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15でねぇやは嫁に行き

「15でねぇやは嫁に行きお里の便りも絶え果てた……か」


「なんだよ。急に童謡の赤とんぼ歌ったりして」


俺たちは、都会の私立高校に通う男子高校生の春雄と秋信。テスト前なので、部活もせず帰途についていた。


「ほら、今度のテスト範囲、近代史、要は明治時代だろ。廃藩置県にせよ、富国強兵にせよ、東京に権限を集中させて、国際社会を渡り合う物語を習うわけじゃん。でも、その時代の地方ってまだまだ封建社会を引きずっていて、当時の普通の地方の女の子とかどんな暮らししてたのかなあって」


「それにしても。よくわからん歌詞だよな。弟くん?に手紙くらい書けばいいのにな」


「まったくだ。わっはっは」


そのとき、トラックが突っ込んできて、目が覚めたら、明治時代の農村に転生していた!


ここの世界でも俺は春雄という名前のままだったが、驚いたことに!


「俺、この世界では秋子みたいだ」


秋信は女の子になっていた!


「いいなー。女の生活面白そう」


「いや、そんな簡単なものじゃないらしい」


俺は庄屋の跡取りの長男坊としてちやほやされ、秋子は奉公人の身分らしく家事にこき使われていた。


ある日、俺たちの鬼ごっこに秋子が加わり遊ぶ。


「待てよ。女の体だと走るの遅いんだからさ。着物も動きにくい」


「へへん。待たないよーだ」


土手に転んで話をする。


「村の言い伝えでは3年後の今日、ここに俺たち2人が集えば、元の世界に戻れるらしい」


「そうか。じゃあ、3年後集まろう」


俺たちはゆびきりげんまんをした。


秋子は遠くの村に嫁いで行った。


そして、俺たちは文通をはじめ、元の世界に戻る約束を確認しつづけた。最初は熱のこもった口語体のやりとりも、やがて、かしこ候言葉を使った文語体に変わっていった。田山花袋の布団かよっ。あいつ、何考えてるんだ。


そして、3年後、秋子は広場に来なかった。


どうして?確認するために俺は遠方の村に歩いた。電車も車もない時代なりに、必死で歩いた。


そして、村につき、秋子はいた。赤ちゃんを抱いていた。


「私……」


「そんな一人称やめろよ。男に戻る約束だったろ」


「私、農村社会の女として深く関わりすぎたの。夫と永遠の契りは交わし、子どもも産んだ。共同体に対して責任のある立場になった。あなたも長男でしょ。村に責任を取らないと」


「ふ、ふざけるな!男としてのプライドはないのか!?」


「私、最初は女として生きるのが怖かった。でも、今は運命に抗いながらも、積み重ねてきた全てを失うことの方が怖い。最初は男の自意識を持ちながらの形だけの歪な生活だった。寝具を握りしめ、抵抗を重ねた。体と心の性別の違いから生まれたどす黒い感情の粘土は、やがて熟成され、変質し、夫の欲望が硬化剤となり、女として生きるための器へと育っていった。今は逃げることの方が怖い。夫を、子どもを愛しているの」


「そんな……」


俺はなんやかんやあって元の時代に戻ったが、秋信という同級生がいたことをクラスメイトも先生も誰一人覚えていなかった。


「夏美ちゃん!」


「こら、ぼーっとしてると遅刻しちゃうぞ」


元の時代に戻ってから、お付き合いしている彼女からお叱りを受ける。地方の農村から父親が出稼ぎに来ているらしい。そういえば、秋子の嫁ぎ先と苗字同じだし、顔も似ている。まさかね。


やがて僕たちは結婚した。キスを重ねるたびに旧友の顔を思い出しては彼女に申し訳なく思っている。


夫婦で公園で散歩、赤とんぼが飛んでいる。


「どうしたの? しんみりした顔をして」


「15でねえやは嫁に行き。お里の便りも絶え果てた」

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