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ムレスズメ  作者: リンネ カエル/霖廻 蛙
売れない作家のリトライ
33/38

第三十二話「もう一人の恩人」


※フィクションです。



 その夜、ジェイドからメッセージが来ていた。

 どうやら、一話目を読み終わったらしい。


『1話目読んだわ!まさか女が犯人だとは思わなかった!!』

『それに、ちゃんと伏線となるアイテムの描写もしてたし、犯人と説明が分かってから読み返したらなるほどね!ってなったわ!』


 ふふふっ。そうだろう?そうだろう?


『まぁな。構想はかなり練ったし、まあ、まだ2話と3話もあるから気長に読んでくれ。』


 ちなみに、二話はダイイングメッセージ。三話は密室トリックの内容となっている。

 詳細は省くが、この反応なら、このまま公募に出してもいいかも知れないな。

 それに、ヒワさん……いや、雛にも残りの話も読ませて感想を聞きたいとこだな。


 今のところ接点は小説しか無いんだ。

 面白い作品を書きながら、徐々に距離を詰めていかないとな。


 雛の好きな場所……そういえば、あんまり雛のこと知らなかったんだな。

 なんでもっと、向き合ってあげなかったんだろう。


 助けてもらって、心の支えになっていたと思っていた。

 でも、雛はそれで幸せだったのか?


 彼女の幸せを……考えたりした事なかったかも知れないな。


「………このままじゃダメだ。」


 もっと。質のいい内容と面白い物語を考えないと。

 まずは、三年後。確実に賞を取る。


 何作品か書き溜めると決めたけど、それでいいのか?

 予備軍を作っておくのも悪くは無いが、オレにはタイムスリップしたアドがあるだろ!


「確か………三年後の賞のテーマは……」


 『恋愛』だったハズだ。


 ピュアな恋愛物語(ラブストーリー)だ。


 今書こうとしているネット用の作品も恋愛だが……確か、『未発表』が規定にあったような気がする。


 つまり、三年後の作品は他の公募に出した事ない作品じゃなきゃダメだ。

 となると……今から質のいい作品の方に専念すべきなのでは?


 時間なんてあっという間に過ぎちまう。

 それに、今回はやる事は他にもある。

 学校生活に、雛と離れたままじゃあ意味がねぇ。デートをするなら、金も必要だ。


 学校生活をこなしながら、バイトもしつつ執筆。

 バイトだけしてた頃よりもハードだ。


 体力と若さはあるが、脳みそも使えば疲労は溜まる。

 体調管理が出来なきゃ、本末転倒だろ。


 猫柳(ねこやなぎ)さんも言ってたっけ。


─────────────[過去]


 猫柳さんの自宅で、オレと猫柳さんはあぐらをかきながら缶ビールで乾杯していた。

 網戸にした窓。ボロボロの部屋の中で回る扇風機。

 夜はまだ涼しくて、笑いながら話していた。

 

「ハッハッハ! だろ〜? そんとき、相馬(そうま)さんなんて言ってたと思う?」



「なんて言ったんですか?」


「編集長は見る目がねぇ!! オレの作品の良さが分からねぇなんて、他のヤツが編集長なら決まってたハズだ!!ってな! 笑えるだろ?」


「うわぁ〜……笑えないっすよ〜…。 編集長にそんなこと言っちゃって大丈夫だったんすか?」


「ん〜、まああの人は作家の気持ちも分からねぇ編集長じゃねぇからよ。大人の対応だったらしい。」



「お前の作品は自分の書きたいことを書いているだけだ。 お前の中では面白くても、それは読者も同じとは限らない。」

「確かにつまらないわけではなかった。 個性があり楽しそうに書いている姿が目に浮かんだよ。」


「だがな、読者に届けたいものと、自分がただ書きたいものは違う!! 本を出すってことはな。 いろんな人が携わっていることを知っておけ!!」



「本が売れなければ、生活はできない。 それはお前の本を世に出す為に頑張っている人たちの生活もかかってるんだ。 生半可な作品を世に出すことは出来んッ!!」


「生活の前に、オレ達は読者に喜んでもらえる作品を世に出さなきゃいけないんだ。 お前が出したこの作品は、ただの自己満に過ぎん。 だから落とした。」


「文句があれば、他の出版社にでも出してみろ。 そうじゃないなら、もっと面白いモノを書け。 お前にまだ、プライドがあるならな。」


「だってさ。」


「うわぁ〜……結構本心ついてきますねぇ。」

「フンッ。 言ってることは編集者らしいが。」

「作家としての生活がギリギリなのも知ってるだろうに。」


「同情はしたが、まあ、編集長の言い分が正しいとオレは思ったよ。 ……ンクッ…ゴクッ……ゴクッ…。」


「プハァッ〜!! うっめぇ〜!!」

「今日はたまのオフだ〜、もう一缶飲むぞ〜!」


 カチッ。と、猫柳さんは、缶ビールをもう一缶空けて飲み始めた。



「飲み過ぎは体に来ますよ? ほどほどにして下さいね。」

「んんっ〜……。 まぁそうだな。」

「オレも昔はお(いた)しちまってよ〜」


「ぶっ倒れたことがある。」

「えっ?」


「マジすか?」


「ああ、おおマジもおおマジよ〜。」

「生活がギリギリ過ぎてなぁ、なかなか結果何でなくて焦りもあった時期だった。」


「バイトは週六。 朝から晩までまで働いて、夜はひたすら執筆。」

「メシは毎食カップラーメンで時短だ。 それ以外の金は生活費とたまの酒とタバコ。」


「まあ、睡眠時間で言えば、三時間が平均だったかもな。」


「それは……流石に。」


「ああ。 ある日床の上にぶっ倒れててな。バイト先からの連絡にも気づかなかったよ。」

「それで、バイト先のヤツが警察に電話したらしくて、その後は病院のベッドの上だった。」


「貯金も金もなくなって、しばらくは借金とバイトの毎日だったぜ。」



「それは大変でしたね。」

「ああ、おかげで執筆出来ない時間が増えて、賞に出すハズが間に合わなかった。」


「いいか。 体調管理も出来ねぇヤツが、一端の作品なんか仕上げることも出来ねぇ。」

「だから、どんだけ結果が出なくても、焦っていても、健康な体じゃねぇと書けるもんも書けねぇし。 病院送りになっちまったら、せっかく得た金もパァだ。」


「………ゴクッ。」


「まあ、かと言って頑張らねぇといけねぇ時もある。」

「結局結果が全てだ。」


「本が出せたからって、あとが続かなきゃ意味がねぇ。」

「本当に大事なのは、読者に好かれる作品と作者になれ。」


「オレたちの神様は読者だ。 その期待を裏切んなよ。 ソウヤ。」


─────────────[現在]


「本当に何でも知ってたんだな。」

「猫柳さん。」


 今回はオレが……アンタの仲間として支えてやるよ。死なせてたまるか。

 アンタはオレの、もう一人の恩人だからな。


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