16_売っちゃダメってどういうこと?
ここ数ヶ月で、色々と睡眠グッズが開発出来た。
私はシエルを連れてラウル商会へと報告に言った。
前回と同じようにマーシーが私たちを迎えに来る。
私は持ってきた荷物を机の上に出して紹介した。
「……で、これがコットンの繊維のサンプル。これはガーゼケット。これはネックピロー。あと、これは寝支度の魔道具」
「ふんふん……。こいつら、どうやって作ったんだ?」
マーシーに聞かれて、私は作った経緯を説明した。
私から説明を受けて、彼は口の端を持ち上げる。
「なるほどな。睡眠グッズを作る過程で加工品も開発したという訳か。安く原料を仕入れてから加工品を売ることが出来ればかなりの儲けが出るだろうな」
「そうなの? 加工品の方を売るのは考えていなかったけど、売れるものならそちらも売るようにするわ」
「ああ。そうしてくれると助かる。
しかし……この短期間でこれだけの成果をあげられるんだ、ネージュさんには相当な開発の才があると見たね。これからも加工品の研究を進めてみる気はないか? 分野は寝ることに限らなくてもいいし、貸し出せる技術があればいくらでも力を貸そう」
「それはいやよ。私は睡眠グッズに関わるものしか作りたくないわ」
儲けを目指すならばマーシーの言う通りなのだろうが、私は断った。
この数ヶ月、確かに私は勤勉に働いたと思う。魔法の練習と庭園の整備と睡眠グッズの研究を同時並行で行って、休むことはなかった。
そこまで励むことが出来たのは、「より良い睡眠ライフを送りたい」という私の純粋な欲求の為である。
お金が儲かるとか、他の人が喜んでくれるとか、そのことも考えない訳ではなかったけど、あくまで二の次だ。
例えば、「眠らずに済む商品を開発しましょう。そうすれば儲かるしみんな喜びます」と言われても、私は研究を頑張ろうという気持ちには一切なれない。私のモチベーションがここまで働くのは睡眠に対してのみである。
マーシーは私の回答に肩を竦めた。
「いやー……そうか。儲けはいくらでもローハイム家のものにしてくれていいんだが、ままならないな。そこのあんた、説得しちゃくれないか?」
「マーシー様。私ども家の使用人はネージュ様のご意向に従うと決めています。無理にネージュ様の意見を変えようとするなら、私としては然るべき対処を取らせていただきます」
「わかったわかった。まあ、これまで作ってくれた睡眠グッズだけでも俺は大歓迎だ。ネージュさんが良ければ、これらの道具、商品として扱わせて欲しい」
「他の人にとっても役立ちそうなら良かったわ。流通や量産については頼りにしていいかしら。コットンの大規模な栽培は今のところ行われていないようだから、それ用の農園が欲しいの。あと、寝支度用魔道具に使うソープの原料のオイルも私の魔法だけで絞るには限度があるわ」
「ああ、使えるコネは最大限使って商品開発の規模を広げるようにするよ。あんたの言う通り、より強力な魔法が使える人間も、広い農場も必要だ。幸い俺にはその当てがある。それに、商品として流通させる先も考えないとな。少し時間は取るが、そう難しいことではないと思う」
「ほんと? じゃあ、お言葉に甘えてそうさせて貰おうかしら」
「ああ。あと、商品を売っていくにあたってデザインなんかを変えることもあるかもしれない。それについても相談させてくれ。
例えばこのネックピローだな。貴族たちが馬車に長時間乗ることで疲労するという問題はよく聞くから、乗り物に乗りつつ身体への負担を減らせるこの道具は需要があるだろう。が、貴族というものは体面も気にするものだから、こういう『いかにも休んでいます』みたいなものはウケが悪いかもしれない。もっと装飾をつけて、『これは首回りのファッションのひとつである』みたいに見せた方がいいだろうな。他は……」
私は商品としてどう売っていくかということは度外視して睡眠グッズを作ったため、マーシーの言うことは興味深かった。
商品のデザイン面や機能面を買ってくれる人向けに変えるのには異論が無いと伝えると、彼は喜んでいるようだった。
今後の予定が決まったらローハイム家に手紙を送る、という約束をマーシーと取り付けて、私とシエラはラウル商会を後にした。
****
ラウル商会へ行ってから、二週間ほど経った。
「ネージュ様、ラウル商会のマーシー様からお手紙が届きました」
「あら。先に読んでいいわよ、シエラ」
シエラに手紙を見せられた私はそう答えた。
その時、私は丁度出掛ける準備をしていたからである。睡眠グッズの開発は使用人たちも巻き込んで進めているため、それ関連の手紙は使用人たちも読んでいいと許可を出していた。
用事が済んでから家に戻り、私はシエラを探して話しかけた。
「お待たせ。さっきの手紙のことなんだけど」
「ああ、ネージュ様……」
――どうしたことだろう。シエラは、私が出掛ける前よりもどこかどんよりしているように見える。
手紙を読んでこうなってしまったのか、と考えながら私は彼女に聞く。
「もしかして、悪い知らせがあったのかしら。開発体制を整えることは出来なかった、とか」
「違います。マーシー様は睡眠グッズ開発のための人材は既に見つけたようです。それと同時並行で販路をどうするか調整していたのですが、その最中で問題が起きたとのことで……」
「どこで売るかでトラブルが起きたってこと?」
「端的に言うと、『睡眠グッズは発売するな』という警告が来たそうです」
「……えっ?」




