37_二号店の開店の前に
ローハイム家で諸々の商品開発の作業を進めることも出来た。
ついでに、我が家の使用人たちにもいくつかサンプルを渡した。
ミリィは光目覚ましに反応していて、「これで寒い朝も早起き出来ます!」って喜んでいた。シエラは「この目覚まし無しでもスッキリ起きれるようになりなさい!」って厳しく注意してたけど。
(人としてはシエラの方が立派かもしれないけど、商売をする上で大事にしないといけないのはミリィの方なのよね。つらいことを楽にするものに人間は飛びつくものだから。ミリィは商品に対して遠慮のない意見もくれるし、ありがたい存在だわ)
作業が一段落した朝、私は王都へ向かうことにした。
目的は、寝具店の二号店のチェックである。
以前にシエラと一緒に店の様子を見に行ったことがある。
あの時は店のレイアウトを相談することに留まった。
今回は店の中が完成しつつあり、それを改めて見て欲しいのだとマーシーには言われている。前回とは異なり、私は一人で向かう予定だった。
(二号店は一号店よりも面積が広いから、色々と決めないといけないことも多いのよね。何度も行くのは大変といえば大変だけど、店が段々出来上がっていくのはワクワクするわ)
一号店では、面積の関係上マットレスやベッドを置くのは断念した。
でも、二号店ではそれらの展示も出来る余裕があるのだという。
今回、ギルドメンバーに依頼してマットレスを作ってもらった。
商品として並べるものと同じものは私の王都のロフト部屋にも置いてある。
(マットレスを作って今のベッドのものと交換してみたけど……今までのロフト部屋からは考えられないくらい寝起きが良くなったわ。起きたときに身体の節々が痛む感じがないもの。マットレスが私の体重を受け止めてくれてるおかげね)
今までのロフト部屋のマットレスは薄すぎたようだ。
現在のマットレスは、寝そべるだけで身体の疲れを吸収してくれる気がする。同じ睡眠時間でも回復の度合いが段違いなのだ。
マットレスのサンプルはピロの反応も見つつ作ってみたけど、ギルドでも評判は上々だったみたいだ。
やっぱり、寝具の寝心地に関してはピロの意見もとても参考になる。これからも協力してもらうようにしよう。
今回作った、体重を吸収して疲れを取ってくれるマットレス……。
そのマットレスを展示して、客にアピールするようにしよう。
マットレスに寝そべらせるのは貴族の文化から難しいらしいけど、腰掛けて手で触らせるだけでも今までの寝具との違いをわかってもらえるはずだ。
あと、毛布やラグといった、少々面積を取る寝具類も多めに展示出来る。
枕も色んな素材を中に入れたものを複数種類置いて、好みの固さの素材を選ばせることが出来るのではないか。
沢山置いた商品の全てが売れるだなんて思わないけど、客の好みを知ることは出来るだろう。
人気の種類が分かったら、一号店の方で取り扱っている商品を変えてもいいのだ。一号店の方は多くの人に売れる主力の商品を置いて、二号店の方では少し挑戦した商品を置き、新たな需要がないか測る――そういうやり方も出来るだろう。
今回は、光目覚ましみたいな寝室の周辺で使うものも売ることが出来る。
入眠前に使うのに向いている、淡い光のライトも売るようにした。
ふんわりとした光のライトは、強い光のそれよりも幾分か洒落たものに見える。寝具だけじゃなくて、雑貨を求めている人も客になるかもしれない。
あと、あと……。
(やりたいと思うことが沢山湧いてくるわ……! いいものね、二号店って)
私はそう噛み締める。
一号店が好評だったおかげで、次の店も出せることになった。
これで更に客の睡眠の質の上昇が見込めるだろう。
まだまだこの辺りのみんなの家の寝具が改善された訳ではない。寝具店のことを知っているのは限られた人間で、街の人口比でいえば今までと生活を変えていない人の方が多い。
王都の仮住まいのロフト部屋、アパルトマンの寝室がボロボロであったことからもそれは伺える。
でも、寝具店が評判になることで、それぞれの家でも『睡眠を大事にしよう』『寝室を充実させよう』という気運が広がっていくなら――こんなに嬉しいことはない。
(例えばだけど、もっと意欲的な人が私に代わって睡眠関連の商品を作ってくれる可能性もあるもんね。仮眠出来る施設なんかを作ってくれる人も出てくるかも。色んなシチュエーションで睡眠を楽しめるなら私としても嬉しいわ……)
そんなことを考えているうちに、目的地周辺まで着いた。
今回の待ち合わせ場所は、二号店の店の中だ。
まだ開店した訳ではないが、店の外装はかなり出来上がってきている。恐らく内装もだろう。
私は二号店のドア前のベルを鳴らして、マーシーに来訪を告げた。
「マーシー、私よ。ネージュよ。店のことについて相談しに来たんだけど……」
「――ふむ。あなたがこの店の協力者なのですね……」
扉の向こう側から予想していた言葉は聞こえてこなかった。
マーシーの声の代わりに、私の耳に飛び込んできたのは温度の無い壮年の男性の声だった。




