神様のいたずら
ーーウェディングプランナー白石結衣(30)、
ただいま絶賛ピンチ中です。
問題はこの男。
数年前、私の彼氏だった男。いわゆる"元彼"ーー神谷涼が現れたからだ。
よりにもよって、幸せの最前線であるこの式場に‥‥。
しかも、"新郎"として。
(ーーねぇ、神様。
私の人生って、もう少し優しくできませんか?)
・
・
・
午後の光が差し込む打ち合わせルーム。
窓際の席に座る新郎新婦と、その隣には担当プランナーの美奈の姿。
結衣は、他の相談のために通りかかっただけだった。
だが、視線が交わった瞬間。
時間が止まった気がした。
「‥‥結衣?」
あの声。あの笑い方。
二年前、突然の一言で別れを告げた、あの男。
「おいおい、まさかこんな所で会うとはな」
軽く笑う涼の声に、背筋が冷たくなる。
一方、彼の隣に座る女性は、ふんわりとした雰囲気の可愛らしい人だった。
柔らかな栗色の髪に、少し恥ずかしそうな笑み。
ーーたぶん、この人が新婦、桜井七海さん。
「白石さん、こちら新しいお客様でーー」
と美奈が説明しようとした瞬間、涼が言った。
「担当、白石さんにしてもらってもいいかな?」
その言葉に、室内の空気がピタリと止まる。
美奈が一瞬きょとんとした顔をしてから、口元を吊り上げた。
「えっ、でも私が担当予定でー」
「彼女の方が経験あるんでしょ?俺、結衣のこと信頼してるからさ」
ーー"結衣"。
その呼び方に、七海の表情がわずかに揺れた。
結衣は笑顔を作りながら、喉の奥が焼けるような感覚を押し込めた。
「‥‥申し訳ありません。現在別のカップルを担当しておりますので」
「こっち優先にしてよ〜」
涼が不服そうに言った。
その瞬間、ドアの向こうから低い声がした。
「白石、少しきてくれるか?」
橘主任だった。
その声に救われたような気がして、結衣は軽く会釈して部屋を出る。
背後で、涼の笑い声が聞こえた。
そしてー美奈の小さな声も。
「橘主任、あの新郎さん‥‥結衣先輩の元彼らしいですよ〜」
廊下の奥、橘の眉間にわずかな皺がよるのを、結衣は知らなかった。
続く‥。




