19_寝具屋さんが出来た
マーシーと話し合った結果、睡眠グッズを売るために店舗を開くことになった。
ラウル商会は私のグッズを世に出すために様々なツテを使ってくれたらしい。
私がひとりで開発したグッズ、及び私が『こんなものを作ってみたい』と提案したものを量産してくれた。
量産といっても、前世みたいな大量生産とまではいかないけれど、最初は限られた客層に対して少しずつ商品を売っていく方針とのことだ。
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「わあ……」
「ここがネージュ様の寝具屋……!」
王都はずれのショップ。そこが私たちの寝具屋さんだ。
まだ一般公開前だが、オープン時のチェックということで今回見学することになった。
シエラと一緒に店を訪れた私は、中を見て感嘆する。
私がピロと一緒に作った素材――綿。それで作られたシーツに、枕カバー。
肌触りの良い肌着は睡眠の質を挙げるということで、綿で作られた寝間着。
夏はさらりと、冬は暖かく、睡眠の質を上げてくれるガーゼケット。
移動中の睡眠で首を柔らかく包み込んでくれる、ネックピロー。
忙しいあなたへという触れ込みの、シュッとスプレー出来る香水のような瓶に入った寝支度用の魔道具。
それに加えて、素材に拘った枕も用意した。
一般的な枕に加えて、柔らかい素材を詰めたもの、固い素材を詰めたもの、どちらも用意した。
中を開けて素材を取り出して、高さを調節出来る枕……カスタム枕も作った。これで枕の高さをそれぞれで調節することが出来る。寝るときに枕の高さが合うか合わないかは死活問題だからね。
私が開発したものでも、今は並んでいない品もある。
今は冬の季節が近付いてきているからか、冷却パッドなど夏用のひんやり系グッズは並んでいない。
その代わり、暖かい季節にあると嬉しい寝具が並んでいた。
ふんわりずっしりした毛布。
羽毛を使った、軽く暖かな布団。
この世界にも冬用の寝具は存在していたが、眠りすぎは悪と言われる文化だからか、薄くごわごわした寝具が多く、毛布や布団のふんわりもっちり感がかなり物足りなかったのだ。
「多少原価が張ってもいいからもっとふわふわしたものをお願いするわ、寝具って毎日使うものだからお値段以上の効果を実感できる筈だから」とラウル商会に念入りに依頼しておいて良かった。
寒い季節本番にはまだ早いけど、これがあれば寒い冬がきてもぬくぬくと過ごせることだろう。
シエラは店内の棚を見ながらそわそわと商品と私に視線を行き来させる。
「ネージュ様は、こんなにも商品のアイデアをお持ちだったのですね。家でまだ試していないものもあったので、驚きました……!」
「この辺の商品開発はラウル商会に投げたから、うちでは試せなかったのよね。先に商品サンプルを送ってもらうことも出来たと思うけど……せっかくだから、シエラには店に来る客と同じ体験をして欲しかったのよ」
「お客様と……?」
「この店に何があるか、未知のままで来て欲しいっていうこと。その上で感想を聞かせて欲しかったの。どうかしら?」
私の言葉を受けて、シエラは改めて店の中を見渡す。
「そうですね……自分の思っている以上に商品があって、目移りしてしまいます……!睡眠に対して色んなアプローチが出来るんだって、この店に来て初めて気付きました」
「ふふ。そう思ってくれるのは嬉しいわね」
「……ですが、何を買うか迷ってしまうところはありますね。初めて見る商品が多いので、ここでどれを選べばいいか甲乙つけがたくて。特に寝具は一度買ったらある程度長く使う
もので、より慎重になるといいますか」
シエラはマイナス面も含めて意見を出してくれた。
私はその言葉に頷く。
「まあ、そうよね。素材も含めて未知なものが多いから、迷うのは無理もないわ。だからこうして少しだけ試せるものも用意したわ」
「これは……!」
私は商品の棚の近くにあるバスケットを指す。その中には布や素材……寝具として売られているものの見本が置いてある。
寝具の触り心地を確かめるため、客が指で触れるようにしたものだ。
この世界では、珍しい商品のサンプルを店頭に展示するというやり方があまり取られていない。商会では沢山触ることが出来るが、一般客が訪れる店では試供品がないものが多かった。色々試して貰うよりも、買って試してもらうようにする――そういう考えが主流なのだろう。
睡眠グッズは新しい試みなので、客に実際に触ってもらって、とりあえず馴染んで貰うことを優先したのだ。
「これはいいですね。実際に触ることで、どんな肌触りがするのか確かめられます。今までのものとどれくらい違うか実感出来ますし、寝るときの想像も進みます」
「そうでしょ。自分が客なら絶対こういうのが欲しいって思ったのよ。気に入ってくれたら良かったわ。本当は実際に寝転がって体験出来るコーナーがあれば一番良かったんだけどね……」
このショップは面積自体はそれほど大きくない。故に、見本でベッドを作って客に寝かせるという試みが出来ないのだ。シンプルに店の中にスペースが無いからである。
いくらラウル商会が協力してくれるとはいえ、睡眠グッズショップはまだ実績のない商品を取り扱うことになる。そこまで大々的な店は出せなかったのだ。
「――ああ、二人は先に来てくれてたんだな」
私たちが話していると、ドアから男が入ってくる。マーシーだ。
オープン前の下見として私たちで行く話はしていたけど、こんなに早くいるとは思っていなかったらしい。
「私とシエラで見学してたわ。店は概ね希望通りにしてもらったみたいね。ありがとう」
「それは何よりだ。最初は宣伝を控えめにして限られた客に対して売って、少しずつ評判を上げたところでもう少し一般客に力を入れていく見込みだが……ディスプレイが良い感じで客が来るなら、それに越したことはないな」
「そうね。最初のうちは無理かもしれないけど、もし大きな店が出せるようになったら、寝転んで試せるベッドも置きたいわ」
「うーん……それは難しいかもしれないな」
「え、そうなの?」
私が首を傾げると、シエラもマーシーに同意するように頷いた。
「平民相手ならいざ知らず、貴族相手に商いをするとしたら、誰でも入れる場所で寝そべらせるのは難しいかもしれませんね」
「そうだな。貴族は体面を気にする者が多い。買い物先で他の人間もいるのに寝転がるのは嫌がる者も多いだろう。どう見られるかという緊張の方が勝って、商品を選ぶどころじゃないかもな」
「なるほど……」
言われてみれば、それももっともかもしれない。他に人間がいる中で寝転がるのは、平民であっても緊張する人はいる。貴族なら尚更だろう。
(でも、実際に寝て使うことを試せれば、もっと睡眠グッズの良さが伝われると思うんだけどな。シエラやマーシーが言う通り、文化や気質も考慮すると難しいのかもしれないけど……何とかならないかしら)
――まあ、どんなやり方を取るにせよ、今すぐには実現させるのが難しそうなことには変わりない。
それよりも、目の前の店が無事にオープンすることを祈ろう――そう思った。




