第十八話「種」
[二週間後]
オレはヒワさんに会いに、太宰治賞を受賞した「巫卜占行方」の小説披露会の会場に向かうために、会場から五分ほど近場のカフェに先に着いてコーヒーを頼んでいた。
スマホのDM欄からヒワさんを選ぶ。
メッセージ欄を見る。
『なら、二十八日の午前九時に、ここのカフェで待ち合わせにしよう!』
と、カフェの位置情報が一緒に添付されていた。
「流石に緊張するな……。」
オレの服装は、白の無地のTシャツに、黒のヒラヒラした感じのサリエルパンツ。
黒の靴先が丸いブーツ。
腕時計は苦手だからしてない。ピアスは高校生だからな。流石にまだダメか。
髪型はウルフカットの黒髪だ。
まあ、一般的に見てもダサくはないハズだ。
あ、相手が男だとしても、外出する時は香水も必須な。
「……ズスゥ〜〜。 にがっ。」
あれ?アラサー時代はブラックコーヒーだったのにな。
何で苦く感じるんだ?
あ、舌がまだガキなのか。
「……はぁ…コーヒーすら美味しく飲めないとは。 子供の体は不便だなぁ。」
「あの、スズメくんですか?」
その時、背後から声をかけられた。
聞き慣れた声。
優しくて、可愛らしい声。
それでいてどこか……大人っぽく色気もある。
ウソ……だろ……。
「なん……で…。」
「え?」
「あっ、いや……ハイ。 スズメです。」
そんなバカな……。
この時のオレは、瞳孔が開きまくってることが、自分でも分かるほどだった。
オレの目の前に映っていたのは、かつての恋人。『木陰 雛子』だった。
─────────────
「私、小説披露会に来たの初めてなんです!」
「へぇ〜、実はオレも初めて来ました。」
会場に着いたオレは、いまだに心臓がバクバクして、落ち着けていなかった。
「そういえば、スズメくんはメッセージのやり取りとは話し方が全然違うんだねぇ〜! なんか違和感あるな〜」
いや、驚きすぎてんだよ!
そもそも、オレは……ヒワさんのことを男と思ってたんだ。
それが、ヒワさんは雛で、三年前から話してたんだぞ!?
しかも、たまたま……ネットで知り合った相手がだ!!
驚くに決まってんだろッ!!!
「それはヒワさんも同じじゃない? ツブヤキとか話し方が男っぽく話してたよね?」
「ああ! アレはね〜……ネットでは男性キャラとしてやってただけだよ〜!」
「女性だって分かってたら、変な人とか寄ってきちゃうのが怖かったからさ!」
「そ、そうだったんだ。」
くっそー!!
なんで元恋人に変な態度取ってんだオレは!
ギクシャクすんな!奥手男子かよッ!
「うん!」
うわっ、笑顔眩しっ。かわよっ。
めちゃくちゃ可愛いな……。
好き。
じゃねぇッ!
この状況はもう起きちまったから仕方ねぇけど、この先のことを考えないと……!!
このまま雛と別れて、終わりなのか?
何とかして、何か……
「「「ワァァァァァァァ───!!!」」」
その時、会場から観客の声が上がった。
「わぁ〜! あれが行方先生か〜!」
「ねぇねぇ、見て! 思った感じと全然違ったよ〜!」
ん〜あぁ、まあ、確かに。
丸いな……。何がとは言わんが。
「……!」
ん?今、アイツ……こっちを見なかったか?
─────────────
「ええ──、それでは、巫卜占先生による。」
「ファン占いのコーナーですッ!!」
「会場から選ばれた数名の方を、今回特別に巫卜占先生が占って頂けるとのことです!」
「「「キャ────!! 私を選んで──!!」」」
たくっ、うるさいヤツらだな。
占いなんて何が良いのかね。どうせ胡散臭い適当なこと並べてるだけだろ……。
「え〜! いいなぁ〜!」
「私の人生について占ってほしいかも!」
「………」
あ、まじで?
雛って占い好きだったのか。
「知らなかった。」
「ん? 何が知らなかったの?」
「あっ、いや、何でもないよ!」
───ナタッ!
ん?
「そこのアナタッ!! 占ってあげるから来なさい。」
え?オレかぁ!?
「え! 凄いじゃん!」
「ほら、スズメくん! 行って来なよー!」
雛に背中を押されて、進まない足を無理やり進めて歩く。
白いテーブルクロスがかけられてある四角いテーブルの前に着く。
テーブルの上には大きな水晶玉が台座の上に置いてあり、彼女は両手を前に出し、水晶玉を覆うような仕草をして居た。
オレは、椅子に座る前に目の前の巨躯を見つめた。
○ツコデラックスみたいだな。
顔もそれとなく似ている。
髪型だけ細木○子だ。
髪色はピンク。派手だなぁ……。
時間にして二秒くらいだったが、その後すぐに椅子に腰を下ろした。
「アンタ……妙だねぇ。」
「え?」
マジか、何かに気付いたのか?
勘が鋭いバァさんだな。
「何がですか?」
なるべく平然を装え。
動揺を見せたら怪しまれる。
"ズキンッ"!!!
「ッ…!!」
頭痛が……!!
こんなときになんで…!?
「………」
オレを見つめる彼女は、静かに、淡々と、声のトーン変えずに話し始めた。
「「このままだと、アナタはこの先とてつもない苦労に見舞われる。」」
「「そして、長い間──才能の芽が出ない可能性があるわ。」」
「どういうことだ!?」
「「戻ることはないのかい?」」
「は?」
何を言ってるんだ?もう過去に戻って……
もしかして、また戻れるのか?
てか、何でそのことを知ってるんだ?
オレがタイムスリップしたことに気づいてるのか?
分かんねぇ……。
それに、さっきから、こっちのことを無視してるみたいに話しやがって……。
「「ないことはないのかい。いや、限りなく少ないか。」」
「だから何の話をしてるんだ!」
「「そうか。」
「「数日、数ヶ月後か、それとも何年後になるか……」」
「「大切なのは声明だよ。」」
「「いいかい? しっかりと、声を前に出して知らせるんだよ」」
「「このまま行くと、失敗する可能性があるからね。」」
「だから、何の話を……」
「なぁ! バァさんオレの声、聞こえてんのか?」
「「どうさねぇ、希望は捨てちゃダメだよ。」」
「「大丈夫────────。──。」」
あれ?聞こえない……?
何て言ったんだ?
「バァさん!! おいッ! 聞こえねぇよ!」
話の内容もよく分かんなかったし…。
「終わったよ。」
「席を離れな。」
「なっ、そんな一方的なことあるかよッ! ふざけんなッ!!」
「ちょっとー!! 暴れられたら困りますッ!」
「誰か! ボディガードなんとかしてー!!」
オレは、ボディガードに連れられて、会場の外につまみ出された。
そのすぐ後に、雛も外に出てきて心配された。
「災難だったねぇ〜。 まあ、何があったかは分かんないけど」
「相談ならいつでも乗るからねっ!」
その笑顔と言葉に、オレは落ち着きを取り戻した。
「ありがとう、ヒナ」
あっ……!!やべっ……つい名前で呼んじまった!!
「うん!」
あれ?なんかセーフ?
ヒワとヒナって似てるから、聞き間違いしたっぽいな……良かった。
「スズメくんはこの後予定とかある?」
「え? あ、いや、特に無いけど……」
「なら、ご飯食べに行かない?」
満面の笑みで誘ってくる彼女の顔を見ると、ふと昔を記憶を思い出してしまった。
いつも笑顔で、オレの心を照らしてくれる。
そんな彼女が本当に愛おしかった。
「うん。 行き、ます。」
なんだそれ、いまさら緊張すんなよオレ!
全く、この頃のオレは童貞感丸出しだな……はは…。
「この辺に新しくできたお店があったんだよねー! オシャレなカフェでね〜!」
「行ってみたかったの!!」
そうしてオレは、雛が行きたい店に行くことになった。
そこでオレは、『ヒワさん』こと『木陰 雛子』に、完成したミステリ作品を見せることにした。




