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悪戯と黄昏の刻に・第一紀(異能者の戦い)  作者: 嶋 秀
第二章(リアル世界篇(伝説の魔術師リヴ・レヴ(詩音)を中心としたルキフェルとの戦い))
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第25話(新たな戦い第二弾)


莉空の訓練の為に、レヴから呼び出しを受けたリン・シェーロン。


急いでAUSTR国へと向かうが、喜びが油断に繋がり、新たな戦いの第二弾が始まる。


 リヴ・レヴの呼び出しを受けたスペシャルゲストは、リン・シェーロンであった。


 内心、喜び勇んでいたリン。

 連絡を受けてから、急いでスケジュールの調整を秘書に命じる。

 「大事なAM国行きを、突然キャンセルするなんて。 リン様、いったいどうしたのだろうね?」

 側近や秘書達は、急な予定変更に少し驚く。

 リンは、滅多にないレヴからの呼び出しに、相当舞い上がっていたようだ。

 急遽のAUSTR国への出張。

 準備を進め、聖剣レーヴザックスを忘れず携行し、翌日にはプライベートジェットに搭乗して、出発していった。


 ただ、リンは急ぎ過ぎて、周囲の警戒を怠っていた。

 彼の行動を監視している人物が居たのだ。

 それは、ルキフェル五大良将の一人、アーキル・スカイラであった。

 「シンウ・ゾーヴァイアンに連絡を。 リン・シェーロンが動いたと」

 配下の者に三賢者の一人への伝達を命令してから、後をつけることにする。

 国家機関に潜入している配下に、行先を調査させた結果、

 「行先は、AUSTR国のMER空港か」

 AUSTR国周辺には、最強の異能者が居る上に、数十年間ルキフェルに堕ちる者が出ていない為、手出しをしたことが無い。

 「あそこの異能者は、三賢者が3人揃っているのと同等の実力だからな」

 アーキルは呟きながら、対応は別の五大良将に任せることにする。

 『さてと。 あとから向かって、新参の五将の戦いぶりをゆっくり見物といくかな』



 リンは、空港に到着すると、迎えの者と合流して、MER市内にあるクラシックなEI国調の重厚な建物に向かった。

 ここで、AUSTR国唯一の異能者デュオ・ローガムと面会することとなっていたからだ。

 リンも初めて会う人物。

 異能者の戦いでは敵同士。

 しかし、レヴの弟子という共通点がある。

 しかもレヴから、『現役最強の弟子』と聞いている。

 流石のリンも緊張の色を見せる。


 貴賓室に案内されて、暫くすると若い男が現れた。

 「これはこれはリン殿、初めまして。 デュオ・ローガムと申します。 どうぞお見知り置きを」

 デュオはリンを見て、

 『コイツがレヴの最後の男の弟子か〜。 僕には聖騎士も宿っているのに、今回レヴがわざわざ呼び出すなんて。 気にいらないなあ〜』

と内心思っていた。


 「こちらこそ、丁寧な挨拶痛み入ります。 リン・シェーロンと申します」

 『この男が、レヴも認める実力者。 いい歳して若作りして......さては、レヴが滞在しているからだな? ジジイのクセに』

 結構バチバチの2人。

 挨拶はそこそこにして、早速レヴ達が待つ場所へ向かうことにする。

 車両内で2人は、ひとことも言葉を交わさなかった。



 案内された広い牧羊地に到着すると、莉空と訓練をしているレヴが待っていた。

 「ひとまず、パラレル世界に移動するね~」

 レヴはそう言うと、集まった者達を連れて、直ぐに移動した。


 そしてレヴは、リンに向かって手を振り、

 「あらリン、この間ぶりね~」

と話し掛ける。

 『この間ぶり? そんなに頻繁に会えているのか? ガーン!』

 ショックを受けるデュオ。

 その後すぐに、

 「レヴ、お久しぶりです」

とリンの返した挨拶を聞いて、

 『久しぶり? そうだよ、そんな頻繁に会っている訳じゃない。 落ち着け、僕』

 少し気持ちを立て直したデュオ。

 「デュオどうしたの? 何か表情が冴えないわよ」

 「いえ、大丈夫です」

 「???」

 レヴは不思議そうな様子を見せる。


 そこで莉空が、

 「リンさん、1年ぶりですね。 随分雰囲気が変わったような気がします」

 「莉空君、久しぶり。 雰囲気が変わったのなら、それは聖剣士になったからだよ」

 『そっか〜。 レヴ=詩音だから、1年ぶりだったのか〜。 僕なんか21年ぶりなのに......』

 悔しそうな顔をするデュオ。

 ここでリンが、

 「レヴ、随分背が低くなりましたね。 前回は座ったままだったので気付きませんでした」

 「詩音の背の高さだからね、今は」

 「今ぐらいの背の高さの方が、人間から見たら、より素敵だと思いますよ」

 『ぐぬぬぬ。 レヴにおべっか使いやがって』

 デュオがそんなことを考えていると、

 「ところで、デュオ、リン」

 レヴが急に不機嫌そうな表情に変わる。

 一変した表情に驚くデュオとリン。


 「2人共に油断し過ぎじゃない? 特にリンは私と会えるって喜んでやって来たのはわかるけど」

 怒りを含む強い口調のレヴに、若い頃、厳しい訓練や容赦無く実戦に放り込む師匠の姿を思い出して、背中に冷や汗をかき始める2人。

 「ルキフェルを一緒に引き連れて来るなんてね」

 そう言うと、レヴは攻撃魔術『ヘルファイア』を虚空の空間に向けて放つ。

 すると、急な攻撃にダメージを受けた人物が2人現れたのだ。

 その姿を見た詩音が、ビックリした表情を見せた。

 「修豪......」

 思わず、入れ替わっていないのに、レヴの口から呟いてしまった視線の先には、かつて異能者の戦いで死んだ筈の、元リーダーと、1年前の異能者の戦いで倒したRU国人の異能者サーシャとイワンが融合した不気味な物体が立っていたのだ。


 「リン。 あの不気味な方は貴方が倒すのよ。 1年前のトドメの刺し方が甘いから、ああいう姿になっちゃうの」

 詩音の目を通じて状況を把握済みのレヴは、リンに対戦相手を指示すると、リンは聖剣レーヴザックスを手にする。

 「デュオは、まだ隠れている2人の警戒をお願いね。 一人は三賢者だから、油断禁物よ」

 そう言ってから、レヴは修豪の前に立った。

 「異能者の方面リーダーだった人が、ルキフェルに堕ちるなんてみっともないわね」

 レヴは修豪に向かって言い放つと、修豪は、

 「お前はレヴか? 俺から奪った名刀鬼力と雀切を返せ」

と言い始めた。

 「奪った? 人聞きの悪い。 貴方が賭けで負けたのでしょ?」


 『またこの展開?』

 詩音は呆れた様子を見せる。

 「確かに賭けでは負けた。 でも名刀は賭けていない」

 「嘘付くな、このエロおやじ。 貴方は私の可愛さに、自分のモノにしようと鼻の下伸ばして、名刀を賭けたんじゃない? それも一回だけじゃなくて、二回も」

 『修豪、ただのエロオヤジじゃん。 3年前の異能者の戦いの時は、沢山立派なことを言っていたのに......』

 人間の二面性を改めて実感する詩音。


 「お前が魔術でインチキしたのだろ? じゃなければ、幸運のスキルを持つ俺が、2度も賭けで負ける筈がない」

 「幸運のスキルに頼る様な人生だから、最後無様に負けて死んだのよ。 そして、暗黒屍蝋ゾンビになってまで現世にしがみつこうだなんて、みっともない」

 「言わせておけば......ぶった斬ってやる、この売女ばいため〜」


 そして、修豪はレヴに向かって突進して、闇の力が宿った名刀酒呑童子を振るいながら、斬り掛かっていく。

 それを見たレヴは、右手の掌にサージェントBホールを作り出すと、修豪に向けて放つ。

 突進が急に止まり、魔力のブラックホールに吸い寄せられる修豪。 

 「うおおおお〜〜」

と叫び声を上げ、激しく抵抗。

 吸い寄せられつつも、まだレヴの方へ前進しようとする異様なパワーを見せつける。

 『あれは、闇のパワー?』

 詩音は、かつてのリーダーの変わり果てた姿に、吐き気を催す思いがした。

 『今回は敵が多いから、私がさっさと片付けるね、詩音。 それに、元リーダー相手だと戦いにくいでしょ? 高みの見物をしておいて』

 詩音に、頭の中で話し掛けるレヴ。


 ここで更にレヴは、『ダークネス・レヴェリー』と呟く。

 一瞬でレヴの周囲が暗黒空間に変わる。

 しかし、限定的な暗黒空間しか発生せず、レヴと修豪だけがその空間内に入る形に留まった。

 暗黒空間内で、レヴはトドメにと『アイス・ブレード』を放ち、直撃を受けた修豪の体は、氷の刃に切り刻まれて、ゆっくりとバラバラになってゆく。

 そして、バラバラになった物体は、全て魔力のブラックホールに吸い込まれて消えて行くのであった。


 やがて暗黒空間の彼方から、修豪の断末魔の様な声が響き、その声がパラレル世界にも反響し始める。

 その声が徐々に消えてゆき、ダークネス・レヴェリーが消えると、莉空の隣にレヴが立っていた。

 「修豪?だっけ。 あの人は......」

 莉空がレヴに確認する。

 「バラバラになって、ブラックホールに吸い込まれながら、暗黒空間の彼方に消えたよ」

 あっという間に戦いを終えて、詩音に入れ替わったレヴが答える。


 「あれは、1年前に詩音やリンさんと見た、あの空間と同じですよね?」

 「その通り。 ダークネス・レヴェリー」

 「今回使う必要性は無いように見えましたが」

 「この場に見学者が2人居るのよ。 ルキフェル以外のね」

 「それって......」

 「だから、見せてあげたの。 あの2人がやるつもりのことは、これぐらいの魔術が使えないと、まず無理だからね」

 レヴは、その様に話して笑うと、

 「あとはリンの戦いぶりを見学しましょう。 ルキフェルの隠れている2人や聖月達と一緒に」


 『やっぱり、レヴ様最高〜。 可愛いくて超凛々しい〜』 

 あっという間に戦いを終えた勇姿を久しぶりに見たデュオは、感激していた。

 『容赦無く、そして、出し惜しみせず』

 その姿を久しぶりに見れて、感涙していた。


 

 隠れて戦いの様子を見ている聖月と蒼空。

 「あんな限定的なダークネス・レヴェリーを使えるなんて......」

 聖月は驚きを隠せない。

 「リヴ・レヴは強いね。 五大良将の一人をほぼ相手にせず圧倒した」

 神獣の蒼空も呟く。

 「暗黒空間を創り出す魔術を使ったってことは、私達の存在に気付いて、ワザと?」

 聖月が呟く様に蒼空に話し掛ける。

 「きっとそうだろうね。 これぐらい使いこなせる様になりなさいよという、見取り稽古かも」

 「やっぱり凄いね、リヴ・レヴって。 あれぐらい出来れば、神々達を倒すことも可能の様な気がする」

 聖月は目を輝かしていた。

 自身の様な悲劇的な運命を作って、人の心を弄んでいる神々達に対して、報復して止めさせたいというのが聖月の目的。

 その目的を可能にするような道標をレヴは見せてくれている様な気がしたのであった。



 残りの戦いは、リン対化物。

 この化物は一応、五大良将の一人として位置づけされている。

 既に、五大良将の一人、修豪はこの世から消え去り、残る戦いに注目が集まる。

 詩音レヴと莉空、デュオ・ローガム。

 聖月と神獣の蒼空。

 三賢者のシンウ・ゾーヴァイアンと、五大良将の一人アーキル・スカイラの合計7人が注目する中、戦いは始まっていた。


 『レヴはもう片付けたのか?』

 舌戦で始まった筈のレヴ対修豪は、舌戦が終わると30秒程でケリがついて、終わってしまっていた。

 『聖剣士となって初めての戦い。 あまり無様な姿を見せると、レヴに叱られる』

 そんなことを考えていると、サーシャ&イワンが攻撃を仕掛けて来た。

 「リンめ〜。 俺達を救うどころか、トドメを刺しやがって」

 箱D市内での戦いで瀕死の重傷を負った時に助けなかった恨みをはらさんと、猛攻を仕掛ける不気味な化物。

 暗黒屍蝋とはいえ、元異能者2人が一体化した上に、闇のパワーも得ていることから、異能者だった時よりも遥かに強くなっている。

 『こうならないように、あの時命を奪ったが、哀れみを覚えて無意識のうちに手を緩めてしまい、こんな姿で登場する結果となってしまった』

 2人の融合した醜い物体になっても、現世に未練を残し続ける化物に、改めて哀れみを覚えるリン。

 サーシャ&イワンの遠隔攻撃を聖剣で弾き飛ばしながら、徐々に間合いを詰めてゆく。

 近付くにつれて、化物の攻撃の威力は加速度的に増すが、全て聖剣をふるって弾き返す。


 『あれは、なんで弾き返せるの?』

 詩音がレヴに質問すると、

 『聖剣を振るって一つ一つ弾いているように見えるけど、実際には、聖剣を振るって防護壁を作って弾いているんだよ』

 『なるほど~。 莉空も出来る様になるのかな? あのワザ』

 『それには修行を積まないと。 リンは私の弟子を7年間やって、何度も死にかけて、漸くあれを身につけた訳だからね』

 『そうだよね。 防御魔術より、遥かに難しそうだもの』

 そんな会話を詩音とレヴが脳内でしていると、間合いを詰め切ったリンは、聖剣を化物に振りかざして、斬り掛かった。

 「ギャア〜〜」

 化物は悲鳴をあげる。

 闇に堕ちた体は、聖なるモノに対して大きなアレルギー反応の様なものがある。

 聖剣で斬り付けられると、名剣や名刀の数倍の損傷と痛みを感じると言われている。

 サーシャ&イワンの物体は、激しい損傷で飛び跳ねる様にして後退りした。

 そして、再びリンに遠隔で猛攻を加える。


 『一撃で終わらせるか』

 リンは、周囲の注目も考慮して、聖剣士になったことで効力が大幅に強くなった技を出すことにした。

 一瞬で一気に間合いを詰めたリン。

 あまりに急速に詰められて、焦る化物。

 『横斬雷閃』

 リンが呟きながら、両手持ちに切り替えて聖剣を大きく真横に一閃させると、化物の体は真っ二つに切り裂かれた。

 更に、

 『断斬光閃』

と言いながら、両手持ちのまま聖剣を上部から縦方向に、叩き斬る様にもう一閃。

 片手に聖剣を持ち替えてから反転し、ゆっくりとその場を去ってゆくリン。

 サーシャ&イワンの物体は4つに切り裂かれてしまうと、4つそれぞれが激しく動き続けていたものの、1分も経つと殆ど動かなくなった。


 『終わったの?』

 詩音がレヴに確認する。

 『そうよ』

 レヴが答えると、近くに居たデュオが魔術を唱え始める。

 やにわに、元サーシャ&イワンの物体が妖気に包まれ、魔術で作られた地獄の業火に燃やされ、灰になっていった。

 ルキフェルに再々利用させないための措置だ。


 その時、詩音とレヴが入れ替わって、一瞬でレヴが、『アルテミス・バーン』と呟きながら右手を横に一閃して、虚空の空間に攻撃を加える。

 そこには、三賢者のゾーヴァイアンと五大良将の魔術師スカイラが隠れていたのだ。

 スカイラは防御魔術を張っていたが、防御壁こと遥か彼方に弾き飛ばされたルキフェルの2人。

 不意打ちで超強力な攻撃魔術を喰らったので、かなりの重傷を負ってしまった。

 ふらふらと立ち上がり、スカイラはゾーヴァイアンに、

 「五大良将が2人倒されて、だいぶ劣勢です。 しかもリヴ・レヴが居るので、ここは退きましょう」

と語り掛けると、ゾーヴァイアンは暗黒魔術を唱え、2人は姿を晦ました。


 「チッ、逃げられたか〜」

 レヴは残念そうに呟く。

 『隙を狙っていたの?』

 『そうよ。 アルテミス・バーンを使ったのに、重傷止まり......やっぱり闇のパワーも使った防御魔術は、かなり堅いね』

 詩音にレヴは状況を説明すると、戻って来たリンに飛び付いて、

 「リン、強くなったね~。 よしよし」

と頭を撫でる。

 ちょっと恥ずかしそうなリン。

 羨ましそうに佇むデュオ。

 『レヴ。 頭撫で撫でって、褒める態度としてどうなの?』 

 詩音が言うと、

 「私から見たら、みんな赤子の様な年齢差よ。 全然構わないでしょ?」

 そう言われると、確かにその通りである。



 ルキフェルは撤退し、損害も無く、無事戦いは終了した。

 「良かった~。 直ぐに終わって」

 莉空が安心した様子でレヴに話し掛ける。

 「五大良将っていっても、5人の中で格下の2人を倒しただけだから、向こうにとって大きなダメージになってないわよ」

 レヴはそう答えて、気を引き締める。

 「残り2人だよね? 五大良将って」

 「残りの2人が強いのよ。 死者じゃない、生者のルキフェルだから」

 

 「それと、本来の目的を果たしていないわね。 邪魔が入ったから」

 莉空の訓練の仕上げとして、リンは呼ばれたのだが、到着して直ぐにルキフェルとの戦いが始まってしまったのだ。

 「少し休憩してから、始めましょうか? リン、それで良いよね?」

 「休憩無しでも構わないですよ。 準備運動ぐらいのことしかしていないですから」

 『カッコ付けやがって、レヴの前だから』

 デュオはそう思ったものの、5分程度で戦いは終わってしまったので、準備運動という言い方も間違いでは無い。


 「じゃあ、直ぐに始めるかな」

 レヴはそう言うと、莉空の訓練を始めることにした。

 リンと対峙する莉空。

 名剣ヴィーティングには強力なレヴの魔術をかけて貰ったので、聖剣と引けをとらない魔剣へと進化している。

 防御魔術をかけてから、リンに打ち込む莉空。

 デュオとの訓練でだいぶ腕が上がった筈であったが、現役の聖剣士相手だと、かなり見劣りする。

 しかも、リンは防護魔術無しなのであるから。

 リンの聖剣に打ち込む莉空。

 しかし、リンが持つ聖剣の持つパワーに、魔剣であっても剣同士が当たることすら無く弾かれてしまう。

 「まだまだ」

 莉空は気合を入れて、叩き込むが結果は変わらない。

 数十合に及ぶ打ち込みは、クリティカルなヒットはなく、莉空は息切れ状態となってしまった。


 その様子を見ていたデュオが、

 「僕の右腕が疼いています。 是非一度お手合わせを」

 「魔術師が聖剣士に剣で勝負するのですか?」

 リンが少し驚いた様子で確認する。

 「僕の右腕は中世の聖騎士の亡霊が宿っています。 ジャン・ダーグラムが、聖剣グラムテインで戦うと言ってきています」

 「聖剣グラムテイン?」

 リンはビックリした表情でレヴの方を見る。

 レヴは口笛を吹きながら視線を逸らす。

 『グラムテインは、レヴが一番大事にしていた剣。 俺がいくら頼んでも見せてすらくれなかったのに......』

 リンは、理由はわからないけれども、聖剣グラムテインを『妖気の魔術師』が持っていると聞いて、燃え上がるモノが心の底から溢れてきた。


 「デュオ殿。 では一勝負お願い申し上げる」

 キリリッとした表情に変わったリン。

 『鋭い目付きのイケメン、リン・シェーロン対優しい顔のイケメン、デュオ・カイ・ローガムの剣闘。 面白そう』

 ワクワクしている詩音。

 『レヴさんの前だから、燃え上がり過ぎてる。 2人共レヴさん大好き過ぎだからな~。 ちょっと危ない闘いになるかも』

 ハラハラしている莉空は男なので、2人のレヴに対する想いの深さを理解していた。

 

 レヴが見ている中、2つの聖剣が対峙する。

 そして、お互いの意地が聖剣の力を増幅させる。

 一振りする度に、周囲の空間を切り裂く。

 レヴは、慌てて防御魔術オプス・イスカチニを張って、莉空と自身の身を護る。

 流石、聖騎士対聖剣士の打ち合いである。

 しかも聖剣を使っての。

 空間がギザギザになってしまう様な感覚。

 それが数分続いたが、勝負はつかず。

 タイミングを見てレヴが2人の間に割って入り、

 「はい、そこまで。 2人共こっち来て」

 レヴが笑顔で2人を呼び寄せる。

 疲れた表情でレヴに近づいたデュオとリン。

 やにわに、2人の頭を撫でるレヴ。

 「2人共、私の大事な弟子だから、これ以上張り合うのは止めてね」

 ハッとするデュオとリン。

 「そういう訳で握手して。 初対面でしょ?」

 あまり人間の心理を気にする様なタイプでは無かったレヴが、この様なことを言い出したことに、2人の弟子は意外感を持ちながら、渋々握手をした。


 「みんなにイイこと教えてあげるね。 聖剣って、どうやって作られたと思う?」

 レヴが質問すると莉空が、

 「それは、歴代の中の名工って呼ばれる方が丹精込めて作った剣でしょ? それに伝説時代やいにしえの時代に、活躍した剣も含まれるよね」

と答えると、

 「それだけでは、聖剣にならないよ。 名剣や名刀止まりだね。 そこに魔術師が魔力を込めて、初めて聖剣となる」

 「そして聖剣は、使用者の内心をその魔術師に伝えることも有るんだよね」


 『と言う事は......』

 冷や汗が出始めたリンとデュオ。

 内心思っていたことが、全部筒抜けになっていたということに気付く。

 「数百年前に、アールヴ・エルフの大魔術師リヴ・レヴっていう者が、魔力を込めたことで聖剣グラムテインとレーヴザックスは誕生したのよ。 そして、現在の使用者であるデュオ・ローガムとリン・シェーロンの心の内面を逐次伝えていたのであった......」

 「『レヴ、目茶苦茶カワイイ』とか、『若作りのジジイ』とか、『コイツ気にいらない』とか、『何年ぶりに私に会った』とか、『グラムテイン貸出ズルい』とか、全部しっかり伝わっているからね、2人共」

 『ガーン』

 『やっぱり』

という表情のデュオとリン。


 「そういう訳で、くだらない感情で、いがみ合っているのも全てバレているの。 そういうのはルキフェル討伐に悪影響を及ぼすから、協力してくれた方が良いんだけどな~」

 「申し訳ありません......」

 「人間としたら、お互いそれなりの年齢なのだから、もうそういうのは卒業しなさいよね」

 恥ずかしい思いをした2人。

 「それに、シェーロンが聖剣レーヴザックスを手に入れたから、デュオにも聖剣グラムテインを貸し出したのよ。 聖剣を持っていることで弟子と大魔術師との間に繋がりが出来ている訳。 今後何十年会わなくても、2人がピンチの時に聖剣が私にそのことを伝えてくれるのだから......」

 そう言われてしまうと、リンは反省せざるを得ない。

 『何故、グラムテインをローガムに渡すのだ』と思ってしまっていたから。


 「ピンチだからと言って、私が応援に駆け付けられるかどうかわからないけれども、聖剣から不思議な力が発揮されるかもしれないでしょ? それが師匠である私から弟子である2人への愛情ということね、人間風に言えば。 私はアールヴ・エルフだから愛情っていう感情は殆ど無いけど」

 その様に話をされて、嬉しさのあまり涙を滲ませたローガムとリン。

 心の狭さを反省して、より精進することを改めて誓うのであった......


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