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4_夜泣きで睡眠時間が減るのはやだ

 ロザリーにローズマリーを寄越されてから、一週間経った。


 ロザリーはローハイム家の使用人たちが何人か捜索しているものの、まだ見つかっていないようだ。



 残りの使用人は、代わる代わるローズマリーの世話をしているらしい。




「ネージュ様。只今夕食をお持ちします」

「ええ。……シエラ、大丈夫?」



 シエラは私がここに来た初日からあまり感情を示さない方だ。けど、今の彼女は目に見えて疲れているように見える。

 恐らく赤ん坊を世話することになった心労と寝不足が祟っているんだ。



「実家にいた頃は自分で料理を作ることもあったから、あなたが私の食事の準備をしなくても大丈夫よ。そうすれば多少は休む時間を取れるでしょう」

「いえ、ローハイム家の使用人として、働くのが勤めですので」



 私が労働を軽くするように言ってみても、シエラは首を縦に振らない。



(ローハイム家はお給金自体は高いお金が出てるみたいだし、その分は報いたいって思ってくれてるのね。私としては急に赤ちゃんの世話をすることになっただけでその役目は果たしてると思うけどな……)



 ロザリーが残していった赤ん坊、ローズマリー。

 彼女にはふつうの赤ん坊よりも手が掛かる特徴があるらしい。

 とにかく寝ないらしいのだ。

 抱っこして寝かしつけたと思ったら、ベッドに置いた僅かな衝撃で起きてしまう。

 そして、ローズマリーは眠れないから暇つぶしに泣く。

 その泣き声で使用人たちも疲弊しているらしい。



 私は肩を竦めてシエラに嘯く。



「シエラだけじゃなくて、他の使用人たちもそう言っていたけど……私としては休むのも業務の一環じゃないかと思うけどね」

「私どもは皆、アロイス様の理念に従ってきました。アロイス様は『眠らずの領主』と呼ばれる勤勉な方です。その家に仕える使用人たちもそうあるべきだと、雇われるときに申しつけられましたから」

(ね、眠らずの領主!? 何なのよ、その地獄みたいな二つ名は……)



 アロイスがたまたま妻を放っておくタイプだから良かったけど、もし妻にも勤勉を求めるタイプだったら――と思うと、私はぞっとしてしまう。



「お待たせいたしました、ネージュ様、こちらが食事になります。……あら」



 シエラが食事を持ってきた後、別の使用人が部屋に入ってきて彼女に耳打ちした。

 そして、シエラは私に一礼して言う。



「申し訳ありません、ネージュ様。私はこれから別の作業を致しますので、何か用事があれば他の者にお申し付け下さいませ」

「あ……うん」



 切迫している様子のシエラは、別の使用人と共に部屋を出て行った。

 一瞬開いた扉から、赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。



(あれはローズマリーの声ね。きっとまた起きて泣いているんだわ。……うーん)



 私は食事を進めながらも、しばらく考え事をした。



 ****


 食べ終わった後、私はシエラが向かった部屋に行くことにした。


「入るわね」


「ネージュ様?」


 シエラはローズマリーを抱いてあやしていた。それにも関わらず、ローズマリーはまだぐずっているようだ。


「どうされましたか。ああ、先程の食事に何か不備があったとか……」


「いや、美味しかったわ。私はね、ローズマリー様をお世話したくてここに来たのよ」


「え……?」


 戸惑った顔を見せるシエラに、私は笑顔で腕を伸ばす。


「ほら。私に任せてくれない?」


「ですが……ローズマリー様はあまり眠らず、世話には時間が掛かるのです。ネージュ様の手を煩わせる訳には」


「世話が大変なのはわかっているわ。その上でちょっと試してみたいことがあるのよ」


「……?」




 シエラと話した結果、彼女は私の意見を聞き入れてくれた。

 この部屋の中には、ローズマリーと私だけが残される。


 暫くローズマリーを抱いて揺らしていると、段々と彼女はうとうとし出した。

 私はゆっくりとローズマリーを子供用のベッドに乗せる。

 が、彼女は再びぐずり始めた。



(やっぱり、全然寝ないわね……)


 私はじっとローズマリーを見つめる。


(ロザリー様がもともといた家でもこんな感じだったなら、彼女はきっと夜泣きの対応で疲れていたんでしょうね。まともに眠れる状況ではなかったはず。使用人がいたとしても、赤ちゃんの世話は母親が見るべきという家だったなら、彼女自身が世話しなければいけなかったのかも)



 ロザリーがこの屋敷にいた頃、彼女の化粧が濃いと思ったことを覚えている。

 あれは恐らく、彼女が寝不足で出来た目の下の隈を隠そうとしていたのだ。



 夜泣きの対応はきつい。シエラたちは何人かの使用人で交代に世話をしているようだが、皆少しずつ疲れが溜まっているようだ。




 やはり、睡眠が取れないという状況は良くない。全員が不幸になる。

 不幸になるというのは、私も含めてのことだ。


 私がローハイム家に来てから、毎日気持ち良く睡眠を取れている。

 それはクッション性の高いベッドに枕、ふわふわに洗濯したシーツがあったからだ。

 そして、この屋敷の洗濯は主にシエラが担っていたらしい。



 最近、シエラは調子が悪そうだ。

 彼女が体調を崩したりすると、快適な睡眠生活が失われる可能性がある。

 だから、私の力でなんとかしたかった。



「――ふっ」



 私は、魔力を練って子供用ベッドに手のひらを翳す。

 私の睡眠ギフト――私の中では『ベッドメイキング』と呼んでいる――を発動させたのだ。

 これを発動させれば、どんな場所であろうと快適に眠ることが出来る。


 やがて、ぐずっていたローズマリーは泣くのを止め、ベッドの上で静かに寝息を立て始めた。


(寝たわ……!)


 私は心の中で歓喜の声をあげる。


 ギフトを発動させつつ、私は辺りの床を歩いてみる。

 ローズマリーは起きない。


 私が実家で過ごしていたとき、他の家族にもギフトを試してみたことがあって、うまく眠れていたのは確認していた。

 赤ん坊に向かってギフトを発動させるのは今回が初めてだけど――今のところはうまくいったようだ。



(でも、これで終わりじゃないのよね……)



 私は近くのテーブルに置いたカップからコーヒーを一口飲んだ。

 この部屋のテーブルには、コーヒーと甘いお菓子が置いてある。先程シエラにお願いして用意してもらったものだ。



 赤ちゃんの眠りが浅くてよく泣くのは、赤ちゃん自身の生存のためでもある。数日ご飯や水を取らなくても生存出来る大人と違い、赤ちゃんは短いスパンでミルクや水分を取らないと体調を悪くする可能性があるのだ。

 私の睡眠ギフトは十歳頃から発現した。私自身は活用していたけど、果たして乳児にもいい感じに適応されるものなのかわからない。



 だから、私は夜通しローズマリーを見守ることにした。

 私のギフトで眠るローズマリーに体調の悪化が起きないか確認しなければいけない。

 彼女が一晩中眠り続けてから目を覚まして無事なら成功だ。だが、異変が起きたときは対応して、ギフトで眠らせる作戦を中止するつもりでいた。



(それにしても……、この感じ、久々だわ。身体の中にカフェインを流し込んで、むりやり身体を覚醒させる感じ。命を削っている感じがするわ……。はあ、嫌。徹夜出来ないことはないけど、やっぱり寝るのに勝る幸せは無いわ。あなたもそう思うわよね、ローズマリー、ねっ)



 目の前のローズマリーに私は頭の中で語り掛ける。

 彼女は子供用ベッドで眠りながら幸せそうな笑みを浮かべていた。




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