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22_ギルベルトをどうしよう

 ギルベルトが帰った後、私とマーシーは店のバックヤードで作戦会議に入った。




「ギルベルトはあんなこと言ってたけど、店を開いてもいいんじゃない? いくらなんでもずっと見張ってる訳じゃないんでしょ? ならこっそり商売をしても……」

「ここの近くの店が俺たちの様子を見ている。ギルベルトに確認されたら、俺たちが活動していたかどうかは一発でわかるだろう。周りの店が俺たちを悪く思っているとは言わないが、体制側のギルベルトに詰問されたらそっち側につくのが自然だ。逆らったら自分たちの商売も邪魔されるかもしれないからな」

「うーん……」




 前世ならば、あんなクレーマーは警察に通報して終わりだ。でもこの世界ではそうではないらしい。

 あのままギルベルトを自警団に引き渡したとして、私たちの方が分が悪かっただろう。本当に私たちの新商品で軍が弱くなる可能性があるのなら、そして高位貴族が異議を唱えているのなら、ギルベルトの主張の方を優先してもおかしくないのだ。

 私たちは、ギルベルトを敵に回さないようにうまくやりすごさないといけない。そうしなければ、この商売を続けられないらしい。




 そして、マーシーはギルベルトのことについて続けて語った。

 ギルベルトの家、アーネンフェルト家は、王家に仕える騎士として代々誉れを受けてきた。

 だが、先々代の時代に起きた戦いで、思うように武功を上げることが出来なかった。

 今は武家の名門として兵士たちの上に立つ立場にいる。だが、最高権力者という訳ではなく、兵士たちを指導する貴族は他にもいるのだ。

 だから功を焦って、直接店を潰しに来たのだろう――とのことだ。




「ちなみに、店の売上自体は予想より順調だった。午前中だけで兵士たちが来て寝具を買っていったし、それを見た通りがかりの客も店に来た。まずまずの滑り出しだった」

「ほんと? おためしで寝具を使ってくれた人が、買いに来るくらい気に入ってくれたってことよね。嬉しいな」

「ああ。これで商売はうまくいくだろうと見たが……予想以上に兵士たちが客になった結果、ギルベルトに目をつけられてしまったようだな」

「そうね……」

「この勢いで売上をあげたかったところだが、店を開けなくなってしまった。これはきついな」



 ぼやくマーシーに、私は彼がギルベルトと話していたことを思い出す。



「あなたは言っていたわよね。鍛錬に役立つ寝具を作るとか……」

「ああ。ネージュ……あんたならばなんとかしてくれると信じてるぞ」



 突然こちらに話を向けられて、私は困惑する。



「ギルベルトにああ言ったのは、あなた自身に案があった訳じゃないの?」

「あれはとりあえず店で暴れるのを止めてもらうためのフカシだ。だが、何の勝算も無いわけじゃない。ネージュ……あんたは今まで数々の道具を発案した。それに、うちの商会は道具を量産する体制は整っている。新商品の目処がついたら、量産して兵士に配って、ギルベルトを納得させることは可能だろう」



 マーシーの言葉に、私は頷く。

 私ひとりで寝具を作っているときは、ひとつのものを作るだけで何週間もかかったこともあった。

 今はラウル商会がバックにいて、そのツテで商品を生産してくれるから、アイデアと出来上がったサンプルさえ出せば量産してくれるだろうという信頼がある。商会さまさまだ。



 ……でも、懸念はある。




「期限、あと一週間なのよね。ギルベルトを納得させられるくらい、しっかりした効果を出すものを考えないといけないのよね……」

「流石に短すぎるか。ひとりで考えろとは言わない。俺が出来る知識は使って貰うし、気になる材料があれば何でも申しつけて欲しい」




 マーシーがそう言いながらメモ帳を開く。欲しいものがあれば取り寄せる気なのだろう。


 そう言ってくれるのは助かるけど、今のところ何を作ればいいかの全体像もわかっていない状態だ。



 ――とりあえず、話そう。話しているうちに、作るべきものがわかってくるかもしれないから。

 そう考えて、私はアイデアを出すことに努めた。




「ギルベルトは寝具店を認めていない。寝具の商売をやめさせようとしてる。だから、寝具で認めてもらいたいわよね」

「そうだな。今うちにあるのは、枕やリネン類か」

「でも……うちにある商品は、既に兵士がおためしで使ったのよね。睡眠時間が長くなるという効果が出たけど、それだけだとギルベルトは納得しなくて、文句を言いに来た」

「睡眠が長くなるというのは、本人からすれば絶大な効果があるもんだが、他人から見て目覚ましく変わるものがあるかというと、そうとは限らないということなんだろうな」




 それはその通りだ。

 長い目で見れば、兵士たちは絶対にきちんと睡眠を取った方がいいと思う。身体をしっかり休めた状態で活動をした方が、鍛錬に応じた力が身に付くものだろうから。

 でも、この短期間だと、誰もが認めるような成果は出なかったということなのだろう。




(ギルベルトは上官の一人らしい。一人でも寝具を使うことに反対していたら、部下たちは使いづらくなるよね。こちらの方が調子がいいと主張したくても難しいはず……)




 ――なら、どうすればいいだろう。


 私は考える。



 今回は軍隊で寝具を使って貰った。

 兵士とは、日々の鍛錬や業務で身体を酷使するものだ。そして、彼らの睡眠時間は私からすればとても少ない。恐らく、毎日疲労と共に目覚めることになるのではないか。


 ギルベルトが言うところの鍛錬の成果を出すためには……身体が適切に回復されること。それが必要になるのではないか。



「マーシー。例えばだけど、回復魔法がかかった寝間着を作ることは出来ないのかな。それで寝てもらったら、普通に寝るよりも遥かに体力回復が見込めるよね」

「ふむ。そのアイデア自体は悪くないが、回復服は権利の関係で扱いが難しいんだ。この短期間で俺たちが商品を作るのは無理かもしれないな」

「えっ? ……権利ってなに?」

「ネージュ。きちんとした医者は試験を受けた者しかなれないだろう? それと同じで、回復魔法も国がある程度管理しているんだ。誰しも必要とする魔法だからこそ、回復魔法に適性があるとわかった人間は、それが判明した段階で国の支援を受ける。教会つきの聖女や神父になるか、軍属のヒーラーになるのが多いな」

「そうなのね。言われてみれば、普通に街に暮らしている人で回復魔法を使う人って見た事がないかも」

「そして、回復用魔道具もギルドの利権が絡んでいる。俺のツテを辿れば、回復用魔道具を作ること自体は可能だろう。だが、国が定めた魔素の基準を満たした魔道具……つまりしっかり効くと保証された魔道具は、公営ギルドじゃないと扱えない。俺たちのような民間の商会だと手を出せないんだよ」



 前世で言うところのお酒みたいだな、と思った。自分で作るだけなら問題にならない場合でも、売ると違法になるんだ。



「ギルベルトは、私たちのことを悪徳商人だとか言ってたわよね。そう睨まれてる最中に法律違反をするのは流石に厳しいか」

「そうだな。嬉々として俺たちを捕まえに来ることだろう」

「うーん……」




 せっかく魔法があるんだし、いい商品が作れるかもと思ったけど、想像より課題があった。



 問題があるなら、引き下がるけど……。

 それはそれとして、作ってみたかったな、寝てるうちに全回復するパジャマ。



 私は毎日たっぷり寝てたっぷり回復する生活を送っているけれど、魔法を使ったら今までにないくらいのスッキリした朝を迎えられたかもしれないのだ。



 回復するパジャマか……。

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