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距離

 来週に迫ったウェディングフェアに向けて、式場全体がそわそわと落ち着かない空気に包まれていた。


 今回のテーマは「スイーツ&スプリング」。

フォトスポットに飾る高さ1.2mの展示用ウェディングケーキは、

フェアの象徴とも言える大物だ。


「最後の仕上げ、相沢くんたちに任せて大丈夫かな‥‥」


結衣がホールで装飾を整えているとーー


 厨房の方から、バタバタバタッ!と嫌な生活音が聞こえた。


「相沢!そこ押さえてろって言ったろ!」

「むっ‥無理ですって料理長!これ重すぎますって!!」


「あーー。」

「‥‥嫌な予感でしかない」


 結衣は思わず駆け出し、厨房の扉を開けた。



「相沢くん、大丈夫ーーえっ!?」


 目に飛び込んできたのは、


傾きかけた特大のウェディングケーキを、

相沢が必死に両腕で抱え、支えている姿だった。


 素材は発泡スチロールとはいえ、デコレーション込みでかなりの重量があり

倒れでもしたなら修復に数時間はかかる代物。



「し、白石さん‥‥!助けてください‥‥!!」

「ちょっと待って!なんでこうなってるの!?」

「りょ‥料理長が押さえててくれると思ったら、電話が鳴ったから離れてって‥!」


「そんなタイミングある!?もう動かないで、まずは固定しよ!」


二人で慌てながら台座のネジを探り、

結衣は脚立にひょいと登って上段の縁を両手で支えた。


「相沢くん!そっち持ったまま絶対に動かないでね!」

「はいっ!!でも腕が‥‥腕が死にそうです‥‥」

「根性で耐えて!!これ倒れたらフェアのメインが終わるの!!」

「そんな重大任務だったんですかこれ!?」


厨房に悲鳴と怒号(主に二人)が響く。


「あっ!ネジが逆だ!誰だよ逆にしたの!?」

「み、美奈ちゃんかも‥‥!昨日"直しときました〜"って言ってた気が‥」

「直してないじゃん!!」



 バタバタしながらも、何とかバランスが戻りかけたーーそのとき。



「っわ!?」

「白石さんっ!」


 脚立の上で結衣が足を滑らせ、

前のめりでに落ちかけた身体を、相沢が咄嗟に支える。


 腰に回る腕。

 至近距離。

 厨房全体が静まり返った。


「あ、あの‥‥相沢くん‥‥手‥‥」

「す、すみません!!」


 慌てて離れた拍子に、今度は相沢がぐらり。


「ちょ!今は倒れないで!!」

「す、すみません!!」


 わちゃわちゃしながらも、どうにかケーキは無事に固定された。


「はあぁぁ‥助かった‥‥ほんとに‥‥」

結衣はその場にへなへなと腰を落とす。


「ご、ごめんなさい‥‥俺‥‥」

「相沢くんが支えてくれなかったら、今ごろ床に散らかってるよ。ありがとう」


その一言に、相沢の耳が赤くなる。


「‥‥白石さんが落ちそうだったから‥‥つい‥‥」

「へ?」

「な、なんでもないです!!」



 そっぽを向いたその瞬間ーー



「仲がいいな、お前たち」


低い声が背後から聞こえてきた。


「た、橘主任っ!?」

「フェア前で忙しいのはわかるが‥‥あまり派手に騒ぐなよ」


 橘主任は二人を意味深に見て、静かに去っていく。


(ちょっと!絶対変な誤解されてる気がする!!)


 結衣は真っ赤になり、

相沢は固まったまま動けなかった。


ーー二人の距離は、またほんの少しだけ縮まった気がした。





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