第二十話「犯人とトリックの真相」
「聞いて来たわよ。 ソレで、コレがどう繋がるわけぇ?」
「教えてくれ。」
「フンッ。 まず、被害者の身長は167センチ。 チョーク・アウトラインでも分かる通り、体型は普通よ。」
「そして、容疑者Aは165センチで体型は普通。 容疑者Bは181センチ、さっきも言ったけど、体型は細型よ。 容疑者Cは153センチ、小柄な女性ね。 まあ、アタシと同じくらいかしら? 容疑者Dは168センチだけど、ウエスト周りが広いから、実際はもっと上のサイズの服を着ていたわ。」
「で? コレが何か?」
「なるほど……。 やはりな。」
「何がよ?」
「今の話を聞いて、この部屋の違和感に気がつかないか?」
その言葉を聞いて、ハティは部屋の中を見渡した。
部屋の中はシンプルで物は少ない。
カーペットはなく、部屋の右奥にはベッドがある。
左角には机があり、デスクトップ型のパソコンと倒れた写真立てが置いてあった。
その手前には、ハンガーにかけられてある二着のTシャツ。両方黒色だ。
その他にも多少の雑貨があり、洗面所の廊下には空き缶が入った袋が束ねられてあった。
部屋の中には、特に違和感と呼べる物は見当たらなかった。
「別に……? ごく普通の大学生の部屋って感じがするけど?」
「さっき、ハティーは言ったな。 容疑者Dは、実際はもっとサイズが上の服を着ていたと。」
「え、ええ。 それが……あっ──!!」
「服のサイズが違うわッ!!」
「そう、サイズが違うんだ。 しかも、普通ならMとLサイズで違うなら、間違えていてもそこまで違和感はない。」
「だが、ここにある二着の黒い服は……明らかにサイズが違う!!」
「一つは普通くらいかしら? 被害者の体型は平均的な普通だったから、Mサイズくらいかしらね。」
・・・
「もう一つは、明らかに小さい……!!」
・
「そう。 彼が着るには、小さすぎる。」
「凶器は、"二つ"あったんだ。」
「エクセルを呼んでくれ。 犯人に直接確認しようじゃないか。」
* * *
「それで、犯人はこの部屋の住人なのか?」
ドアの前に立つ三人の目の前にある表札には、『103』と書かれていた。
「ああ、間違いない。 動機もおそらくだが……予想はついてる。」
「本当か!? 流石は名探偵だな! ハハッ!」
(本来はアンタの仕事なんだがな。)
「押すわよ。」
「ああ。」
インターホンを押した数秒後に、容疑者Cの小柄な女性がドアの奥に現れた。
その服装を眺める。
ブカブカな濃い暗めの赤いTシャツを着ており、裾が太ももの辺りに差し掛かりそうだった。
(やはりな)
「ジェラシーさん。 お話があります。 中に入れて頂けますか?」
エクセルが話しかけると、彼女はその表情と声のトーンで、何かを諦めたかのように小さな声で三人を部屋の中に招き入れた。
「……はい。」
* * *
部屋の中に入ると、一枚の写真を見つけた。
それは会社の社員の集合写真だった。
(コレは、なるほど……。)
「アナタが被害者の男性を殺しましたね?」
私は彼女に質問した。
しかし、彼女はしばらく無言だったので、私は、事件の真相を話し始めた。
窓の外は薄暗い雲が広がり、部屋の中は暗くなっていた。
「犯行当時、アナタは被害者の部屋の中に居た。」
「アナタと彼には面識があったんです。」
「それはそうでしょ? 同じアパートの住人なら、引越してきた時とか、ご飯のおすそ分けとかで挨拶はするでしょ?」
「いや、それ以前からの知り合いの可能性がある。」
「え? どういうこと!?」
「彼女は、彼と同じ職場で働いている。」
「うそ!?」
「いや、写真に見える人物の中に、被害者の彼と彼女がいる。」
「たまたま、同じアパートで、たまたま同じ職場だったってこと?」
「いいや、おそらくそれは違う。」
「彼女は……彼がここに住んでいるのを知っていて、引越してきたんだ。」
「はぁ〜? なんで、わざわざそんなことするのよ?」
「それは────、彼女が被害者の"ストーカー"だからだ。」
「「!!」」
「どういうことだ? 何故、彼女がストーカーだと分かった?」
「そうよ! そんな証拠ないじゃない!」
「………被害者の彼には、"恋人"がいたんだ。」
「そして、その事を彼女は知らなかったんだろう。 職場では彼のことを知れても、私生活まではなかなか分からない。」
「だから、彼女は彼の住むこのアパートに引っ越した。 そして、偶然を装い、挨拶をした。」
「それから、何度か差し入れと言って、缶ビールでも持って行ったんだろう。」
「彼の洗面所の廊下に、"缶ビールの空き缶が入れられた袋"があったからな。」
「そして、ある日。 彼の部屋で、あるモノを見てしまったんだ。」
「あるモノ?」
「ああ、机の上にあった"写真立て"だ。」
「あっ! 確かに写真立てはあったわ! あれ? でも、アタシたちが部屋の中で見た時は、倒れていたような……。」
「そう、彼女は見てしまった。 ────彼の、彼と恋人が写っている写真をな。」
「その時に彼女は、明確な殺意を抱いたんだ。」
「………。」
彼女は何も言わなかった。
依然として、俯いたままだ。
外では雨が降り始め、静まり返った部屋の中に雨音が響いていた。
「だが、この時点では殺す気は無かったんだろう。」
「再び、彼の家に差し入れを持って行った時。 それは起こった。」
「玄関のドアを開けた彼は、おそらく恋人と通話中だったんだろう。」
「そこに居合わせてしまった彼は、咄嗟に彼女を部屋の中へ招いた。 そして、彼女に差し入れをテーブルか何かの上に置くように、通話を続けながらジェスチャーでお願いをした。」
「そして、部屋の中へ入った彼女は、あの写真立てをもう一度見てしまった。 今まさに、その恋人と仲睦ましそうに話す彼を見て、怒りが収まらなくなったハズだ。」
「電話が終わり。 ビールを飲みながら、しばらく話をして居たのだろう。 次第に彼は席を立ち、トイレに行こうとしたその時……」
「自分のものにならない彼に、殺意を向けた。」
「自分の持っていたスマホを振り上げ、彼の後頭部に思いっきりぶつけたんだ。」
「そんなっ……」
「…………。」
ハティーが驚く中、雨はさらに酷くなり、彼女がいる床に水滴が落ちていた。
「ただ、スマホを直接ぶつけたんじゃない……」
「ハンガーにかけてあった───"赤黒いTシャツ"を手に取り、"スマホを覆うよう"にして殴りつけたんだ。」
「偶然にも当たりどころが悪く、彼はすぐに倒れた。 その後は、力が弱い女性だ。 おそらく……何度も、何度も殴りつけ、絶命させた。」
「そして、その血痕をTシャツで綺麗に拭き取った。 だが、どうしても"返り血は付いてしまっていた"。」
「しかし、"焦った彼女は動揺して"、咄嗟に返り血のついた黒いTシャツを脱ぎ、元々服がかけてあったハンガーに掛け直した。」
「今も被害者の部屋にある服を調べれば、血痕が見つかるでしょう。」
エクセルが隣で唾を飲み込む姿が横目に入る。
ハティーは手を口元に当てていた。
「"血の色が見えない"……アナタが今着ている服こそが。 犯行に使われた"凶器"だッ!!」
指を指しながら、『トゥルース・キーラー』は決めポーズをした。
「そして、アリバイとして使ったスマホは、被害者のモノでしょう。」
「通話履歴の相手の名前は女性の名前だ。 だから、警察は違和感なく疑わなかった。」
「でも、その人物は……殺害する直前に被害者と話していた恋人だろう。」
「なるほど……確かに、筋は通っている。」
「だが、それなら何故、証拠となるTシャツを残したんだ? それに、今着ているって……。」
「そんなバカなことしたら、バレる可能性があるだろう? そんなリスクを……」
そう。私にもそこが分からなかった。
完璧な推理。のハズだ。しかし、そこだけが……。
「そうです。 そこの方がおっしゃる通りです。 ふふ……。」
「私が殺しました。」
「犯行に使ったのも、スマホや服は合ってましたよ。」
「なら、何故?」
気になった。彼女が服を捨てなかった、私には分からないその理由を。
追い求めても、いまだに辿り着くことのない……"理由"を。
私は。追い求めている。
「それは────」




