女体化心霊少女と男体化言霊男子6 正しさへの執着
「払え給え!清め給え!⋯おかしい!除霊できない?こんなことはじめて!」
私は霊媒女子中学生の霊子。こう見えても実は女体化男子。
今日はアパート壱岐連荘の依頼で除霊にやってきた。
がんで死んだ男が地縛霊として取り憑いているらしく除霊を試みたが、失敗してしまった。
「となりの男の子は何かできないの?」と大家さんは言う。
「僕は霊能力ないんですよ。言霊が見えるだけで」
「役に立たないねぇ⋯⋯」
相棒の男体化女子の魂太は申し訳なさそうに部屋を出る。
すると、2人の主婦と思しき女性が、息子と娘について噂話を。
「うちの娘ったら、念願の看護師になったのはいいけど、働きすぎでそのうち過労死しないかしら⋯⋯」
「うちの息子は正反対で働きもせずごろごろしてばかり⋯⋯」
気になる会話だ。もしかしたら、霊と関係あるかもしれない。
ちょうど、2人とも家にいるらしく、会わせてもらえることになった。
まずは娘さんから。目に隈ができていて不健康そうな顔。医者の不養生ならぬ看護師の不養生だ。
「どうして、そこまでして働くんですか?」
「なんでって言われても⋯⋯」
言い淀む彼女を尻目に魂太は漫画本が並ぶ本棚を凝視する。何か言霊を見つけたらしい。
「諦めたら試合終了⋯⋯」
「お、バスケ漫画のセリフよく知ってるね」
「そこの漫画ばかりの本棚に言霊が宿ってたから」
その漫画は私は読んだことがあった。と、いうかインターネットでもミーム化している有名なセリフだ。
「うん。あの漫画を聖典にして私は自分を奮い立たせてるんだよ。よくわかったね」
あれは、本来、頑張るべきときに頑張れなかったことで、後悔しているキャラが自分を奮い立たせるため、過去を回想する場面に出てくるセリフだ。多くの人に勇気を与えた名場面だけど⋯⋯。
すでに、十分すぎるほど頑張りすぎている人が自己暗示のために使い始めると呪いになってしまう。
「あんたの霊媒師としての栄光時代はいつ?」と睨まれる。
答えに窮していると彼女は続ける。
「私は今なんだよぉぉぉ!」
叫びながら、バッグを揃えて仕事に出かけてしまった。
「なにこれ?」
「ああ、同じ漫画の別キャラが奮い立つときのセリフ」
よっぽど心酔してるんだねぇ。呆れた。
でも、いくら人によっては救いになる言葉でも、処方が間違ったら心に毒だよ。
息子さんの方に行くと、ゴロゴロ寝転がりながらスマホ。
「いいんだよ。この世界は親ガチャ。生まれや育ちで未来は決まってるんだから。こんな安アパートに生まれても金持ちの人間と同じ質の努力できるわけないだろ」
こっちは親ガチャという言葉が呪いになっている。両極端の2人だねえ。
「まあ、でも、ほどほどに、ぬるま湯で働くという選択肢が封じられてる今の時代の被害者的な側面もあるかも」と、大家さんは肩をすくめる。
「こんなの見てたら、大人になりたくないなあ」
「まあまあ。ところで、がんの治療で亡くなったんなら普通、霊は病院に憑くと思うんですけど、もしかして、アパートで亡くなったんですか?」
大家さんは、その質問待ってましたとばかりに語り始める。
「そうなんだよ。あやしいスピリチュアルを信じて、祈れば治療しなくても治るなんて言って。噂だと現代の医療技術だと完治できるようながんだったって聞くよ?」
「そっか。いつもは神道式の除霊だけど、仏教式にしてみるか」
私は数珠を家に取りに帰った。
「色即是空 空即是色 南無阿弥陀仏」
成仏に成功した。
「今昔物語っていう日本の昔話に 、前世の因果を病の原因とみなし、医療による治療を拒んだ男がいた。だけど、男は、"正しさ"を担保する念仏ばかりを唱えるあまり死んでしまった。今昔物語は仏教の寓話集。それを鎮めるには、執着を捨てることを説いている般若心経が合っている。あの2人も正しさを説く言葉への執着が捨てられるといいけど」
後日、娘は今より楽な病院で働き、息子はアルバイトをしながら宅建の資格をとりはじめた。
完全に解決とはいかないけど、少しは言葉に縛られず自分らしく生きられてるんじゃないかな。
と、性別に執着している私もなんだけど。てへぺろ。




