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7_冷感敷きパッド

 

(よし、ラウル商会に行く約束は取り付けたわ)


 あれからラウル商会とは何回か手紙をやり取りした。


 私は予定表の商会へ行く日に目印をつける。



(でも、その前に……)



 私は使用人を連れて買い物用のメモを鞄を持ち、外に出た。



 ****


 ローハイム家のための買い物の他に、睡眠グッズ開発用の材料も買えた。

 目当てのものを買ってきて、私は家の工房に籠もる。



 ローハイム家には部屋が多くあるので、私には寝室の他に書斎も与えられている。私はそこを睡眠グッズ作りの工房にすることにした。



 私の第一の目標は綿を作ること。

 だが、植物の栽培はどうしても時間がかかるものだ。魔道具で時間の問題はクリアするつもりだが、それでもある程度の期間付き合うことは覚悟していた。



 だから、それより前に作ってみたい睡眠グッズがあった。



『冷感敷きパッド』である。



(夏の一番暑い時期は、どんなに薄着をしても暑さで寝苦しいのよね。前世の世界ほどではないけど、この世界も今の時期は暑い。だから、私は冷感パッドが欲しい)


 使用人に聞いたところ、今までは真夏であってもせいぜい二十五度程度の気候だったが、近年は気温がどんどん上がっているらしい。



 この世界でも氷魔法で部屋の温度を下げることは出来るけど、人間にとって心地いいと思える程度に冷やした場合、短時間で元の気温に戻ってしまうらしい。



 この世界で部屋全体を冷やし続けられるような魔道具は広く流通していない。冷房のような効果を得るには高い代価が必要なのだ。

 ローハイム家のような稼いでいる家ならその気になれば手に入れられるだろうけど、この世界では睡眠が重視されていないこともあって、購入する予定は無いようだった。



(一時的に身体を冷やす魔道具はあるけど、寝ている時間…何時間も冷やし続けられるような魔道具はすごく高いのよね。


 私としてもあまりにも高価なものを要求するのは忍びない。睡眠グッズの開発はポケットマネーでやれる範囲でやることにするわ。さて……今日買ったのは、このスライムだけど)



 私は、素材屋で多数購入したスライムの切れ端を見つめる。



 この世界のスライムは生き物であり、魔物である。

 魔物の中ではかなり弱い部類で、街中ではほぼ見かけないけど、人があまり入らない洞窟の中などには多く潜んでいたりする。湿度のある場所を好むため、水場の近くでよく見られるようだ。



 この世界では魔物が落とす素材が薬や魔道具の材料になるので、市場で取引されている。

 スライムの切れ端は人間の治癒力を高める効果があるから、煎じて薬に入れる用途が多かったはすだ。



(でも、私は薬には使わないわ。スライムを……こうして、こうよ!)



 私は作業用の板の上にスライムを乗せ、それをめん棒で伸ばした。



 本来ピザやパンの生地を伸ばすための棒で、スライムを薄く広く伸ばしていく。



(ふう……生地をこねるのって結構力がいるし、疲れる。料理人は体力が必要だって聞いたことがあるけど、それを実感するわね)



 スライムが伸びるにつれて、じんわりと身体が火照ってきた。

 暑い……。

 でも、このコンディションだからこそ実験しがいがある。


「よし。結構伸びたわね。それじゃ、氷魔法を使おう」


 ローハイム家に来てから、私は魔法を練習していた。使えるようになった魔法のうちのひとつが氷魔法だ。


 練習を始めてからそれほど経っていないこともあって、物を凍らせるくらいの温度には出来ない。

 だが、私が試したいことからすれば、数度温度を下げられれば充分だった。



「えいっ」


 身体の中で魔力を練って、氷魔法を伸ばしたスライムにぶつける。

 そして、寝具用の大きなカバーの中にスライムを入れ、そのまま倒れ込んだ。


「くっ……沁みる~~~」



 氷魔法によって温度が下がったスライムによって、火照った身体が涼しくなる。

 スライムよりも私の体温の方が高いけれど、スライムは一度冷えるとその温度が持続するという性質を持つため、ひんやり感も保っている。


 実験は成功だ。

 冷感パッドといえど寝ている途中は多少汗をかくだろうけど、スライムは洗って使用することも出来るので、衛生面も問題ないだろう。



「でも、前世の冷感パッドよりもちょっとカサカサしてるのよね。やっぱり、カバーに使われてる繊維の滑らかさが違うんだろうな。やっぱり、綿がいいな……」


 スライムパッドに身体を押しつけつつ、私は頭の中で夢想した。





「ネージュ様。あの、寝具の洗濯をしようと思ったのですが……こちらのゲル状のシーツは一体……?」


「シエラ。それは正確にいえばシーツじゃない。暑い季節用に作った冷感敷きパッドよ」


「冷感……敷き……?」


「実際に使ってみた方が早いかな。今氷魔法をもう一度かけるから、触ってみて」


「は、はい。……!! 触れていてもずっと冷たさが続きますね。ネージュ様、こちらは!?」


「ふふ。私、趣味で睡眠グッズを開発してるの。今は私の分しか作ってないけど、良かったらシエラにも作るわよ。他の人が使ってみた感想も聞いてみたいしね」


「は! 私で良ければ、感想レポートを提出させて頂きます!」


「いや、そこまではしなくていいけど」




 私は材料を追加購入して、シエラ用の冷感パッドを作った。

 別にそこまでは求めていなかったけど、シエラからは冷感パッドを使って眠った感想が長文で返ってきた。



(すごいわ……感謝の念が沢山綴られてる……。ローハイム家にきた当初はシエラは無口なのかなって思ってたけど、手紙だと饒舌になるタイプなのかもしれないわね)



 何にせよ、私の作った睡眠グッズで彼女が喜んでくれて良かったな――と思った。



「食べる為に頑張る」人は沢山いても、「寝る為に頑張る」と考えた人は今までさほどいなかったのだろう。この世界には基本的な睡眠グッズしか無い。シエラを始めとした使用人たちも、眠りを改善する余地はまだまだあるのかもしれない。



(睡眠グッズを作るのはまず第一に私のためではあるけど、余裕があれば周りの人間にも使わせて感想を聞きたいところね)


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