23_リカバリーウェアを作るわ①
「そうか……リカバリーウェアだ」
私はそう呟いた。
私の声に反応して、マーシーが首を傾げる。
「リカバリーウェア? ネージュ、回復魔道具は作れないとさっき言ったじゃないか」
「えっとね。これはさっきまでの話とはちょっと違うのよ」
マーシーの疑問に返しつつ、私は頭の中で考える。
リカバリーウェア。
前世で「着るだけで疲労回復」という触れ込みで売られていた寝具だ。
衣服の繊維が特別な仕様になっていて、それによって他の服よりも疲労回復を効果的に行うことが出来るらしい。
起きている時だけでなく、寝る際にもパジャマとして着ることが出来る。
前世では私も買って試してみたことがある。
疲れない身体を保つには、日々の食事だとか継続的な運動だとか、様々な努力が必要だ。
「それを全てすっ飛ばして、着るだけでずっと元気でいられるなら最高」という気持ちで飛びついた。私は前世の頃から怠惰な性格なのだ。
実際にリカバリーウェアを手に入れて、それを着て生活するだけで身体が常に元気な状態でいたかというと……「わからない」というのが正直な感想である。
リカバリーウェアを着ることで、特別な効果は感じた。
「身体がぽかぽかするし、身体もなんとなくほぐれたような気がする」という実感は得た。
それは本当に疲労回復に効果があると断言出来るのかと言われると、なんともいえないけど……。
血行がほぐれて、いつもよりも身体が暖かったのはよく覚えている。
確か……リカバリーウェアは繊維に鉱石を使っているんだ。
人間の肌は熱を伝える遠赤外線を発している。そのままだと放出されるばかりになるけど、天然鉱物を練り込んだ繊維を使うことで、人間の体温を吸収した上で肌に放出する。故に、遠赤外線のぽかぽかした暖かさが巡る。血行が促進されることで、疲労回復や筋肉の凝りをほぐすことに繋がる。
確かこんな仕組みだったと思う。
「うん。リカバリーウェア、いいかもしれない。兵士ならば身体をよく動かすから、きっとみんな筋肉の張りとか凝りもあるよね。それを癒やせるなら、今までの寝具以上に効果が出るかもしれない」
「リカバリーウェアというのは……名前からして、服なのか? その口ぶりからすると、ネージュはそれを着たことがあるんだな?」
「うーん……」
マーシーの質問に、私は口ごもった。
着たことはある。
あるが、それは前世での経験なのだ。
「その商品はどこにあるのか、誰が作ったのか」と問われると私は答えを返せない。
(面倒事を避けるために、私は転生者であることは隠し通すつもりなのよね。私一人で思いついたことにしようかな……、夢で見てインスピレーションを得たとか言って。でも、それにしては言うことが具体的過ぎて怪しまれるかな)
私が下を向いて考え込んでいると、マーシーがぽつりと呟いた。
「ネージュ。あんたとはいいビジネスパートナーでいたいと思っている。こうして貴族様から文句を言われた今だって、なんとか商売を続けていきたいと思っている」
「え……? それは、私もそうだけど。どうしたの、急に」
「仕事のパートナーとして長くやっていくためには、相手を知るのも大事だが、知られたくないことに踏み込まないのも大事だと考えている」
「それはまあ、そうかもね」
「ネージュ。あんたは俺には話したくないような事情を抱えているのかもしれない。だが、それならそれで構わない。商売のために働いてくれるならば、俺は詮索しない。それだけ伝えたかった」
「…………」
どうも、私が悩んでいる様子を見て、マーシーは何かを察したらしい。
私は息をついて彼に確認する。
「あなたはそれでいいの? 仕事の相手の素性がはっきりとはわからないって、ちょっと怖くない?」
「それよりも、軌道に乗りそうな商売が消えてしまうことの方が怖いな。それに、俺だってあんたにギルベルトの件の解決について投げている身だ。問題解決してくれるなら、あんたの閃きの出所がどこだろうと気にしない」
「……そう」
「ああ、流石に他のギルドなんかで既に権利関係があるものの模造は勘弁して欲しいけどな。そういうことをするなら、俺は堂々と違約金を請求させてもらうよ」
「そういうことはしないわ。私は基本的に面倒事は嫌いだもの。違約金が発生するようなことなんて自分からはしないわ。争いごとが増えると、睡眠時間にしわ寄せがきそうだしね」
「それもそうか……」
マーシーと話していて、私は少し心が軽くなった。
彼は本当に商談や利益が好きで、それを生み出してくれるならば多少怪しいことであっても目を瞑ってくれるらしい。
どう話すか迷っていたけど、彼相手なら「こういう品を体験したことがある」と言っても大丈夫そうだ。
「じゃあ、話すわね。私はリカバリーウェアというものを着たことがあるの。商品としては流通していないけど、着るだけで疲労が回復すると言われている服なの。それを作れたらギルベルトも認めてくれるかもって思ったのよ」
「着るだけで疲労が回復する、か……。そんなものがあれば、睡眠時間をそこまで伸ばさなくても沢山回復することが出来る。便利だな。着てみて、どうだった? 効き目があったんだな?」
「…………」
「ネージュ? 効き目があった、で良かったんだよな?」
「効き目は、あるといえばあったわ。信じる者は救われるみたいな、そういうあれかもしれないけど」
「ネージュ、どうした? 今まで開発した寝具と違って、その服に関してはいやにあやふやなことを言うようだが……」
マーシーの訝しみに、私は目を逸らす。
そうなのだ。
リカバリーウェアは、万人が認める疲労回復ウェアとは言いがたいのだ。
「普通の服よりも高価なのに効き目がなかった」と言っている人もいる。
一方で、効果はしっかりあったと言う者もいる。
枕や毛布といったクラシックな寝具も人によって効き目の多寡があるけど、リカバリーウェアは開発されてから間もない品であることもあって、評価する者としない者が拮抗していた――そんな印象だ。
(でも、出来ることなら誰に対してもしっかり効くものを作りたいわ。それくらいしないとギルベルトは納得してくれないだろうし。いや、ギルベルトを抜きにしても、しっかり効果のあるウェアを作ってみたい。睡眠は誰にとっても大事なものだから、みんなの疲れがしっかり取れるなら、それに越したことはない……)




