような日々を過ごしたいと願ったが、断じてちびまる子ちゃんとかあさりちゃんの世界ではないっ!
翌日、小学校へ赴く。
ふん。私は英国紳士だ。日本の女子小学生になってしまったが、この私には気品と教養がある。同級生の男子などは私に血眼だ。だが、近寄りがたい高嶺の花として咲きたい。はずだった。
「うんこぷりぷり。おならぷー」
わ、私は英国紳士だ。このような肛門期を卒業できない小童の下劣なギャグで牛乳を吐き出すわけには!
「ぶはっ!」
「笑った笑った!先生!田中さんが牛乳吐きましたー」
無様すぎる。私のお紅茶美少女ライフの夢がぞうきんに染み付いた牛乳の臭いに粉々に砕かれる。
「楽しそうだね」
私を少女にした天の声が聞こえる。周囲の時間が止まっているようだ。
「楽しいものかね。もういい。こんな生活」
「そっか。残念。お昼休憩と掃除が終わったら、改めて元の世界に戻りたいか聞きに来るね」
天の声は消え、時は再び動き出した。
「男子!サボらないで掃除しなさい!」
なぜ、私が委員長みたいなことしなきゃいけないんだ。元の世界では掃除など執事やメイドに言いつけてたのに。
「スカートめーくりっ!くまさんパンツ!」
「こらっ!何するの!」
下着を衆目に晒すなど、恥辱。紳士としてのプライドが!
「やめろよ!田中が嫌がってるだろ!」
「宮島くん」
背の高い男子が私をかばう。
「掃除しなかったら休み時間のサッカー、仲間に入れてやらないから」
「ちぇっ。わかったよ」
男子たちは雑巾を絞り出す。
「田中。今度、勉強教えてくれよな。算数ついていけなくて。それと、俺は水色のくまさんパンツなんて見てないからな」
「ば、ばかーっ!」
恥ずかしくも大声を出してしまった。
掃除が終わり、再び時が止まる。
「どう?元の世界にやっぱり戻る」
「もう一日だけ」
「へ?」
「勉強を教える約束だけ守らないといけないから。本当にそれだけだから」
「ふふっ。素直じゃないんだから」
その後、私は、中高の多感な思春期を宮島くんたちと共に過ごすことになり、大人の女へと育っていくが、それはまた、別のお話である。




