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悪戯と黄昏の刻に・第一紀(異能者の戦い)  作者: 嶋 秀
第二章(リアル世界篇(伝説の魔術師リヴ・レヴ(詩音)を中心としたルキフェルとの戦い))
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第23話(妖気の魔術師)


高校を卒業した莉空、詩音、聖月。


大学は道を分かった筈であったが......


そして、新たな回復魔術師候補が出現したことが判明し、聖月は決断を迫られる。


レヴは莉空を連れて、新たな修行へ。

そこには、『妖気に魔術師』と言われる人物が待っていた。


 4月になり、数年前に北K道へ移転した某有名私立大学に入学した詩音と莉空。

 聖月は、東KYO都内の大学に入学したので、詩音と聖月は初めて、別の道へと進んだ筈であった。


 しかし未だ、札P市内の詩音の住む超高級マンションに聖月の姿があった。

 「あの〜、聖月」

 「何でしょうか? 詩音様」

 「いきなり大学を休学したの?」

 「そうよ。 私が居なければ、詩音はマトモに生活出来ないでしょ? 家事担当能力ゼロだから」

 「いやあ、それは否定出来ないけど......」

 「それに、蒼空の仕事がめちゃくちゃ忙しくて。 大学通っている場合じゃないから」


 形式上、聖月が運営していることになっている動物プロダクション。

 所属は神獣の蒼空だけであるが、中型の動物であれば、短時間で思い通りの撮影が出来ると、世界中から仕事の依頼が殺到し、毎週の様に何処かの国へと出張している聖月と蒼空なのであった。

 莫大な収入をあげており、大学進学の意味合いがあまりない状況。

 

 しかし、聖月が詩音との同居を継続したのは、別の理由があった。

 それは、リヴ・レヴの監視。

 聖月は気になって仕方がなかった。

 伝説の魔術師が、なぜ詩音と一体になって存在しているのかを。

 そして、詩音が莉空を連れて、パラレル世界にしょっちゅう行っていることも知っていた。

 莉空の戦闘力を上げる為の訓練で、リヴ・レヴの力を使って。

 かつては、聖月が詩音を毎日の様にパラレル世界へと連れて行ってあげていたのに、今や御払い箱状態。

 これには、聖月も寂しく思い、少し傷付いていたのだ。

 しかし、詩音が聖月の裏の一面に気付いていることもわかっていた。

 ダークネス・レヴェリーを放ったことや、その時の魔力の増大状況を詩音が気付かない筈が無いのだから......

 『私が闇に堕ちるのを恐れて、気遣っているのね、詩音は。 でも、もう......』




 それから2週間後、聖月に最悪の事態が発生していることが明らかになってしまった。



 大学のキャンパス内にいる時に、アンダーソン少佐から呼び出しを受けた莉空と詩音。

 聖月は神獣を連れて、ヨーロッパに滞在していたので、2人だけが呼び出されたのだ。

 迎えの車に乗り込み、例の秘密施設に入った2人。

 すると、ヒイロが待っていた。

 「少佐、用件は何ですか?」

 「本当は、聖月への用件だったのだけれどね」

 そう語るヒイロの表情に、いつもの様な冗談っぽさが一つも見られない。


 「私達に出来ることであれば」

 詩音がその様に言って、探りを入れると、

 「回復の魔術師の新しい候補者が見つかったという連絡だ」

 「......」

 「......」

 その発言に言葉を失う莉空と詩音。

 「そんな......」

 運命の残酷さを嘆く詩音。

 『ただでさえ、蒼空を喪って、聖月は変わってしまった。 それなのに......』

 そして、神々達に対する不満が爆発しかける。

 思わず、強い口調で

 「少佐。 それを聖月に言うのですか?」

 怒りをヒイロにぶつけてしまう。

 「そんな簡単に言える訳無いだろ。 まだ彼女は18歳なのだから......」

 流石に沈痛な表情のヒイロ。

 

 暫く沈黙の時が続く。

 「新しい候補者は何歳ですか?」

 「10歳だ」

 それを聞いた2人は、更に衝撃を受ける。

 最短であと5年。

 聖月の人生はそれで終わってしまう。

 回復の魔術師だけは、引退も選択出来るが、現実世界に於いて神々達の恩寵が消えた後の反動は大きく、相当酷い人生が待っており、まだ麗る若き聖月の身には、到底受け入れられないであろう。

 聖月には、候補者の育成を拒否するという選択肢もあるが、それを選べば......


 「少佐。 私から聖月にそんな残酷な事実を告げることは出来ません。 文書か何かで通知するか、少佐自身が説明してあげて下さい」

 詩音はそう答えると、莉空を連れて、施設から立ち去ってしまった。

 残された少佐も、言葉は無い。

 「詩音から言って貰おうかと思ったけど、やっぱり無理だな......」

 そう呟いてから、自身の職務として改めて、聖月を呼び出すことに決めたのであった。



 秘匿施設からの帰り道。

 レヴが詩音に話し掛ける。

 『詩音がずっと懸念していたことが現実になるか〜。 これで、聖月のルキフェル入りは決定的と言えるし。 あの子の魔力は相当強い。 強敵になるだろうね』

 『レヴ、それを避ける道って無いかな?』

 『一つあるよ。 私が、その新しい候補者を消すこと』

 『でも、それは異能者の絶対禁止行為だよ』

 『私は異能者じゃないから、そのルールの適用外』

 『でも、レヴは私でも有るから』

 『そっか〜。 詩音は異能者の範疇だし、ちょっと不味いか〜』

 『回復魔術師には引退っていう選択肢もあるけど......』

 少しだけ期待を込めて、詩音が呟くものの、

 『それは無理でしょ? 一度得た名声や富貴、美貌や栄誉等を捨てたく無いからと、死ぬ直前に大半の異能者がルキフェルに堕ちるのだから。 人間は欲張りなんだよね。 それに死を恐れ過ぎ』

 『でも、10歳の子を消すって提案......師匠も冷酷』

 『冷酷じゃなくて、合理的に考えただけよ。 聖月は詩音が思っている以上の魔術師だから、出来ればルキフェルに行かせたくないよね』

 『......』

 『ルキフェルに入れば三賢者以上のポジション確定かな。 そして、詩音には聖月を倒すことが出来ない。 でも、聖月は詩音を殺せるよ』

 『......』

 『まあ、その時は私が殺るから心配しないでイイけど』

 レヴの言う通りだと思った詩音。

 しかし、希望を捨てたく無い。

 『どうなるかまだわからないよ。 もしかしたら後継者を育てて、死を受け入れるかもしれないから』

 『......』

 レヴは、その選択肢を選ぶには、彼女はまだ若過ぎると言おうと思ったが、外野があれこれ言っても、あまりにも無責任だと考えて、黙ったまま眠りに就いた。

 


 この時点で聖月は、新しい回復魔術師の存在事実を既に知っていた。

 闇の使者からこの事実を告げられて、改めて仲間になるように求められていたのだ。

 しかし、再び誘いを断った聖月。

 と同時に、神々達に対して完全に失望し、今後二度と異能者の戦いに参加をしない決断もしていた。


 『アルシア・エーリットが、その時になればわかると言っていたけど、この気持ちなのね。 本当に絶望的な気分でお先真っ暗。 確かにルキフェルの仲間になれば、死を免れられて、現実世界でのポジションもある程度維持出来る。 良いポジションに居る人は、迷わず決断するだろう』

 聖月はそう思っていた。

 でも、先日の詩音達とルキフェルの大将の戦いを覗いていて、ルキフェルに堕ちた者が、暗黒屍蝋ゾンビになってしまうという真実も見てしまった。

 『あんな姿に朽ち落ちて迄、長命を求める気はサラサラ無い』


 しかも聖月は、美貌以外、経済的にも社会的にもごく平凡な状況にあり、異能者のわりに決して良いポジションに居る訳でも無い。

 『ようやく経済的に恵まれつつあるけど、それは蒼空のお蔭。 それまでも詩音に支えて貰っていたのだし、私は今、ルキフェルに降る必要性がない』

 そう判断していたのだ。


 それに彼女は、リヴ・レヴに相当興味を持っており、蒼空から情報を得たり、その他色々と調べていた。

 『異能者では無いが魔術師で、しかも神々達の掣肘の範囲外の存在。 私もそういう存在になりたい』

 その様に考え始めていたのだ。


 心配そうな蒼空が聖月に確認する。

 「聖月、どうするの?」

 「私は、異能者とかという、こんなくだらない縛りを破壊するつもり」

 「どうやって......」

 「神々達を倒すとか? 方法はわからないけど、まだ5年猶予が有るでしょ? その間に道を探すよ。 どうしようも無ければ、そこでルキフェルと手を組んでも遅くはないから」

 「わかった。 俺は聖月に付いていく。 何が有ってもね」

 独自路線を進むと決めた聖月。



 その後、ヒイロからの呼び出しには一切応じず、聖月と蒼空があの秘密施設を訪れることは二度と無かった。



 海外での撮影を終えて、聖月が神獣と一緒に、詩音の自宅マンションに帰って来た。

 ソワソワしている詩音。

 その様子に気付き、聖月は少し誂ってみることにする。

 「詩音、妙に落ち着きが無いね」

 「そんなこと無いよ。 普段通りでしょ」

 「詩音は嘘をつくのが下手だものね。 私の留守中何か有った?」

 「ううん。 何も無いよ」

 じーっと詩音を見つめる聖月。

 詩音は思わず、視線を落としてしまう。

 「回復の魔術師の新しい候補が見つかったってことかな?」

 いきなりド直球でブチ込んで来た聖月。

 「何処でそれを......」

 「私ねえ、もう異能者の戦いから離脱するから」

 「聖月......」

 「新しい候補の指導や訓練も一切しないよ」

 「......」

 「それが私の決断」

 そう告げる聖月の表情は固い決意を見せており、当事者でない詩音が口を挟む余地は無かった。

 「詩音、イイ? この話題は今後一切しないで。 新しい候補を詩音が訓練する様に命じられたら、やって貰っても構わないけど......」

 そう言うと聖月は以後、この話題に触れようとはしなかった。



 その後の聖月の行動は、普段と変わらず、蒼空の仕事が入る度に、あちらこちらに遠征をしていた。

 マンションに居る時は、大学は休学したので、普通に家事をして、大学に行く詩音と莉空を見送る日々であった。

 『聖月って、思っていた以上にメンタル強くなったね』

 レヴが感心して詩音に語る。

 『でも......』

 『今のところ、ルキフェルに降った様子も無いよ』

 『それは良いことだけど......』

 『既に、彼女自身の戦いが始まっている。 当面はあの神獣が居るから大丈夫でしょう』

 『そして、私達には私達の戦いが有る。 普段の生活は聖月に支えて貰いながら、それぞれの道を進むとしましょう』

 『それって、私に家事が出来ないって言ってるの? レヴ』

 『あら、出来るって言うの?』

 『出来ない......けど』

 『その点は、私以下ね』

 レヴは嬉しそうに笑う。

 『私と詩音は、一般生活に関して、人並み以下だから、支え合いましょう。 上手く融合出来れば、人並みになれるかもしれないしね』



 約3ヶ月後。

 大学は夏期休暇に入った。

 この間、ルキフェルが莉空や詩音を襲って来る気配は無かった。

 これは、聖月が詩音達の側に居続けている影響もあるのだろう。

 レヴは、その様に判断していた。


 詩音は莉空の訓練に加えて、新しい回復魔術師候補者「エマ・イリオギ」をも訓練する様になっていた。

 聖月との関係を考えて、何度も断ったのだが、他に訓練を出来る人材が誰も居なかったので、結局押し切られてしまったのだ。 

 

 『詩音。 夏休み入ったし、私の用件に付き合ってくれる?』

 レヴが急に語り掛けてきた。

 『良いけど、時間掛かるの?』

 『ちょっと、遠いところに行くから』

 『エマの訓練は?』

 『あんなの放っておけばイイのよ。 回復魔術師なんて、手を当てて集中するだけでしょ? 3日も訓練すれば十分なんだから』

 『そういうところは、雑だよね? 師匠って』

 『じゃあ、明日出発ね!』

 『えっ。 明日?』

 『よろしく〜。 行先はAUSTR国ね』

 『ちょっと、急過ぎだよ。 莉空は?』

 『一緒に連れて行くよ、当然。 莉空の訓練をする目的だから』

 レヴは予定を告げると、消えてしまった。

 『う~、逃げやがった......』

 

 結局、出発は5日後になった。

 ビザも必要だし、航空券も手配しなければならない。

 レヴにそういう説明をすると、渋々承諾。

 『面倒よね~。 200年前はそんなの無かったのに』

 『それ以後は、有ったでしょ? パスポートとか』

 『私、現実世界でも全てが使える魔術師よ。 入国審査とか通ったこと無いし』

 そうであった。

 人前から消えるのなんて朝飯前。

 出入りも自由自在だ。

 その気になれば、瞬間移動魔術も有る。

 『流石に、瞬間移動魔術は使って無いわよ。 あれを使うと、魔力の消耗が激しいし、ルキフェルの連中に居場所がバレる恐れがあるからね』

 詩音の思考に入り込んだレヴ。

 そう答えると、『寝るね~』と言って、消えた。




 AUSTR国のMER市から入国した莉空と詩音。

 『レヴ〜、本当に迎えに来ているの?』

 年齢50代後半、身長185センチ位のNH人・AU人クオーターの男。

 それらしい人が見当たらず、困っている詩音。

 『ちゃんとメール入れたのでしょ?』

 『うん。 返事も来たけど......』

 『じゃあ、ちょっと待って』

 すると、レヴが詩音と入れ替わる。

 入れ替わっても、それ程見た目が変わらなくなっている2人。

 外見上の融合率は9割を超えてきている。

 しかし莉空は、一瞬で雰囲気が変わったので、入れ替わりに気付く。

 「もしかして、レヴ?」

 「そうだよ。 よろしく〜莉空」

 そう言って、莉空に抱き着いてみる。

 「どう? 詩音と違いがある?」

 そう言われたので、抱き締めてみる莉空。

 「ほぼ一緒。 違うのは胸の大きさかな?」

 マジメに答える莉空。

 それに対してレヴは、

 「絶滅末期のアールヴ・エルフの女性は胸が小さいからね。 数百万年間の歴史のうちに、体型とかも大きく変化して、人間みたいな恋愛感情とかも希薄になり、最終的に子供が殆ど生まれなくなって、絶滅したのだがら」


 すると、暫くして、

 「レヴ、久しぶり〜。 随分背が低くなっているから、気付くのが遅くなっちゃった」

 イケメンの三十歳くらいの男が手を振って近付いて来た。

 「20年くらいぶりだよね? 私にとっては束の間の休息程度の感覚だけど」

 レヴが返事をすると、その男は手を差し出す。

 レヴは人間の握手だと思い、手を伸ばした時に、

 「はい。 借金返して」

と、にこやかに言ってきた。


 「借金???」

 レヴが覚えていないなあ〜という顔をしながら、クビを傾けて、カワイイポーズを見せて誤魔化そうとする。

 『超カワイイ〜、やっぱりレヴには何でも許せちゃうな~』

 内心、男はそう思っていたが、口にした言葉は真逆のものであった。

 「レヴ。 そういう表情で他の人は誤魔化せたかもしれませんが、そうはいきませんよ」

 『やっぱり、レヴって慢性金欠なのね。 三千年でいくら踏み倒してきたのだろう』

 詩音はそう思いながら、事態の推移を見守る。

 「いやあ〜、今は持ち合わせが無くて......」

 「今はじゃなくて、いつもでしょ?」

 男は手厳しく追及する。

 レヴは、そろりそろりとその場から立ち去ろうとするが、詩音が足を止めさせる。

 『師匠。 ここで逃げたら目的を遂行出来ませんよ。 それにこうなると思って、少しお金持ってきました。 私のお財布から払いますから』

 ここで、レヴと詩音が再び入れ替わる。

 「レヴ、どうしました?」

 雰囲気が変わったのに気付き、男は少し心配そうに確認する。

 「私は、璃月詩音って言います。 レヴの弟子です」

 詩音が自己紹介すると、急な入れ替わりに、男はちょっとビックリした顔をした。

 「貴方が『絶世』の方ですか。 レヴと一体になっているとは知らず、失礼しました」

 「僕は『妖気の魔術師』デュオ・カイ・ローガムと申します。 お見知り置きを」

 丁寧な言葉遣いに変わった。

 「それで、レヴの借金の一部になるかどうかわかりませんが」

 詩音はそう言って、一束のENを手渡そうとした。

 「いや、レヴの弟子だからって、師匠の借金を払う必要無いですよ。 僕も弟子の一人ですから」

 そう言って、受け取りを拒否する。

 「それにNH国の通貨で貰っても、誰も喜びません。 残念ながら、金融政策の大失敗で、通貨の価値が下がる一方ですから」

 「確かにそうですね。 私が生まれる前の話なので、詳しくは知りませんが」

 「僕は、生まれ育ったNH国の衰退を予測して、若い頃にAUSTR国に生活の拠点を移したのです。 元々両親はこっちで生まれ育ったものですから」

 「今や英語表記で2つのEN通貨、NH国とC国の通貨ですが、どちらの通貨も価値が落ちる一方ですからね」

 詩音は、巨大企業群の跡継ぎになる予定の人物である。

 ある程度、経済の歴史にも精通している。

 「そうですね。 僕が若い頃は、どちらの国も経済大国で、世界経済をリードしていたのですけど」

 デュオは、残念そうに話す。


 「ところで、レヴの借金ってどれぐらい有るのですか?」

 詩音が核心の質問をする。

 すると、デュオは指を一本立てた。

 「100万AMドルぐらいですか?」

 詩音が確認すると、デュオは笑いながら、

 「桁が違いますよ。 10億AMドルぐらいですね。 大半は彼女が所有している聖蹟遺物の落札代金ですが」

 流石の金額に、詩音も顔が引き攣っている。

 「それは、確かに直ぐには支払えないですね」

 「まあ、返して貰えるとは思っていませんよ。 もう諦めています。 『金欠の魔術師』リヴ・レヴですから」

 すると、レヴが詩音と入れ替わって出て来た。

 「じゃあ、支払わなくてもイイのね。 ありがとう」

 満面の笑みを浮かべるレヴ。

 「レヴ。 僕は詩音さんと話しをしていたのです。 貴方にはそうは言ってません」

 すると、漸く捕まえたとレヴの首根っこを掴む。

 「きゃあ〜、この人に襲われる〜」

 その場でワザと騒ぐレヴ。

 しかし、デュオにはそんなのお見通し。

 直ぐに側近達が、ドラマか映画撮影の様な雰囲気を作ってしまう。

 通りすがりの人は、

 「なんだ、撮影か」

と言いながら、興味無さそうにその場を去ってゆく。


 諦めたレヴは、詩音に戻った。

 「ところで、デュオさん。 年齢は?」

 「58歳ですよ。 尋ねたいのは見た目が若いことですよね」

 「はい。 それで探しても、なかなか見つからなくて」

 「これは、かつてレヴと一緒にルキフェルと戦った後遺症です。 僕は当時のルキフェル三賢者の一人『ジャン・フォン・ダーグラム』に、体を半分乗っ取られてしまって。 勝った代わりに老化が緩くなったのです。 半分人間で半分ルキフェル。 人間とアールヴのハーフになったレヴと詩音さんの関係と似ていますね」

 「老化が緩く?」

 「ルキフェルの暗黒屍蝋は、魔力で死体を無理矢理生き延びさせているもの。 ルキフェルの魔力の影響が私の肉体に強い影響を及ぼしているので、老化がゆっくりになっているのです」

 「そうなのですか。 デメリットは?」

 「中途半端な存在なので、体に激しい痛みが有ることですね」

 「......」

 「それで、そちらの彼は貴方の?」

 「はい、私の大事な人です」


 それまで話を聞いていた莉空が自己紹介をする。

 「戸次莉空と言います」

 「ベッキ......」

 暫く考えてから、

 「エリンの息子さんか〜。 確かに面影が有るね」

 「母のこと、ご存知なのですよね?」

 「もちろん。 レヴの弟子だったのですから、知っていますよ。 異能者の戦いでも、同じ陣営でしたから」

 「生前の母のことを知っている方が居て、僕も嬉しいです」

 「レヴは、エリンの話しをあまりしないの?」

 「特に無いですね」

 莉空がそう答えると、

 「デュオ。 こんなところで立ち話もあれだから」

 レヴが再び入れ替わって、早く場所を変える様に急かす。

 「そうですね。 じゃあ行きましょうか?」

 

 詩音レヴと莉空は、デュオの迎えの車両に乗って、郊外にある巨大な屋敷に案内された。

 「いやあ〜広いですね」

 詩音と莉空は目を丸くする。

 「うちは、詩音さんのところに敵わないですよ。 企業群の規模も数分の1ですから」

 「いえいえ。 そんなことは無いです。 お祖父様の邸宅もこんなに広く無いですから」

 「こっちは土地の値段が安いですからね。 まあこの広大な敷地が有るから、パラレル世界での訓練場所に選んだのでしょ?」

 すると、レヴが答える。

 「今回は莉空君を集中的に鍛える為。 デュオは剣を使えるからね」

 デュオは莉空と詩音に、

 「僕自身は魔術師ですから、僕の力ではありません。 僕の半分を占めるルキフェルは、元異能者の聖騎士だった方なので、その人の力です」

 「呪い移った様なものですか?」

 「そうそう。 その表現がベストです」

 デュオ・ローガムは笑いながら、

 「長旅で疲れたでしょう。 今日はゆっくりしてください、レヴを除いて」

 「ありがとうございます」

 嬉しそうに返事をする詩音と莉空。

 「それと詩音さん。 あとでレヴと代わってください、説教があるので」

 承諾した詩音。

 『なんだかんだで、レヴは弟子に愛されているね』

と思い、そういう人生を長く歩んできたリヴ・レヴを少し羨ましくも思うのであった。

 

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