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悪戯と黄昏の刻に・第一紀(異能者の戦い)  作者: 嶋 秀
第一章(パラレル世界篇(詩音・聖月・莉空・蒼空を中心とした異能者の戦い))
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第3話(異能者のスキル)


奇襲を退けた莉空や詩音達。


莉空と蒼空は封印が解けて、新しいスキルが発動したものの、大きなダメージを受け、昏睡状態に陥る。


やがて回復した後、異能者のスキルについての説明や詩音と聖月の過去話が、莉空と蒼空という新しい異能者に改めて行われるのであった......


 パラレル世界における両陣営の異能者の戦いが始まって、3日が過ぎた。


 東AジA方面は、全体主義陣営リン等の攻勢に対し、共和主義陣営の詩音等が防衛に成功して、一旦膠着状態となっていた。



 4日目に、漸く目覚めた莉空と蒼空。

 全身が酷く痛むが、生きていることに驚いた2人。

 「あの時、聖月の前に立ち塞がって、物凄い攻撃を受けて、全身を激痛が貫いたこと迄は覚えているのだけど......」

 お互いに記憶している出来事を話す。


 すると、ソファーで寝ていた海未が2人の目覚めに気付いて、嬉しそうに、

 「やっと、目覚めたか〜。 この瞬間を待ちわびていたよ」

と声を掛ける。

 「俺達、豆腐でベチャベチャだった筈ですが......」

 莉空が最後に覚えていることを確認する。

 「流石に、あのままじゃあ、ベッド上に横臥させられないので、詩音と一緒にシャワーを浴びせて、汚れを洗って落としてから、今の状態にして寝させたよ」

 海未のその答えを聞いて、自身の状態を確認すると、医療用の装具以外、何も身に着けていないことに気付く。

 「先輩。 詩音さんと一緒にシャワー浴びせたって、まさか......」

 「いや、あの状況だと、詩音の魔術を使わないと、君達を綺麗にすることなんて出来ないよ。 男は俺一人だったし」

 「もちろん、詩音に君達2人の全てを見られてしまっているけど、そんなの気にしていたら、今後の戦いに付いて行けないよ」

 海未は半分誂いながら、莉空の質問に答えるのであった。


 「ところで俺達の異能スキル、目覚めたのですか?」

 肝心なことを蒼空は海未に質問する。

 「目覚めたよ。 そうでなければ死んでいて、今この様に話をすることは出来ないだろ?」

 海未はその様に答えた。

 「聞きたいことも、沢山有ると思うけど、先ずはめっちゃ腹減っているよね?」

 先輩にその様に問い掛けられると、2人共、めちゃくちゃ空腹で有ることに気付く。

 「3日間何も食べていないのだから、ひとまず腹ごしらえしようか? 直ぐ近くに店が有るから、買い出しに出掛けようよ」

 海未の提案に大賛成する、莉空と蒼空であった。


 買い物が終わって、部屋に戻ると、意識が戻ったと聞いた詩音、聖月、紗良の3人が嬉しそうに待っていてくれた。

 「莉空君、蒼空君、ありがとう。 私、無傷だったよ」

 聖月は、2人へ感謝の言葉と共に、意識が戻ったことへの嬉しさのあまり、いきなり抱き着く。

 「聖月さん、恥ずかしいです」

 莉空と蒼空は、美少女の突然の行動に顔が真っ赤。

 「こういうのは聖月らしい行動だから、受け入れてあげてね。 それ故に回復魔術が使えるのだよ」

 詩音が聖月のスキルの所以を簡単に説明する。


 ちょっと経つと、

 「聖月、それくらいで止めてあげないと。 純粋な2人の青年の下半身が暴発しかかっているから」

 紗良が、聖月に抱き着かれたままの2人の異変に気付く。

 それを聞いて笑い出す、海未、紗良、詩音。

 聖月は視線を下にやってから、漸く2人を離してあげるのであった。

 鋭い指摘に、真っ赤な顔が茹でダコの様になってしまう、莉空と蒼空。

 「聖月がそれだけ、魅力的ってことだよね」

 詩音が真っ赤な2人をフォローする。

 「ごめんなさい。 私、そういうのに鈍感で疎くて」

 2人に謝罪する聖月。

 「いや、あの〜。 謝罪されるべきものではありませんので......」

 莉空が聖月にその様に返事をすると、

 「そうだ、早く食事をさせてあげないと」

 海未が本来の目的を思い出して、莉空と蒼空に空腹を満たす様に薦めるのであった。


 「食べ終わったら、2人を訓練しないとイケないよね」

 詩音が次の予定を説明し始める。

 「異能者の世界へようこそ。 スキルが目覚めて、正式に仲間入りとなりました。 最初に聞いておきたいことある?」

 詩音が莉空と蒼空に確認する。

 「俺達のスキルってどういうものだったのですか?」

という2人からの最初の質問に、

 「では先ず、異能者のスキルについて説明するかな。 私の知っている範囲でだけど」

と詩音は言ってから、説明を始めた。


 「異能者のスキルで、一番多いタイプは、紗良先輩と海未先輩の持つスキルだね」

 「紗良先輩のスキルは、遠隔で大きな物を自分の意図する様に動かせる能力と、自分に向かって来る物体のエネルギーを減衰させる能力」

 「その特徴から、『防御のスキル』って言われているね。 この間の敵だと、イワンとメイリンも同じスキル」

 「海未先輩のスキルは、物体を遠隔で自分の意図する大きさに粉砕する能力と、相手に向かって小さな物体を複数同時に高速で狙い撃つ能力」

 「その特徴から、『攻撃のスキル』って言われているよ。 敵さんだと、サーシャとツオが同じスキル」


 「聖月のスキルは、君達も味わった『回復の魔術』。 死ななければ、何回でも受けることが出来るけど、魔術師側の魔力と体力に限界があるから、沢山の人に同時とか、短期間に何回もというのは出来ないの。 この能力を持つ者は各陣営一人ずつだから、同時には2人しか存在しない」

 「もし、回復の魔術師が異能者の戦いの最中で亡くなったら、その戦いは非常に不利になるよね。 今回、リンはそれを狙って聖月に猛攻を仕掛けてきたっていうこと」

 「ただ、回復の魔術師だけは、毎回の戦い開始時に必ず存在するので、今回聖月が途中で死んだとしても、次回には別の回復の魔術師が現れることになるの」


 「そして、私のスキル『魔術師』。 非常に強力な能力で、防御のスキルと攻撃のスキルを同時に持っている様なものだから、それだけでわかるでしょ?」

 「魔術師には、唱文魔術師と紋章エンブレム魔術師の2種類があるらしいけど、私はエンブレムの方ね。 だから瞬間に発動出来るけど、使える魔術の種類は、唱文魔術師の方が多いらしいので、どちらが強いというのは、単純に比較出来ないわ」

 「ただ、前回の戦いで亡くなったリーダーの修豪の話によると、魔術師自体が少ないから、敵に何人居るのかよくわからないっていうことだったね。 唱文魔術師には出会ったことが無いって言ってたし」


 「敵のリンが持っているスキル。 あれは攻撃のスキルと防御のスキルを同時に使える特殊な能力で、非常に強い。 特に、攻撃のスキルが普通の異能者の数倍強力なの。 だから、ホテルを粉々にして、聖月を攻撃したのだよね? 普通の異能者は、家一軒とか大型トラックぐらい迄ならば可能だけど、あんな巨大構造物をバラバラには出来ないよ」


 「最後に、君達2人の能力について。 これは初めて見るスキルだから、具体的なことは何も説明出来ないけど......」

 「蒼空君の発動したスキルは、シールド防御だったの。 今迄に誰も持ったことが無いだろうスキル。 何処からかエネルギーを得て、それを自分の周囲に纏うスキルだね。 エネルギー源は不明だし、そもそも平常時に発動出来るのかもよくわからない。 あの時は瀕死状態だったから自己防衛本能で自動発動しただけなのかもしれないから」

 「莉空君のスキルは、瞬間移動攻撃だった。 あのリンが防御出来ない位だから、本当に瞬間的な攻撃だったのだろうね。 それもリンの攻撃力に匹敵する強力さだった」

 「ただ、こちらも、普段から使えるのか疑問符が付くよね。 簡単に出来るのだったら、魔術師以外の異能者は、基本殆ど避けられないので、敵さん大惨敗で終わっちゃうものね」


 一通りスキルの説明を受けて、ある程度理解した莉空と蒼空。

 ただ、自分自身のスキルに関しては、どの様にしたら発動出来るのか、完全に手探りということなので、まだまだ問題山積みというところであった。


 異能者のスキルの説明を受けながら、空腹を満たした莉空と蒼空。

 すると、早速2人の訓練を始めると詩音が決定する。

 次の戦い迄、あまり時間が無いからということであった。

 2052年の箱Dの街は、約15万人と人口が減少し続けていて、あまり活気が無く、公園に行くと人は殆ど居ない。

 そこで、人気の少ない公園ならば周囲に迷惑を掛けないだろうと、港に近い大きな公園で莉空と蒼空の訓練を始める。

 ひとまず、それぞれの自己流のやり方で、スキルが発揮出来るかやらせてみたものの......


 「やっぱり、あれはまぐれ?」

 詩音、聖月、海未、紗良の4人は、莉空と蒼空の様子を見ながら、その様に感じていた。

 「私と聖月は幼少期から、当時の『回復の魔術師』より訓練を受けていたんだよね。 だから幼すぎて、最初どういう訓練から始めたのかって、全然覚えていないの」

 「僕達も一緒だよ。 子供の頃から『攻撃』『防御』の異能者から教わっていて、一番最初の時、どういう訓練だったって言われても、ちょっと思い出せないよね」

 4人共に、幼い頃に最初、どんな訓練から始めたのか、全く覚えていなかったのだ。

 「困ったね~。 あの2人の記憶が封印されていたのって、教えられる異能者が居なかったからじゃないのかな?」

 聖月が封印の理由を予想してみせる。


 「えー。 じゃあ実地で自ら習得しろってこと? それって酷過ぎるでしょ?」

 詩音が不満そうに言うと、

 「聖月の負担が重くなりそう。 でも一人にはもう回復魔術効かないから、どうしようか?」

と紗良が指摘してから、確認する。

 「詩音の魔術での回復モドキのヤツって、ダメなの?」

 「あれは、気休め程度だよ。 聖月のとは違って、傷を修復するのが主目的の魔術だから......」


 莉空と蒼空が力んで、スキルを出そうと努力しているのを見て、ほのぼのした気持ちになる4人。

 「ここで、リン達が襲って来て負けたとしても、納得は出来るかな? 私達が今出来ることは、新しい2人の異能者にもしてあげれたのだから」

 「次の戦い迄に、あの2人がスキルの発動を全く制御出来なかったら?」

 「撤退するよ。 北AM大陸へ」

 「そして、あの2人がスキルを使いこなせるようになったら、反転攻勢掛けることにしましょう」

 詩音は2人の自主訓練風景を眺めながら、その様に決断したことを3人に報告するのであった。


 気付くと、詩音は眠っている様であった。

 「あれ? 訓練風景見るの飽きちゃったのかな?」

 紗良がそう言うと、聖月は、

 「違うよ。 多分魔術で過去を遡っているのだと思う。 教えるヒントを探しているのだよ、きっと」


『詩音が魔術で遡った回想

 「アルシア先生〜。 お花作ったよ~」

 「あら、詩音はすごいね~。 魔術で石を花に変えちゃうなんて」

 「先生〜。 私もお花......」

 「聖月もすごいね~。 石からクローバーを魔術で作るなんて」

 「詩音ちゃん、お花難しい〜。 私、まだ出来ないよ〜」

 「聖月〜。クローバーでも凄いんだよ? そんなに悲しい顔しないで。 今度ここに来た時には、一緒に魔術でお花を作りだそうね~」

 「うん」 』


 「このままだと、新しい異能者が出て来ても、何も教えられないものね」

 「私達を訓練してくれた異能者達は、今の私達と同じ様な壁にぶつかっていたのだろうか?」

 4人を訓練してくれた当時の異能者達は、既にこの世に居ない。

 詩音と聖月に魔術を教えた後、病死したと言われている当時の『回復の魔術師』アルシア・エーリット以外は、パラレル世界での異能者の戦いで、全員生命を落としていたのだ。

 僅か10〜15年前の出来事でしか無いのに、この様な悲惨な状況であるのが、異能者達の宿命...... 

 『異能者って、殆ど寿命を全う出来ないから、全く割に合わないよな』

 2人の会話を聞きながら、海未はそんなことを考えていたのだった。


 暫くすると、詩音が目を覚ます。

 「詩音ちゃん、何かヒント見つかった?」

 「え? 私、眠くて寝ていただけだよ」

 『ほらね』という顔をした紗良。

 『おかしいなあ』という顔をする聖月。

 「さてと」

 詩音はそう言いながら、立ち上がると、莉空と蒼空のところへ。

 そして、

 「力んでも、前に進まないよ。 ゲームでもしながら、訓練しようか?」

と、やり方を変えることを提案する。

 「ゲームって?」

 「私が魔術で攻撃するから、必死に避けてみてね」

 「本気で? ちょっとヤバいのでは?」

 「大丈夫。 死なないくらいに手加減してあげるから」

 流石、学院で冷酷の美女といわれる璃月詩音。

 非情な感じ全開の言葉が並ぶ。

 『何か、スキル発動のコツを教えるヒントを見つけたから、こういう言い方で実践してみようという感じかな?』

 莉空は、その様に詩音の心を読み、

 「受けて立ちましょう」

 そう言うと、少し距離をとってから、詩音と相対し身構える。


 「じゃあ、行くよ~」

と言うと、詩音は何の構えも無く、いきなり小石と砂で莉空を攻撃し始めた。

 「詩音ちゃんって、構えとか一切無くても魔術使えるんだよね。 凄いな~」

 長年、一緒に訓練を受けて来たとはいえ、改めて親友の実力を目の当たりにする聖月。

 必死に避けようとするが、小石が全弾命中し、痛そうな莉空。

 でも莉空の表情は、少し楽しそうであった。

 暫く、一方的に攻撃を受け続ける莉空。

 そして、詩音が攻撃の手を強めたその時、

 突然、詩音が強い防御魔術を自身にかけたのであった。

 すると、莉空の周囲に落ちていた小石が一瞬で全て消え、詩音の防御魔術で作られた鎧に一斉にぶつかっていた。

 「これって......」

 「瞬間移動攻撃のスキルが発動したんだよ」

 じ〜っと見ていた海未が、そう呟く。


 「隙あり〜」

 詩音はそう叫ぶと、今度は蒼空を小石で攻撃する。

 完全に油断していて、全く避けきれない蒼空。

 詩音は、かなり本気で蒼空を攻撃しているようで、小石とはいえ、数が尋常では無い。

 すると、痛みに耐え切れなくなったのか、自然と蒼空のスキル、シールド防御が発動したのだった。

 「今度は、シールド防御のスキルが発動したね」

 紗良も、『最初は、遊びながら訓練をする』という詩音の意図に気付いた様だ。


 先程の詩音は目を瞑って、過去を遡り、幼い頃、遊びながら魔術を覚えていたことを思い出したのであった。

 その後も詩音は、莉空と蒼空を小石で攻撃し続け、莉空も蒼空も痛そうでは有るが、何処か楽しげにも見える。

 そして遂に、詩音が莉空の瞬間移動攻撃を避け切れない時がやって来た。

 小石が幾つも当たり、痛そうな詩音。

 いつもなら怒りそうな詩音であるが、今回は少し愉しそうに見える表情をしていた。

 「あんな表情の詩音ちゃん、久しく見てなかったね」

 紗良が聖月に問い掛ける。

 「最近は、異能者の戦いでの方面責任者という重圧を受け続けていたから......」

 聖月が詩音の心情を思い量る。


 「死と隣合わせの戦い。 ほんと、何の為に戦っているんだろうね?」

 「私達は創造主の玩具なんだよ。 だから異能者の戦いのことを『神々達の悪戯』って、呼んでいるのでしょ?」

 「......」

 紗良も聖月も、本音はやるせない気持ちでいっぱいなのだ。

 でも、あまりにも酷い結果で終わると、現実世界に大きな災いが起きてしまう。

 それを防ぐ為に、意味の無い戦いを真剣に続けるという、堂々巡り。

 それが、『異能者の戦い』の救いようの無い部分なのであった......


 「詩音、そろそろ終わりにしたら?」

 紗良が呼び掛ける。

 「そうね。 結構痛いから」

 詩音はそう答えると、莉空と蒼空に訓練を終わりにしようと伝える。

 「詩音さん、ありがとうございました」

 莉空と蒼空が声を揃えて、感謝の気持ちを伝える。

 「訓練って思ってやると、なかなか上達しないから、遊びながら、実践を交えて、スキル発動のポイントを掴んで下さいね」

 詩音はその様にアドバイスをすると、この日の訓練を締めたのであった。



 その後、一行は箱D駅方面へ移動する。

 すると、莉空と蒼空は非常に驚く。

 あれ程の戦いがあった場所の筈なのに、全てが元通りになっていたからだ。

 その様子に気付いた聖月は、

 「パラレル世界での出来事は、異能者の戦いの最終結果以外、基本的に現実世界に影響しないの」

 「パラレル世界は、あくまで現実世界を映し出したものだということなんだよ。 現実世界のある場所が壊されていれば、パラレル世界も同じ様になるけど、パラレル世界だけある場所が壊れても、時間が経つと現実世界と同じに戻るってことね」

 「さてと、腹ごしらえして、次の戦いに備えますか〜。 リン達のところに回復魔術師も到着して居る頃合いだから、リン達の再攻撃も間もなく来るでしょう」

 海未はそう呟くと、名物の箱Dラーメン店へ、全員を連れて行くのであった。



 ホテルに戻ると、莉空は詩音に、

 「皆さんの過去の訓練とかの話を聞かせて欲しいのですが......」

 「そういう話の中から、何かヒントになるようなものが無いか、探して考えてみたいのです」

と申し出が有ったので、

 「じゃあ、私達の新しい異能者仲間となった、莉空君と蒼空君の為に、みんなで昔話でもしましょうか?」

ということに決まった。

 めいめいが食べ物や飲み物を持ち込んで始まる過去の話。

 「それでは、私と聖月の話をしましょうかね」

 詩音がそう切り出し、過去の話が始まる。

 「最初に皆さん、異能者で最も強いスキルは何だと考えていますか?」

 「俺は魔術師だと思うな」

 「私も海未と同じ意見」

 「聖月は?」

 「詩音と同じ意見かな?」

 「私、まだ自分の意見言ってないよ」

 「うん、わかっているよ。 詩音の意見は私でしょ?」

 「そう。 私の意見は、魔術師は魔術師でも、回復魔術師」

 「それは、意外な感じがするけど......」


 「じゃあ少し質問を変えて、異能者で終わりを全うできる確率の高いスキルは?」

 「それだと、魔術師か回復魔術師だよね」

 海未が最初に意見を言うと、

 「確かに、私もそう思う」

と紗良も同意する。

 詩音はそこで、

 「私が過去に模擬戦で唯一負けたことがある相手は、聖月よ」

と意外な事実を告白する。

 「うそ......」

 「負けたというよりは、死にかけたんだけどね」

 「......」


 そして詩音は、魔術師だけが知る、隠された真相を話す。

 「回復魔術には禁忌の唱文魔術が有るの。 これを使うと、誰も勝つことは出来ないよ、回復魔術師に」

 「だから、あれは禁忌......」

 聖月は普通は使えない制限されたものだと言うものの、

 「禁忌と言っても、『もう事切れる』という時には解禁されるのが、禁忌でしょ?」

 「......」

 「禁忌っていうのは、その人のポリシーで『死んでも使わない』っていうならば、それで封印されてオシマイだけど、人間って結局は欲深いから、最後の最後には使うだろうっていうことを想定しての禁忌だよね」

 「詩音っていじわるな考え方するよね、そういうところ」

 「すると、聖月は禁忌だから、絶対使わない?」

 「......」

 「私は聖月に、もし万が一の事態が有った時には、あの唱文を使って欲しいって思っているよ。 あの時の様に......」

 「......」

 そう言われ、無言のままの聖月。

 普段は見せない、深刻な表情のままであった。

 「それでは本題の、私と聖月の過去を話そうかな? 聖月、イイよね?」

 黙って頷く聖月。



 「あれは5年前のこと」

 「私と聖月は、いつもの様にアルシア・エーリットのもとで、異能の世界での魔術師として訓練を受けていた時のことでした」

 「回復の魔術師って、案内の異能者が居なくても、パラレル世界へ行き来する能力も持っているの」

 「だから、聖月と一緒にこっちに来て、毎日のように訓練を続けていたから、13歳でも既にベテランと遜色ない能力を持ち合わせていたの。 異能者のスキルの訓練は、パラレル世界に来ないと出来ないからね」

 「その頃の私は、現在と違って、右手をかざして魔術を使っていた。 みんなもそうだろうけど、能力を使う時に、あえて何かしらのポーズを決めて......大概は相手に手をかざすのかな? それで集中力を高めて能力を使うよね」

 「当時の私と聖月は、訓練をし過ぎの状態だった。 2人共、元々の能力が高いのもあって、一歩間違えれば、魔術が暴走し易い状態だったのよ......」

 「そして、私が放った攻撃唱文魔術『ブラッド・サターン』が意図した以上に強力になって、聖月を襲ってしまったの」

 「もちろん、直接聖月を狙うつもりは無かった、訓練だから。 少し離れた場所を狙っていて、衝撃波で聖月を襲うように計算して放った筈だった......」

 「でも、思春期の女の子って精神状態が不安定でしょ? その影響も有ったのかもしれない。 もしかしたら、何か聖月を憎む様な気持ちが、心の奥底の何処かに潜んでいたのかも......」


 「聖月は、私の攻撃魔術の直撃を受けてしまい、防御魔術を掛けたけど、打ち破られて、瀕死の重体になってしまった......」

 「もちろん私は慌てて、聖月の元に駆け寄った。 師匠も」

 「すると聖月は、無意識のうちに禁忌の回復魔術を唱えていて、今度は私が攻撃された......攻撃というのは適当ではないかな? 生命力と魔力を吸い取られ始めてしまったの」

 「あの場に、当時の師匠であるアルシア・エーリットが居なかったら、私が死んでいたのでしょうね。 彼女は回復魔術師だったけど、何故か禁忌魔術の止め方を知っていたみたいで、聖月が私に掛けた魔術は途中で解けたわ」

 すると、詩音は聖月の上着を脱がせて、スポーツブラだけの姿にする。

 よく見ると、背中全体と肩から上胸部に掛けて、数本の傷跡が有った。

 「見ての通り、聖月の上半身に残るこの古い傷は、その時の私の攻撃によるものなの。 こんな綺麗な体に一生消えない大きな傷を付けてしまって......聖月、ゴメンね......」

 詩音は涙を流し始めてしまった。


 今度は、聖月が詩音の上半身の衣服を脱がせると、説明を始める。

 「詩音にも、心臓付近から背中に突き抜けた傷跡が残っているの。 これが禁忌の回復魔術を受けた痕跡」

 「回復って言っても、私が回復する為の魔術だからね。 詩音に残っているのは吸い取られた跡」

 「詩音、いつも言っているけど、もうあの時のことは気にしないで。 私はずっと詩音に助けられているのだから......」

 「そういうことで、異能者にどんな強力なスキルが有っても、禁忌の自己回復魔術を唯一使える私が最後まで生き残るっていうことだから、私が最強っていうのが詩音の言いたかったことだよね」

 「死にかけると、無意識のうちに禁忌魔術使っちゃうみたいだから、絶対死なない。 寿命が尽きる迄」

 そう言うと、聖月はいつも以上にニコニコするのであった。

 『内心を偽る作り笑い?』

 莉空にはそう見えたのであった。


 そして、この話を聞いているうちに、一つの事実に気付いてしまった莉空。

 涙が止まらなくなってしまう......

 「莉空、どうした? 美女2人の友情物語に感動し過ぎたのか?」

 海未が慰めながらも、元気付けようと、少し冷やかす口調で確認する。

 「いえ、違うんです。 エーリットさんがどんな気持ちで、2人に訓練を付けていたのかと思うと......」

 号泣になってしまった莉空。

 嗚咽が止まらない......

 すると、詩音と聖月も涙を流し始める。

 蒼空は、意味がわからず、

 「莉空、どういうこと?」

と困惑の表情。

 「回復の魔術師は、こっちの世界で両陣営に一人ずつ......新しい回復の魔術師が出現したってことは......その子が異能者の戦いに召喚された時に......」

 それ以上の言葉を続けることが出来ない莉空。

 ようやく、非情な現実を知るに至った蒼空。


 すると聖月は、

 「私も、そのことに気付かなくて。 2年前、16歳で戦いに召喚されて、負けたけど無事に帰って来れたから師匠に報告しようとしたら......私が現実世界からパラレル世界に移動した瞬間に、アルシア・エーリットは心臓が止まって亡くなったらしいの。 まだ39歳だったのに......」

 詩音も、

 「私達に魔術を教え始めた時は、28歳だった。 その時に彼女は自分の寿命を知ったってこと。 この教え子が回復の魔術師としての能力を備えるようになり、15歳を超えて異能者の戦いに召喚された時に、自分は死ぬんだってね」

 そう話すと、鎮痛な面持ちを見せていた。



 続けて聖月が師匠のことを話す。

 「見たことも無い位の美女で、心も綺麗な人だった。 夫を異能者の戦いで亡くしていて、未亡人だから、物凄い数の再婚の申込みが来ていたの」


『 「師匠。 再婚は考えないのですか? あんなに手紙やら色々来ているのに」

  「私は亡くなった夫が大好きだったから、再婚は考えていないわよ」

  「でも、こんなに綺麗なので......」

  「他にも理由が有るのよ。 その時が来たら、聖月にもわかるわよ」 』


 「はぐらかして、その理由は教えてくれなかったけど、私の存在が理由だったなんて......本当に残酷だよね。 この戦いは......」

 聖月はそう言うと、涙を流し続けるのであった。


 暫くして、エーリット師匠の話の際、終始微妙な表情を見せていた詩音。

 そのことが、莉空には少し気になったが、

 「ちょっと悲しい過去話になっちゃったけど、過去ばかり振り返っていても仕方ないよね?」

と言ったので、

 「はい。 ただがむしゃらに訓練すれば良いっていうものでも無いっていうことが理解出来ました。 一番は人を想うこと、師匠や仲間を大事にすることなのですね」

 莉空がその様に感想を述べた時、詩音は少しドキッとしてしまった。

 『次の戦いで自身が一歩前に踏み出すため、過去話をした』

という内心を見抜かれたのでは無いのかと。

 『見た目はごく普通なのに、師匠の内心の件といい、今の言葉といい、莉空は物事の本質が見える人なのかもね』

 詩音はそんなことを考えながら、

 「明日は、戦いになるでしょう。 とりあえず休める時に休みましょう」

と言ったことから、思い出話は一旦お開きとなるのであった。

 

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