第9話(暗黒魔術)
東KY都内での戦いで、地下に閉じ込められた蒼空と聖月。
そこで蒼空は、聖月が抱える闇と暗黒魔術の存在を知ることになる......
海未と紗良は、それぞれが装着していた個人装備も上手に使って、リンの攻撃を防いでいた。
「これは、攻撃というより足留めじゃない?」
ビルの残骸が大量に降って来る状況だったが、箱D市内での戦いの時の様な細かい残骸が銃弾の弾幕の如く突き刺さって来るのでは無く、大きな残骸がそのまま空から降ってくるだけだったからである。
「とは言え、詩音が居ないから、この攻撃を防ぐ術がない」
海未は紗良の問い掛けにそう答えると、降って来る残骸を粉々にしながら、紗良の手を引っ張って、屋敷の敷地外に出る方向へと走って行った。
敷地外に出ると、付近の雑居ビルが次々と破壊され、残骸の中で多くの死者が出ている。
また、周囲に居る大勢の人々が屋敷の敷地内やその周辺の様子を見守っていて、最新の時計型端末や眼鏡型端末だけではなく旧世代のスマホでも、動画撮影をしている人が多い。
10年以上前に廃れ始めたスマホという旧世代の機器を使っている人が多い情況を見ても、NH国の国力大幅低下がよく分かる。
警察や消防のサイレンも無数に聞こえるが、異能者の戦いへ介入出来る様な力は持っていないので、ただ事後処理をするだけだ。
『でも、明日には何も無かった状態に戻るのが不思議。 結局、パラレル世界は1日単位で物事が動いていて、異能者の戦いに関すること以外は、1日、1日の連動性が全く無い世界ってことなんだよな』
そんなことを考えながら、海未は野次馬に混じって、リンの様子を見ようとも思ったが、もう既にこの場を立ち去ってしまったようで、空から降って来る残骸が全て地面に落ちると、攻撃は止まった。
「聖月達を探したいけど......」
紗良が心配そうだが、海未は、
「瓦礫を退かすより、明日になれば元に戻るから、それから探すことにしようよ。 半日ぐらい耐えられるだけの装備は、一応聖月も魔術師なので、持っているだろうからね」
海未は、直ぐ近くのホテルの部屋を急遽予約すると、その部屋から、紗良と交代で橘邸の敷地内を監視することに決めたのであった。
聖月と蒼空には、困ったことが発生していた。
トイレに行くことが出来ない上、通路はヒト一人が少し屈まなければならない位の大きさで狭く、離れたところで用を足しても、その様子がちょっと見えてしまうことが、女性には問題であった。
「蒼空。 もし見たら、魔術で目を見えなくするからね」
聖月は、厳しい口調で釘を刺す。
「わかっています。 ずっと目を瞑っていますから。 信じてください」
聖月は流石に我慢出来なくなり、一番屋敷に近い階段の入口付近迄移動して、用を足し始める。
静寂が2人を包む。
すると、その音が蒼空に聞こえてしまう。
慌てて耳も塞ぐ蒼空。
暫くして、蒼空の肩を聖月が叩く。
「終わったから。 もう目を開けても良いよ」
恐る恐る目を開ける蒼空。
「ごめんね。 怪我しているのに、無理な姿勢もさせて」
「いや、ここに閉じ込められたから、仕方ないよ」
「先輩達が、早く来てくれればイイけどな。 でも、明日になれば元通りになっているから、いま探してくれている可能性は無いと思う」
「そっか〜。 ここのルールってそういうものでしたね......」
「あと20時間位?」
「詩音が戻って来て探してくれれば、もう少し早く出れるかな?」
その後、2人の間を静寂が包む。
ポタン、ポタンと何処かで水が垂れ落ちる音が、定期的に聞こえるだけ。
何もすることが無く、と言って会話をする雰囲気でも無いので、ぼーっとしていると、徐々に眠気に襲われる蒼空。
怪我の痛みは、聖月の応急処置であまり感じなくなり、疲れも出て、ウトウトと寝始めてしまった。
『(夢の中)
「蒼空。 ここが新しい農場だよ」
「広いね~。 お父さん、お母さん」
「こんなに広い農場を手に入れられたのは、お前のお蔭なんだよ。 私達がここで農業の基盤をキチンと作るから、蒼空はそれを受け継いでくれよな」
「うん。 絶対跡を継ぐから、僕も農業のこといっぱい勉強するね」
(場面が変化)
「蒼空。 お前には大きな役目が有る」
「......貴方は?」
「私は神々達のうちの一人だ。 蒼空の役目は当面、聖月を見守り続けること」
「聖月は、暗黒魔術に一部侵食されており、成長するにつれて侵食が広がって不安定になるだろう」
「......」
「その為、お前には特別な役目と能力が与えられている」
「それは、何なのですか?」
「間もなく、その答えが分かる」
「......」
「では、その時にまた会おう」 』
はっとして目が覚めた蒼空。
すると、聖月の膝枕の上で寝ていたことに気付く。
直ぐに飛び起きて、
「聖月、ごめん。 気付いたらウトウトしちゃって」
「体勢が辛そうだったから、膝枕にしたのよ。 狭いからね」
「何か、うわ言を言ってなかった?」
「いいえ。 何も言って無かったよ」
「ちょっと、予言みたいな夢を見てたんだ」
「どんな夢?」
「聖月、暗黒魔術って知っている?」
すると、首を振っただけで、その質問に黙ってしまう聖月。
「言いたくなければ良いんだ。 所詮ただの夢だし」
『どうして蒼空の口から、暗黒魔術っていうワードが出て来たの? 詩音も知らないことなのに......』
表情には出さないものの、深刻に考え始める聖月。
暫く経ってから、聖月は質問する。
「その夢って、どういう内容だったの?」
「俺の役割は、聖月を見守ることだって告げられた」
「......」
「詳しくは、そのうち分かるって言われただけだったよ」
「そうなんだ~」
蒼空から、質問の答えを聞くと、聖月はじーっと蒼空を見つめる。
何かを打ち明けたそうな聖月の表情に見えたが、しかし何も言わないまま、時間だけが過ぎてゆく......
お互いに見つめ合う2人。
徐々に聖月の瞳に吸い込まれそうな感覚に陥る蒼空。
そして、スーッと意識が遠退いてしまう。
『いけない。 暗黒魔術を意識し過ぎて、無意識のうちに蒼空に魔術をかけてしまった』
聖月は心の中で反省するが、手遅れであった。
聖月が掛けてしまったのは暗黒魔術の『ラビュリントス』。
その名の通り、人の心を迷宮に送り込んでしまう魔術である。
術者側で解除するのが難しく、掛けられた当人自身が迷宮から抜け出せれば、自然と解ける魔術である。
意識が無くなり倒れてしまった蒼空の頭を、聖月は優しく自身の膝上に乗せて、
『詩音達が戻って来るまでの時間は十分有るから、それまでに抜け出してね。 蒼空』
心の中で話し掛けると、蒼空の頭を抱き締め続けるのであった。
ただこの時蒼空が魔術で送り込まれた世界は、聖月の心の中という迷宮であった。
蒼空の心には迷いがなく、迷宮に入る様な部分が無かったからであろう。
『「聖月は偉いね~。 教えた魔術を直ぐ理解してマスターする」
「それに対して、詩音は全然ダメね。 これは時間掛かりそうだわ」』
蒼空は、聖月が覚えている最も幼い頃の魔術の訓練の様子を遠くから見ていた。
『「聖月。 貴方は詩音ちゃんとずっと親友で居なければダメですよ。 どんなことが有っても、当家の為に我慢しなければなりません」
「もし、喧嘩する様なことが有っても、それは全て聖月が悪いのです。 詩音ちゃんは我が国3本の指に入る大富豪の跡取り娘なのですから」』
次に見たのは、母親らしい女性から理不尽なことを言われている聖月の様子であった。
『「詩音ちゃんは、どうしてお母様と口を聞かないの?」
「だって、いつもダメ・ダメ・ダメしか言わないから。 聖月ちゃんは、そんなこと言われても、怒ったりしないの?」
「私には、そういう勇気無いから......」』
大人しい聖月が、反抗期の詩音を少し羨ましく思っている場面の様だ。
『「詩音は、魔術の覚えが早くなったね~。 これは天才魔術師になるかも」
「それに比べて、聖月は才能が伸びていない。 貴方は回復魔術師だから、仕方ないけど」』
長じるにつれて、詩音の魔術師としての才能が開花し、それに対して評価が下がった自分を卑下する聖月。
『「詩音ちゃん。 その魔術は一体......」
「この魔術は、唱文魔術。 夢の中に現れる新しい師匠が教えてくれているの」
「聖月にも教えて欲しいなあ」
「イイけど、出来るかな~」
「......」
「やっぱり無理みたい。 凄く難しいよ、その魔術」』
詩音が魔術師として、新しい境地に達し始めたのに対して、同じことをしても全く出来ない聖月。
『私って才能が無い......どうして詩音ちゃんばかりが魔術の才能に恵まれているの? 魔術だけじゃない。 容姿も勉強も運動も富も、みんな詩音ちゃんの方が私より上。 神様、何で詩音ちゃんは全てで祝福され、恵まれているの? どうしてそんな女の子と私を友人関係にしたの?』
中学生になると、才能の差が開き始めた詩音と聖月。
聖月は詩音に対するコンプレックスが非常に強くなっていたのだ。
『「聖月。 貴方に詩音の様な魔術の才能は無いわ」
「アルシア先生......」
「いや、既に詩音の魔術師としての能力は、師匠である私を相当上回っている」
「......」
「あの子は、私以外の別の魔術師から、新たな魔術を教わっているようだけど」
「夢の中で教わっているって言っていましたが」
「夢だって? そんな......」
アルシアは衝撃を受けた。そして、
「聖月。 禁断の魔術を学ぶ気は有るかしら?」
「禁断の......」
「神々達の領域の魔術ではなく、悪魔や魔女の領域に属する魔術のことよ」
「そんなものが......」
「神々と雖も、色々な考えを持つ者が居る。 そういう考えを持つ者が編み出した魔術があるの。 それを禁断の魔術、若しくは暗黒魔術と呼ぶのよ」
「......」
「魔術の女神ヘカテーが全てでは無いということ。 そしてこの魔術はコンプレックスを持つ者が、より習得し易いという特長があるの。 私の様にね」
「先生......」
「私は、もう亡くなった『精霊の魔術師』エリン・ブローリーに対して、魔術の才能に関して非常に大きなコンプレックスを感じていた。 それで私の師匠から受け継いだのが、禁断の魔術」
「聖月、貴方は詩音にコンプレックスを感じている。 だからこそ、この魔術を私から受け継ぐべきだわ」
「......少し時間を下さい」』
『「アルシア先生。 私、禁断の魔術を受け継ぎます。 それが私の使命であると理解しました」
「聖月......」
「陽の裏には陰がある。 それが世の中の節理です」
「その通り。 聖月、よくそのことを理解しましたね」
「詩音ちゃんが陽を受け継ぐならば、私が陰を受け継ぐ運命なのですね」
「詩音が今、夢を通じて教わったものを自ら実践して受け継ごうとしている魔術は、概ねエリンの魔術。 ならば、聖月はアルシアの魔術を受け継ぐ。 これが神々達が定めた宿命なのよ」』
こうして、暗黒魔術を聖月が受け継ぐことになったのだ。
それを蒼空は、聖月が掛けた暗黒魔術『ラビュリントス』で知ることとなった。
聖月の心の迷宮を巡った蒼空。
表面上、おっとりした良家の美少女という感じの聖月は、詩音に恩義も感じているし、詩音のことを大好きでもあった。
しかし、全ての面で及ばないという自己評価の低さが、大きなコンプレックスを抱かせていたのだ。
それだけでは無く、聖月を家柄を維持する為の道具としてしか見ていない両親の存在。
金持ちが大半の学院に通っていることで、実は貧している橘家の虚像に苦しんでいること。
そうした要素が複雑に絡み合って、聖月が暗黒魔術の虜になりやすい素地があることを知ってしまった蒼空であった。
その日の夜に、東KYOのHND空港に戻って来た詩音と莉空。
「やっと戻って来れた~」
ほっとした様子の2人。
橘邸に戻ってみると、屋敷は跡形もない状態であった。
「いや〜、酷い状況だね」
詩音が感想をもらす。
連絡がついた、海未と紗良も合流する。
「聖月と莉空君は?」
「連絡が付かないので、この瓦礫の下に居るのでしょう、恐らく」
「地下が迷路になっている御屋敷だし、2人共に異能者なのだから無事だよ。 翌朝迄待とうか」
詩音が海未に提案する。
「この瓦礫、魔術で退かすことは出来るけど、近くに残骸を置く場所が無いからね」
そう言うと、詩音と莉空も海未達と同じホテルに宿泊することにした。
まだ、聖月の心の迷宮を巡っている蒼空。
『「暗黒魔術の基本は、相手の魔力と生命力を奪うことにあるの」
アルシアは聖月に、その力の源を説明する。
「攻撃も防御も相手の力を利用するものだから、そんなに種類は無いからね。 但し、常に相手を殺す気持ちを持っていないと、中途半端になって負けてしまう......その点が要注意」
「......」
「聖月は気持ちが優しいから、覚えるだけで使う必要は無いわ。 今後、この世界に絶望した時、神々達を呪う気持ちになった時、そういう時が来てから、使う様にしなさい」
「先生は、そういう気持ちになったのですか?」
「私?」
「それは、貴方が新しい回復魔術師候補として、現れた時ね。 私の寿命がわかってしまい、それからずっと神々達を呪っているわ。 貴方のこともね」
「......」
「でも、安心して。 暗黒魔術はそうなった時の為の救いでもあるのだから......」
「それは?」
「貴方も、今の私の立場になる時が来る。 そうなれば分かるわ。 どうして代々の回復魔術師達が、後継者に暗黒魔術を受け継いでいるのか?という理由とその気持ちがね......」』
暗黒魔術の悲しい現実を知る蒼空。
『恐らく、暗黒魔術っていうのは、まだ若いのに後継者が登場して自身の寿命を知り、絶望した偉大な回復魔術師が編み出した魔術なのだろう。 その呪われた所以を受け継いでいくために、あえて禁断とか暗黒っていうワードで表現しているのだと思う』
聖月の心の迷宮を沢山巡った結果、蒼空はその様に結論を出したのであった。
翌朝。
蒼空が聖月の魔術から目覚めた時、既に橘邸の屋敷は元通りに戻っていた。
聖月が地下の通路から、魔術を使って運んでくれたのであろう。
蒼空は布団の上で寝ていた。
目覚めた蒼空が台所に向かうと、6人分の朝ごはんを作っている聖月が居た。
「おはようございます」
蒼空が聖月に朝の挨拶をする。
「蒼空、おはよう〜」
聖月が笑顔で挨拶を返す。
すると、蒼空は思わず聖月を後ろから抱き締めてしまった。
「蒼空、どうしたの?」
「聖月が暗黒魔術をマスターする経緯を見てしまったんだ。 ごめん」
「いえ。 私が誤って蒼空に魔術『ラビュリントス』をかけてしまったの。 きっと、蒼空の心に迷いがないから、私のドロドロの心の迷宮に入り込んでしまったのだわ。 謝らなきゃいけないのは私の方」
「それで聖月、大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ、全然。 でも、今はまだ大丈夫」
「......」
「私は心が弱いから、何時か暗黒魔術師になってしまうと思うの。 歴代の回復魔術師の大半も、暗黒魔術師になっているから......」
「そんな......」
「これは避けられない私の運命。 詩音ちゃんも全く知らないことだよ。 でも、まだだいぶ先の話だから、今、色々考えても仕方ないかな」
そう答えた聖月は、精一杯の笑顔を蒼空に見せたのであった。
「さあ、朝ごはん出来るよ。 みんなもホテルをチェックアウトして、こちらに向かっているから、揃ったら食べよ」
その様に無理に笑みを見せる聖月が抱えている大きな悩みを知り、その苦しみに思いを馳せると、蒼空は我慢出来ず号泣してしまうのであった......
6人が揃って食べる朝食。
昨日の戦いが無かったかの様な不思議な雰囲気に、蒼空は違和感を抱いていた。
『昨日の戦いって何だったんだろ。 俺が怪我したことと、聖月の大きな悩みを知ったこと以外、何も変化が無かったなんて......』
「詩音。 結局何処に飛ばされたの?」
聖月が質問した。
「OK縄」
「ファエサルの空間移動魔術って凄いね。 そんなに遠く迄一定の空間を瞬間移動させられるなんて」
聖月が感心した様子で話す。
「『幻想の魔術師』の異名を持つだけのことは有るよ。 きっと異名からすると、まだ予想出来ない様な魔術を幾つも持っているのだと思う」
詩音が珍しく、敵を評価している。
「詩音が、そういう言い方するって珍しいね」
「そう?」
「うん。 今回の戦いで心境や考え方の変化があったのかな?って」
「それは有ると思う。 人間って戦いが無いと変れないんだよ。 常に戦ってきて、今も戦っている生き物だから......」
「......」
詩音の言葉に、一同は黙ってしまう。
人命を奪い合う戦争が愚かなことだと、頭では理解していても、人の歴史で戦いが無くなったことはない。
物理的な戦争だけではない。
経済での戦いがメインになった現代であるが、色々な面でみれば、毎日、無数の戦いが続いているのだから。
「ところで、聖月と蒼空君。 怪我は無かった?」
詩音の確認に、聖月が思い出す。
「詩音、蒼空君が中程度の怪我を負ってしまったの。 見て貰える」
「蒼空君。 怪我を見せて?」
確認すると、背中に金属片が刺さった傷が有った。
「私の魔術で、残っている金属片を取り除いて、傷口は塞ぐから。 もし体調がおかしいと思ったら、病院で検査して貰ってね」
詩音はその様に指示すると、傷口に右手を充てて、魔術をかける。
傷口がみるみるうちに塞がる。
そして、右手を握る詩音。
その後開いた右手の掌には、金属片が幾つも握られていた。
「詩音さん、ありがとうございます」
蒼空が感謝を述べる。
「私に出来ることは限られているから......」
詩音は少し険しい表情をして、ただ短く、そう答えたのであった。
「ところで海未先輩。 リン達の居所掴んでいるのですよね?」
「今、OD原城に居るみたいだよ。 昨日の戦いの最中、メイリンとツオに超小型のGPSを仕掛けることに成功したんだ」
「ということで、恐らくファエサルはまだ魔術を使えないでしょうから、仕掛けましょう。 みんな出発の準備を」
詩音は指示を出し、6人は朝食を食べ終えると、直ぐに出発の準備を始めた。
1時間後。
電車に乗っている6人。
ただ、真っ直ぐ向かうのでは、何か対策が取られていると見て、8O寺経由を選択した詩音達。
ところが、新JUKを過ぎた辺りで、電車が止まってしまった。
ザワつく車内。
莉空と詩音が先頭車両に移動して、先の景色を確認すると、物凄い濃霧に包まれたいた。
「これは?」
莉空が詩音に確認する。
「ファエサルの時間差の魔術ね。 こういうトラップを幾つも仕掛けているってことか〜。 やられた」
単純な魔術だが、詩音達の動きを留めるには最も効果的であった。
詩音の魔術で濃霧を取り去っても、また直ぐに違う場所で濃霧が発生するのであろう。
そうなると、電車はその度に止まり、運転再開まで時間が掛かる。
これをずっと繰り返されるってことになれば、相当時間が掛かってしまう。
リンならば、プライベートジェットやヘリコプター等、どんな乗り物も即準備出来るが、詩音や莉空にはそういう手段が無い。
海未と紗良であれば、ヘリコプター位なら準備出来るものの、それはAM国内であればこそであって、NH国内ではそうもいかない。
車を準備しても、この濃霧では道路が渋滞して、先へ進め無いだろう。
「自転車で向かいましょう」
詩音は5人にその様に指示すると、魔術で電車のドアを開けて、線路を捻じ曲げ、他の電車も走行不能にして、安全を確保した後、濃霧の中へ線路を歩き始める。
6人以外に、他の乗客達も線路に降り始めた。
次の駅で駅舎から出ると、自転車店で6台の電動自転車を購入。
早速、OD原へ向けて出発する。
「明日には着くかな?」
詩音の魔術で、ほぼ電動バイク化した自転車に乗り、リン達の滞在ポイントへ向かう6人。
「こういうのも、ちょっと面白いね」
蒼空と莉空は、遠足の様な感じに思わず笑みが溢れる。
「マジメな戦いの筈だけど、こんなことが有るのが、可笑しいよね」
聖月が自転車で次の戦いの場へ向かう違和感への感想を述べる。
「OD原より先、S岡県M島駅以西の新◯線が不通だから、どうする?」
紗良が質問する。
「海未先輩に車運転して貰うっていうことで、どう?」
詩音が対応策を提案する。
「海未〜、運転出来るんだっけ?」
「出来るよ。 任せておいて」
自信アリの表情の海未。
「基本は自動運転だし、レンタカー予約しておくよ」
詩音は、そう答えると、早速予約する。
「3連動地震の影響もあって、西方のインフラがボロボロだから、自動運転だけだと辿り着かないだろうからね」
「他に手段有るの?」
「魔術で、私が列車を動かすって方法も有るよ。 都会だと、線路上に列車だらけだから無理だけど、地方路線の夜中なら、移動に使えると思う」
「それ、ちょっと怖いよね」
「だから、最終手段ね」
そんな話をしながら、先へ進む6人。
勿論、途中で方陣を設置しながら、OD原市内へと少しずつ、少しずつ。
その様子は、サイクリングを楽しみ6人の若者にしか見えなかった。




