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悪戯と黄昏の刻に・第一紀(異能者の戦い)  作者: 嶋 秀
第二章(リアル世界篇(伝説の魔術師リヴ・レヴ(詩音)を中心としたルキフェルとの戦い))
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第38話(神々の懲罰)

異能者の戦いのルールを知らないまま、C国やRU国の謀略に乗せられて、不文律を破り続ける、NH国の新連立政権や国防軍幹部。

ついに、神々による懲罰の決定が下されるのであった。


 現在のNH国政府が璃月詩音の存在に拘るのには、大きな理由があった。

 それは前回の異能者の戦いについて、C国とRU国が意図的に流出させた極秘情報にある。

 色々な思惑が有った上での情報漏出であったのだが、謀略戦の経験不足が災いし、NH国の新連立政権と国防軍はC国とRU国の結託した策略に引っ掛かってしまい、思う壺状態であったということになる。

 両国の目的は、第一義的に、NH国とAM国の関係にヒビを入れること。

 新政権は国家主義的な傾向が非常に強く、民主主義を看板とする超大国AM国と軋轢が生じる可能性が出てきたことでの謀略であった。

 そして第二義的には、異能者の戦いに関する不文律を主体的に破らせ、NH国を混乱に陥らせようという罠でもあったのだ。



 この時までにNH国の政府や軍の諜報部門が入手した情報は、異能者の戦いの結果が短く書かれたもので、C国からのものは、

 『璃月詩音が我が国の異能者2人に瀕死の重傷を負わせ、戦いは終始劣勢のまま終了した』

というものであり、RU国の情報は、

 『シオン・アキヅキが、我が国の異能者2人を殺害し、結果は大敗と言える』

との内容であった。

 NH国陣営で戦った他の異能者については、目立つ活躍は無かったとの記載のみであり、だからこそNH国在住の3人の異能者のうち、莉空ではなく詩音について、行動把握とあわよくば従わせたいという意向を持っていたのだ。


 そしてC国もRU国も、最も大事な情報は隠していた。

 それは、現実社会における『異能者への不関与』であった。

 両国共に、かつて現実世界における異能者の存否に強く関与した結果、国が崩壊(ソ◯◯トの滅亡)したり、崩壊しかける(毛◯◯主義による内乱・天◯◯事件発生)等という痛い目に有っており、以後過去から伝わる異能者の戦いの原理原則である

 『不文律の遵守』

に従って静観するという姿勢に徹していたのだ。

 そうした姿勢は、長年NH国でも同様であったのだが、政権交代時に過去の極秘情報が意図的に伏せられた結果、現在の新連立政権は重要なその踏み絵を知らないまま、戦いの結果で得られた果実を更に実らせたいという欲望を膨らませて、

 『異能者の戦いへの不関与』

という不文律を破る動きに繋がっていた。


 勿論、この不文律の存在が意図的に隠されたのは前政権までの長期に渡り国の実権を握ってきた旧与党側の陰謀でもあり、それを破れば大きな災いが発生して、新政権が崩壊すると見込んでの動きであった。

 C国とRU国の謀略と同様の意図を含んだものであった。



 「さて、行きましょうか? リン、色々とありがとうね。 またあとで合流しましょう」

 詩音レヴは莉空とデュオに語り掛けると、リンの準備した車両で空港に向けて出発したのであった。

 空港に到着すると、リンの情報通り、NH国防航空宇宙軍から派遣された若手士官2名が出国ゲート手前で張り込み続けていた。

 「あの2人ね。 莉空がHND空港で撮ってくれた写真が役に立ったわ」

 携帯端末で撮影した写真を網膜に映し出して比較しながら、莉空を褒める。

 珍しく褒められて、恥ずかしそうな莉空。

 「照れている場合じゃないわよ」

 詩音レヴはそう言いながら、リンに連絡を入れ、

 「予定通りで、お願いね」

 その一言で事態は急に動き出す。

 リンが自国政府に、自身の賓客に対する、NH国の動きと政府の対応、情報漏洩等の苦情を入れたのだ。

 それも、直接SINGP国首相に対してであった。


 僅か約10分後。

 空港の出国ゲートが閉鎖されてしまう。

 同じ場所に長時間滞在し続けている不審者が居るからという理由であった。

 そして、空港警備や警察、更にはSINGP国軍に囲まれるNH国国防軍の若手士官2名。

 急なSINGP国政府介入の動きに、璃月詩音達が出国するのだと気付いた2人であったが、既にその場で事情聴取が始まってしまったことで、身動きが一切取れない。

 言葉も不自由で焦る2人。

 すると、敬々しく警護が付いた一団が閉鎖されている筈の出国ゲートに入って行くのだった。

 2人に向かって手を振る詩音レヴ

 その余裕の態度を見て、歯噛みする若手士官2名。

 もう尾行は不可能だということも理解したのであった。



 結局、出国ゲートの封鎖はNH国の士官2名が事情聴取の為、空港に隣接する警備施設に連れて行かれたことで、直後に解除された。

 だが、出国手続きの混雑状態が発生し、緊急事態発生の連絡を受けて、急遽空港に到着したNH国情報局の4名が、出国ゲートを通過出来たのは、数時間後。

 しかも、詩音達の行先がわからないので、仕方なくNH国行きの航空券を購入して、ゲートを通過したのであった。

 既に、詩音レヴと莉空、それにデュオの3名は、AUSTR国の航空会社を使って、EUR方面へと出発してしまっていた。

 連絡を受けて、本国から慌てて行先を調査する情報局を始めとするNH国の関係省庁や国防軍情報部。

 しかし、出入国管理システムでは、詩音も莉空もSINGP国に滞在中のままとなっており、行先は全くわからない状況であった。



 結局、詳細が判明したのは数日後であった。

 二重国籍である詩音も莉空も、それぞれ2つのパスポートを持っている。

 今回NH国の出入国情報が無いことのは、詩音はAM国の旅券を使い、莉空は母エリンの母国FRA国の旅券を使ってSINGP国から出国した為であり、出国先は不明のままであった。

 今までは、AM国への出入国以外NH国の旅券を使っていた詩音であったが、NH国政府は彼等の不味い行動で、2人を事実上他国民となる方向へと追いやる可能性を高める結果となってしまったのだ。



 「何という結果だ」 

 経過報告を受けた国防陸軍の龍蔵中将は、怒りを部下や側近にぶつけていた。

 「大事な勝つ為の駒を、みすみす他国に追いやろうとするなんてな。 二重国籍者は我が国で20歳までに国籍を選ぶ必要が有るからこそ、19歳の詩音の行動を把握しておくように指示をしたのだが、それを嫌がらせのように追い回すから悪い結果を生む。 関係者には厳しく叱責しておけ」

 その言葉を聞き、

 『中将が不必要で余計な追尾を指示した結果ではないか。 それも他省庁への対抗意識から』

 その場に居た全員がそう感じたのであったが、もちろん口にはしない。

 「当面は行先を突き止めろ。 それが最優先だ。 まあ、いずれ大学に通う為に戻って来るだろうから、それまでにお前等はAM国籍を選ばせないような上手い方策を考えておけ」

 再指示を済ますと、自身の指示が大失敗したという都合の悪いことは忘れて、別件の話を始める。

 所詮、大学生の小娘一人のことなど、後でどうにでも挽回出来ると考えていたからであった。




 「詩音。 僕達そろそろ選ばないとイケないよね? NH国が二重国籍を認めていないから」

 「私はもう決めているわよ。 今回の件で余計に嫌になったのも有るけどね」

 その言葉で、詩音がNH国籍を放棄するという意味だと理解した莉空。

 「莉空はNH国籍のままでイイんだよ。 言葉も話せないのに、外国籍を選ぶ必要無いからね。 それに表向きはFRA国籍を離脱するように求められているけど、まあやりようは有るし、こんな時代だもの。 せっかく出自で得られた先進国の国籍は特に重要よ」

 そしてニヤッとした詩音。


 「私だって、10年以上生まれ育ったNH国に愛着が有るわ。 治安が良くて住みやすいし、本当に良い国だと思う。 AM国は治安が悪いからね」

 「でも、AM国籍を選ぶの?」

 「国境なんて無関係のレヴという立場からしたら、どうでも良いことなの。 でも詩音にとっては大きな問題。 私は乳児の頃に渡航してから小学校低学年までAM国で育ったし、それ以後もよく行き来しているから、本当ならばどちらか一つを選びたくないの。 ただNH国は二重国籍を認めない少数派の国の一つだから仕方ないわ。 お祖父様の後継者でもあるし、その意向を考慮しなければならないのでね」

 その表情には苦渋の決断だという、詩音の心情がよく出ていた。

 そして、世界の潮流に乗ることが出来ない保守的な傾向が強いまま、衰退期に突入してしまった母国NH国のことを残念に思うのだった。


 「NH国が世界経済をリードする国のままだったら、もっと違う形になっていたと思う。 懐の余裕は心の余裕を生み、寛容な精神を持つ国民が増えるし、世界をリードするってことは島国根性丸出しの超保守的な考えを、一部変えなければならないという原動力に繋がるのよ」

 「確かにそうだね」

 「二重国籍の問題も、大戦前からの超保守的考えが残っている影響の一つなのかな? 世界経済をリードする国のままだったら、世界中の人々を一定程度受け容れなければならないし、より開かれた国にならなければ、その地位を維持し続けられないから、変わっていたのかもね」

 「詩音って、やっぱり才色兼備の、同世代のみんなが憧れる存在なのだな~って思う。 マジメな話をする時は」

 「何、その表現。 普段の私は違うって言うの?」

 「最近は、レヴの影響が強く出ていると思うんだよね。 天然素材のレヴが」

 「う〜〜。 何と答えるべきか......」

 「二重国籍の話だけど、NH国もハーフの子がかなり増えてきているでしょ? 少子高齢化が進み、必要な若い労働力として留学生等という滞在資格で外国人が流入しているよね?」

 「ハーフの子が増え続けることで、二重国籍をいずれは認めざるを得なくなる。 それに労働力不足を補うには、外国人の若者を呼び込むしか方法がないから、その障害となる法律は変えざるを得ないってことになるかもね」

 珍しく真面目な話題で話し込む2人。


 その様子を、通路を挟んで離れた席で見守るデュオ。

 詳しい事情は聞いていないが、2人は最近NH国政府や軍に行動を監視されていたという。

 『若い子達にとって、そんなことをされると、国に裏切られたという感を抱くのは当然だよな』 

 そんなことを年長者として、デュオは考えていた。

 

 「さて本題のナタリーだけど、母国に帰ったのかな? それとも生活の拠点としていた国に居るのか......」

 デュオは、北半球にある世界経済の3大中心地から地理的に離れたAUSTR国の企業経営者であるので、個人的に諜報部員を抱えていて、世界中の情報収集に努めている。

 今回、レヴからの連絡を受けて以降、ナタリー・キース・レイフの所在を捜索させていたが、世界の中から、異能者であるただ一人の人物を探し出すというのは、相当難しい問題であった。

 飛行機の機内で諜報員からの報告を読むデュオ。

 その内容は、やはり芳しいものでは無かったのだ。

 難しい表情に気付いた詩音が、通路越しに声を掛ける。

 「何、難しい顔して」

 レヴ(詩音)に気に掛けて貰えたことで、表情がぱーっと明るくなる。

 その様子を見て、

 「相変わらず単純ね〜。 難しい顔をしていたのはナタリーの所在についてでしょ? EURに移動したら、パラレル世界に移動して探すから大丈夫よ。 多分」

 「それで、尾行を嫌がっていたのですか? 監視者の前でパラレル世界との往復を繰り返せば、余計な情報を与えることになると」

 「現実世界に居る異能者に対して、不必要な行動監視や殺害のような行動は絶対に行ってはイケない不文律よ。 必要な訓練すら出来なくなるからね」

 そう答えてから、

 「おやすみ」

とひとこと。

 ようやく尾行を完全に振り切ったので、安心して寝れるからだ。

 その姿を見て、デュオと莉空は視線を合わせて頷く。

 機内での万が一に備えて、2人で詩音レヴの護衛を開始する合図であった。

 そして思索を続けるデュオ。

 一つ気になることがある。

 異能者として、神など存在しないことに勿論気付いているが、

 『さっき話に出た不文律の存在。 それを破った時に、誰が懲罰をその国に課しているのか?......まさかレヴが......』

 



 その後3人は、予定時刻通りENL国のLHR国際空港に到着していた。

 一旦入国してナタリーに関する情報収集を始める為、LON市内にあるデュオの別邸へと移動したのだ。

 「一旦、パラレル世界に行って来るわ。 2人は連れて行けないので、現実世界で引き続き探してね」

 レヴの突然の言葉に、驚きの表情を見せる莉空。

 「連れて行けないって......今までそんなこと無かったのに、どうして?」

 「まあ、私も色々と秘密が有るのよ。 麗しき乙女の秘密を探ってはダメなのよ」

 詩音レヴはそう言いながら、莉空の顔を両手で撫でる。

 「ところで、デュオは何も言わないの?」

 「レヴの決めたことに異義を唱える程、私は野暮な御仁ではありません」

 この時ほど真剣な表情で話すデュオ・アーガイルの姿を莉空は見たことが無かった。


 「デュオ。 貴方の考えていることの半分は当たりだけど、半分は間違っているわ。 今回の件で懲罰を与えるのは別人物の役目だから......」

 レヴは意味深な言葉を残しながら、姿が消えたのだった。

 「デュオさん。 今のはどういう意味なのでしょう?」

 「莉空君。 君は異能者として覚醒してから今まで、創造主の様なものが存在していると感じているかい? 若しくは信じているのかな?」

 「いえ。 全く」

 「では、不文律については」

 「それは、あれですよね。 現実世界で異能者を暗殺したり傷つけたりすると、ペナルティーが発生するっていう」

 「実はもう少し広範囲なんだよ、不文律って。 異能者全般に関して、現実世界の人間達は静観しなければならないって言うのが不文律なのさ。 ルキフェルの襲撃に対する護衛は範疇外で許されるけど」

 「そうなのですね」

 「それで、ペナルティーって誰が課すのだろうって。 神か?創造主か? 莉空君はどう考える」

 「それって......まさかレヴが?」

 「さっきのレヴの言葉はその回答だよ。 『別人物』っていうね」



 パラレル世界に移動したリヴ・レヴは、ナタリーの所在を探していると、とある人物からの直接の接触を受けていた。

 「ヴァ・エァ。 直接会うのは久しぶりね」 

 「レヴ。 用件を手短に済ますぞ。 不文律関係の確認だ」

 「......」

 「現在、NH国が実施している戸次莉空に対する尾行や行動監視は、不文律を破ったということになる。 レヴと璃月詩音に対するものは、詩音が既に異能者では無いのでグレーゾーンだが、これも不文律を犯したものと我は判断している。 私は2つの世界の管理者として、NH国に懲罰を課さねばならぬが、反対するか?」

 「私も王......ヴァ・エァと同じ考えだわ。 たとえ不文律を知らなかったと言っても」

 「今回は私の方で実施しよう」

 「任せる。 あまり気乗りしないから」

 「それは璃月詩音と一体化した影響かな?」

 「いえ、その影響は無いわよ。 私も管理者の一人。 その立場が最優先されることを熟知しているから」

 「しかし、レヴが詩音となっているとはな」

 「それは、管理者という立場を破ったペナルティーよ。 私が私自身に課したの」

 「そうだったのか。 そうだ、久しぶりの再会だから一つ教えておこう。 ナタリー・レイフはBDG国に居る。 次レヴと会う時は敵同士だろうからな」

 それだけ話すと、ヴァ・エァなる人物は姿を消した。


 パラレル世界に莉空とデュオを連れて来なかったのは、2人しか居ない世界の管理者としての話し合いが有るとわかっていたからだ。

 異能者の戦いに、現実世界の人々の恣意が関与するようになっては、秩序が崩れてしまう。

 それを防ぐ為に、小さな違反で有っても、大きな懲罰が課される決まりとなっている。

 それが神々による抑止力というものなのだ。

 これからNH国に課される懲罰は相当なレベルのものとなるであろう。

 それがわかっていた詩音レヴは、その国の国民となっていることで、気分が晴れないのであった。

 

 

 

 やがて、デュオの別宅に戻ってきた詩音レヴ

 その表情は冴えないもののように思えた。

 「どうしたの?」

 思わず尋ねてしまう莉空。

 詩音は何も答えないままであったが、その表情から内容を理解した莉空。

 2人の会話を聞いていたデュオは、直ぐに部下たちに連絡を取り始めた。

 ひとまずNH国にある換金可能な資産は、周囲に目立たないよう、さり気なく全てを売却するようにと。

 その指示を聞いていた詩音レヴは、呆れた様子で、

 「抜け目無いわね~。 成功した経営者って」

と、ひとことだけ発するのだった。



 やがて、

 「私が成功した弟子達と、あまり行動を共に出来ない理由ってわかったでしょ? 莉空」

 「そうだね。 これは狡すぎる」

 そう言って、デュオの方を見る。

 「僕の判断には、数百万人の従業員とその家族の生活がかかっているからね」

 誰よりも先に得た情報を有効活用する姿勢に悪びれず答える。


 「ところで、ナタリーの居場所はわかりましたか?」

 「BDG国よ。 E優最大の経済大国って、ちょっと意外だわ」

 「わかりました。 ひとまず諜報部員に情報収集させます」

 「デュオ。 お願いね」

 「任せて下さい。 レヴの為にも、絶対見つけてみせますよ」

 そう言って胸を張ったところ、

 「探すのは、部下達でしょ?」

と突っ込みが入り、ようやく笑いが起きるのであった。


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