女体化心霊少女と男体化言霊男子12 生産管理とボトルネック
<香織>
「そろそろ2人目どうかな?草太も弟が欲しいって言ってるし」
「職場、忙しくてそれどころじゃないかな。落ち着いたら、また考えよう」
「そっか。健康第一だからね」
「ごめんね」
「気にするなよ」
私の名前は香織。旦那と家族計画中。本当は産みたいけど、仕事が多忙でなかなか時間が取れないでいた。
今日こそはと思うものの、毎日疲労困憊で、毎晩、断っている。
今日も朝の5時に起きて、工場に向かう。
世間は働く女性のキャリア形成に厳しい。やっと見つけた職場だからとはりきって信頼を勝ち取ろうと、日々、頑張っている。
「払い給え! 清め給え!」
労災で死亡事故が起きたからと、女体化霊能力者なる学生を呼び、除霊の儀式。
神前に工員一同、黙祷を捧げる。
現場は危険作業な上に生産が追いついていない。必死のライン作業の末に事故は起きる。
仕事に入り現場に向かおうとすると、男の子がドアを必死に押している。確か、霊能少女についてきた言霊男子だっけ?
「そのドア、押すんじゃなくて引くんだよ」
引いてあげると、男の子は外に無事出れた。
「ありがとうございます」
あまりの微笑ましいドジに笑ってしまう。
「頑張りが空回りしているよ。ボトルネックじゃないんだから」
「ボトルネック?」
「あ、工場用語使っちゃった。てへ。生産管理してると職業病出るわ。ボトルネックってのはね、例えば、車の組み立て工場があったとして、塗料、つまりペンキが足りなくて仕事止まるとするじゃない?で、生産が遅れる。そういうときって、本当はペンキを買ってこなきゃいけないんだけど、ネジを作る速度をあげるとか関係ないことみんな頑張っちゃうの。そんなことしても完成品の車、増えないのに。そういうのをペットボトルの細い部分になぞらえてボトルネックっていうの」
「そんな当たり前のことが難しそうな専門用語になってるの?」
「それがねえ。賢い大人が集まってもそんな簡単なことがわからなくなることがよくあるんだよ。目の前の仕事に追われて、作業分担してると、すぐに本質を見失って当たり前で大切なことができなくなる。大人ってバカなんだよ」
「なんか、今のお姉さん、呪いから解き放たれてる」
「呪い?」
「お祓いのときから、何かの言霊に憑かれてたんだけど、ボトルネックの話が始まるときだけ解き放たれてるというか。何かお姉さんの人生のヒントが隠されている言葉なのかも?」
不思議なことを言う子だなと思った。
仕事を終えて自宅に向かう中、考え込んでしまう。私の人生の目標は何だろう?家庭円満?仕事の成功?今のままでは片方が片方の障害になったまま。
仕事が目標なら家庭がボトルネックだし、家庭が目標なら仕事がボトルネックだ。
私は……本当はどんな人生を歩みたかったんだろう。子どもの頃の夢を思い出す。
「ママ!」
「はいはーい。ご飯つぶほっぺについてますよー」
私は2人目の子ども、娘を産み、パートタイム主体で働いている。
キャリアが断絶するのは悔しいが、自分の本心を追求した結果なので、後悔はしていない。
きっと、私が迷ってしまったのは職場や私個人だけの問題ではない。
今の世の中をうまく回す仕組みの中にボトルネックがたくさんあって、何とか補修しなければいけない。それはきっと、政治家や官僚の人たちもわかっている。それでも、簡単には変えられないのだろう。ボトルネックを何とかしなきゃいけないのに、そこではないところを補修して、日々、誤魔化すしかないのだ。
世界は複雑で動かせない歯車が絡み合いゆっくり動いている。そんな風に私には見えた。
<霊子>
「子どもかあ……」
「なに?家族計画込みで女体化したの?あんた?」
「ち、ちが」
「ま、世の中は責任取らないのに好きなこと言う人に限って口を出すものだから、好きに生きたらいいんだよ」




