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悪戯と黄昏の刻に・第一紀(異能者の戦い)  作者: 嶋 秀
第二章(リアル世界篇(伝説の魔術師リヴ・レヴ(詩音)を中心としたルキフェルとの戦い))
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第37話(再出国)

やはり、NH国政府から尾行をされ続ける詩音と莉空。

ひとまず、詩音やレヴを支えてくれる人達の助力を得て、巻くことに成功するが、政府の本気度を把握する為、以後の予定は流動的となってしまうのであった。


 詩音と莉空は、出国手続き中に、外側で何だか騒がしい状況が発生していることに気が付いていた。

 そこで詩音レヴが魔術を使って、携帯端末に直ぐ外の様子を映し出すと、ヒイロがゴタゴタに巻き込まれている状況だったのだ。


 「仕方ないなあ。 巻き込んだのは私達だし、ピンチが広がったら、ヒイロを魔術で援護するよ」

 莉空にそんな説明をしていたところに、詩音が幼い頃、身辺警護をしていた特務武官の姿が見えたのであった。

 「あれは、櫂中佐?」

 十数年の月日が流れ、年を取っていたが、見間違える筈がない。

 国の命令で一時的に民間へ出向し、NH国の最重要人物である璃月家当主の警護責任者となっていたからだ。

 「中佐じゃなくて、今は少将閣下だったわね」

 そんな独り言を呟きながら、足を止めて網膜に映る映像を見守る詩音。


 それに対し莉空は、周囲の警戒をしていたが、突然詩音が端末を弄りながら、足を止めたことに対して、不自然な動きをした数人の男の存在に気付いたので、チェックを入れるのだった。

 「ヒイロさんの状況は?」

 「政府関係者に取り囲まれちゃったけど、応援で本国から特別チームの人達が来ていて、睨み合いの一触即発状態だわ」

 その後、櫂少将の仲裁で対峙状態が解けたことが確認出来たので、詩音は出発ゲートに向かって歩き始める。


 「尾行者が居るよ。 今回は6人かな?」

 「正確には、情報当局の人員が4人、国防軍が2人だね」

 「なんで、そこまで知っているの?」

 「お祖父様の知己に、国防軍の櫂少将っていう方が居るのだけど、さっきその人にメールで教えて貰ったのよ」

 「いつの間に......」

 「私達が誕生したあのプロジェクトの関係者だった方なの。 プロジェクト自体、10年近く困難を極め、AM国の全面協力に漕ぎ着けた上で、ようやく先輩達や私達が生まれるという苦労の連続だったから、当時のメンバーの結び付きが非常に強いのよ。 ヒイロもそうだけど、そういう人は頼りになるんだよね〜」

 詩音は莉空に説明を終えると、待合室の座席に座って、謝礼のメールを送ったのだった。



 今回は、あえて乗り継ぎの予定を組んだ詩音。

 一旦他国に移動することで、尾行を煙に巻くつもりなのだ。

 「SINGP空港で乗り継ぎするんだよね」

 「そうよ」

 「その先の航空券の予約が無いのだけど......」

 「それは、あいつ等の出方次第で決まるの。 そもそも政府の犬のアイツ等、私が異能者璃月詩音だと思い込んでいるから、いい加減異能者で無くなった事実を明かしてあげたいのだけど......」

 「万が一レヴだと知ったら、逆に人間兵器として洗脳を考えるかもしれないよ」

 「それなんだよね、問題は」

 憂鬱そうな表情を浮かべる詩音レヴ

 今のところ科学の発達が、レヴの魔術を上回るレベルには全く到達していないが、油断すれば、足元を救われる時代になってきたのは事実であった。



 今回も詩音は、NH国の航空会社のLCCを予約して、SINGP空港に向かう。 

 「やっと、無駄遣いを止める気になったのかな。 この間、お祖父様に怒られたのが効いているみたいだね」

 莉空は嬉しそうに呟いたが、これは詩音に聞こえていなかった。

 一方、詩音は、

 『アイツ等、体がデカイから窮屈そう〜。 ざまあみやがれ』

 莉空の考えとは全く異なり、そんなことを考えていて、尾行者に対する嫌がらせで、座席の狭いLCCを選んでいたようだ。



 SINGP国際空港に到着すると、入国手続きの時点で詩音と莉空を見失った尾行者達。

 そのカラクリに、レヴの弟子リン・シェーロンが1枚噛んでいたのだった。

 「やっほ~、リン。 また来ちゃった~」 

 SINGP国を代表する大富豪としてのリンの立場を利用し、その賓客としてVIPが通るレーンを使ったことで、尾行をアッサリと巻いたのだった。


 「レヴが尾行されるなんて、そんなこと有るんですね」

 説明を受けて、妙な感心をするリン。

 普通なら、魔術で相手の意識を失わせたりコントロールして、追尾出来ないようにしてしまうらしい。

 「そのやり方を繰り返したら、ちょっと不味いでしょ? 少なくとも連中は、詩音のことを手品師ぐらいには思っているのだから」

 「政府相手だから、慎重に物事を進めているのですね。 今回の場合は異能者璃月詩音と一体化したせいですが、そうでなくても普段からレヴには慎重で有って欲しいと、弟子の一人として思っていますよ」

 そんな会話をしながら、リンの邸宅へと向かうことに。

 邸宅と言っても実務的なリンは、本社ビルの中に、こじんまりとした居住スペースを作って住んでいるそうだ。

 土地が狭いSINGP国ならではの考えらしい。

 警護の車両に挟まれて、本社ビルに入っていく3人。

 前回は病室での対面だったので、ここに入るのはレヴも初めてであった。


 案内された場所は、決して広くない居住スペースだが、ハイテクな部屋は非常に近未来的だ。

 あらゆる経済的な情報が壁一面のモニターに映し出されていると思ったら、天井にはリンの企業体が運営する貨物船やら航空機やら大型輸送車両やらが地図と一緒に表示されている。

 他の壁にも、多種多様な情報が映し出されていた。

 「リン。 このギラギラした部屋で落ち着ける?」

 レヴの素朴な疑問に、

 「うちの社員は、24時間交代制で働いている者も居るのだから、トップの私もある程度のことは把握しておかねばならないのですよ」

 「成功者も大変ってことね。 私、アルバイト、頑張ろうかな〜」

 「......アルバイト?」

 その疑問に説明をする莉空。

 すると、

 「璃月詩音と一体化しても、金欠の魔術師レヴに変化は無いのですね。 どうせそんなことだろうと思っていましたよ」

 そう言いながら、可笑しそうな様子のリン。

 レヴは少し不満そうだ。


 「ところで、頼んでおいた件だけど......」

 「私もあとで合流しますが、いかんせん仕事が忙しいので......」

 「それで代わりがファエサル?」

 「ナタリーと親しい異能者であれば、一番は彼ですよ」

 「う~ん......」

 「嫌ですか?」

 「リンは私がファエサルと会いたくない理由を知っているでしょ?」

 「ええ、もちろん。 だから前回の異能者の戦いで、初耳の精神攻撃魔術を放ったのですよね?」

 「ああ、あれね~」

 「もしかして、本気で殺るつもりだったのですか?」

 「さあ、どうでしょうね~。 私も初めて実戦で使った代物だったのは事実だけど......」

 その答えを聞いたリンは、

 『今回、代役ファエサルは止めた方が良いかもな。 使ったことの無い精神攻撃魔術を躊躇なく放ったってことは......レヴはファエサルが死んでも構わないと思っているみたいだ』

 そんな感想を抱いたのであった。



 「それで、当面は?」

 莉空がレヴに今後の方針を質問すると、

 「ここで様子を見ましょうかね。 尾行者達がどういうルートを使って、私達の居場所を探し出すか、興味が有るから」

 そして、何やら誰かに連絡を取り始めた。

 「デュオ〜。 元気にしてる〜? それで、お願いが有るんだけど~」

 そこまで言うと、ちらっとリンを見てから、

 「暫く、私の用件に付き合ってくれないかなあ~。 えっ、イイの? 直ぐに来てくれるって? いやあ、1週間後で構わないよ。 今はSINGP国に居るの。 そう、リンのところ......じゃー、また連絡入れてね~」

 そんな会話で通話は途切れる。

 『これ見よがしに......2人の弟子を競わせようという魂胆だな~』

 ミエミエの行動に、リンも莉空も呆れた表情。

 

 「そういう訳で、リンもよろしく〜」

 その言葉にガクッと崩れる2人。

 「はい、もう、わかりました。 全面的に協力しますから」

 師匠の性格を熟知しているので、仕方ないという表情で答えるのだった。



 

 一方、大学生2人への尾行なのに、あっさりと巻かれてしまった6人の面々。

 手分けして探したが、全く行方が摑めなかったのだ。

 仕方なく、本国にその旨を連絡するそれぞれのグループ。

 当然、どちらを大目玉を食らっていた。


 「乗り継ぎで他国に向かったのではないのか?」

 足取りを探ろうにも、ここは異国の地。

 言葉も不自由な異国の地なのに、どうしてロクに外国語を話せないこの6人を選定したのか?

 そんな疑問も生じてしまう。

 それは、

 「上からの指示だから仕方ない。 理由もわからないのだから、一応言われた通り、追尾しておけば十分だろう」

 そんなお役所的な考えから、急な命令に手が空いていた人物と若手を適当に選んで付けただけだったからである。


 翻訳アプリや翻訳機を使っても、空港関係者等となかなか意思疎通出来ず、しかも目的を話せず、誤魔化しが入るので、現地での捜索は余計に行き詰まってしまう状況。

 結局、本国で調査して貰うことで、結論が出たのであった。


 「係長。 この尾行の目的は何なのですか?」

 「さあな。 そういうことは聞かずに言われた仕事を黙ってするのが、我々の立場だよ」

 「でも、どう見たって、美女のお嬢様とイケメンの彼氏の長期旅行でしょ? 情報局の対象者だとは思えませんが」

 「そうかもしれん。 でも、あの人達も尾行を命じられているのだぞ?」

 上司のその言葉に、若手3人が近くで色々連絡を取っている2人組の方を見やる。

 「国防軍ですか? ではあの大学生2人はテロリストとか?」

 「そんなことは無いだろう。 AM国軍が保護対象としているらしいから」

 「それならば確かに」 

 「見失った理由は、お嬢様だから特別ルートで入国審査をパスしたのさ。 我々と違ってご両親もこちらに在住しているしな」

 「なるほど〜。 我々は別に巻かれた訳では無いのですね」

 一連の会話で若手達はそういう判断に至り、安心した表情に。

 そんな能天気な3人を見ながら、

 『どんな理由であっても見失えば、それは巻かれたってことだ。 最近の若手達は、楽観的過ぎるな』

 そんなことを考えていた責任者である上司だった。



 その後、外交ルートや駐在の大使まで動員して、ようやく裏情報を入手出来た情報局。

 結局、VIPレーンを通ってあっという間に審査をパスしていたことがわかったのだ。

 ただ滞在先は、

 『教えることは出来ない』

の一点張りであり、その状況から本当にVIP絡みで滞在していることが推測出来ただけであった。


 「これは参った。 滞在先がわからないのに、このコンクリートジャングルの何処で見張れば良いのだ」

 本国に打ち切りを打診しても、

 「やんごとなき方々の意向なので、簡単には打ち切り出来ない。 それにSINGP国は都市国家で面積が狭い。 何処か観光名所で張り込めば、偶然見つけられるかもしれない。 現地で少し努力してくれ」

 そんな指示が飛んできたのだ。

 そこで、現地で彷徨う2グループは話し合った結果、抜け駆けをせず協力して探すことに決したのだった。


 ひとまず手分けして、有名観光スポットで張り込むことに決めた6人。

 しかし、一向に現れる様子は無い。

 3日経ち、4日経っても対象が現れることは無かった。

 「もう出国しちゃったのではありませんか?」

 「いや、大使館の方で毎朝確認して貰っているよ。 自国民の保護を理由にな」

 「ご両親を訪問しているのでは?」

 「来ていないと回答を貰っている。 邸宅の警備員を通じてだがな」

 「本当に困りましたね~」

 情報局の若手3人は、休みも潰れた上に、いつ任務解除になるのかわからず、イライラを募らせている。

 それは上司の係長も一緒であったが、立場上グッと堪えていたのだった。


 一方国防軍の2人は、情報局の4人よりも真剣に探していた。

 極秘会議で、公安あがりの情報局ではなく自分達が適任だと、中枢幹部が発言してしまった以上、階級社会で上意下達の軍組織であることから、

 『情報部員よりも、絶対に先に見つけろ』

と厳命がおりていたからだ。

 しかし、勝手わからぬ異国の地。

 金融立国の都市国家で活気に満ちており、特に若いビジネスマンと観光客が非常に多いので、正直なところ、

 「こんなに人が多いのでは、無理だよ」

と思っていたのだった。


 「どうする。 諦めるか?」 

 「そうしたいが、とにかく努力を続けるしかないな」

 マジメな若手士官らしい、そんな会話をしていた2人。

 時々、一緒にやって来た情報局の人達を見掛けるが、その姿は探す気があるようにはとても見えず、それどころか観光して楽しんでいるのか?と思うくらい。

 食べたり飲んだり写真を撮ったり、そんな姿が目に付くのであった。

 「アイツ等があんな感じじゃあ、まあ発見は無理だな」

 流石に心が折れかかっている状態。

 「情報局はお気楽でイイよ。 所詮他省庁からの依頼での尾行だから、見失ったって責任も無いし。 文句あるなら自分達で実行すべきだと言えるもんな〜」

 「でもこれって、主流派が言い出した仕事だろ? 旅を謳歌している大学生を尾行したって、国防の何に関係があるんだよ」

 「今回の件の発案者は、龍蔵中将だよ」

 「それでか〜。 国防軍全体トップである統合作戦本部本部長の次期最有力候補と言われている人物が黒幕で絡んでいるんじゃ、事なかれ主義の中間派が多い我が空軍では、尾行に人員を出して協力しろと言われたら断り切れないのも当然だな」



 二人は、国防航空宇宙軍に所属の若手士官。

 龍蔵中将は、国防陸軍の中心人物であり、

 「異能者の戦いで勝利し続けることが、計画中の対C国報復戦の勝利に繋がるのだ。 何としてでも璃月詩音を我等が掌中に入れろ。 絶対AM国に取られてはならぬ」

と指示した、旧タイプの精神論者の塊みたいな人物であった。

 思想的には極右に近く、陰謀論を好み、そうした人物である故、オカルト的なモノも信じる素養と傾向が見られたのだ。

 だからこそ、異能者の戦いに関する情報を真剣に集めており、それに関しては曲解の連続ながらも、正解に繋がっていたのだった。


 


 国防空軍若手士官のボヤきとは裏腹に、詩音レヴは、SINGP国滞在を楽しんでいたのだった。 

 昼間はリンの仕事の邪魔をしてはイケないと、観光に勤しんでいたのだが、尾行者達が詩音と莉空を発見出来ないのには訳があった。

 それはデートの邪魔をされたく無いと、レヴの魔術を使って変装していたので、絶対に見つけられる筈が無かったのだ。

 この日も莉空と市内中心部をデートしていると、詩音があることに気付いたのだ。


 「あのスーツを着た3人は、情報局の尾行者だね」

 「こんなところでスーツ姿って、少し違和感が......」

 「でも、仕事ついでに観光する人も居るから、特別おかしいっていうことでもないわよ」

 そんな会話をしながら、3人の側を通り過ぎてみる。

 3人は、とあるレストランの屋外テーブルに座って、談笑しながらチキンライスを食している最中であり、完全に仕事を忘れている状態であった。

 「私達も、このお店で食べる?」

 「ちょっと大胆過ぎるでしょう。 せめて隣のお店にしようよ」

 「いやいや。 彼等の動向を探る為にも、このお店で」

 結局詩音に押し切られ、渋々尾行者のうち情報局の3人の座るテーブルの近くに陣取ってみる。

 そして、聞き耳を立てるのであった。


 「いつまで、ここに居なきゃいけないのかな~」

 「2人が出国するまでだろ? リアルタイムでわかる話じゃないから、そういう回答を貰ったら、任務解除だよ」

 「じゃあ、早く出国してくれないかな~。 今回の急な任務で、俺はデートがキャンセルになって、彼女がお冠なんだよ~」

 「TDRに行く予定だったんだっけ?」

 「高かったのにな~。 キャンセル料も取られて、ホント最悪」

 「お前は彼女が居るからイイよな~。 俺なんかそういうの居ないから、『暇だろ?』って同じ課の他のヤツにこの仕事押し付けられたんだよ」

 「それは災難だな~。 俺は対処班所属なので、一番の若手が行けってなっただけ」

 そんな内輪の話を、呑気に周囲を気にせずしている3人。

 周囲にNH国人は見あたらず、外国人だらけ。

 NH語の会話なので、聞かれてもどうせわからないと思っていて、情報局の人間なのに特に警戒心は無いようだ。

 「係長は?」

 「今日も、この国の璃月邸付近で張り込んでいるよ。 両親を訪問する可能性があるからって」

 「真面目だね~」

 「でも1人だろ? 疲れて居眠りして見落としているんじゃないか?」

 「そうかもな」

 3人は笑いながら、ただ時間を潰しているだけの状態であった。


 そんな状況を確認出来た詩音と莉空。

 食べ終わった3人が、一応捜索を続ける為に店を出た後、

 「やる気ゼロだね」

 「私達ぐらいの尾行に、やる気満々でも困るわよ」

 「ちょっと可哀想な状態に感じちゃったな〜」

 「1週間くらい辛抱なさいって思うわ。 そんな仕事を自分で選んで入庁したのでしょ?」

 「その期限って、妖気の魔術師さんが到着されるまで?」

 その確認に、チキンライスを頬張りながら頷く詩音。


 その後、リンからの極秘メールで空港に国防軍の若手士官2人がずっと張り込んでいて、詩音と莉空が出国するのを待っているらしいと聞き、

 「じゃあ、私達に対する嫌がらせへの反撃のトドメと行きましょうか〜」

 そう言いながらリンの元に戻って、当初の目的であるナタリーの捜索と訪問に向けた準備を始めることに決めたのであった。



 2日後。

 デュオ・ローガムが勇躍してSINGP国に乗り込んできた。

 AUSTR国の航空便は、SIN空港を経由地に運航されている便が非常に多いので、デュオもSINGP国にはしょっちゅう来ている。

 しかも今回レヴに会えると思うと、デュオが居ても立っても居られない状態であっただろうことは想像出来ていたが、仕事関連でリンの元を訪れるという大義名分とは全く異なる、超ラフな格好で本社ビルの受付に現れたので、出迎えたリンもちょっと度肝を抜かれていた。


 双方簡単な挨拶を交わしてから、

 「これから、南国リゾートにでも行くつもりですか?」

とリンがあえて質問をしてみた。

 すると、

 「いや〜、そういえばレヴから最終的な行き先聞いて無かったなあ〜」

 「それ、E優連合ですけど......」

 その言葉に固まってしまうデュオ。

 「これから冬だよね? コートもダウンも無い......」

 SINGP国は常夏だし、南半球も夏目前なので、軽装で来てしまったのだ。

 イイ歳なのに、準備不足だったことに、少し恥ずかしそうに頭を掻く。

 「冬支度も含めて、ともかく案内しますよ。 用件とかはレヴから直接聞いた方が早いですし」

 リンはそう答えると、直ぐに詩音レヴの待つ部屋へと連立って向かうのだった。

 


 「デュオ、悪いわね~。 急に呼び出して」

 詩音レヴの第一声に、いきなり抱き着いて、再会の挨拶をしようとしたものの、魔術で躱されてしまい、虚空で空を切ったデュオのハグ。

 そのマヌケな姿に莉空もリンも、そして詩音レヴも思わず笑ってしまう。

 「ところで、何その格好。 これからHWIにでも行くつもり?」

 レヴは『遊びに行くのでは無いのよ』という意味を込めて、不機嫌な声を出したので、一気に悄気げてしまうのだった。


 「目的は何ですか? つい連絡を貰った嬉しさだけで来てしまいました」

 ようやく、呼び出しの理由を問うデュオ。

 『今更確認するなんて......』

と思う他の3人であったが、

 ナタリーを探して、ルキフェルの仲間にならないよう話をしたい

という説明を聞くと、デュオも遊び気分が吹っ飛んだようであった。


 「先ずは、ナタリーの居場所探しですか?」

 デュオは呟くと、自身に取り憑いている元聖騎士で三賢者のダーグラムの力を借りてみる。

 すると、

 『その女の居場所、ルキフェルならば当然知っているだろう。 大王は異能者を探知する能力を有しているからな』

 『ダーグラムにはその力が有るのか?』

 『俺の力の源は大王の魔力と共通のモノ。 近くに行けばおそらくわかるが、何処の街に居るかぐらい迄は、レヴの能力でも探知可能だろ?』

 亡霊のダーグラムは、それだけ話すと姿を消してしまった。

 宿主の求めに応じて出て来たのだが、現実世界ではごく短時間が限度。


 「レヴなら、ある程度絞り込める筈だと言ってましたよ」

 「う~ん、それが詩音と一体化した影響なのか、ちょっと能力落ちちゃって」

 ルキフェルに堕ちた者ならば、今まで通り探知出来るが、異能者を引退しただけのナタリーの探知は難しいという。

 「引退って言っても、次回の戦いが始まる迄は回復魔術師のままだろ? 万が一に備えて」

 「原理はそうだけど、引退を認められた回復魔術師は、その時点で能力を封印されてしまうからね。 もしパラレル世界で殺されても、現実世界では影響が出ないようにという理由で」

 「そっか〜。 異能者のままだとパラレル世界で殺られたら、現実世界でも死んでしまうからか〜」

 レヴの説明を聞いて、納得の3人。

 そもそも、回復魔術師の引退は約300年ぶりの出来事らしい。

 

 「そういう訳で、皆様の成功者としての情報力に期待しています」

 詩音レヴはそう言うと、3人に頭を下げた。

 リンの大富豪としての情報収集能力、デュオの一部であるダーグラムの魔力、そして今後多いに発揮されるだろう異能者戸次莉空としての現実世界における幸運の力。

 詩音レヴは、それらが重なりあえば、ナタリーの所在を見つけ出せると確信していたのであった。


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