12_綿作り―収穫
ピロの働きもあり、コットンが害獣に食べられてしまうことは回避出来た。
そして、私の植えたコットンは蕾から開き、花が咲いた。
「わぁ……」
黄色や緑や白、色とりどりの花を見ていると、感極まって声が出てしまう。ここまで育てるのに試行錯誤があったから尚更だ。
(でも、ここが終わりじゃない。花が咲いたら、後は魔導具が使える!)
私は植物育成の魔導具をコットンに使った。
育成を速める効果によって、色鮮やかだった花びらが徐々にくすんで萎れていく。
代わりに、中央に白い塊ができ始めた。
こんもりとした雲のような、それは……。
(綿だ……!)
綿は果実の周りにコットンボールと言われる白い繊維の塊を作る。
私の目の前のコットンボールは、魔道具の効果でもこもこと膨らみ続けているように見える。
このまま使い続けて枯れてしまったら大変なので、私は慌てて魔導具の使用を止めた。
そして、綿花に恐る恐る指先で触れる。
(……!!)
異世界の植物が元の植物と全く同じ特徴を持つとは限らないと思っていたけど、綿の場合は大丈夫だったみたいだ。
柔らかくて暖かくて、滑らかでもある。
私が知っている綿は「原材料」、つまり既に加工されたものだけど、触っているとあれらの綿とこの綿は感触が同じだとわかる。
私は綿を作れたんだ。
なんでこんなにふわふわで軽いんだろう。まるで天使の羽みたいだ。
――コットンは神がもたらした植物かもしれない。
(柔らかい……あたたかい……。
綿花って、種を守るために出来るものなのよね。それが人間にとってもこんなに心地いいなんて。
私って、もしかしたら人間じゃなくて、コットンの種に生まれ変わったんじゃないかしら。
私、種でもいいわ。どこまでも小さくなって綿花に包まれたい……!!)
「なうー?」
「えっ……。あっ、ピロ……。ご、ごめんね。ちょっとぼーっとしてた」
私が綿花を触って天上の心地を味わっているところにピロが来た。「大丈夫か」「正気か」みたいな目でこちらを見ている。
ピロに話しかけられて初めて気が付いたけど、私は綿花を触りながら涙をツーと流していた。感極まり過ぎだ。
(泣いてる場合じゃないわ。他のコットンの花も綿花が出来るまで育てないといけない。あと、種も収穫しないとね。コットンの種は貴重品だけど、自分で作れるようになれば安心だわ。
でも、沢山の種が手に入っても、この庭園で育てるには面積の限界がある。綿花から寝具を作れるくらいまでコットンを育てるには、広い農園が必要よね。
まあ、そこはラウル照会に相談することにするか。こうしてサンプルが手に入ったんだから、相談も通しやすいでしょう……)
この世界で今までコットンが広く育てられていなかったのは、蕾のときに害獣に食べられてしまうことが多かったからだろう。
だが、魔力を帯びた猫などの獣にパトロールさせれば無事に育て上げることは出来た。
綿の繊維の魅力をアピール出来れば、綿栽培に予算をかけてもらえて、栽培の環境を整えることも出来るかもしれない。
私は今後のことを考えながら、魔導具でコットンを育てていった。