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悪戯と黄昏の刻に・第一紀(異能者の戦い)  作者: 嶋 秀
第二章(リアル世界篇(伝説の魔術師リヴ・レヴ(詩音)を中心としたルキフェルとの戦い))
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第27話(聖月との別離)


帰国した詩音は完全にレヴと一体となり、2人の区別は無くなっていた。


その影響で、詩音と聖月は別々の道を歩むべきだというレヴの結論に従うこととなるのであった。


その後ある日。

詩音レヴは事件の被害に遭いそうになるが、レヴの能力のお蔭で、逆襲に成功する。


その事件によって、莉空の母が見た未来に気付き、過去を変えた影響を実感するレヴ。

詩音、聖月、莉空、蒼空、そしてレヴ自身の運命が大きく変わっていった真実を、少しだけ莉空に話すのであった。


 翌朝、蒼空(神獣)は起きると、犬になっていた。

 『おかしいな~。 変身して寝た覚えはないのだけど......』


 ところが、神獣に戻ろうとしても、戻れない。

 『やられた〜。 こんなこと出来るのはレヴしか居ない』

 直感でそう思った蒼空。

 寝ている聖月の横を通り抜けて、詩音の部屋へ。

 しかし、神獣の力が使えず、ドアノブを下げることが出来ない。

 仕方なく、ドアをガリガリやっていると、音に気付いた莉空がドアを開けてくれた。


 寝惚け眼で、

 「蒼空、どうしたの?」

と話し掛ける莉空。

 ここでいつもなら、莉空の脳内に蒼空の声が聞こえてくるのだが、

 「ウー、ワンワン」

と犬の鳴き声のみしか聞こえない。

 「蒼空〜、声が聞こえないよ〜」

 犬を抱き抱えて、優しく話し掛ける莉空。

 しかし、いくら吠えても状況は変わらず。

 すると、詩音レヴが声に気付いて起きてきて、犬(蒼空)のところに。

 莉空が詩音レヴに、

 「蒼空の様子がおかしいのだけど......」

と状況を説明すると、詩音レヴの瞳が再び輝いた。


 「レヴ、俺に何をした」 

 輝いた瞳を合図に、蒼空がやっと喋れるようになるが、神獣には戻れない。

 「やったのは詩音よ」

 レヴはその様に答える。

 「どっちでもイイけど、元に戻せよ」

 「ダ〜メ」

 詩音レヴは、神獣の要求を拒否する。

 「じゃあ、何をすれば元に戻してくれるんだよ」

 「聖月を東KYの大学に行かせなさい。 いつまで共同生活しているつもり?」

 「そんなの俺の一存では......」

 「じゃあ、蒼空はずっとそのままね。 私と莉空は秋からAM国に留学するから」

 「えー。 それは困る。 戻してくれよ」


 そこまでの話を聞いて莉空は、

 『詩音、聞いてないよ。 そんな話』

と思っていた。


 「聖月は悲劇の女性という状況だけど、聖月や蒼空だけが神々達の悪戯の犠牲になっている訳では無いのよ」

 「それはそうだけど」

 「私だって見てみなさい。 レヴと融合しちゃって、今後はレヴとして生きていくしかないの」

 「......」

 「聖月よりはマシだって言いたそうね?」

 「そういうことでは無いけどさ」

 「蒼空が沢山お金稼いで、生活費の問題は完全解消されたのだから、いい加減聖月と2人、東KYOの御屋敷で暮らすべきだと思う。 立派な邸宅が有るから、引っ越しだって簡単でしょ?」

 「でも、聖月が......」

 「大学に行く行かないは自由だけど、私達はお互いそれぞれの道を歩み始めるべき時が来たのよ。 私も聖月も、二度と異能者の戦いに参加出来ない立場に状況が変化したのだから......」

 「......」

 「私は日の当たる道を歩む者。 聖月は影の道を歩む者。 たった1年で、進むべき道が全く異なってしまった。 もう共同生活を続けるべきでは無いわ。 そうよね、聖月」

 ドアの裏には聖月が立っていた。

 「詩音レヴの言う通りね、蒼空。 詩音はこの夏期休暇中で完全にリヴ・レヴとなったのだから、これからは一緒に生活すべきでは無いわ」

 「そういうことで、覚悟は出来た? 蒼空」

 「聖月が望むのなら、東KYOで暮らそう。 大人になるということは、同級生や友達と群れ続ける生活を止めて、それぞれ独り立ちして、自分の足で一歩ずつ己の道を進み始めることだから」

 「じゃあ、この件は終わり。 引っ越しとかは自由に行ってね」

 「俺にかけた呪縛、解けて無いけど」

 「それは引っ越しする時に解いてあげる。 決断が鈍くなられても困るから」


 その後、聖月は引っ越しの準備を始めて、2日後には東KYOに向かって出発して行った。

 身の回りの荷物だけ持って行けば、東KYOの邸宅に元々必要な物は揃っているからだ。



 引っ越して聖月と蒼空が居なくなってから、莉空は、

 「聖月に随分と厳しい言い方をしたね。 詩音らしくない気もするけど」

 「そう? 私は『絶対零度』とか『氷の女』って高校時代には言われていたくらいよ。 聖月にだけは今まで甘過ぎたの。 レヴにもそう言われてね」

 「詩音は温かい人だよ。 内面は」

 「異能者の戦いから離脱した聖月が何をやろうとしているのか、それはわからない。 ただ、独り立ち出来ていない様な子が、大きなことを成し得る訳が無いでしょ?」

 「確かにそうだね。 かわいい子には旅をさせよっていうこと?」

 「レヴの意思はそういうこと。 長年多くの魔術師を育ててきた者の意見だから、やはりそれが正しいよ」

 「聖月が結局何も成し得なかったら、見捨てるの?」

 「見捨てる訳では無いよ。 でも私達は何もしてあげられない」

 「確かにそうだけど......」

 「多くを望まなければ、回復魔術師には引退という道も有るのだから。 その道を選んでくれれば、援助することも可能だけど、聖月は絶対に選ばないだろうね」

 「どうして?」

 「あの子は、私に対するライバル心が物凄いのよ。 表面上のおっとりした雰囲気と異なって、心は燃えたぎっていて、活火山の、マグマを吹き出し続けている火口の様な熱さなの」

 「そんな感じはあまりしないけど......」

 「そして万が一、聖月が闇の手先に堕ちるのであれば、殺して楽にしてあげる」

 「......」

 「ちょっと過激な言い方だったかな? レヴだったら普通の言い方だから、つい口にする様になっちゃって」

 「もう、詩音とレヴの境目は無いんだね」

 「そういうこと」



 東KYOに引っ越しをした聖月と神獣。

 『随分急に、追い出されちゃったね』

 蒼空が、聖月の脳内に話し掛ける。

 「仕方ないよ。 そもそもは東KYOの大学に合格した私が、札P市内から引っ越そうとしなかったのが悪いのだから」

 『夏休み中滞在していたAUSTR国から帰ってきて、詩音は随分変わった感じがしたけど......』

 「エルフのリヴ・レヴと完全融合すれば、やっぱり人格や考え方が変わるのは当たり前じゃない? エルフの思考や感情がどういうものか知らないけど、人間と異なるでしょ?」

 『でも......』

 「私は詩音に甘え過ぎだったの。 それは間違いないわ」

 『そんなことは無いと思うけど』

 「詩音はリヴ・レヴと融合したというより、レヴの一部になったという感じだよね? だからもう詩音に甘える様なことは出来ないのよ。 神々達に近い立場の伝説の魔術師が、闇の勢力と接触している私と一緒に居続けることは、有ってはならないことでしょ?」




 秋になって大学が再開すると、詩音レヴはより注目を浴びる様になっていた。

 詩音レヴが同学科の学友に対して、

 「◯◯さん、おはようございます」

 「✕✕君、ありがとうございます」

という風に挨拶や御礼を言うことが増えたのだ。

 今まで、そういう会話をするのは聖月であり、詩音は無言でやり過ごすことが多かったのだが、完全な一体化となってからは、親しく無い人に対しても、簡単な言葉を交わすという大きな変化が見られる様になった。

 レヴは愛想が有って、表情が明るい人であるので、詩音がその影響を強く受ける様になったからである。

 

 「璃月って、夏休み中に変わったよな?」

 「前から美女だったけど、冷たさが少なくなって、そこに可愛さが加えられた感じ?」

 「あんな子が彼女だったらな~」

 「カッコイイ男がいつも隣に居るもんな。 残念」

 「彼氏が居なくたって、お前なんか相手にされないよ。 お嬢様だしな」

 そんな会話がキャンパス内で為されることも増えていた。

 普段はいつも、莉空と一緒に居る詩音レヴ


 しかし、たまに一人の時もある。

 秋らしくなったある日。

 この日、詩音レヴは、授業が終わって人が居なくなった夕方の教場で莉空を待っていたところ、その時を狙って男4人のグループが教場に入ってきて近寄ってきた。

 「カワイイね~君。 これからどうするの?」

 「それよりも今日これから、コンパ行かない?」

 口々に自分達の用件を言ってくる。

 『ウザっ』

 内心そう思ったが、

 「私、莉空を待っているのです。 だからコンパはお断りさせて頂きます」

 流石に、ムッとして即断りを入れる。


 ところが、このグループはなかなか引き下がろうとしない。

 「そんな彼より、俺達の方がイケてるからさ〜。 あそぼーよ」

 『何だコイツら』

 頭に来て、詩音は立ち上がってその場から去ろうとすると、腕を掴まれそうに......

 男の一人が詩音の腕に触れる直前、男の手は激しい熱さを覚え、

 「熱......」

と言って、慌てて手を引っ込める。


 その時、この男の思考や過去を見た詩音レヴ

 『こいつ等、沢山の女の子を輪姦をしている性犯罪者達だ』

 そのことを知った詩音は、一つあることを思い付き、実行に移すことにした。

 「ねえ、そんなに警戒しないでよ~。 うち等同じ大学なんだしさ〜」

 「そうそう。 こんなカッコイイ四人組、なかなか居ないよ」

 しつこく、詩音レヴに付き纏う4人。

 「いい加減にしなよ、性犯罪者四人組」

 プチっとキレた詩音レヴは、思わず魔術で知ってしまったことを口から出してしまう。


 すると、本性を現し始める男達。

 「なんだと、このアマ」

 「ちょっと顔がイイからって、調子に乗っているんじゃねえぞ」

 男のうち一人が逆ギレして食って掛かる。

 そして、

 「ヤっちまおうぜ」

と他の3人に声をかけて、詩音の腕を掴もうとしたところ、

 「手が熱い、熱い......ギャア〜〜」

 男の手が激しい火傷状態となる。

 一瞬呆然とする男達。

 「おい、何をした」

 そう怒鳴りながら再度、詩音に襲い掛かろうとする仲間の別の男。

 その時、詩音レヴの瞳が一瞬輝くと、襲い掛かった男は、やにわに反対方向に走りだし、全力疾走で教場の壁に激しく衝突。

 そのまま頭を打ち、気を失ってしまった。


 不思議なことが相次ぎ、動揺する男達。

 一旦詩音から離れて様子見をしながら、怪我をした男を介抱するため、壁際に移動し、そこで悪態をつき続ける男達。

 「こいつ、絶対犯してやる。 逃さねえぞ」

と。

 それを尻目に、男達によって、いつの間にか施錠されていた教場の鍵を魔術で解錠し、悠々と教場から立ち去ろうとする詩音レヴ

 すると、教場に鍵が掛かっていて、中に入れず困っていた莉空が駆け寄ってきた。

 「ゴメン、詩音。 鍵が掛かっていて入れなくて」

 「遅いよ~」

 そして莉空は、同じ教場に居た男4人に気がつく。

 「アイツ等、何か詩音の方を見ながら、わめいているけど......」

 「あの男達、莉空が居ない隙に、私を教場に閉じ込めて、輪姦しようとしたの」

 それを聞いてビックリした莉空。


 でも、男達の様子を見て、

 「返り討ちにしたんだね」

 莉空はそう言うと笑い始める。

 「笑うところじゃないでしょ?」

 「だってアイツ等、詩音に触れることすら出来ないよね?」

 莉空は、無闇にレヴに触れると、大怪我をさせられることを知っていた。

 「まあ、そうなんだけど」

 「それで、アイツ等どうする。 犯罪者だよね?」

 莉空はそうは言ったものの、彼等が素直に犯行を認めるとは到底思えず、逆に詩音に怪我をさせられた等と、言い掛かりを付けて来るだろうと予想していた。


 「フフフ。 私に任せて。 多くの被害者の女の子達の為にもキチンと罪を償わさせないとね。 これからアイツ等は、自ら警察署の前に移動して自首するのよ」

 そう言うと、詩音レヴは指を鳴らした。

 すると、後ろで騒いでいた男4人は、急に大人しくなって歩き始める。

 4人は詩音レヴの光る瞳を見た影響で魔術に掛かり、操り人形になってしまったのだ。

 大学のキャンパスを出て、黙ったまま歩き続ける4人。

 地下鉄に乗って、O通り公園駅で降りる。

 詩音は莉空と一緒に後をつけて、事の顛末を最後迄確認することにしていた。


 地上に出た4人は、少し歩いて古めかしい外観の警察署の前に到着すると、服を脱ぎ始め、素っ裸に。

 そして、その場で踊り始める。

 人通りもあるところで全裸の露出。

 その場所を通り掛かった人々は驚いた様子で、男4人を避ける。

 中には、動画撮影する人も。

 思わず吹き出す莉空。

 「詩音。 あれは傑作だね~」

 「私は大マジメなんだけど......」

 莉空の反応に、少し渋い表情の詩音。


 当然、通報が入り、警察署内から直ぐ警察官が出てきて、4人は公然わいせつ罪で逮捕されてしまった。

 しかし、これで終わりにするような詩音では無い。

 そのまま魔術でコントロールをし続け、男4人が今まで行ってきた数々の性犯罪を、逮捕後の取調べ担当の刑事に自供させる。

 端末に残っていた証拠の映像も提出。

 そのまま警察の捜査がある程度進んで、事件の証拠が固まる迄、詩音レヴのコントロール下におき続けて、大人しくさせておくことにした。



 警察署にほど近い、自宅マンションに帰宅してから、莉空は詩音レヴに、この出来事の続きを話し掛ける。

 「レヴって凄いね。 魔術で多人数のコントロールも出来るんだ」

 「魔術というよりは、呪術の範疇かな? マインドコントロールっていうんだっけ? 人間の世界では」

 「じゃあ魔術じゃないの?」

 「もちろん魔術の一種で、普通の人間には有効。 ただ、異能者やルキフェルには全く効かないよ」


 「アイツ等、余罪が沢山有るんでしょ?」

 「気に入った女の子をナンパして泥酔させてから、同意無く輪姦して、その動画を撮影。 そして、酔いが冷めて正気に戻った女の子を、映像の存在を理由に脅すのよ。 『もし、警察にチクったら、映像をばら撒く』ってね」

 「もう一つのパターンが、私が狙われた様なやり方で、大学の教場に閉じ込めてのレイプ。 こっちの方が悪質で脅し方は一緒だね」

 「酷いね。 本当に鬼畜だ」

 詩音はコントロール下においている男四人組の脳内から得た情報を説明し続ける。

 「アイツ等、うちの大学の医学部5年生で、親が金持ちのボンボン」

 「もちろん、中には警察とかに届出した被害者の女の子も居たけれど、それについては親の権力とか財力で、弁護士を使って金で示談。 性犯罪の被害者が裁判やるのは、セカンドレイプみたいな感じになるから、精神的に大変だし、警察に届出したって動いてくれる保証は無いからね。 『同意が有った』って男達は必ず言い張るから」


 詩音から詳しい状況を教えて貰った莉空は、怒りを込めて、

 「クズ中のクズだね」

と吐いて捨てる。

 「今回の逮捕と性犯罪での再逮捕は、流石にアイツ等の親達の権力を使っても揉み消し出来ないので、大学は退学処分で人生は詰んだって感じかな? でも、懲役刑を終えて出所してからも、親の金でノウノウと生きていきそうだけどね」

 そう説明した詩音も、憤怒んやる方無い様子であった。

 「ところで、詩音レヴへの報復とか大丈夫なの?」

 莉空は金持ちの子息と聞いて、少し心配になる。

 「まあ、大丈夫でしょ。 例え殺し屋を雇って、私を暗殺しようとしても、それはほぼ不可能なミッションだから」


 莉空は、こういうことをレヴがやってくれたのは、詩音と一体化した効果なのだろうと考えていた。

 レヴだけだったら、人間の犯罪行為に対して、法のルートに乗せて処分をさせる様なことはしないだろうし、詩音だけだったら、もしかしたら性犯罪の被害に遭ってしまっていたかもしれないのだから......

 レヴが詩音を護ってくれて、本当に感謝している莉空なのであった。


 すると、莉空の思考を見たレヴが、追加の説明を始める。

 「今回の出来事は、詩音が望んでやったことよ。 私は人間の犯罪行為にそれ程興味無いし、犯罪者を裁判にかけるなんていう回りくどい考え、持っていないからね」 

 「詩音が、私の能力を利用したってこと」

 それを聞いた莉空は、

 「それでもレヴが居なかったら、詩音は酷い目に遭っていたかもしれないよね? 本当にありがとう」

 感謝の言葉を口にする。



 その言葉を聞いてレヴは、ある一つの結論を導き出していた。 

 「それで、今回の出来事から、16年前に莉空の母エリンが見た未来っていうのが、なんとなくわかってきたから、莉空に話してあげるね」


 「これは、私レヴの推測だけど、エリンが見た莉空の未来っていうのは、今回の出来事で恋人だった璃月詩音が強姦死したのだと思うの。 詩音は激しく抵抗するから、アイツ等は殺してしまえっていうことになってね」

 「当然、現実世界で詩音は魔術を使えないから、男4人に殺されたのでしょう。 そうなると恋人を殺された戸次莉空は、報復しようと闇の勢力に堕ちて、奴等に復讐を遂げる」

 「そして最期、ルキフェルと戦い続けるリヴ・レヴに莉空は敗北して死ぬ。 きっとそういう未来をエリンは見てしまったのでしょうね」


 「そして、そんな愛する我が子の悲惨な未来を少しでも変えたいから、エリンは魔力を幼い莉空に移して死んだの。 その行為で、詩音、莉空、聖月、蒼空、そして私レヴの未来は大きく変わったのよ」

 その様に話したレヴは、

 「母は強いわね、いつの時代も。 カワイイ我が子の為に、命を投げ出す姿、幾万と見てきたわ」

と嘆息する。


 「元々、私の予定に、璃月詩音を弟子にして魔術を教えるということは、入って居なかったの」

 「......」

 「私は、何処に居るのかわからない様な生活をずっと続けているから、魔術師の訓練をする予定って、だいぶ前から決まっているのよ。 神々達からの依頼を受けてね」

 「私も大魔術師の端くれとして、異能者の魔術師が道を大きく外れない様に、訓練をする責務を背負っているの。 面倒だけど」

 

 「今思い返してみると、詩音を魔術師にする訓練を私が請け負ったのは、エリンが亡くなった後だったわね」

 「当時は別に違和感を覚えなかった。 いつも通りだいぶ先の予定での話だったから」

 「でも、私が詩音と絡むことで、私自身の人生も大きく変わったことに、ずっと違和感を感じていたのよ。 そして、肉体を半分喪う様なことにも巻き込まれて、人間と一体化せざるを得ない状態になってしまった」

 この時レヴは、少し嘆く様な表情を見せた。


 「未来を変えることは、絶対に犯してはならない禁忌。 でもエリンはそれを願って、少し実行してしまった。 我が子の悲惨な未来を見てしまったから......」

 「その結果、詩音と莉空の人生は、より幸せなものになったのよ。 ただし、私とエリン、聖月、蒼空君は、より不幸になった。 運命の等価交換の法則が働いてね」


 そして、レヴの表情がより真剣なものに変わる。

 「莉空。 これは当人に絶対言わないで。 本来魔術師となって、私の弟子になるのは橘聖月だったの」

 「でも、エリンの行動が運命を変えてしまった。 魔力の移し替えという行動に手を貸した師匠の私とエリン自身に不幸が訪れるのは当然だとしても、詩音の直ぐ側に居る人にまで不幸が訪れたのは、少し可哀想だから......」


 それを聞いた莉空は『はっ』という表情をした。

「莉空がいま気付いた通りよ。 聖月が回復魔術師なのに、強力な暗黒魔術を使える理由は、元々彼女が魔術師候補だったから」

 そう説明したレヴは、エリンの願いに手を貸してしまったことを少し後悔しているようにも見えたのだった。


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