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41.研修兵の警護任務

 

・ ・ ・ ・ ・



「……研修兵たちの、警護ですか……?」



 僕の横に立つ第四十四隊の隊長が、度肝を抜かれたと言いたげなびっくり声で聞き返した。


 一般宿舎の事務室内、定年間近の予備役がくっとうなづいている。



「はい、そうです。今回は第四十四隊と、第六十三隊に一任しますので、明朝八つに標準装備にて西出口に待機して下さい」



 淡々と言う予備役の口元を、僕は目を丸くして見つめていた。


 毎年、今の時分に錬成校の生徒たちが学校ごとに続々と研修に来ている、というのは知っている。……と言うか、忘れたくても毎年思い出さずにはいられなかった。イスラを失った季節だったから。


 あの大事故・・・のあとも、十代の少年たちは定期的に北海岸の西部に送り込まれて、実地研修を受けていた。さすがに予備役が大勢、その警護にあたるようになったと聞いている。



「あの~。研修の警護と言うのは、予備役の担当だったはずでは……? 我が第四十四隊が指名される理由についても、ご示唆いただけないでしょうか」



 第四十四隊長は僕よりずっと年上だが、緊張に引きつった顔をしていた。



「ああ、人員不足です。現在、南東方でふかし鳥対策の巡回に予備役の大部分が割かれていますので、正規部隊に一任すると指揮部から直令が出ました」


「はあ……ふかし鳥……」



 ふかし鳥と言うのは、“白き沙漠”を回遊している群集性の中型鳥だ。雑食性の貪欲大食漢、収穫直前に襲いかかられた日には根こそぎ畑の年間利益をつぶされるから、別名“盗賊鳥”とも呼ばれている。時々群れが肥大化すると、農地荒らしの被害が甚大化してしまう。この害鳥対策は、ティルムン軍予備役の大切な任務の一つなのだ。



「その後、こちら事務所主任が厳正なるくじ引きにて貴隊を選びましたので、隊の成績評価とは一切関係ありません」



 ふしゅ~……。体面第一の第四十四隊長は、音を立てて緊張をしぼめた。安堵したらしい。


 廊下に出てそれぞれの隊室へ歩く途中、僕にひそひそっと話しかけてくる。



「いやはや、何だか面倒なことになってしまったね! うちの第四十四隊は軍内成績抜群なのだし、どうして君んとこと一緒に窓際業務にまわされるのかと、ちょっと眩暈めまいがしてしまったよ」



 第六十三隊が雑用するのは当然、そんな含みが感じられる調子ではあったが、人間の敵をつくらない主義のモモイガ・モシャボ三位さんみとして僕は何も言わなかった。



「二隊で半日交代制か……。まぁ実際には≪敵≫の出現しないところなのだし、子守りなんて暇つぶしの代名詞みたいな任務、身体をなまらせない方が大変かもね。ひとつよろしく頼むよ」


「はぁ……」



 この人は何も知らないのだな、と思って見送った。十四年前のあの日・・・に実際何があったのかを、本当に知っているのは当事者の僕らだけなのだから。


 それより、僕の勘は別のところに働いていた。予備役主任がくじ引きで決めたとは言うものの、やっぱり上の人たちが意図的に指名してきたんじゃないのか、と思う。


 新兵イスラと第六十三隊は、まだまだ指揮部の人々に目をつけられ、彼らの監視下に置かれているのだ……きっと。


 普段の戦線とは異なる環境にいきなり置いて、僕らが何らかのぼろ・・を出すのを待っているのかもしれない。



――やましいことなんて、何もないんだ。いつも通りに、落ち着いていれば済む仕事さ。



 僕はこの時なにも心配せず、第六十三隊室の扉をゆっくり開けた。……



・ ・ ・ ・ ・



 西寄りに十愛里ほど行った所にあるその備蓄基地までは、歩けない距離ではないが予備役の砂舟で送られる。


 戦線に比べると浜に少々岩の多いところ、小さな湾のようにくぼまった入り江の内陸側に、少年たちの研修先があった。


 舟を降り、浜草のかたい地面を歩いてゆく。第四十四隊は、先にずんずん進んで行った。



「あれっ? 村がある……」



 新兵イスラが、ごく小さく驚いた声をあげた。


 すぐ脇を歩いていたホノボ兄弟が、同時同角度にくるっと顔を南西に向ける。


 ここはどういう加減なのだか、わりと湿気があって戦線近くよりもずっと浜草の茂りが厚かった。と言っても樹々はない、なだらかにふくらむ丘陵の向こうに、小さな塔と煉瓦組みの建物がいくつか見える。そのまた先に、小さな建物のかたまりが微かな線のようにかすんで見えていた。



「……あれー? うちの時代の研修先、こんなとことちごうたで……。まわりに村なんてなかったし~」



 首をかしげるやしの木変人に、ハガティとラガティがやはり同時に振り向いて言った。



「……自分らの時は、ここでした」


「毎回、色んなとこ移ってるらしいです……」



 まあそうだろうな、と僕は思う。十四年前のあの日、……大事故・・・が起こったあの備蓄基地では、まさかもう研修はやっていないだろう。例外的とは言え≪敵≫の襲来があったのだから、備蓄拠点から監視地点に移行して、副戦線になっているとも考えられる。



「モモ君の時は、やっぱり別のとこやったんか?」


「うん。でもはっきりどこだったかは、知らされなかったんだ。……それも軍機密なんでないの」



 あまり考えたくないけど、僕は第六十三隊中いちばんの年長だ。サミですらひとつ下という事実やいかに。



「けど、わらべや。来たばっかしのあんたは、一番最近の研修先を知ってるんでないのかえ?」


「それが全然、違うとこだったんです」



 皆のやり取りを聞いていて、僕は首をかしげた。この辺もやはり、指揮部が決めているのだろうか。実際に現地に行く研修兵たちは知らないで良いこととして? 確かに備蓄基地はいくつもあるけれど……。どっちみち、戦略俯瞰図は僕ら三位さんみ理術士には縁のないものだ。どんな布陣でどう戦うか、それを選択し判断する権力のないものに、与えられる情報ではない。



『……にしては、村に少々近すぎんかな? 秘密にしときたくても、これでは研修やってることが、地元の皆さんにばればれやんか……』



 僕の肩口あたりで、見えないイスラも疑問いっぱいの声をあげている……。



・ ・ ・



 基地配属の予備役たちに案内されて、僕ら第六十三隊は第四十四隊とともに、岩場の上の≪塔≫に逗留することになる。


 遠くからだと小さな塔に見えていたのが、けっこう大きな石積み建物だった。戦線基地本部の石塔には、到底及ばない高さではあるけれど。


 螺旋らせん階段をのぼって三つの階を越せば、屋上に出る。ここからは内陸側にある備蓄基地の建物と、浜の方が広く見渡せた。各隊、ここから研修兵たちを監視し、警護すべしと言われる。



「食事や沐浴などには基地内の施設を使ってもらいますが、研修兵たちとの接触は極力避けて下さい」



 予備役たちは、ぴしりとした調子で僕らに言った。研修兵の少年たちは、いわばまだ世俗の状態だ。彼らにむけて軍機密、≪敵≫の情報なんかをもらしては絶対にいけませんという意味なのだろう。


 そして、寝起きはここの塔……。一隊につき二人収容の小部屋が三つしかないから、小分けになるしかない。


 暗くかび臭い廊下にて、第六十三隊はごそごそお互いの顔を見合わせた。



「ハガティは、ラガティと一緒」



 僕は精いっぱいの権威をこめて言った。一緒に置いておかないと不調をきたすホノボ兄弟は相部屋必至、双子は慎ましくほっとした顔をする。


 しかし問題は新兵イスラだ。指揮部の目がどこにあるかも知れないのだから、僕あるいはサミと相部屋、というのはよろしくなかろう。少年を一人にするため、不自然かつ不本意ではあるが、えがたきをえて僕がサミと一緒になるしかない……!


 意を決して口を開きかけた時、変人副隊長が高いところからきっぱり言い放った。



「モモイ隊長、へやひとつ一人でお使い。わらべは、うちと一緒やッ」



 目をむき歯をむき言い切ったサミに、僕はぎょぎょっとする。はぁっ?



「モモ君は時たま、いびきかくやんかッ。せまいへやであの攻撃級の騒音に責められるんは、まっぴらごめんや! すこやかふうすかなわらべの方が、断然ましッ」


「えー、サミさんだってよく歯ぎしりしてるじゃないですか。俺、いつも“安眠みみせん”の小術かけて寝てるし」



 ぎゃんぎゃん言い出したサミと新兵は、言いつつするっと割り当て室に入って行った。その奥隣の室に、ホノボ兄弟が消える。


 大丈夫かな……、と瞬時立ち尽くした僕の眼前、入った先の室の扉から、サミがにゅうと顔を出した。



「心配すんなや、モモ君。例の危惧・・対策な、あれはうちに任しとき……。クイ=シンボ家の名のきくうちの方が、言いがかりはつけにくいよって」



 ふふっ!と歯を輝かせ、かっこよさげ(と本人は絶対思っている)に微笑してから、変人は引っ込んだ。


 そこで僕も一人、へやに入る……。厚い石壁を割って光を通す狭い孔が一つあるきり、かび臭い寝台二台が詰め込まれた狭い室。



「……イスラ」


『おう、モモイ! ようやっと話せるなー。でっかい兄やん、なかなか頼りになるやんけ! 気の回し方が、大人や!』


「……イスラ……。僕、いびきかくのかい…?」


『そこ? ……えっと、あの、その……。環境かわるとかきやすいな、……気にすんなや』




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