第36話(ちらつく政府の影)
詩音と莉空は帰国すると、再び尾行されてしまう。
レヴを出迎えたことで、ヒイロ少佐も巻き込まれ、徐々に強硬派の陰謀の泥沼に陥りかけた時。
NH国にも、心ある詩音の味方が存在していたのだった。
翌日もAM国軍の基地内で過ごした詩音と莉空。
E優諸国に渡る為の準備に明け暮れていたからだ。
「そう言えば、何で僕達NAR空港に着いた時点で尾行されたのかな? 飛行機の予約もギリギリだったのに」
莉空がふとした疑問を詩音にぶつけてみる。
「入国者情報に関しては、手配してあれば出入国管理から自動的に流れるけど、情報が入ってから色々と準備する時間の猶予はあまり無いのよ。 入国した時点でヒットするものだから。 だから今回の場合、尾行している相手側の動きから、予め私達が来るのを待っていたとみるべきよね? おそらく航空会社の搭乗者情報で、事前に分かっていたということになるわ」
「NH国の航空会社を使ったから?」
「その通り。 それだけ情報当局が詩音のことをマークし始めたってことかな。 搭乗者情報に手配を回すぐらいにね」
出国した時よりも、状況が悪化していると理解した莉空。
いっそのこと、詩音は異能者の戦いに参加出来ない立場になったと説明した方が......
でも、なかなか信じて貰えないだろうし、レヴの存在が知られれば、軍事的な利用価値の高さから、よりマークされるおそれもある......
当面は静観する構えなのだろうと、詩音の考えを予想したのだった。
「あと、ヒイロさんは、何でレヴのことを『様』付けで呼んだの? 詩音の時は、敬称を付けていなかったのに」
莉空の続けての質問に、詩音はチラっと部屋の外を見た。
人の気配が有ったからだ。
「その質問には、私から答えるよ」
その声は少佐本人であった。
「私は現実世界で、魔術師系統の異能者達とレヴ様との間の連絡役も請け負っているからだよ。 私で15代目なんだ」
「15代目? レヴって3000年近く、ずっと同じことをやっているんだよね」
「莉空君の察した通り。 私は普通の人間より老化の進行が緩やかで寿命が長い。 異能者に与えられる恩恵っていうのは私の場合、それなんだ」
「それって、恩恵になるのかな?」
「長寿を求める人は多いから、恩恵に違いないよ」
そう答えたヒイロも苦笑い。
人によりけりと言ったところであろう。
「少佐。 約7年間、レヴの存在が見当たらない時は、どう思っていたのですか? レヴの弟子達は死んだのかもと半信半疑だったみたいですが」
「それは私も同じだよ。 そんなに長い間全く連絡が取れない事態は、初めてだったからね」
「なるほど」
「まさか詩音と一体化しているとは思いもよらず......ってとこですね。 当人から教えて貰ったのも、高校卒業の後、異能者に関する記録と記憶を都幌学院から全て消去するようにと、依頼が有った時だから」
ヒイロはそう答えると詩音の方を見る。
詩音は口笛を吹いて知らんぷりをしていた。
「ところでレヴ様。 用件よろしいですか?」
「どうぞ」
「E優連合の方には、訪問予定を伝えなくて良いのですか? その最終確認で伺ったのですが」
「私のことを向こうで知っている人は、私の弟子だった彼女以外居ないから、必要ないでしょ? それともNH国の異能者璃月詩音が訪問するっていう情報を送るつもりだったの?」
「後者の方です」
「それだったら不要よ。 私自身が自分のことを守れるからね」
「わかりました。 AM国と異なって、異能者対応特別チームの類の組織がありませんから、テロ警戒を強化して貰おうと考えたのですが」
「ヒイロの懸念は、ルキフェルのテロね。 そっちは大丈夫だと思うよ。 大王も一旦は大人しくしておけとエーリットに言った筈だから」
「まさか、レヴ様。 何かされたのですか?」
「この間、パラレル世界までエーリットを追い掛けた時に、ルキフェルの本部に向けて最強攻撃魔術の一つ『アルテミス・バーン』を最大出力で撃ち込んだのよ。 エーリットの逃げ込んだ先がそこだったの」
「要は、大王を目掛けて魔術を放ったと?」
「まっ、そういうこと。 エーリットの行動が原因で、ルキフェルの大王が鎮座する浮遊要塞の位置がバレる結果になったから、めちゃくちゃ怒られているだろうし」
数日前。
航空機内でレヴの反撃を受け、殺されかけたエーリットは、パラレル世界に遷移後、レヴの追撃を免れる為、即、浮遊要塞に逃げ込んでいた。
「エーリット、レヴ相手に大健闘だな。 本当にご苦労であった」
三賢者の一人ローランが、大王の代わりに謝意を述べる。
「ありがとうございます。 閣下」
「あのレヴに傷を負わせるとは、なかなかの成果だぞ」
「はは〜」
「大王様、エーリットの報告によると......」
「まさか、人間璃月詩音の姿で隠れていたとはな。 これは全く予想していなかった」
「詩音の中では無く?」
「そうだ。 レヴ自身が詩音の姿になっていたのだ。 これには一杯食わされた」
「では、8年前に焼け死んだあの死体は......」
三賢者の一人、ゾーヴァイアンが大王に問い掛ける。
「レヴの魔術での偽装......生体人形でも使ったのだろう。 だから人間で無い謎のDNAが検出され、それを我等もアールヴ・エルフのDNAと判定したのだ。 何と言ってもサンプルゼロの謎の異人だからな。 本当に準備の良い女だ」
大王はレヴを褒めるような言葉を連ね、8年前のレヴ打倒の謀略の失敗が確定したことを残念がるのだった。
その時であった。
激しい振動が浮遊要塞を襲う。
「どうした?」
ローランが、要塞のコントロールを担当している下僕達に確認する。
「強力な魔術による攻撃です。 避けられません」
その言葉と共に、爆発の連鎖が......
「大王様、避難を」
その時、ルキフェルの大王は防御魔術を放ったのだった。
結局、浮遊要塞は半壊。
大王がギリギリで掛けた防御魔術で、要塞コアは無事であったものの、被害は相当なものとなっていた。
「エーリット。 これはどういうことだ? まさかお前......」
ゾーヴァイアンが問い詰めようとするが、
「三賢者よ、もうよせ。 この攻撃はエーリットの罪ではない。 レヴが一枚上手だったというだけのことだ」
大王が罪の追及を制止する。
そして遥か彼方、魔術が放たれたポイントを正確に見詰めながら、
「詳しい経緯は解らぬが、ハーフ・エルフになったとは言え、レヴはその力をほぼ維持しているようだな。 また面白くなるだろうよ」
そう呟くと、
「エーリットご苦労だった。 探知を遮断出来る要塞が機能を回復するまで、暫くレヴに手出しはするな。 彼女はルキフェル特有の魔力を有する人物の探知が得意。 無闇に攻撃すれば、パラレル世界で簡単に見つけ出され、殺されてしまうぞ。 それに、この攻撃は彼女からの警告だ。 健在だという意味を含めてのな......」
その様に命令すると、浮遊要塞の再建を配下に指示し、何処かへと消え去ったのだった。
「今回は、大王様の温情に感謝するのだな、エーリット。 レヴに居場所を探知されるという大失態。 しかも要塞の場所をとは......本来なら万死に値する大罪」
ゾーヴァイアンは厳しい言葉を告げると、黙ったままのもう一人の三賢者ローランと共に姿を消した。
エーリットはレヴに殺されかけたことで、逃げるのに必死過ぎだった為、追跡を躱そうと、探知を遮断出来る浮遊要塞に真っ直ぐ入ったことが裏目に出てしまったのだ。
「この汚名は必ず注いでみせる。 レヴめ〜、次は絶対に......」
激しい憎悪を剥き出しにする。
その表情はまるで鬼のようだ。
これが、現実世界ではその美しさで並ぶ者無いと謳われたアルシア・エーリットの本当の姿であった。
ところで、ルキフェルの大王とは本来、魔王と呼ぶべき存在である。
しかし、大王自身が魔王と呼称されるのを嫌がっているので、大王という言い方が定着しているのだった。
「魔術を使う王だから魔王なのか? それではレヴも魔王になるだろ」
そんな言い方で、宿敵と同一視されるのを嫌ったからというのが定説であった。
レヴは一匹狼なので、王と呼ばれることは無いのだが......
NH国政府内では、関係省庁の高官が出席の極秘会議において、璃月詩音の追尾がアッサリ振り切られたことを問題視していた。
「どうして、こうも簡単に見失う結果に?」
「在NH国駐留AM軍が関係しているようですが、出迎えは一人だったということでして......」
「たった一人の軍人に煙に巻かれたのか?」
国防軍主流派(極右的思想を中心に据えている派閥)としても、異能者の戦いの勝敗の鍵を握る人物として、詩音を重要視し始めたところであり、その動向を常に視野に入れておきたかったのだ。
「所詮、公安組織を改編しただけだからな。 情報当局は」
「我が軍の諜報部が担当すべきだろう。 こんな結果が続くのならば」
OAF島でも、AM国軍に情報部員が拘束されたことから、失態続きに嘲笑の声があがる。
「大学生2人の尾行すらマトモに出来ないのならば、組織解体だよ」
その冗談めいた意見には、大きな笑いが起きたのであった。
「最大の問題は、AM国が関与していることだろう。 それも、あの2人が生まれる前から......」
会議を取り仕切る人物の言葉に、声を失う出席者達。
国の体制が大きく右傾化したとは言っても、AM国と対立するつもりは無い。
歴史的経緯から、東アジアの軍事面において、事実上孤立状態のNH国。
かつては経済大国として、国力が飛び抜けていたことから、周辺国との軋轢にそれほど気を配る必要も無かったのだが、C国が急速に発展して経済力で追い抜かれ、逆に大差を付けられてしまったのに対し、近年衰退著しく、現状は非常に厳しいとの認識は出席者共通のものであった。
緊張状態の周辺国との国際関係の中で、唯一の味方がAM国であり、他にDK国とは中立関係にあるものの、核兵器を有する3カ国と関係が悪いのが致命的と言えた。
「選挙での支持を背景に、連立与党側の強硬姿勢は強まるばかりですからな。 国民世論も『北Cに攻め込んで、拉致被害者を取り戻せ』とか、『台W琉K戦役でのO縄の大きな被害に対する報復を』とか、専門家や評論家を名乗る極右論者の無責任な論調に、洗脳状態にあるのでね」
その意見に頷く出席者達。
国防軍主流派も、単独で戦争を仕掛けて勝てる見込みはゼロだから、流石に勇ましい意見は出ない。
「国民世論が一番怖いのだよ。 戦争を求める声が強くなり過ぎれば、110年前の大戦の二の舞いだ」
「話は戻るが、異能者の戦いについてだ。 こんなSFじみた話、最初は誰も信じなかったが、各国の動きを見ると事実だと判断すべきだろう。 前回の戦いでは我々陣営が勝利をおさめたそうで、以後自然災害も大きな事故もゼロ。 しかも景気も持ち直している。 これはその勝利の成果という理論だ」
「受け容れ難い話ですな。 我々官僚を中心とした国民の努力の成果だと言い切りたいよ。 私としては」
「そもそも、この情報はC国とRU国に潜伏させている諜報員からだろ。 信じて良いのか?」
「歴代政府高官や首相にも確認したが、これという話は出なかったな。 ただ、一部の方からは、『噂は聞いたが、詳しい内容は全く知らない』という情報くらいは有ったが」
「C国の思惑は? 台W戦役以来、国交断絶状態なのに、この情報だけはロックが余り掛けられていない......それどころか、ワザと流しているように見えるが」
「異能者の家族からの事情聴取はどうだったのだ? 実施したのだろ」
「勿論、実施済みです。 橘家からは代々の口伝を説明され、『信じる信じないは貴方がた次第。 我が家では当然信じているが、詳しい話をしてしまえば、家が滅亡する』というものでした。 璃月家は当主がAM国在住なので難しい状況です。 璃月詩音の両親からは、『当主に聞いてくれ。 私達は血縁関係が弱く、機密情報には触れられない』との回答のみ。 戸次家は事情を知る可能性のあるものが全員亡くなっており、聴取不能状態でして......」
「では、橘の家からしか聴取出来ていないということだな。 それでは、実施済みとは言えないだろうが」
「申し訳ありません」
「情報が少ないので、当事者からの聴取も考えねばなりませんね」
「それは、AM国の不興を買う恐れが高い。 許可を取るしかなかろう」
「現状では拒否されております。 璃月詩音はAM国籍を有しておりますので......」
「戸次莉空は?」
「その者は、E優連合の国籍がネックです」
「リベラルなE優連合が、認める筈が無い......無理に協力を強要すれば、身寄りの無い人物だから、他国に移住してしまうか」
「橘聖月は? 彼女は純粋なNH国人だろ」
「接触を図っても、常に逃げられてしまうのです。 それに彼女は......」
「戦いには直接影響しない立場だったな」
「国防軍から見ばは、橘聖月は重要人物では無い。 やはり、璃月詩音だ。 彼女からの聴取を最優先に実施し、全面的な協力を取り付けて欲しいというのが要望です」
「二重国籍と言っても、絶対にAM国に取られるなよ。 我が国で生まれ育った特別な人間を」
その言葉で会議は締め括られた。
今後、詩音の尾行は強化され、肩身の狭い状況が続くものと予想されるのであった。
渡航の手配が終わり、3日間の滞在で再び出国する詩音と莉空。
「少佐、ありがとうございました。 今後もよろしくお願いします」
「お二人共、くれぐれも気を付けて下さい」
「ヒイロ、またね~」
HND空港国際線ターミナルの出発ロビーで、別れの挨拶をする3人。
尾行も再開されていたが、気にも留めない詩音。
出国審査に入っていくところ迄見送ると、NH国の情報部員複数名に囲まれたヒイロ。
「アンダーソン少佐。 少しお話を伺いたいので、ご同行願えますか?」
すると、今度は情報部員達がAM国軍の特別チームに包囲される事態となってしまう。
ヒイロから連絡を受け、急遽NH国に集結していたのだ。
一触即発の雰囲気に緊張が走ったところで、その様子を見ていたNH国国防軍非主流派(民主派)の将官が間に割って入ったのだ。
「民間空港のターミナルで、同盟国同士が争いを引き起こすのかね? それこそC国の思う壺だろうに」
苦笑いしながら制止すると、
「情報当局の者達は、ひとまずこの場を去りなさい。 AM国軍人を両国の許可なく、明確な罪もなく、任意同行するのは、安全保障・攻守同盟関連の法令違反だぞ」
そのように強く指示をする。
そして、その将官の階級官職を聞いて驚き、渋々引き下がる情報部員達。
その姿を見送りながら、
汚名返上ばかりに気を取られて、法律を無視する傾向が強くなっていることを憂うのであった。
「櫂少将。 間に入って頂き、感謝に耐えません」
アンダーソン少佐は丁寧に挨拶をする。
「こちらこそ、非礼を詫びねばならない。 本当に申し訳なかった」
「ここでの立ち話も何ですから」
そういうことで、双方共に、近くの喫茶コーナーへ。
先ずは少佐から話を始めた。
「ここに来て、随分動きが活発になっていますね。 詩音に関することで」
「今になって、初めて知ったからだろうね。 元々、一部の者達には知られた事実だったのにな」
まだ午前中なので、久しぶりの再会を祝したいところであったが、酒を酌み交わす訳にはいかず、コーヒーで乾杯をした両者。
双方の関係者は、周囲に目を光らせ、情報当局や国防軍主流派の動きに警戒する。
「少将はタイミング良く、どうしてここに?」
「詩音のお祖父様からの依頼だ。 一旦帰国するので、その間だけよろしく頼むという」
「そうだったのですか。 では帰国の際も?」
「君が迎えに来ていたから、AM国軍基地に向かうだろうと判断して、手出しを見送ったよ。 当主は私の大恩人だからね。 断ることは出来ないさ」
「長く同じ仕事を務めていると、そろそろ過去の色々な出来事の恩返しをしなければなりませんからね」
「あのプロジェクトから約30年。 その詳細を知る幹部達は大半が鬼籍に入ったのに、今になってパンドラの箱の蓋を開けたいと考える者が、こんなに大勢出てくるとは思わなかったな」
少将と少佐は感慨を持って話を続けるのだった。
「しかし、噂通り少佐はあまり年を取らないな。 私はすっかり白髪だよ」
「でも、その分出世なさったではありませんか? 台W戦役後に組織改編で新設された国防軍統合作戦本部参事官ですよね」
「もうお役御免間近ってことさ。 私は非主流の民主派軍人だし、次の人事異動で予備役に編入させられてしまうだろうよ」
「それは寂しいですね。 知己がまた1人、第一線から退いてしまう......」
「その分、詩音が成長したではないか。 私なんかよりも、彼女の方がずっと頼りになるさ」
そこで、少佐が少将に耳打ちをする。
櫂少将の表情は、少し驚いたものに変化した。
「主流派はそのことを知らないのだな?」
「そういうことです」
「では、尾行なんかしても意味は無いってことか」
「わざわざ教えてあげる義理もありませんからね。 いずれは当人が明かすでしょうし」
「その代わり、伝説の存在になってしまったとは......あまり酷い扱いをすると、怒りの反撃か、雲隠れしてしまいそうだね」
少将が正鵠を射た発言をしたので、少佐が頷く。
「それを聞いて安心したよ。 NH国政府の悪の手を撥ね退ける実力が、詩音には十分備わっているということだから......」
「では、情報当局も退散したし、詩音と莉空君の後を付いて、一緒に出国手続きした情報当局と国防軍主流派の尾行者達も、途中で巻かれるのは確実だとわかったから、老骨は退散するよ」
少将は立ち上がると、少佐のカップに自身のカップをぶつけて、音を鳴らしてから、一気に飲み干す。
「では、ヒイロ中尉。 また何処かで」
「櫂ニ尉も、その日までご壮健で」
かつて、極秘プロジェクトに関わった当時の階級で呼び合うと、その場で別れたのであった。
「参事官。 主流派の横暴をこのまま指を咥えて見過ごしたままで、よろしいのですか?」
副官と秘書官は、先程の情報当局の暴走が、極右思想支持の政府高官と国防軍主流派の圧力によって生じた経緯を知っていたので、憤懣やる方ない様子であった。
「現在の民意は、彼等の行動を一定程度支持しているのだから、致し方ないだろう。 政治家もそうだが、過半数の人達の支持が有ると、暴走し易い」
「しかし、AM国との同盟は、我が国の死命を左右する国の根幹ですよね。 それを反故にするような行動を政府の一機関が取ろうとしたことに、危惧を感じずにはいられません」
副官・秘書官達の意見は尤もであった。
「もちろん私もその危惧は共有している。 しかし、過去を振り返ると、駐留AM国軍の特別扱いに、煮え湯を飲まされる思いをしてきた人達が大勢居るのも事実。 極右勢力はその点も国民を煽っているからな。 AM国軍は聖人君子ではなく、軍隊という国家権力の最も武断的な組織に過ぎないという真実が、極右思想を支持する人々の心をくすぐるのさ」
肩を竦めながら、少将は自身の意見を述べると、庁舎に戻るよう指示を出したのであった。
その後、少将は車両内で、自身のプライベート端末が鳴動したので確認すると、
「ヒイロの件、ありがとうございました。 詩音より」
という短いメールを見て、少し笑みをみせてしまう。
その様子に気付いた副官から、
「参事官。 何か良い報告が入りましたか?」
と質問されたので、
「最近になく、イイことだよ」
その答えに首を傾げる副官・秘書官達。
「今日は、昔馴染みの人達複数と久し振りに接点のある、珍しい日ということさ」
追加の説明を聞いて、納得した部下達。
『あんなに小さかった女の子が、すっかり大人の女性に成長していたなんて、時の流れは早いな〜』
そんな述懐をしながら、数少ないNH国政府内の詩音達の理解者が、陰ながら援助してくれていたのであった。
 




