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女体化心霊少女と男体化言霊男子8 彼氏の本気

「女体化男子霊媒師かあ。もし、芸能界に入ったらなかなかキャラが立っているし、独自の椅子に座れるかもなあ」


「相棒の言霊男子は?」


「うーん。バラエティの1コーナーにはできるかもしれないけど、ネタが尽きたら⋯⋯」


「あ、除霊が始まる。黙っていよう」


「祓い給え!清め給え!」


紫色の魂のようなものが蠢くように浮遊し、そして、暴れた後、消えた。


「終わった……のか?」


「はい」


「ありがとうございました」


若手芸人用の劇場、自死した彼氏の元相方の除霊が完了した。


芸人社会って成功する人は華やかだけど、その裏には無名の屍が横たわっているんだよね。


私の名前は花絵。丸の内で経理事務をやっている。


仕事を終えて安アパートに帰ると、彼氏がだらしなく横たわっていた。


「俺はもうだめだぁ……」


「そんなところで寝てたら風邪ひくよ」と毛布を被せつつ「お酒臭いよぉ」と呟いて見せる。


「先輩芸人との付き合いなんだよ……。人脈を広げないと、仕事を得られない」


「ネタ作らないの?」


「頭の中に構想はあるんだけど、時間が……」


また、言い訳してる。かわいいけど、ちょっと情けないかな。


「それより、お金が足りないんだ。付き合いと仕事でクタクタでネタ書く時間ない。お小遣いちょうだい」


「しょうがないなあ」


「俺、お前がいなきゃだめで」


ひざに頭を置くのでなでなでする。


震えているのがかわいい。保護欲がそそられるなあ。


芸人仲間に対しては強気な彼が私だけに見せる濡れた子犬の顔。そんな彼に私は心を射抜かれていた。


そのとき、スマホがバイブするので取る。お母さんの電話番号だ。


「なに?」


「通帳見たけど、全く貯金ができていないじゃない。ちゃんとお給料もらってるんでしょ? このご時世、計画的に積み立てないと……。何に使ってるの? 変な男に捕まってないでしょうねぇ」


「うるさいなあ……」


「あ、こら! 話を聞きなさい」


ピッ。


私だって立派な大人なんだから、どんなお金の使い方をしても私の自由でしょ。


振り返ると彼がいびきをかいている。このままではダメだ。破綻する。そんな考えがよぎる。


コンビニに向かうと、どこかで見た顔。言霊少年だ。噂によると説法を説くことがあるらしい。


彼は立ち止まる。私に何か言おうとしているようだ。


「な、なに? 私に何か文句あるの? 私がどう生きようと自由でしょ?」


「あなた、子どもの頃に他人に迷惑をかけた時、お母さんから言われた一言が呪いになっていませんか? 『人様の気持ちを考えなさい』ですよ」


頭にきたので反論する。


「人の気持ちを考えることの何が悪いの? 世の中、自分勝手な人間ばかりなんだから、私みたいな人間が犠牲にならないと社会が壊れてしまう」


「その言葉、解釈の仕方が、きっと違うんだよ。相手の情緒や機微を読み取って歩調を合わせて、他人が自分で解決すべき矛盾のひずみを引き受けるような形で実践すると、他人の顔色をうかがって窮屈な生き方になる。後ろ向きに生きている人間の人生に巻き込まれる」


どうやら彼との関係はお見通し。なら言ってやる。


「それがどうだって言うの? 別れろっていうの?」


「別れろとは言っていない。もっと、人間の心のメカニズムを読み取って他人を動かす道具としてその言葉を使うんだよ。あなたはとても頭のいい人のはずだ。経理の仕事やってるんでしょ?」


「ほっといて!」と言いつつ私はその場を去った。


でも、一理はあると思った。


それ以来、私は、仕事の合間に彼のマネジメントの一部を引き受けることにした。単独ライブの計画を立て、集客をし、仲のいい芸人を呼ぶ。ここまでやって奮い立たないようであれば、そこまでの仕事への本気度だったとして別れるしかない。


彼にとって試練だ。


すると、奮い立って本気でネタを書き始めた。


本当に仕事でクタクタなだけだったのだ。そのときに書いたネタが劇場で受け、営業の仕事が入り始めている。私たちは結婚した。恋人としてだけでなくビジネスパートナーとして、対等の関係になれた。私、幸せです。

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