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女体化心霊少女と男体化言霊男子7 自分だけの怒り

<紐手視点>


「祓い給え!鎮め給え!」


駅前を歩いていると、セーラー服を着た女が祓い棒を振るっていた。


そうか。あれから5年になるか。ここは、通り魔事件の現場だ。多くの人がここで亡くなったらしい。


女の横には、メガネをかけた男が立っていた。なんでも、言霊少年とかいうボーイフレンドらしい。


ちっ。リア充め! 二人は、性転換しているとか言う話もあるが、いずれにせよ恋人持ちだ。許すまじ。


裏路地に視線を投げるといちゃいちゃしたカップルがキスを見せびらかす。中学時代のいじめっ子とその姿がオーバーラップする。実に腹が立つ。俺の名前は、紐手(ひもて)。フリーターをやっている。低賃金にはあるまじき肉体労働と感情労働。世の中、狂っている。


自宅に着くと、スマホを開き、SNSを眺める。


「害悪世界」というアカウントがいつものようにアホ女のツイートを引用して語る。


「な? 女は頭悪いだろ? アホな男を選ぶからそんな目に遭うのだ」


俺は深く頷く。全くだ。


決意を固めた俺は、ホームセンターに向かうことにした。ここなら、色んなものが売っている。


俺も大きな事件を⋯⋯。


そう思ったとき、見覚えのある男がジャージ姿でうろついていた。


言霊少年⋯⋯! 知っている。


人が囚われている呪いを見透かし、偉そうな説教をするという。


やつは、俺の方をじっと見つめる。何を言うつもりだ?


どうせ、『辛いのはあなただけじゃない』とか陳腐なセリフだろうか。


『世の中、そんな綺麗事出回っていないんだよぉ!』とでも言い返そうと思ったその時、言霊少年は意外なことを語り始めた。


「あなた。悩みごとを他人に乗っ取られてませんか?」


意外なことを言う。


「お前、俺の悩みを知っているのか?」


「あなたの悩みや怒りは、女性にモテないことに対してだったはず。だけど、あなたが今、凶行に及ぼうとしている理由はそれじゃない」


スマホを取り出すと、SNSの画面が映っている。「害悪世界」のアカウントだ。


「僕、言霊が見えるんです。どんな人がどんな思いを込めて呪いの言葉をかけたかが見える。それが僕の特殊能力。あなたに取り憑いている言霊がSNSの投稿に込められた投稿主の真の狙いを教えてくれる」


彼は僕の周囲を歩く。


「この害悪世界さん。実は、妻子持ちのお金持ち。不倫ばかりするから奥さんと仲が悪い人だよ。非モテのあなたとは女性を憎む背景が全然違う。こんなつまらない男に突き動かされて、人生を棒に振ったら、罪を贖う最後の朝、悔やんでも悔やみきれないと思うよ。本当にそれでいいの?」


頭の中にショックが走った。俺はただのアジテーターの操り人形だったっていうのか。


「あなたの悩みや怒りを否定するつもりはない。でも、あなたの怒りや憤りはあなただけの大事なものだよ。無責任な他人の扇動に利用されていいものではない」


と更に続けて


「それと、最近のSNSは3点リーダから『興味ない』を選んで嫌なカテゴリの投稿を減らせる。ブロックやミュートなんかよりも効果的。好みの投稿を増やすいいねと組み合わせてタイムラインを除霊したほうがいい」


その日、どうやって家に帰ったか覚えていない。


ただ、後日、「害悪世界」のアカウントの主が、女性関係の混線の末に、事件の加害者として逮捕されたという報道が、目に入った。


俺ももしかしたら、そっち側に行ってたかもしれないと身震いをしながら、猫の写真投稿でまみれたタイムラインを眺める。


☆ ☆ ☆


<心霊少女視点>


「その男、逮捕できないの?」と私は聞く。


「日本国憲法19条、思想・良心の自由。いくら、邪悪なことを企んでいたとしても、考えるだけで逮捕してはいけない。一応、まだ、ナイフとかも買ってなかったから、未遂の要件にもならないからね」


「それでも悪いやつなんだから⋯⋯」と私は食い下がる。


「ふふっ。女になって男性といちゃいちゃしたいあなたが言う?」


「そ、それは⋯⋯」


「そういうことだよ。いくら、悪いことでも考えることまで罰したら、世の中、息苦しくなるから」


私たちの冒険は続く。

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