第二十九話「立波 相哉──④」
長い夢を見ているようだ。
いつからだろう。
ボクが小説家を目指し始めたのは。
─────────────[過去]
ボクが雛子と同棲し始めたのは、付き合ってから……いや、あの時はカウントに入れれないよな。
雛子と付き合いだしたのは、二十六歳の時だった。
偶然にも、あるカフェで出会ったんだ。
二人掛けの席があるテーブルに座り、ブラックコーヒーを飲んでいると、奥の席に見覚えのある女性が座った。
すぐに分かった。
それが、木陰雛子だって。
たまたま、偶然を装い……いや。本当に偶然だったね。
ボクは席を立ち、勇気を出して雛子に話しかけた。
すぐに思い出してくれたみたいで、そのまま同じ席で話した。
その時、持っていた一話分の原稿用紙を、彼女に見せたんだ。
彼女は面白そうに読んでくれた。
その笑顔に、もう一度救われた。
だから、よりやる気が出た。
それから、再び連絡を交わし始め、二十六歳の時に正式にお付き合いを始めた。
ボクは夢を捨てきれず、執筆活動をしながらバイトをして、少しでも生活費の足しにした。
その間も雛子は、学校の教師として勤務を続けていた。
その頃には、悩みもないみたいで、仕事が楽しくて仕方がないって喜んでいた。
だから、後はオレが……。
もっと、頑張らなきゃいけなかったんだ。
あの日、自分のことを綴ろうと書き始めたあの日から。




