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ムレスズメ  作者: リンネ カエル/霖廻 蛙
売れない作家のリトライ
37/38

第三十六話『オマエは。アンタは。』

 

 次の日は、一言も喋らなかった。

 窓から吹く春風はまだ4月なのに。ほんの少しだけ寒く感じた。


「……クシュンッ。」


「……。」

(風邪かな。 窓閉めた方がいいかな…。)


 そう思ったけど、結局俺は何もしなかった。


 いつも通り淡々と、教師の声を聞いてノートに書き写す。

 外の景色は変わっても、俺の日々は変わらない。

 机の落書きが変わっても、俺への態度は変わらない。


 何日も、何日も、何日も。

 変わることは無かった。


 いつしか、ソレが当たり前に思うようになっていった。そして、そんな俺自身に、俺の存在価値を問うことさえ──


 出来なくなっていた。


 笑うって。なんだっけ。

 怒るって。なんだっけ。

 悲しいって。なんだっけ。


 他の感情が無くなっても。


 泣くってことだけは、忘れられなかった。


「……ぅう。っうぅ……なんで……」


 いつからか、川沿いにある橋の下で泣くようになっていた。

 そこは、車の音で声がかき消されていたから。

 誰かにバレる事なんてなかったから。


「なんで……俺が…。」


 心の中は孤独で、誰にも助けを求めることが出来なかった。

 しないんじゃない。出来ないんだ。


 自分なんかが、誰かの迷惑をかけてしまうのが、しんどくて、辛くて、負の感情ばかりが頭をよぎる。

 だから、この気持ちに蓋をするんだ。


 そうしたら、誰かに迷惑をかけずに済むから。


 我慢すればいい。

 そうやって、残りの人生を生きていけば良いんだって。自分に言い聞かせなきゃ、家には帰れなかった。

 俺のために頑張ってくれる母さんに、負担をかけたくなかったから。


「──よっ!」


「─ッ!!」


 突然聞こえたその声に、俺は驚いて目を見開いていた。


「なんで……。」


「なんでって? ん〜〜。」


 雨が降る中、周りには人がいないと思ってた。

 雨のおかげで、この涙も消えると思ってた。

 雨のおかげで、全部流れると思ってた。


 でも──


「雨が降ってたからかな!二ヒヒッ!」

「……!」


 雨のおかげで、またキミに会えた。


「なんで我慢するの?」


「え…?」

「なんでって……」


「何か悪いことしたの? 違うよね?」

「あれから色々聞いたよ。」


「……。」


「いじめられっ子を庇ったんでしょ? それから、次の標的になった。」

「なんで相談しないの?」


「このまま、やられっぱなしでいいわけ?」


 目の前で立つ雨音(あまね)の目は真っ直ぐ俺を見つめていた。

 コイツもびしょ濡れなのに、なんで。


「……誰かの分を、俺が引き受けてるだけだ。」


「………。」

「何それ。」


「くっだらな。」


「は!?」

「オマエに俺の何がッ──」


「分かんないわよッ!!」


「ッ─。」


「アンタ一体、何様なわけ? 引き受けてるって……アンタはただの意気地なしなだけじゃない!!」

「助けを求めてるのに我慢するのがいじめを引き受ける?」


「ふざけんなっ!!」


「助けを求めることが、ダサいみたいなことしてんじゃないわよッ!!」

「この世界には、助けが無いと。生きていられない人だっているんだからッ!!」


「助けを求めるのがカッコ悪いんじゃない。無理してボロボロになっていくアンタの姿の方がダサいわよ!!」


「……なんだよ。オマエはッ!!辛い人生をして来たことがねぇからそんな事が言えんだよ!!」


「──なっ!!」

「アンタに───」


「どけよっ!!」


 俺は思いっきり、彼女を突き飛ばした。橋の陰の外まで転ぶ彼女は、水たまりに体を濡らしていた。


 俺はその時の事を、今でも後悔している。

 図星を突かれてイラだっただけなのに。アイツが、自分のことを分かるハズもなかったのに。


 そして、ソレを自分がしてしまったことに。



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