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6_作りたいものがある

 

 ロザリーがローハイム家の屋敷に戻ってきてから日々が過ぎた。



 ロザリーは使用人たちの助けも受けつつローズマリーを世話した。

 最初はどこかぎこちなかったが、やがて親子は穏やかに時間を過ごすようになった。



 諸々落ち着いた後、ロザリーは「この家を出て自分の家に戻る」と言い出した。

 彼女曰く、私も、ローハイム家の使用人たちも着いてこなくて良い――とのことだ。



「よろしいのですか? 私のギフトが使えなくなって、使用人もいないとなると、ロザリー様の負担が……」


「私は個人的に使用人を雇うことにしましたの。今までは旦那の顔色を伺っていましたけど、そんなことよりもローズマリーと私が穏やかに暮らせる方が何より大事だと気付きましたから。あなたのおかげよ。ありがとう、ネージュ様」



 ロザリーは私を抱き締め、この恩は必ず返す――と繰り返した。


 そして、ロザリー及びローズマリーは自分の家へと戻っていった。



 ****



「ネージュ様。ベルモンド家から手紙が届いております」


「ありがと、シエラ」


 ベルモンド家というのはロザリーが嫁いだ家のことだ。

 私は手紙の封を切って中身を確認した。



 手紙には様々なことが書いてあった。


 ひとつはロザリーが家に戻った後の顛末だ。


 ベルモンド家に戻ってからもローズマリーの世話はうまくいったらしい。

『ネージュ様のギフトによってローズマリーの睡眠のリズムが整ったからか、ギフトなしでもローズマリーは長く睡眠を取ってくれるようになった』とロザリーは綴っていた。



 だが、ベルモンド家の当主――つまりロザリーの夫とは一悶着あったようだ。

 用事があって屋敷に戻ってきた夫は、ロザリーが勝手に使用人を雇っていることに小言を言ったのだという。

 だが、ロザリーは夫に今までの怒りを爆発させたらしい。

「あなたの言葉に従っていたら娘を死なせるところだった」「離縁したいならしろ」等と激しく意見をぶつけたようだ。



 今まであまり意見を言わなかったロザリーの怒りを受けて、夫は少しずつロザリーと話し合うようになり、今ではロザリーとローズマリーの暮らしを最優先にしてくれるようになったらしい。



『ネージュ様には夫も深く感謝していると言っていました。お世話になったお礼に、こちらをご自由にお使い下さい』


 手紙はそう締めくくられていた。



「おおっ……!」


 同封された書類を見て、私は思わず声を上げる。


 それはラウル商会への便宜を図る書類だった。


 ラウル商会は別の地方や海外など幅広い人脈を持ち、入手困難な貴重な商品も取り扱うと噂される商会である。



 睡眠グッズを作るにあたって、どうやって物を作り上げるかは悩み所だった。

 私は前世の知識があるけど、睡眠グッズがどう出来上がっているかの構造まで知っている訳じゃない。

 だから睡眠グッズを作り上げるには魔法やギフトの力が必要になる訳で、ローハイム家に嫁入りしてからはせっせと魔法の勉強をしていた。



(魔法の体系とかどんな魔法があるか自体は理解出来るようになってきたけど、それらの魔法を実用レベルまで使えるようになるまでは時間がかかると思っていた。焦らずに取り組もうと思ってたけど、ラウル商会とのつてが出来るなら別だわ)



 ラウル商会はランクの高い冒険者ギルドともよくやり取りをしている商会なのだそうだ。

 つまり、魔法に関する道具も沢山取り扱っているはず。



(ロザリーはこの他にも謝礼のお金を送っているから、商会とやり取り出来る軍資金になるわ。


 いやー、ロザリーとローズマリーを助けて本当に良かった。


 やっぱり、睡眠を信じる者は睡眠に救われるのよ。これからも安眠ライフを追求していきたいところだわ)




 私の夫、アロイスはまだまだ帰ってこないようだ。

 私にとってはその方が良かった。ロザリーの家の一件のように、夫が家に帰ってきたら一悶着起きる可能性があるから。



(この屋敷に来てから睡眠の質が向上して、今は穏やかに暮らせているけど、アロイスの気が変わって離婚を言い渡される可能性もあるのよね。


 自分が自由に動ける間に、睡眠グッズを沢山開発したいな。そうすれば家に戻ることになったとしても安泰よ)




 手始めに何が欲しいか。



(とりあえず、夏の睡眠グッズが欲しいわ)



 私はそう考え、ノートにメモをしていく。




 私がローハイムの家に来たのは初夏の頃だった。

 そこから少し時間が経過して、最近では汗ばむような気候になってきている。

 昼だけならまだしも、夜もじっとりと暑いのだ。



(シーツの類いは使用人が洗ってくれるから、寝るときは快適に眠れる。

 でも、朝起きたときに汗ばんでるのを感じるのよ……)



 私のギフトはどこであっても安眠出来るようになるものだけど、身体の反応まで全て止められる訳ではない。

 やろうと思えば布団なしで眠りにつくことは出来るけど、翌朝には身体が冷えていたりするのだ。




(私の理想の睡眠は、おやすみからおはようまで快適に過ごせることよ。という訳で、真夏であっても快適に眠れる寝具を作ろうっと)




 私はノートに計画を書き連ねていく。



(色々作りたいものはあるけど、一番色んなものに応用がききそうなものは、”繊維”ね)



 この世界は前の世界ほど睡眠が重視されている訳ではない。



 そのせいか、寝具に使われる繊維もあまりバリエーションがなく、どちらかといえば冬用の『暖を取る』という機能に特化していた。



(暖かいとよく眠れるのは世界の真理よ。でも、環境によっては涼しくした方が眠れることもある。パジャマやシーツの触り心地は睡眠の質に関わるわ。


 ということで……作りますか、綿を)



 綿、あるいはコットン。

 夏ならば涼しく、冬ならば暖かく、ついでに言うと柔らかくて肌触りがいい。

 肌に触れても刺激が少ないので、乾燥肌の人間にも優しい。

 だが、この世界では綿はあまり流通していないのだ。



 この世界において最もよく使われている繊維は、ウールである。

 羊の毛から大量に取れるため、平民でも貴族でもよくウール製の衣服を身につけている。

 平民の場合は衣類をより安価に抑えるために、【水割り】の魔法を用いた魔法製の繊維のものを着ていたりする。



【水割り】の魔法とは、魔法の対象の物質のある品質を劣化させ、その代わりに物質の数を増加させるものである。

 例えば食べ物に魔法を使ったら食べたら腹痛が起きるものになるし、繊維の場合は滑らかさが失われて洗濯によって縮むのも早くなる。



(ローハイム家に来てから、平民の服を買って試してみたこともあるけど、カサカサし過ぎて気持ち良く眠れるという感じではなかったわね。かといって貴族用のウールの服は夏に着るのは暑い。

 やっぱり綿がいいわ。

 ラウル商会に行くには予約が必要みたいで、もう暫くはかかりそうだけど。ラウル商会に行くときは、綿作りに役立つ商品を選ぶようにしようっと)


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