第三十七話『何してんだよ。』
翌日、アイツは学校を休んだ。
担任の話によると、風邪との事だった。
でも、本当は。俺が突き飛ばしたことで、顔を見るのが嫌になったのかと思って、ものすごく罪悪感と恐怖で、その日は一日中モヤモヤしていた。
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アイツが休んでから、一週間が経っていた。
風邪にしては、そろそろ復帰しても良いだろ。って思っていた。
その頃にはもう、あの日の出来事への罪悪感は薄れていて、アイツの顔をただ見たいという気持ちの方が強くなっていた。
(はやく、謝って仲直りしてぇな。)
(そうだ! 先生に家を聞いて見舞いでも行ってやるか!)
放課後、俺は職員室へと向かい、担任の教師に事情を説明してアイツの家を聞き出した。
「──そうなんすよ。ノートの書き写しを渡そうと思って。」
「オマエが他人のために写しを? へぇ〜。」
「恋の力か?」
「─ッな!」
「フフッ。 若いねぇ〜。」
「ち、ちげぇよ!」
「とにかく! 他のやつに頼まれたからしょうがねぇだろ。」
「分かった。 ────だ。」
「まあ、あんまり迷惑になるようなことはだけはすんなよ〜」
「しねぇよっ!!」
校門を出て、俺は走っていた。
途中でコンビニに寄って、好物は分からなかったから、適当にプリンを買って雨音の家に向かった。
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一軒家の家に着くと、俺は呼び鈴を鳴らした。
しばらくしても反応が無く、家の電気は付いていないように見えた。
(留守か?)
玄関から、少しだけ周辺を見て回ると駐車場に車は無かった。
(出掛けてるのか。)
「帰るか。また出直そっ───」
そう思い、俺は来た道を引き返そうと歩き出した瞬間、一台の車がゆっくりと走り、俺の数メートル後ろでピタリと止まっていた。
「──!!」
勢いよく振り返った俺は、車から降りてくるアイツの姿を見て声をかけようとした。
「お──ぃ……」
「……!!」
車から降りて来たアイツの顔には元気がなくて、あの時の笑顔の面影はまったく無かった。
頬は少し痩せこけ、目の下のクマも見えた。
そして、頭には帽子を被っていた。
「ぁま……ね。」
「──ッ!!」
俺の存在に気づいたアイツは帽子を深く被り、顔を隠した。
そして、母親に支えられながら家の中に入って行った。
今でも覚えている。
俺を見て驚いたような。絶望したような。アイツの白い顔に残った涙の跡を。
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その日から二週間もアイツは学校に来なかった。
何があったのかは分からなかった。
担任が言うには、体調が優れないらしい。
クラスの女子が何度かお見舞いに行ったらしいが、オレは、あの日の顔が脳裏によぎるたびに、帰り道とは反対側の通路には足が進まなかった。
次の日も、隣の席は空席だった。窓から見る景色は晴れ渡り、鳥の囀りが教室に響く中。
俺の心はモヤモヤしていた。
「………。」
アイツがいない日々に慣れてしまうのが、だんだん怖くなっていく俺がいた。
いつも一人で耐えてきた。いじめられる立場になってから、自分はその役割を引き受けてるんだ。って思うようにしてきた。
そうやって、自分を慰める言い訳にしてきたんだ。
でも、あの時。オマエが怒鳴ってくれた事に、俺の心の中が震えた気がしたんだ。
あの瞬間から、俺は一人じゃないんだ。って思えるようになったから。
上部だけの関係じゃない、たった一人で良かったんだ。
ちゃんと俺のことを見ていてくれる誰かがいる事が……どれだけ支えになるのか。
だから、俺は。
「……何してんだよ。俺。」
机に伏せる俺は、小さく呟いていた。




