13_ガーゼケットとネックピロー
魔道具のアシストがあるとはいえ、綿を作るのはそれなりに長期でやらないといけないことだった。
なので、綿を作りながら私はそれ以外の睡眠グッズも開発していた。
まず一つは、ガーゼケットである。
この世界にタオルケットは既に存在している。ブランケットを薄手にしたようなもので、夏は基本的にそれを巻いて眠る。
(それで寝られなくはないけど、まだまだ改良の余地があるのよね。厚くて重めなやつは寝て起きた当初から汗をかいちゃうし、薄すぎるやつは寝具を被ってるって感じがしないし…)
夏の寝具は厚すぎても眠れなくなるけど、かといって寝具を被らなければいいかというとそんなことはないと思う。
「ふわふわな寝具が身体に触れている」という時間があるかないかで、寝るときの満足度は大きく変わる……気がする!
基本的に、夏よりは冬の方が睡眠の満足度が高い。それは布団と毛布をかけられるかどうかで明暗が分かれるのだろう。寒い中で布団にくるまるのはこの世でも最上位の幸せだと言われているからね。
(私の望みは、夏でも暖かい布団でぐっすり眠ること。冬みたいに本物の厚手の布団で寝るのは難しいだろうけど、触感だけでも再現出来る方法があるなら試してみたい)
というわけで、作ったのがこのガーゼケットだ。
怪我の手当をするためのガーゼはこの世界にもある。だが、それを寝具にしたものはなかった。
私はまず簡易的なガーゼケットを作った。ガーゼを沢山買い込み、裁縫で四辺を結んで寝具に出来るくらいの大きさにした。
それをかけて一晩眠ってみる。
(気持ちい……)
目を覚ましたとき、そう思った。
ガーゼは柔らかく、かつ通気性が良い。故に夏の暑い時期にかけても汗をよく吸い取ってくれる。そして、ふわふわなので布団をかけているときに似た満足感がある。
といっても、自分一人だけの実験だと心もとないので、ピロに協力してもらうことにした。
庭園のデッキチェアに一般的な薄いケットと、簡易ガーゼケットを敷いて、どちらを好むか確認してみる。
結果、ピロはガーゼケットの方でくるりと丸くなった。
(猫の気持ちいい場所を探すスキルは信頼出来る。ガーゼケット、いけそうね)
この手の薄い寝具は、夏だけじゃなくて秋冬にも使える。厚手の布団と一緒に掛けると熱をしっかり閉じ込めてくれるので、寝床が暖かくなるのだ。
私の作ったものは簡易なものなので、本格的なガーゼケットを作るためには職人の協力が必要そうだ。機会があるときに実物を見せて協力してもらえるように、サンプルを取っておくことにした。
また、ネックピローも作った。
こちらは首に長時間巻いても大丈夫な素材が必要だった。
(ネックピローを使うのは、移動中に椅子に座りつつうたた寝する、みたいなシチュエーションよね。だから柔らか過ぎてもいけないわ。首を支えられないから。柔らかくはありつつ、そこそこの弾力がある、みたいな素材が理想だけど……)
既存のものでそれらしいものが見つからなかったので、私は新しい素材を作ることにした。
私が目をつけたのは砂だ。
この世界の砂漠地帯からはホワイトサンドと言われる砂が取れる。名前の通り白くてさらさらの砂だ。
砂の中でも粒が小さくて、軽くて柔らかい触感がするものだ。花壇の土のように養分がある訳ではないから、砂自体は安く売られている。
私は一度ホワイトサンドを袋に入れて、首元に当ててネックピローとして使えるか試してみた。
(……悪くはないけど、まだまだね。もう少し固さと弾力が欲しい。あと、何らかのアクシデントで袋が破けたら中の砂が飛び出しちゃう。砂を何かで固められたらいいのかな。固めるといっても、首に当たっても痛くない素材の、柔らかいもので……)
私は一考した結果、冷感敷きパッドにも使った、薄く引き延ばしたスライムで砂を固めるようにした。
スライムは身体の殆どが水分で出来ているため、ジェルのように物を固めることが出来る。それに加えて弾力もあるのだ。
(うん、大丈夫そう。これなら頭の重さをいい感じに吸収してくれるわね。
それに加えて、スライムで砂を固めてから冷やすようにしたら、冷却効果が持続して身体が冷える。暑い季節に首に巻いて身体を冷やす道具にも使えそうかも)
私は早速庭園でネックピローを巻いて目を瞑ってみた。
今までだと夕方近くにならないと涼しくならなかったけど、冷却効果のあるネックピローを巻くと、昼間でも快適に眠れる。私の昼寝ライフがよりよいものになりそうだ。
ネックピローを巻いて寝ているところにシエラが通りかかり、私が起きた後に話しかけられたので、私はネックピローについて説明した。通常の枕と形が違うので、何を巻いているのかわからなかったらしい。
「ネージュ様、このネックピローというもの、ピロが丸まって寝ている姿に似ていますね。はっ、ネージュ様は愛猫から商品名を名付けたのですか! なんと美しい絆……!」などとシエラは感慨にふけっていた。因果関係が逆なのだが、それを説明するのも面倒なので放っておいた。
この世界の人間たちに私の前世のことは話していない。騒ぎになって国かどこかで研究される――みたいな展開になるのは避けたいからだ。私はゆっくり暮らしたい。
本来前世の人間の成果物である睡眠グッズを私が考え付いたことにしてるのには少々申し訳なさを感じるけど、この世界のために役立てていくつもりなので許してほしい。