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悪戯と黄昏の刻に・第一紀(異能者の戦い)  作者: 嶋 秀
第一章(パラレル世界篇(詩音・聖月・莉空・蒼空を中心とした異能者の戦い))
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第4話(夜中の再襲撃!!)


夜も寝静まった頃、詩音や莉空達は、再度敵の攻撃に曝される。


果たして、撃退出来るのか?


 パラレル世界における異能者の戦いも5日目。



 この日は、深夜の奇襲から始まった。

 莉空達6人が滞在していたホテルが襲われたのだ。

 

 リンの攻撃で、いきなりバラバラになりかけるホテル。

 それを詩音が防御魔術で防ごうとする。

 そこからバトルは始まった。


 予知で攻撃直前に気付き、防御魔術を使った詩音であったが、莉空達男3人の部屋迄は防護し切れなかったのだ。

 一気に崩れ始めたホテルの建物。

 『マズい』

 詩音が心の中で呟いた瞬間、瓦解が始まってしまった。

 すると、その瓦礫が詩音をめがけて、集中的に猛スピードで飛んで来る。

 『リンだけじゃなくて、サーシャとツオの攻撃スキルを持つ三者による一体攻撃ね』

 詩音は敵の意図に気付き、防御魔術を紋章魔術系から、より強力な唱文魔術系のモノに切り替えた。

 そう、実は詩音、本来は唱文魔術師であったのだ。

 『ブラッド・サターン』は、攻撃の唱文魔術の一つ。

 聖月を危うく死に追いやるミスをしてから、ミスをしにくい紋章魔術しか使わなくなっていたが、そんな甘い考えでは、聖月や仲間を護り切ることは出来ない。

 その決意を込めての、昨晩の過去話であったのだ。


 ホテルは完全に瓦解し、多くの宿泊客が生き埋めとなって、死亡している。

 「ここまでやるとは......敵もリンが瀕死の重傷を負ったことで、こちらの新しい異能者2名が実力を出せる様になる前に、ケリをつけようとしての猛攻か〜」

 戦いで新たに使うことを決断した唱文系防御魔術で、敵の攻撃は完全に防げているものの、味方は聖月を除く4人が一緒に生き埋めとなっている。

 『隙をみて、救い出したいけど......』

 特にリンの攻撃力が苛烈で、防御魔術に全力を注ぐしかない詩音。


 崩れるホテルの瓦礫と一緒にゆっくりと落下し、地面に到達してから、態勢を整え直そうと、詩音と聖月は走って少しホテルの敷地から離れる。

 その瞬間、リンが突然倒れ、一気に瓦礫に埋まる姿が、真夜中の闇夜の中、僅かな月明かりに照らされる中で見えた詩音。

 莉空の瞬間移動攻撃が発動し、再びリンに命中したのだ。

 そのことを直ぐに理解したので、

 「聖月〜。 莉空が大怪我をしているみたいだから、回復をお願い〜」

 詩音は、防御魔術の防壁内に居た聖月に、指示を出す。

 「わかった」

 聖月も、リンが倒される様な攻撃を莉空から受けたということは、莉空が生命の危機に襲われているということに気付き、再び瓦礫の方へと駆け出す。

 すると、瓦礫を己のスキルで粉砕しながら掻き分け、海未が現れたのだ。

 「聖月〜。 こっちだ」

 海未が叫びながら、聖月を守る為、敵に攻撃を加える。

 紗良も瓦礫をスキルで移動させて、やっと姿を現した。

 そして紗良が、聖月と海未をスキルで防御してくれたので、無事に聖月は莉空と蒼空の居る場所へ移動することが出来たのだった。

 瓦礫に埋まったままの蒼空と莉空。

 やがて蒼空が瓦礫をかき分けて出て来たところで、近くに居る3人の存在に気付き、

 「こっちだ、莉空が......」


 すると、詩音の居た方向から、物凄い轟音がする。

 振り返る4人。

 「あれは......」

 聖月が思わず絶句したのは、詩音が攻撃魔術『ブラッド・サターン』をリンが埋まった瓦礫に向けて放っていたからであった。

 リンが埋まった瓦礫の山の近くに居たことで、遥か遠くに吹き飛ばされる、サーシャとツオ。

 防御スキルでリン達3人を守っていたイワンとメイリンも、盾にしていた大型トラックと一緒に数百メートル吹き飛ばされて重傷を負ってしまう。


 詩音の猛攻撃で敵が全員倒れたので、一旦攻撃が止み、静寂が一帯を包む。

 この隙に莉空を救おうと、集まる4人。

 「莉空は俺を護ろうとして、鉄骨が体を貫......」

 その瞬間を見てしまったショックで、言葉が続かない蒼空。

 「大丈夫だよ」

 海未がそう言って蒼空の頭を撫でて慰めると、紗良が莉空を覆っていた大きな瓦礫をスキルで一つずつ丁寧に移動させる。

 そして瓦礫が除かれると、莉空の上半身を崩れた鉄骨が貫いているのが見えたのであった。

 直ぐに海未が自身のスキルで、鉄骨を粉々にする。

 すかさず、聖月が回復魔術を莉空に施す。

 見事な連携プレイで、莉空の体を貫いていた鉄骨はキレイに取り除かれたのだった。

 怪我の状況を回復魔術で確認してから、

 「この間より負傷度合いが軽いから、莉空君大丈夫よ」

 ショック状態の蒼空に聖月が言葉を掛け、慰める。


 その時、再び詩音の居る方角から物凄い轟音が聞こえた。

 聖月は回復を続けながら、その方向を見ると、

 「あれは......確か唱文魔術の『ヘル・ファイア』......」

 詩音は、敵の5人に対して、手加減無しの猛攻を加えているようだった。


 暫くすると、

 「もう、大丈夫」

と聖月が言うと、莉空の意識が戻った。

 「莉空、お前、無茶し過ぎだよ。 俺を庇って吹っ飛んで来た鉄骨に立ちはだかるなんて......」

 その言葉に、

 「昨晩の話を聞かなかったのか? 同士や親友、仲間を救うためには、生命を賭けたって惜しくは無いよ」

 「莉空さん、まだ回復途上なので、あまり話をしないでね」

 聖月が注意すると、頷く莉空。

 『莉空さんは、もしかしたらあの話を知っているの? 蒼空君には、私の回復魔術が二度と効かないという......』

 聖月は、莉空の無茶な行動の裏には『蒼空に怪我はさせられない』というものが有る様な気がしてならなかった。



 一方、リンは再び相当な重傷を負っていた。

 莉空の瞬間移動攻撃を防ぐことは、やはり出来なかったのだ。

 「畜生。 二度も同じ攻撃を防げないとは......」

 自身の判断の誤りを認めざるを得ないリン。

 しかも今回は、仲間が助けに現れない。 

 「どうしたんだ。 他の4人は」

 呟きながら、ふらふらと立ち上げると、回復の魔術師『ナタリー・キース・レイフ』が、防御魔術を使いながら現れたのだった。

 「ナタリーさん。 どうして、ここに......」

 「折角だから、敵の回復魔術師ミヅキ・タチバナを観に来たのよ」

 「それは、ご高尚な趣味だな」

 「リンさん。 前回はミヅキを狙ったって聞いたけど?」

 「失敗したよ。 作戦ミスだ」

 「そうね。 リンさんの作戦ミスはあの子の真実を知らないから、起こるべくして起きたのかもね」

 「真実?」

 「リンさん知ってる? あの子、殺せないわよ」

 「それは、どういう意味だ」

 「意味って、今、私が言った通りよ」

 「不死身なのか?」

 「不死身じゃないわよ。 『神々達の悪戯』である異能者のスキルは色々有ると雖も、流石にそういうのは聞いたことが無いからね」

 「じゃあ、何なんだ?」

 「あの子は、暗黒魔術を使えるの。 殺そうとしたら、最終的には殺そうとした相手の生命を吸い尽くすことが出来るのよ~」

 「なんだ。 それでは絶対殺せないじゃないか」

 「そんな凄い魔術、残念ながら私は使えない。 だから御尊顔を拝しに来たのよ」

 「じゃあ、俺の作戦は根本的に間違っていたと?」

 「そういうことね~」

 「......」

 「あと、お仲間達壊滅状態よ。 もう死んじゃうかも」

 「なんだって?」

 「あ~あ。 こうなったのもシオン・アキヅキを目覚めさせちゃうからだよ。 ミヅキを殺そうとしたから......」

 「......」

 「シオンは、現在居る異能者で最強の魔術師」

 「俺じゃあ、太刀打ち出来ないと?」

 「そこまでは言わないわ~。 リンさん以外の4人では、本気になったシオンの相手にならないって言っただけ」

 リンは、今回の作戦が根本的に間違っていたとナタリーに指摘されたことで、一旦全面撤退し、大陸方面で陣容から全て立て直すことに決めた。


 「それで、ナタリーさんはどうするのだ?」

 「回復魔術を掛けられるのは3人までよ。 それ以上は直ぐには無理。 こんな惨敗じゃあ私がここに居ても仕方ないから、リンさんを連れて大陸に帰ろうかな。 あと2人なら私の魔術で一緒に連れて行けるけど、4人は無理ね」

 「じゃあ、メイリンとツオだ」

 「流石〜。 リーダーは即決じゃなくちゃね。 出身国で選んだのかな? それって正解だと思う。 私もRU国人って大キライだから......」

「......」

 「市民の命をボロ雑巾の様に思っている独裁者が続く国だし、もはや中堅国クラスなのに尊大で大国意識も強いから。 同じ陣営じゃ無かったら、滅ぼしてあげたいくらいなの」  

 「俺も、その意見には賛成だな」

 「あっ、シオンがこっちに向かってきたわ。 無駄口叩いている時間が無くなってきたから、撤退するわよ」

 ナタリーはそう言うと、リンに少しだけ回復魔術をかけてから、瀕死の重体で横たわっているツオとメイリンを拾い、素早くイワンとサーシャの残っている生命力をツオとメイリンに移すことで、瀕死状態から回復させると、リンがトドメを刺して楽にしてやり、黄泉の世界に行かせてから、戦線を離脱したのであった。



 攻撃が止んだので、警戒をしながら、5人が倒れているだろう場所を確認する詩音と海未。

 すると、イワンとサーシャの亡骸があった。

 手を合わせる2人。

 海未が遺骸を確認すると、

 「心臓を貫く新しい傷が2人に有るよ。 トドメを刺してあるみたい。 リンかな?」

 「そうだろうね。 向こう陣営の回復の魔術師ナタリー・キース・レイフも来ていたようだから」

 リンが莉空の攻撃で瓦礫の山に埋まっていた筈の場所に、回復魔術を使った形跡が残されていた。


 莉空が歩けるまで回復したので、詩音に合流した聖月達。

 「この形跡は......」

 地面に回復魔術の紋章が残っているのを見た聖月。

 「ナタリーが居たのね。 私を観に来ていたのかな? 生命力を他の人に移す特殊なスキルを持っているから、それを使ったみたい」

 そう説明すると、詩音が、

 「ナタリーも魔術師だから、2人くらいなら一緒に運べるのだろうけど。 瀕死の重体者4人だと足手まといになるから、2人だけ助けたのだろうね」

と敵の判断を推測する。


 紗良が残念そうに、

 「リンは無事か〜」

と嘆息し、それに対して詩音が、

 「回復魔術受けているから、今回も重傷でしょう。 ただ2回目だから、少しだけ避けれたのかもね、瞬間移動攻撃を」

とリンの負傷状況を予想するのであった。


 「しかし、今回は詩音、一切手加減しなかったね」

 聖月が詩音の意思を知りたくて、確認するように質問する。

 「手加減っていう言い方は適当じゃないよ。 莉空と蒼空君が命を賭けて封印を解いたように、私も自分にかけていた封印を解いただけ」

 『莉空君だけ呼び捨て? 心境の変化かな?』

 聖月は詩音の言葉遣いの微妙な変化に気付いたが、それについては質問しなかった。


 「リンが相手では、紋章魔術だけで勝つことは出来ないよ。 1回目の戦いでそう感じたの」

 「それに、1回目も2回目も、莉空が居なかったら、負けていたかもしれない。 瞬間移動攻撃が無くて、リンが無傷だったら1回目で私自身も負けていたと思う。 だから私は莉空に感謝しているよ」

 そう言うと、詩音は何かの魔術を唱えてから、いきなり莉空の頬にキスをした。

 驚く5人。

 一番驚いているのは莉空自身であった。

 「詩音さん......」

 「勘違いしないで。 聖月を命を賭けて護ってくれた御礼に、体じゅうの傷を消してあげようと思っただけ。 このやり方だと効果が強くなるからね。 それにほっぺだから挨拶。 欧米だと当たり前の習慣なのだから、そんなに驚くこと無いでしょ?」

 この時、聖月、紗良、海未の3人は、

 『言い訳ばかり連ねているけど、思わずしてしまったのだろうな~。 しかし冷徹な美女と言われる詩音が、こんなフランクなことをするなんて......』

と思っていたのであった。


 すると、みるみるうちに 

 「あれ......体の傷が......」

 莉空の体に鉄骨が刺さって、聖月の回復魔術でも消えなかった大きな傷跡が、詩音の頰へのキスの後、殆ど消えてしまったことに驚いていた。

 「回復魔術が使えない私に出来るのは、傷跡を消す魔術ぐらいだから......」

 詩音は小さな声で呟くと、

 「今後もピンチになったら、リンを二度も倒した瞬間移動攻撃を発動させる為に、瀕死の重傷を負って貰うことにするからよろしくね、莉空」

 詩音は悪戯っぽい笑顔を見せながら、その様な過酷な作戦を取るかもと冗談で言うのであった。



 それから、異能者にとって最も辛い儀式である、亡くなった敵異能者達の葬儀を行うこととなった。 

 戦闘で死去した異能者の葬送は、お互いの陣営共に、回復の魔術師が行う決まりとなっている。

 今回は、詩音も居るので、聖月と詩音の2人の魔術師で葬送を挙行することにした。

 6人は沢山の花を調達して、戦いで死んだイワン・ハバロフスキーとサーシャ・ニコラフの遺骸が置かれている戦闘場所近くの小さな公園で、2人に花を手向たむける。

 そして、詩音の魔術で天界の白い正装に変身した聖月と詩音が、魔術『天界の淡い焔』を花に包まれた2人の遺骸に向かって放つ。

 青色の淡い炎に包まれたイワンとサーシャの体。

 徐々に炎が大きくなり、2体の遺体が炎の中に消えてゆく......

 そして、詩音の右手と聖月の左手が重なって、天に高々と掲げると、青色の炎に包まれた2つの遺骸も空中に浮かび始める。

 最後に、聖月が右腕を伸ばして、天に向かって腕を大きく振り上げると、遺骸を包んだ青色の炎は、少し明るくなって来た早朝の澄み切った空の中を天へと昇ってゆき、やがて見えなくなるのであった......


 「不思議な光景だね......」

 莉空は初めて見る、現実世界では有り得ない幻想的なシーンに感涙極まって、蒼空に話し掛ける。

 「彼等、現実世界では幸せだったのだろうか?」

 素朴な疑問を口にする蒼空。

 「これが、異能者の宿命なのかと思うと、悲しいね」

 いつしか、彼等と同じ様なことが我が身に及ぶであろうことを覚悟しながら、死者を見送り続ける海未と紗良。

 パラレル世界における異能者にとって辛い時間は、間もなく終わろうとしていた。



 詩音と聖月は、遥か宇宙空間の彼方に、サーシャとイワンの遺骸を魔術で送り届けると、もとの衣服に戻そうとしたが、全員就寝時の格好であったことに気付く。

 「そうだ。 夜中の奇襲だったね」

 思い出したように、詩音が呟く。

 「荷物、どうしようか?」

 聖月が直ぐ近くのホテルの瓦礫を見つめながら、詩音に確認する。

 「私の荷物は、ここに有るよ」

 いつの間にか、自分の荷物だけは、襲撃前に魔術でキチンと隠して確保していた詩音。

 「ずるい。 詩音だけ〜」

 聖月はどうやら、普通に部屋に置いていたようだ。

 「私は分散して、一部をコインロッカーに入れて確保していたよ」

 紗良も、突然の攻撃を予想して、何箇所かに私物を分散していたということらしい。

 「まさか、海未さんも?」

 いつの間にか、私服に着替えていた海未に気付く聖月。

 「ゴメン。 俺も分散していました私物。 紗良の提言で......」

 「あ~あ。 私だけか〜。 荷物ひと纏めにしていた愚か者は......」

 嘆き続ける聖月。

 その姿を見て、『カワイイな』と思っていた蒼空と莉空。

 「莉空君と蒼空君は、私と同じよね?」

 聖月は仲間を見つけたと思い、安心感を得ようとしてきたが、

 「聖月さん、ゴメンなさい。 僕達元々荷物持ってきていないので......」

 その言葉に、大きなショックを受ける聖月。

 ガックリ肩を落とし、『お願い〜』と言って、詩音に抱き着くのであった。

 結局、背格好がほぼ同じ詩音の服を借りることになった聖月。

 新しく宿泊するホテルを探して見つけると、疲れた体を癒やす為、チェックインの手続きをするのであった。


 チェックイン後、莉空と蒼空が海未について行き、部屋に入ろうとすると、詩音が小声で、

 「莉空、蒼空君。 ちょっと待って」 

と呼び止める。

 怪訝そうな顔をする2人。

 「紗良さん、今日は海未さんと同じ部屋で」

 聖月がその様に薦める。

 「気を遣わせてゴメンね」

 紗良は感謝の言葉を述べると、海未のあとについて部屋に入ると、鍵を掛けたのであった。

 「僕達は?」

 「2人は今日、私達と同じ部屋」

 莉空の質問にそう答える詩音。


 部屋に入ると、

 「少しは気を遣いなさいよ」

と詩音に怒られる2人。

 「海未さんと紗良さんは、付き合っているのですか?」

 「そうよ。 異能者は特別な世界だから、カップルになることも多いの」

 「リン達は完全撤退したし、今日は襲撃の可能性皆無だから、海未さんと紗良さんを2人きりで、ゆっくり過ごさせてあげて。 さっきサーシャとイワンの亡骸を見たでしょ? 何時ああなるか、わからない世界なのだから......」

 理由を説明する詩音は、何処か少し悲しげな表情をしていた。


 「詩音は、恋人作らないの?」

 聖月の唐突な質問に、飲んでいた飲み物を吹き出してしまう詩音。

 「相手が居ないでしょ?」

 顔を少し赤らめて、親友が答える様子を見て何かを感じた聖月は、

 「詩音が亡くなる様な戦さだったら、私達全員死亡だろうからね。 まだ告白しなくても大丈夫か〜」

 いつも一緒に過ごしている者らしく、何か確信を持った言い方をするのだった。


 「莉空と蒼空君。 まだ異能者の戦いの世界に慣れていないだろうから疲れたでしょ? ここは温泉も有るから入って来たら?」

 詩音がそう薦めると2人は、

 「気を遣って頂きありがとうございます。 そうさせて貰います」

と言って、戦闘で疲れて汚れた体を綺麗にしてから休もうと、連れ立って温泉大浴場へ向かっていく。


 2人が部屋を出ると詩音は、

 「あの2人、どうして私に対して、言葉遣いが異様に丁寧なの?」

と聖月に尋ねる。

 「それは、リーダーに対する尊敬の念からじゃないですかね?」

 「そんな理由?」

 「学院における氷の美女。 絶対零度の凍てついた美少女に対する恐怖からかもね」

 聖月は、ふざけた回答をして笑い出す。

 「私って、学院でそんなに冷たい?」

 「どうかな~。 私は詩音が、誰よりも情があって、思いやり深い、実はホットな美女だって知っているけどね」

 「褒めても、何も出ないよ」

 「それも知ってる」

 「......」

 聖月に、先手先手を取られてしまう詩音。

 こういう話題では、聖月に全く敵わない。


 「ところで」

 「なに?」

 「詩音。 莉空君に、蒼空君が二度と私の回復魔術受けられないって教えて無いよね?」

 「うん、言ってないよ。 スキルの封印が解けたばかりで、そういう説明を受け容れられるレベルに達していないし、親友に対しての余計な気遣いをさせたくもないから......」

 「だとしたら、莉空君って詩音と同じで、ごく僅かに予知のスキルを持っている様な気がする」

 「どうしてそう感じるの?」

 「1回目の戦いの時、同じ様にリンの猛爆攻撃を受けた莉空君と蒼空君だけど、蒼空君は回復魔術が間に合わない程のダメージだったのに、莉空君はそれと比べたら、だいぶ余裕がある状態だったの」

 「2回目の戦いでも、本当は蒼空君の体に突き刺さった筈の鉄骨を、莉空君が庇って受けたのでしょ?」

 「そうみたいだね」

 「1回目はごく僅かだけど、急所に当たらない様に攻撃を躱した気がするし、2回目は予知能力が無いと、他人に当たった筈のものを、自分が代わりに受け止めるって芸当出来ないでしょ? その時莉空君は、異能者のスキル発動していた訳では無いのだし」

 「......」

 「しかも、蒼空君が二度と私の回復魔術受けられないって、何となく気付いているみたいなの。 何か夢みたいなもので、そういうシーンを既に見ているのかもしれない......」

 「聖月の感じた今の話が事実だとすると」

 「今後、そういう場面が有るのかも......」

 これからも続く戦闘の連続で、今迄以上の厳しい場面が訪れるだろう予感がした、詩音と聖月であった。


 

 温泉で疲れを癒やす莉空と蒼空。

 「少し気になっていたのだけど、蒼空のご両親、心配しているんだろうね。 終業式終わったのに息子が帰って来ないので」

 「そうだと思う。 でも」

 「でも?」

 「ヒイロの話の通りだったら、諦めていると思うよ。 異能者の宿命を少なからず知っていた筈だから......」

 「......」

 「宿命か〜」

 「どうしたんだ?」

 「何か、あまり好きな言葉じゃないな」

 「?」

 「宿命って言葉を使うと、全て思考が止まっちゃうじゃん。 仕方ないっていう感じで」

 「確かに」

 「宿命で有っても、変えようという気持ちと努力は捨てたくないな~って思うんだ」

 「莉空って前向きだよな。 天涯孤独なのに、そんな悲しげな雰囲気も見せないし」

 「もちろん寂しさをいつも感じているよ。 家族連れとかを見ると特に......」


 「話は変わるけど、俺達のスキルって、自分の意思では発動出来ない気がしてきたんだ」 

 「俺も、そう思う」

 「ピンチになった時だけ、自動的に発動する様な感じ?」

 「特に俺のスキルはそうだと思う。 シールド防御だから」

 「さっきも発動したの?」

 「多分。 ホテルが倒壊して、その後瓦礫が銃弾の様に飛んでいたけど、一つも当たっていないから」

 「確かに、ホテルが崩れて結構な高層階から転落して、上から降ってきた瓦礫に押し潰された筈なのに、俺も蒼空も無事だったのは、蒼空のシールドのお蔭なのだと思う。 ありがとう」

 「何を言っているんだよ。 あの鉄骨だけはシールドでは防げなかったよ。 それを莉空が身を挺して俺を庇ってくれたから、今こうして寛ぐことが出来ているんだ。 俺の方こそありがとうだよ」

 2人はお互いに礼を言うと、ノンビリ寛ぎ続けるのであった。

 もしかしたら、もう二度とこういう時間が訪れないのかもしれないのだからと。



 海未と紗良は久しぶりに2人きりになったので、存分に愛し合った。

 特に、イワンとサーシャの遺骸を見て、

 『自分達の時間も、いつか終わってしまうだろう』

 そういう不安が余計に強くなったからだ。

 その後、戦闘の疲れも有って、寝てしまった2人。

 起きた時には、午後になっていた。

 再び愛し合いながら、紗良は海未に、

 「私達、生き残れるかな?」

と内心の不安を漏らす。

 「いずれは、サーシャとイワンの様になると思う。 でも今はそのことは忘れておくべきだよ」

 優しい言葉で紗良の不安を和らげる海未。

 「年下4人のスキルをみると、私達のスキルってごく普通で、大したこと無いものね」

 紗良の指摘は、いつも鋭い。


 「詩音と莉空のスキルは最強クラスだよ。 だから僕達は幸運だと言えるんじゃないかな?」

 「その2人と同じチームに居るのだから、これ以上のグッドラックは無いわよね」

 「しかも、回復魔術の聖月が基本帯同している。 さっきの戦いだって蒼空のシールド防御が発動したから、ホテルの瓦礫に巻き込まれても無傷だった」

 「いつでも回復魔術が受けられるという、最高の環境に私達居るのだから、もしこれで戦場で倒れて場合、その時は諦めもつくわね」

 2人は不安な気持ちをお互いに吐露して吐き出すと、再び2人だけの世界に陥るのであった......



 莉空と蒼空は部屋に戻ると、美女2人は部屋に居なかった。

 どうも、温泉を味わいに行ったようだ。

 ベッド上で横になりながら、蒼空が、

 「学院でクラスメイトに゙、いつも貧乏人って見下されていた俺達が、まさか学院の誇る3大美女のうちの2人とこうして過ごすことになるとは、思いもよらなかったね」

 すると莉空は、

 「人生って、何が有るかわからないよな? 俺だって両親が生きていたら、クラスのあちら側に居たのかもしれない」

 「莉空は、イジメとか仲間外れとか人を蔑んだりする様な人物には成って居ないよ。 ご両親が健在であっても」

 「それはわからないさ。 人って育った環境で大きく人格が変わるものだから」

 「そうかな~。 俺はそうは思わないけど......」

 そんな話をしていると、戦いの疲れが出て、気付くと寝てしまっていた莉空と蒼空。


 莉空が、ふと目を覚ますと、

 「......」

 同じ大きなベッドに美女が寝ていた。

 詩音であった。

 反対側を見ると、聖月が寝ている。

 「そうだった、ベッド2つだったから、つい......」

 部屋に大きなベッドが2つしかないのに、莉空と蒼空で一つずつ使って寝てしまったので、詩音と聖月の寝るベッドが無かったのだ。

 そーっと起きて、ベッドを移動しようとすると、体が急に動かなくなる。

 「あれっ。 体が動かせない......」

 金縛りってこういうものなのかと思っていると、

 「う~、息が出来ない......」

 苦しくて、思わず呻く莉空。

 暫くすると、詩音の小さな声での悲鳴が聞こえて、息が出来るようになった。


 『ふ~。 死ぬかと思った』

 莉空がほっと一安心したところで、詩音が睨んでいることに気付く。

 「詩音さん、すいません。 つい一人で一つのベッド使ってしまって。 配慮が足りませんでした。 直ぐ移動します」

と言って起き上がろうとすると、

 「莉空。 人の下半身触っておいて、逃げ出そうとするの?」

 「えっ? 一切触れてませんけど」

 「絶対触った」

 「いえ。 僕はそんなことしていません」

 小声で口論を始める莉空と詩音。

 同じベッド上が騒騒しいので、聖月が目を覚ます。

 「詩音ちゃん......どうしたの?」

 「莉空が、私の大事なところを触ったの」

 「だから、触ってません」

 「大事なところって?」

 「いや、あの、その〜」

 「莉空君が、いきなりそんな大胆なこと出来ないんじゃないかな?」

 聖月が冷静に指摘する。


 「お二人が寝ているのに気付いて、移動しようと思ったら、金縛りに有って、息も出来なくて」

 「詩音さんの小さな声が聞こえたら、金縛り解けて、息も出来るようになったら、今度は怒られてしまい......」

 それを聞いた聖月がニヤニヤし始める。

 「詩音ちゃん。 魔術使ったでしょ?」

 「ええっと、使って無いよ......金縛りじゃない?」

 「無闇に魔術使うから、私が莉空君を助けてあげようと思って、魔術で詩音ちゃんの体を触ってあげたの」

 種明かしした聖月は、非常に嬉しそう。

 やられたという顔をする詩音。


 「そもそも、私がソファーで寝ようとしたら、一緒に寝て欲しいって言ったの詩音じゃない? 莉空君の横で寝たいって言うから」

 聖月に寝る前の会話をバラされて、真っ赤になる詩音。

 でも、その言葉を聞く前に、眠気に負けて再び寝てしまった莉空。

 その様子を見て、聖月が笑い出す。

 「あ~あ。 折角詩音ちゃんの気持ちを暴露してあげているのに寝ちゃうなんて。 チャンスを逃すのが莉空君の運命かもね」

 「......」 

 「回復魔術受けたばかりだから、眠気が凄いのは仕方ないか〜。 詩音ちゃん、今なら莉空君の体、触りたい放題だよ」

 「......」

 その後、ソファーをベッドに組み直して眠りに就く聖月。

 詩音は結局、莉空と同じ大型ベッドの上に居るままであった。


 すやすや眠る莉空の寝顔は、意外とカワイイ。

 その顔を見て撫でながら、詩音は、

 「リンとの戦い、貴方達の勇気のお蔭で初戦は勝つことが出来ました。 莉空のスキルが無かったら死者が出ていたのは私達の方だったと思う。 今はゆっくり休んでね」

 詩音は小さな声で呟くと、莉空の傷だらけになった体に触れてみたが、2人の特殊なスキル同士が未知の反応で共鳴し、傷が出来たその瞬間の痛みも共有してしまった詩音は、莉空の辛さを体感したことで、涙が自然と零れ出てしまうのであった。

 

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