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ムレスズメ  作者: リンネ カエル/霖廻 蛙
売れない作家のリトライ
38/38

第三十七話『何してんだよ。』


 翌日、アイツは学校を休んだ。

 担任の話によると、風邪との事だった。


 でも、本当は。俺が突き飛ばしたことで、顔を見るのが嫌になったのかと思って、ものすごく罪悪感と恐怖で、その日は一日中モヤモヤしていた。


─────────────


 アイツが休んでから、一週間が経っていた。

 風邪にしては、そろそろ復帰しても良いだろ。って思っていた。


 その頃にはもう、あの日の出来事への罪悪感は薄れていて、アイツの顔をただ見たいという気持ちの方が強くなっていた。


(はやく、謝って仲直りしてぇな。)

(そうだ! 先生に家を聞いて見舞いでも行ってやるか!)


 放課後、俺は職員室へと向かい、担任の教師に事情を説明してアイツの家を聞き出した。


「──そうなんすよ。ノートの書き写しを渡そうと思って。」


「オマエが他人のために写しを? へぇ〜。」

「恋の力か?」


「─ッな!」


「フフッ。 若いねぇ〜。」


「ち、ちげぇよ!」

「とにかく! 他のやつに頼まれたからしょうがねぇだろ。」


「分かった。 ────だ。」

「まあ、あんまり迷惑になるようなことはだけはすんなよ〜」


「しねぇよっ!!」


 校門を出て、俺は走っていた。

 途中でコンビニに寄って、好物は分からなかったから、適当にプリンを買って雨音(あまね)の家に向かった。


─────────────


 一軒家の家に着くと、俺は呼び鈴を鳴らした。

 しばらくしても反応が無く、家の電気は付いていないように見えた。


(留守か?)


 玄関から、少しだけ周辺を見て回ると駐車場に車は無かった。


(出掛けてるのか。)


「帰るか。また出直そっ───」


 そう思い、俺は来た道を引き返そうと歩き出した瞬間、一台の車がゆっくりと走り、俺の数メートル後ろでピタリと止まっていた。


「──!!」


 勢いよく振り返った俺は、車から降りてくるアイツの姿を見て声をかけようとした。


「お──ぃ……」

「……!!」


 車から降りて来たアイツの顔には元気がなくて、あの時の笑顔の面影はまったく無かった。

 頬は少し痩せこけ、目の下のクマも見えた。

 そして、頭には帽子を被っていた。


「ぁま……ね。」


「──ッ!!」


 俺の存在に気づいたアイツは帽子を深く被り、顔を隠した。

 そして、母親に支えられながら家の中に入って行った。


 今でも覚えている。

 俺を見て驚いたような。絶望したような。アイツの白い顔に残った涙の跡を。


─────────────


 その日から二週間もアイツは学校に来なかった。

 何があったのかは分からなかった。


 担任が言うには、体調が優れないらしい。

 クラスの女子が何度かお見舞いに行ったらしいが、オレは、あの日の顔が脳裏によぎるたびに、帰り道とは反対側の通路には足が進まなかった。


 次の日も、隣の席は空席だった。窓から見る景色は晴れ渡り、鳥の(さえず)りが教室に響く中。

 俺の心はモヤモヤしていた。


「………。」


 アイツがいない日々に慣れてしまうのが、だんだん怖くなっていく俺がいた。

 いつも一人で耐えてきた。いじめられる立場になってから、自分はその役割を引き受けてるんだ。って思うようにしてきた。

 そうやって、自分を慰める言い訳にしてきたんだ。


 でも、あの時。オマエが怒鳴ってくれた事に、俺の心の中が震えた気がしたんだ。

 あの瞬間から、俺は一人じゃないんだ。って思えるようになったから。


 上部だけの関係じゃない、たった一人で良かったんだ。

 ちゃんと俺のことを見ていてくれる誰かがいる事が……どれだけ支えになるのか。


 だから、俺は。



「……何してんだよ。俺。」


 机に伏せる俺は、小さく呟いていた。

 


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