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28_ギルベルトに言いたいこと②

(……流石におかしくない?)


ギルベルトの様子を見ていて、私はそう思った。



先程からずっと私ばかりが喋っており、ギルベルトはろくに反応しない。

以前と比べて落ち着いた、丸くなった――というより、萎れているように見える。

端的に言うと、元気がない。



今のギルベルトにずっと話し掛けたら、まるで私が一方的に詰めているようで、周囲からすれば寝具店の印象が悪くなってしまうかもしれない。

それは避けたい。



そんな風に頭の中で勘定をしつつ、私はギルベルトにある提案をする。



「……そうだ。もし良かったら、寝具店でひと休みしていきませんか」

「ひと、休み……? だが、見た感じかなりの数の人間がいるようだが。俺があそこに入る隙間は……」

「商品を売っている場所にはお連れ出来ません。順番がありますから。ですが、休憩出来るスペースはあります。そこでお茶でも如何でしょうか」

「……?」



****



私がギルベルトを連れていったのは、寝具店のバックヤードである。

店のバックヤードは、大きめの椅子を置いて休憩出来るスペースがある。

「ベッドを持ち込むのは難しいかもしれないけど、物理的に仮眠を取れる場所があった方がいいのではないか」と私が主張したが故に出来たものだ。

私はそこにギルベルトを座らせることにした。



(「こんな怪しい店なんかで休めるか」とか言われるのも覚悟してたけど、大人しくついてきたわね。ちょっと不気味なくらいだわ……)



私はそう考えながら、ギルベルトに湯気を立てている紅茶を出した。



「暖かい飲み物は身体を癒します。もし今調子が悪いのならば、どうぞ召し上がって下さい。何か摂るのも大変ならば、置いておいて大丈夫です」

「……ネージュ。お前の目から見て、俺は調子が悪く見えるのか?」

「ええ。最初に店に来られたときと比べると活気がないようで……。少し様子を見ようと思ったのです。体調は大丈夫でしょうか? 店を見て、何か気になる点がありましたか?」

「ネージュ。お前が俺をここに連れてきたのは……店に何かしないか心配だったからか? 俺が店の近くにいたから、何かしでかさないかと……」



ギルベルトはぽつりと言った。

……まあ、それもある。

最初は寝具店の近くに不審者がいると思ったものだし、ギルベルトだとわかった後も、店をじっと見ているのは何か思惑がありそうで不気味だった。



でも、それだけじゃなくて……。



「アーネンフェルト様。私があなたに声を掛けたのは、それだけが原因ではないのです」

「……?」

「私は、あなたが疲れた様子をしているのが気になりました。もし調子が悪いのなら、話をきかないといけないと思って」

「フン。具合が悪そうな人間の全てに声を掛けて回る気なのか。診療所でも気取るつもりか」

「そうです」

「……?」

「私は、寝具は生活を良くするものだと信じています。よく眠れば健康に過ごせるようになると思っています。ですが……寝具を送った筈のあなたは、前よりも疲労しているように見える。それは見過ごせません」




怪訝な顔をするギルベルトを前に、そう宣言した。



私は別に、道行く人の全てを元気にしたいという気持ちはない。体調不良の原因は人それぞれなのだから、自分なりに対策して治していって欲しいと思っている。不健康のままでいるのならばそれでもいいと考えている。

でも、寝具を渡した人が不健康そうにしているのはいただけない。



私は寝具を買っていった人みんなに満足して欲しいと思っている。全員が満足するなんて難しいのは承知の上だけど、気持ちの上ではそう思っているのだ。




「アーネンフェルト様、私どもの作った寝具はどうだったでしょうか。兵士の皆さんからリカバリーウェアの快い感想を頂き、開店に同意する署名をいただきましたが……あれはあなたの本意でしたか?」

「……本意じゃないって言ったら、そのときはどうするんだ? また店を閉じるのか?」

「寝具店は閉じません。署名は署名ですし、商品を楽しみにするお客様が沢山いますから。その代わり……あなたに合う寝具を作れないか、考えさせていただきます」

「……俺に?」



意表を突かれたようなギルベルトの問いに、私は頷く。



「私は全ての人に寝具で満足して欲しいと願っています。そのために出来ることはさせていただきたいです」

「……客全員に対応するつもりか? 夢みたいなことを言うな」

「全員には対応出来ません。ですが、アーネンフェルト様ひとりなら対応出来ます。だから、やります」



私の言い分に、ギルベルトは困惑したように無言になった。

やがて、観念したように息をついて言う。



「……俺は別に、寝具に不満があった訳じゃない。あれを使うと、眠る時間が長くなった。その結果、疲れも取れた。軍の鍛錬にも、いい影響があった……。それは認めざるをえない」

「! そうなのですか。じゃあ……」

「だが……」



ギルベルトは苦しみの表情を浮かべて呟く。



「俺の家でも、軍でも、長年やってきた鍛錬は何だったのだ。眠気に耐えて、寒さに耐えて、身体を横たえたいという気持ちに耐えて、必死に励んできた。その成果で強くなれた、筈だったのだ!」

「…………」

「それがどうだ。新たな寝具を使った結果、それは間違っていたということになった。朝はゆっくり寝ていて良かったし、夜も早くに床についても良かった……そうした方が、鍛錬の成果が出た。眠る方が正解だった。起きて精進することは無駄だった。不正解だった。……なら、俺がしていたことはなんだ!? 我がアーネンフェルト家が長年受け継いできた理念は、理想は何だったのだ!?」

「…………」

「署名の撤回はしない。一度サインしたものは守らなければいけないからな。だが……俺は他の者のように、すぐに切り替えられない。切り替えられるものか……! 寝具店での賑わいを見れば納得出来るかと思って来たものの、そうはならなかった。……もう、店に嫌がらせはしない。だが……俺の心は、ずっとこのままだ。合う寝具を作るとか、そういうことで変わる訳ではない。お前の気遣いは無用だ、ネージュ」



吐き捨てるようなギルベルトの言葉を聞いて、私は彼の態度に納得した。



(悲しいのね、ギルベルトは……。まあ、それはそうか……)



寝具店を一時的に閉めることになったとき、今までやってきた商品開発の活動が白紙になってしまったようで辛かった。私に協力してくれた人の労力も無為にしてしまったようで怒りが湧いた。


でも、それと同じようなことをギルベルトも味わったのだろう。



今まで正しいとされていたことがそうでなくなって、今までのやり方を変えざるを得なくなる。

自分一人だけでなくて、家族みんなのやり方が正しくなかったと認めなければいけなくなる……。



(私だったら、もっと休めるって思ったらラッキーでハッピーって思うけど、そうでない人も沢山いるもんね。今まで評価されていたことが消滅するって思うときついものがあるのはわかるわ。しかも、店は一時閉店で済んだけど、ギルベルトみたいな人はこれから生活を大きく変化させないといけなくなるかもしれない……)




私は、目の前のギルベルトに少しばかり同情した。

――同情したからといって、寝具を広めるのを諦めるかというと、そんなつもりは一切ないが。



(私にとっては眠る以上に大事なことはないもの。人間は平均睡眠時間五時間で生きるべきなのですとか言われたら持てる力全部使って暴れるわ。でも……)



寝たくない人を無理矢理寝かせたいのかというと、それもちょっと違う。

どうせなら、寝ることを心から愛してもらいたい。

ギルベルトは今悩んでいるらしいが――このまま帰すのは、少々寝覚めが悪かった。

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