第二十七話「夜水 翡翠──①」
「いらっしゃいませー」
店員の声を自然と耳で受け流すほど、オレは小説を眺めていた。
「『恋人が眠った日』か。」
フム。恋人を交通事故で失ってしまった主人公のその後を描いた物語か。
感動系でありがちなやつだな。
まあ、恋愛要素として書くために……勉強として買ってみても良いが。
あらすじだけ見るとイマイチだ。
「他には、えーっと、おっ」
これなんか良いじゃ〜ん!
オレが本棚にある本を手に取ろうとした時、隣から細い指をした小さな手が重なった。
「えっ?」
「あっ」
「「すみませんっ」」
「って!! アンタッ!!」
オイオイ……マジか…。
コイツは……。この声は…。
「なんであんたがこんなとこにいんのよッ!!」
ズキンッ!!
「…ッ……!!」
また頭痛か。でも、もう慣れてきたぞ。
それに、たまたま会っただけで、なんでこんな言われようなんだ……?
別に、オレがどこに居たって良いだろ。
「別に良いだろ。 何でオマエこそいんだよ。 ヨミズ。」
そう、コイツは「夜水翡翠」
高校の同じクラスメイトの一人だ。
まあ、入学初日からトンズラするオレのことを不良か何かと勘違いしてるらしい……生真面目なツンデ……いやツンツンお嬢様だ。
実際のお嬢様ではないが、まあ、そんな感じのヤツ。
「ハァ? アタシが休日に何しようと勝手でしょ?」
(なら、たまたま会っただけのヤツに文句言うなよな……。ははは。)
「オレだって同じだよ」
「ふ〜ん。」
目を細めて見てくるな。
容姿は可愛い方なんだけどなぁ。
茶髪のポニーテールに、少しだけ吊り目。
正義感正しい委員長みたいな感じだ。
そう。見た目だけなら、な。
「アンタも本とか読むんだ。」
「読んじゃわるいかよ」
「別にぃ〜。 ちょっと意外だっただけよ。」
はぁ……そうですか。
気の強い女はあまり好みじゃないんだよ。
小説の続き見たいけど、コイツがいるまま見るのもなぁ。
さっさと居なくなってくれ。
「───ぇ。 ねぇってば!!」
「えっ?」
「アンタもコレ読みたかったの?」
夜水が指さす本のタイトルを見つめる。
そこには『虚実』と書いてあった。
「いや、たまたま気になっただけだよ。 オマエは?」
「ふ〜ん。 アタシは作者が好きなのよ。」
「この人が書く作品は全て買ってるわ。 でも、この本だけいつも無くて、やっと見つけたところだったの。」
作者『嘘著 噺』。なんて読むんだ?
「なぁ、なんて読むんだ?」
「ウソツキ バナシ。 よ。」
なんとも悪趣味な。
自分の書く話を嘘つき呼ばわりか。
まあ、良くも悪くも、面白い噺ならそれで嘘つき呼ばわりされても構わないってか?
とんだドMだな。
いや、根性か?ははっ。やる気を奮い立たせるための、自分への鼓舞かもしれないな。
「へぇ〜。 ありがとう。」
「なによ。 素直にお礼も言えるのね。」
オイオイ……どんだけ印象悪かったんだよ……。
登校初日をサボっただけだぞ?
「そりゃどーも。」
「ふんっ。 まあ、アタシがこの本を買うから!」
「アンタは他のを探しなさいっ!」
そう言って、彼女は書店を後にしていった。
「………嵐みたいな女。」
─────────────
結局オレは、何も買わなかった。
あの後、何冊かタイトルやあらすじを見ていたが、インスピレーションの参考にはなったから良しとした。
そうだ。まだテーマについての、『真髄』を言ってなかったっけ。
夜水のヤツが来なかったら、あのまま調子に乗っていたのに。
「フンッ。 まあ、いい。 アイツと関わると面倒ごとが増えそうだ。」
─────────────[翌日]
なんでこうなった。
「な、なんでアンタと一緒なのよっ!!!」
それはこっちが聞きたいよ。
オレは────
「ハァ〜、なんでこんなヤツとクラス委員なんかやらなきゃいけないわけぇ〜〜?」
「先生ぇ〜今からでも変えてもらえませんか?」
「もう決まったことだから、時間もないしはやく進めろ〜」
クラスの委員に、夜水 翡翠と共に選ばれていた。
いや、選ばされた。と言うべきか。
オレは黒板前の卓上から、ある机を見つめる。
「げっ……。 まぁまぁ〜! ハハハッ!」
何を笑っているんだ。
オレが見ただけで笑いやがって。
睨んでる理由なら分かるだろ?
場面は少し前に遡る。
─────────────[回想]
「では、クラス委員女子の担当は、ヨミズで決まりだ〜。 次〜男子の方から決めろ〜。」
担任の言葉にクラスは再びざわつき始めた。
そう、オレは手を挙げる気も、関わる気も一切なかったのに……。
「先生〜〜、タテナミがやりたいって言ってま──すっ!」
は?
花屋手のヤツ、何言って……
「は?」
「おーほんとかー? なら、男子はタテナミに決まりだな〜。 二人とも頑張れよ〜」
「いや、ちょっ……」
「……プフッ。 ブハハハッ!」
コイツ……。覚えとけよ!!
何かあったら絶対コキ使ってやるッ。
─────────────[現在]
そうして、現在。オレの隣には、夜水翡翠がいる。
こっちを睨みながらな。
でも、少しだけ頬が赤いな。
風邪か?
まあ、いい。
今は学級委員として、挨拶をしないといけなくなったからな。
「改めまして、ヨミズ ヒスイです!」
「みんなを上手くまとめる事が出来るか分かんないけど、がんばりますっ! よろしくお願いしますっ。」
ほんとにクラスの委員長になっちまったよ。
ただし、ツラだけ良い委員長な。
「………」
「──っと。」
「ちょっと。 なにボーっとしてんのよ!」
小声で囁く夜水の声で、数秒の間を開けた後に挨拶をした。
「タテナミ ソウヤです。 よろしくお願いします。」
おい、なんだその目は。
「うっわ〜」って心の声が顔に出てるぞ。
良いだろ別に。
やりたくもない事を任されたんだ、テキトーにやらせてもらうさ。
あと、花屋手の野郎は無条件で手伝わす。
早く終わってくれ、頭の中はテーマの続きを考えなきゃならんのだ。
「ハァ……先が思いやられる。」




