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悪戯と黄昏の刻に・第一紀(異能者の戦い)  作者: 嶋 秀
第二章(リアル世界篇(伝説の魔術師リヴ・レヴ(詩音)を中心としたルキフェルとの戦い))
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第22話(新たな敵の襲撃)


高校の卒業式に臨んでいた莉空、詩音、聖月の3人。


式の終了間際に、突然の銃声。


新たな敵が詩音と莉空を狙って襲撃して来たのだ。


リヴ・レヴの力でパラレル世界に移動すると、そこでは五大良将の一人が待ち構えていた。


 二学期が始まってから、莉空、詩音、聖月の3人と一匹(蒼空)の生活は平穏な日々が続いていた。



 そして、時は流れること半年。

 その間、大きな戦いは発生しなかった。

 これは聖月が、接触してきた闇の勢力の使者に対して、警告を発した影響によるものであろう。


 学業優秀な詩音と聖月は、早い段階で学校推によって進学先の大学が決まっていたが、元々一般クラスだった莉空は必死の猛勉強の結果、詩音と同じ大学に何とか入れることが出来た。

 難関大学に入学試験で突破出来た理由はもちろん、異能者の戦いに参加したボーナスによって莉空の成功スキルが発揮されたからであり、詩音が莉空の入試の為に張ったヤマが、相当当たったことによる合格であった。




 卒業式の3月3日。

 まさに式が終わるその時.......

 都幌学院の講堂内外に銃声と爆発音が響く。

 悲鳴が響き渡る講堂内。

 卒業式に参加していた人々は、直ぐパニック状態に陥ってしまった。

 「キャア〜」

 「誰か、助けてくれ〜」

 「とにかく逃げろ〜」

 出口近くに居た人達は、一目散に逃げ出す。

 その場で竦んで固まってしまい、身動きが取れずにうずくまる人。

 それぞれがテンでバラバラに行動してしまったのは致し方ないだろう。

 当初、大半の者は、ひとまず講堂内で身を屈め、様子見することとなった。


 異能者を受け入れていた学院であり、超富裕層の子息が多い学校でも有るので、テロ対策でNH国軍の特殊部隊1個分隊が学校の敷地内に極秘配置されていたことから、やがてテロリストらしき武装集団との銃撃戦が始まる。

 講堂内外で銃弾が飛び交い始めたことにより、講堂内は、

 「キャア〜」

と女子生徒や女性達の悲鳴が響き渡る。

 その悲鳴がパニック状態を引き起こす。

 逃げ惑う父兄と卒業生、在校生。

 講堂の直ぐ外で、

 「ババババ」

とマシンガンの様な発砲が聞こえるので、容易に外には出れない。


 その状況に詩音は、

 『ルキフェルの攻撃だ』

と気付き、卒業生として隣に座っていた聖月に、

 「みんなをお願い」

と鋭い口調で告げる。

 「わかった」 

と短く答える聖月。

 「莉空、行くよ」

 詩音が、少し離れたところに座っていた莉空に声を掛けると、

 「うん。 行こう」

と答え、立ち上がるのだった。 


 講堂の横の開いているドアに向かって駆け出す詩音と莉空。

 外に出た瞬間、レヴの能力で、2人はパラレル世界に居場所を変えていた。


 現実世界と全く同じ場所。

 同じ景色。

 同じ建物。

 ただそこには、現実世界に居ない者が一人待っていた。

 それは、ルキフェルの五大良将の一人『ア・ウローラ』であった。

 『詩音、先ずは貴方が相手をして。 私の存在はギリギリ迄隠しておきたいから』

 レヴが詩音に作戦方針を伝える。


 「君が『絶世の魔術師』璃月詩音か。 私は君の抹殺を命じられたルキフェルの5人の大将のうちの一人だ。 君が死ぬまでの短い間だけ、覚えておいて頂こう」

 そう言うと、暗黒攻撃魔術『ダークネス・ハンマー』をいきなり放つ。

 対応が遅れた詩音は一瞬生命力を吸いかけられるが、莉空が名刀ヴィーティングを振るったことで、暗黒魔術のエネルギー供給遮断に成功する。

 その隙に、『アルテミス・イスカチェオン』を張った詩音。

 ダークネス・ハンマーも防御壁に弾き返され、先制攻撃は失敗に終わる。

 「流石だね。 その防御魔術は暗黒魔術でも打ち破れないから」

 そう言いながら、ア・ウローラは、別の暗黒魔術『ダークネス・ヘルファイア』を放って、詩音と莉空に猛攻を仕掛ける。

 暗黒の赤黒い炎に包まれて、防戦一方になる2人。

 元々、莉空は攻撃のレパートリーが少ないので、防御に徹するしかない。

 上級防御魔術『オプス・イスカチニ』を張って、防戦をしながら、名剣で斬りつけてみるが、ア・ウローラが同時に使っている暗黒防御魔術『ダーク・シールド』を破ることは出来ない。

 攻防両方の魔術を同時に使うという高い能力を示すア・ウローラ。

 流石、ルキフェルの五大将の一人だけはある。

 『莉空。 その防壁は聖剣じゃないと破れないから無理しないで。 名剣といえども折れるかもしれないから』

 レヴが密かに指示をする。


 莉空が斬りつけたタイミングを見計らって詩音が、『ブラッド・サタン』を放つ。

 とりあえず放ってみた攻撃であったが、暗黒系の攻撃魔術ということで、意外な効果が発揮され、ア・ウローラは防御魔術の防壁ごと吹き飛ばされる。

 想定外のダメージで顔面を負傷し、流血。

 立ち上がってから、流血に気付くと、

 「よくも、僕の美しい顔に傷を付けてくれたな」

と叫び、ブチギレてしまったア・ウローラ。

 「最大攻撃魔術を見舞ってやる〜〜」

と言いながら、精神攻撃魔術『ダーク・オーロラ』を2人に向けて放つのであった。


 精神攻撃魔術を打ってくるとは予想していなかった詩音と莉空。

 真っ暗な空間に閉じ込められる感覚に陥ってしまった。

 2人の防御魔術は有効状態であるので、アウローラが追加で攻撃魔術を打ってきても、それを防ぐことは出来るが、このままでは時間経過と共に、魔力を消費し尽くしてしまう。

 根本的にアルテミス・イスカチェオンもオプス・イスカチニも物理攻撃を防ぐ防御魔術であって、精神攻撃魔術には有効とは言えない。

 前回受けたファエサルの神々系精神攻撃魔術と異なり、今回は暗黒魔術系の精神攻撃だった為、アルテミス・イスカチェオンも効力が無かった。


 「僕達って、これがワンパターンだね」

 莉空と詩音は、精神世界の中でしっかり手を繋ぎながら、莉空はその様に自嘲気味に話す。

 「経験不足だよ。 だから同じ様な攻撃を防げない」

 詩音も素直に原因を認める。

 幻想魔術といい、精神攻撃魔術といい、アッサリ掛かってしまうところに、大きな問題点を抱えているのは、非常に不味い状態である。


 「あの光っている部分には、近寄らない方が良さそうだね」

 漆黒の空間内にオーロラの様な光が見えている。

 「ひとまず融合しようか? その方が攻撃と防御をフルパワーで同時に出来るから」

 詩音が提案してから、魔術を使って莉空に融合する。

 すると、いつもの逆で、莉空の姿が消えてしまい、詩音が残るという融合となってしまった。

 「あれ? おかしいなあ」

 詩音が首を捻るものの、そうなってしまったものは仕方がない。

 「防御魔術オプス・イスカチニを張っておいてね」

 詩音は自身の中に融合した莉空に指示を出してから、『ブラッディー・イーグル』を発動した。

 融合したパターンが異なるので、以前のブラッディー・イーグルとは大きく異なってしまったが、これでこの精神攻撃の空間内を偵察する。

 魔力の鷲が猛スピードで、漆黒の闇を滑空していく。

 何処までも何も無い空間。

 オーロラっぽい光のところ迄到達すると、攻撃を開始。

 光に向けて、魔力の刃を振り下ろしてみる。

 すると、

 「痛っ」

という声が聞こえた。

 ア・ウローラの声のようだ。

 続けて斬りつける詩音。

 何度も、「痛っ」という声が聞こえる。

 「やっぱり、暗黒系魔術は効果あるみたいだね」

 詩音が莉空に話し掛ける。


 「でも、この攻撃くらいでは、この世界から出れないよね?」

 「アルテミス・イスカチェオンは魔力の消費が激しいけど、それを使っていないから、長時間耐えきれるよ」

 そう答えると、詩音は無になることにした。

 精神攻撃魔術は、相手の精神や肉体への有効的な効力が無ければ、いつかは術をかけた者が解除する。

 その瞬間がチャンスだ。

 じっと耐える詩音。

 融合しているので、魔力もいつも以上に蓄えられている状態にある。

 この間、レヴはちょっとした仕掛けをしていた。

 ア・ウローラは、詩音の攻撃の痛みに気を取られて、そのことに気付いていない。

 現実世界で当初、学院の講堂を物理攻撃していた配下の暗黒弓騎兵をパラレル世界に呼び戻してから、並び揃え、

 「2人がダーク・オーロラから出た瞬間、闇の弓矢で集中攻撃しろ。 防御魔術が外れているから、必ず倒せる筈だ」

と指示をしていた。

 ダーク・オーロラは、精神攻撃をすることで、気付かないうちに相手の防御魔術を一時的に無効化する精神攻撃魔術であったのだ。

 

 詩音は、修験者のごとく静かな心で、魔術が解ける瞬間を待つ。

 ずっと待ち続ける。

 莉空は防御魔術を張り続ける。

 集中力を切らすことなく。

 随分長い時が経った様な感覚。

 

 そしてついに、その瞬間がやって来た。

 『オールデグリー・ゴッドファイア』

 詩音がア・ウローラの魔術が解ける瞬間に、全方位火焔系攻撃魔術を放った。

 暗黒弓騎兵が全員倒れ、あっという間に消え去る。

 放たれた暗黒弓矢も届くことなく、詩音の魔術の火焔に飲み込まれて消えてしまった。


 歯噛みするア・ウローラ。

 「クソっ、殺り損ねたか〜」

 確かに莉空が張っていた防御魔術オプス・イスカチニは一瞬消えたのだが、詩音の攻撃魔術が完璧なタイミングで、消えた防壁よりも一瞬早く発動されたので、暗黒弓騎兵の闇の弓矢が発射された時には、全員が倒されてしまったのだ。


 「さて。 今度はこっちから行くよ」

 詩音はそう小さく叫ぶと、防御魔術は莉空に任せて、攻撃魔術に専念する。

 先ずは効果のあった『ブラッド・サタン』を連発。

 防御魔術ごと吹き飛ばされるア・ウローラ。

 波状攻撃に立ち上がる暇を貰えずに、倒され続ける。

 続いて、『アイス・ブレード』を集中お見舞い。

 ダーク・シールドが一部破れ、ア・ウローラは、

 「グフッ」

と嗚咽しながら、腹部を手で抑える。

 ブレードが腹部に数本突き刺さったのだ。

 その部分から体が凍結し始めるが、その部位に暗黒魔術を当てて、凍結を防ぐ。

 その隙に、最大級攻撃魔術『アルテミス・バーン』を放った詩音。

 ア・ウローラは避けることが出来ず、体が崩壊する。

 『勝った』

と詩音が思った時に、猛攻の爆煙が消えると、姿の大きく変貌したア・ウローラが立っていた。

 『これが、ルキフェルに堕ちた者達の本当の姿』

 詩音がゾッとする程の変貌......

 暗黒屍蝋ゾンビと言った方がよいくらいの醜い姿であった。


 「お前は、絶対殺してやる。 僕の美しい姿を全て破壊するなんて、赦すまじ」

 絶叫するア・ウローラ。

 「来るよ」

 詩音の中で莉空が注意を喚起する。

 そして始まったア・ウローラの猛攻。

 流石に、ルキフェルの五大良将を百年以上続けていることはある。

 莉空の張っているオプス・イスカチニだけでは無く、詩音もアルテミス・イスカチェオンを使って、二重の防壁にするが、怒りの猛攻は防ぎ切れない。

 魔力切れを恐れることのない猛攻。

 暗黒屍蝋になると、ルキフェルからの魔力供給がスムーズになって、無尽蔵というわけでは無いが、消耗の心配が少なくなるからだ。


 ア・ウローラが連続で放つ『ダーク・ヘルファイア』と『ダークネス・トール』の交互の攻撃は非常に強力で、ついに詩音が防壁ごと吹き飛ばされる。

 「いた〜い......」

 思わず呟く詩音。

 「大丈夫?」

 詩音の中の莉空が、心配そうに確認する。

 「擦り傷だから。 防御魔術続けてね」

 そう言って立ち上がると、魔術を唱え始める。

 「天空の女神ヘカテーよ、大地の神オプスよ。 宇宙の深淵より我に魔力を注ぎ給え。☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓『サジテリアス・ブラックホール』」

 莉空の防御魔術が、なんとか詩音の唱文の間の敵の攻撃を防ぎ切った。

 そして、詩音が唱え終わった瞬間、今迄に見たことも無い凝縮されたエネルギーの塊が、詩音の手のひらに現れる。

 そのエネルギー体に向かって、暗黒屍蝋のア・ウローラが周囲のあらゆるモノと一緒に吸い込まれ始める。

 「ぎゃあーー〜〜......」

 悲鳴と共に、固定された街路灯に必死にしがみつく暗黒屍蝋。

 しかし、街路灯が根こそぎ抜けて、手のひらのエネルギー凝縮体に吸い込まれる。

 「ウオオオーー......」

 最後は、叫び声と共に、ア・ウローラは消え去った。


 「終わったの?」

 莉空が詩音に確認する。

 「さあ〜? 死んだ訳じゃないので、何処からか出て来るかもね」

 詩音が手のひらを握ってエネルギー体を消滅させてから、莉空に向かって返事をする。

 「最後のは?」

 「名前の通り、魔力のブラックホールよ」

 「なんだか、絶対出れなそうな感じだけど」

 「初めて使ったから、わからない。 私の術だから、まだ未熟で、戻って来れそうな気がする」

 

 すると、レヴが2人に語り掛ける。

 『詩音の言うとおり。 だいぶ出来が甘かったから、アイツなら多分、ここに戻って来るね。 だから融合魔術は解かない様に』

 そう的確に指示した。


 その後、20分程その場で待機していた詩音。

 特に変化は無く、そろそろ現実世界に戻ろうかと考えていた時だった。

 目の前の空間に亀裂が入り始め、出来た隙間から醜い暗黒屍蝋の腕が見える。

 ア・ウローラが詩音によって吸い込まれた、光の無い『無』の世界から、出て来たのであった。

 亀裂を広げる暗黒屍蝋。

 そして、パラレル世界の空間に転げ落ちる様にして出て来る。

 「お前、よくもここまでしてくれたな? 取り憑いて精神から潰してやる」

と叫びながら、詩音に襲い掛かった。

 その時、リヴ・レヴは詩音と入れ替わったのであった。


 詩音に噛みつこうとした暗黒屍蝋を、完璧な本家本元の防御魔術『アルテミス・イスカチェオン』で瞬間に弾き飛ばすレヴ。

 詩音が使う時と、防御力が桁違いである。

 「久しぶりね、ア・ウローラ。 随分醜い姿になったものね」

 「お前は、リヴ・レヴ。 なんでここに......」

 「私は基本不死身だから、ちょっとしたことでは死なないわよ。 お前達ルキフェルが罠に嵌めたけど、また立ちはだかってあげることにしたの」

 すると、ア・ウローラは、

 「レヴ......タダ飯食いの犯罪者め」

 戦いと無関係のことを言い始める。

 「???」

 詩音と莉空は目が点になる。

 「161年前、お前は俺の店で食べたフルコースの代金を何度も踏み倒した。 ウソばかりついて......この無銭飲食虚言女め。 今直ぐ代金払え」

 「あの時、あとで払ったでしょ? 忘れたの? 言い掛かりは止してよ」

 レヴは抗議をしている。

 「いや、貰ってない。 俺はあの時のことを一生忘れていないんだぞ」

 痴話喧嘩みたいになってしまった状況に、

 「絶対、私、レヴに主導権握られない様にする。 普段の生活が酷すぎる」

 詩音が呆れて強い口調で莉空に語る。

 「あの〜。 戦いは......」


 レヴはア・ウローラに抗議するが、ア・ウローラの言い分の方が正しい様だ。

 「仕方がないわね。 利子を付けて纏めて返してあげるわ」

 レヴはア・ウローラに告げると、

 「格上の魔術師相手に、精神攻撃魔術を放つのは厳禁よ。 貴方はそのミスを犯してしまった」

 急に戦闘モードに戻り、誤魔化すつもりのレヴ。

 それを聞いて、焦りの表情を見せるア・ウローラ。

 「貴方と戦って、150年くらいかな? 因縁全部清算しましょうかね」

 レヴはそう告げると、

 「5、4、3」

 「待ってくれ、まだ俺は死にたくない」

 そう言って、その場から逃げ出す暗黒屍蝋になったボロボロのア・ウローラ。

 しかし、無情にもカウントダウンは続く。

 「2、1、ファイアー」

 レヴがカウントダウンを終えて、プロレスラーばりに「ファイアー」と拳を天に突き上げながら大きな声をあげると、ア・ウローラの体が燃え始める。

 「ぎゃあ〜〜〜、俺はまだ死にたくない〜〜」

 大声で叫びながら、転げ回って自身を包んだ火焔を消そうとするが、消えることは無い。

 そう、これは『地獄の業火』。

 体の中心から魔術のブラックホールに吸い込まれた上での業火で、もはや逃げる術は無い。

 数分で全てが灰になり、ア・ウローラは完全消滅した。

 それを見届けたレヴは、『ブリーズ』と呟く。

 すると、一陣の風が吹き、灰を遥か彼方へと誘い、自然へと帰していった。


 「全く、アイツは。 人のことをタダ飯食いウソつき女なんて言いやがって」

 ブツブツ文句を言っているレヴ。

 『師匠。 さっきの言い分はア・ウローラの方が正しい気がしますけど』

 『詩音。 私の記憶が間違っているというの?』

 『はい。 師匠、そんなに記憶力自信ありますか?』

 『......無いわね』

 『そういうことです』

 『まあ、どっちでもイイじゃない。 もう奴は此の世の何処にも居ないのだから。 負債があっても完済ってことよ』

 呆れ顔の詩音は、

 『師匠に、ひとこと言っておきます』

 『な〜に?』

 『私、師匠と完全融合しても、日常生活の部分は、絶対に譲りませんからね』

 『わかっているわよ』

 遥か昔の超高級フレンチのフルコース代金数十回分を永久に踏み倒すことに成功したレヴ。

 その表情は、どことなく満足そうに見えた。


 『彼は生前、高級料理店を経営していた様ですね』

 『アイツは、元異能者、それも魔術師よ。 だから、現実世界では成功者だった筈』

 『そうですか〜。 やっぱり異能者がルキフェルになることが多いのですか?』

 『異能者って現実世界で成功者や富貴な者になるから、いざ死ぬっていう時に、此の世への未練が他人より非常に強くなるのよ。 だから事切れる瞬間に囁かれるルキフェルの甘い言葉に乗せられ易いの。 そもそも神々達は異能者を甘やかし過ぎなんだってば』

 『翻って、私を見てみなさいよ。 お金に苦労してばかり。 弟子に支払って貰って、いつも肩身の狭い師匠。 これほどの魔術師なのに、酷い仕打ちよね』

 この言葉が本心なのかどうかわからないが、レヴがいつも金欠なのは間違いない様だ。

 『だから、詩音に期待しているわ。 貴方が居れば、私の金欠も暫く大丈夫そうだからね』

 そう言い残すと、レヴは詩音と入れ替わった。

 こちらをずっと覗いている視線に気付き、一瞥をくれながら......



 聖月は、現実世界のパニックを魔術で抑え込むと、パラレル世界に来て、詩音と莉空の戦いの様子を確認しに来ていた。

 2人がルキフェルの大将相手に苦戦している状況を心配していたのだが、最後に詩音によく似た謎の別人物が出現し、あっという間に、その大将をこの世から抹殺したことに驚いていた。

 「あれは? 詩音にかなり似ているけど、別人......」

 神獣の蒼空に尋ねる聖月。

 「リヴ・レヴだよ。 知ってる?」

 「名前だけはね。 どうして詩音の中に伝説の魔術師で、アールヴのリヴ・レヴが居るの?」

 「そこまでは知らないよ」

 「詩音ばかりズルい。 魔術の神のような人と一体になっているのも同然じゃない? 彼女が私に付いてくれていれば、蒼空は死なずに済んだかも」

 「そんなことは無いよ。 僕は神々達によって、神獣になるように決められた人生だったのだから、死は避けられなかった」

 「私と詩音のことだけじゃなくて、神々達は、同じ異能者なのに能力に差を付け過ぎ。 だから、もう信用していないの」

 「聖月......」


 聖月の世の中への不信感は、幼少の頃から元々抱いていたものであったが、蒼空の死後、加速度的に大きくなっていた。

 大学は詩音と別々であり、ずっと同じ道を歩んできた親友2人が、いよいよ道を分かつ。

 それが2人の人生を大きく変える分岐点になることを蒼空は正確に理解していた。

 『だから、神々達は俺を神獣にして、その全能力を発揮させ、聖月を一生護る役目を付与したのだ。 彼女の潜在能力は詩音に匹敵するから監視が必要なのだと......』

 「さて、戻りましょう。 もう少しやるかと思ったけど、ルキフェルも大したことないわね。 レヴに秒殺されたあの程度で五大良将の一人だなんて」

 聖月は冷酷な口調で言い捨てると、現実世界へ戻っていった。



 現実世界に戻った詩音。

 3人が詩音に融合したまま、反省会が始まる。

 卒業式が終わった学校に戻り、人もまばらな午後の学食で、最後の時間を過ごしながら......


 詩音「師匠、今日の反省会お願いします」

 レヴ「全般的に魔術のレベルが甘いわ、詩音」

 詩音「......」

 レヴ「相手を殺すつもりで、一つ一つ打たないと」

 詩音「はい」

 レヴ「莉空君も同じよ。 」

 莉空「はい」

 詩音「ところで、師匠」

 レヴ「なに?」

 詩音「ア・ウローラって元魔術師ですよね?」

 レヴ「さっき、そうだって教えたでしょ?」

 詩音「師匠の弟子ですか?」

 レヴ「そうよ」

 詩音「まさか......」

 レヴ「って言いたいけど、違うわ」

 詩音「安心しました。 弟子をあんなにアッサリ殺るとは」

 レヴ「殺るわよ。 当たり前じゃない?」

 詩音「そんな......」

 レヴ「ルキフェルに堕ちたら、もう弟子じゃない」

 詩音「確かに、そうですが......」

 レヴ「私と完全融合すれば、そういう場面が必ずあるわ」

 詩音「はい」

 レヴ「実際の姿を見たでしょ? 暗黒屍蝋の醜いヤツを」

 莉空「......酷い姿でした」

 レヴ「あのまま生かしておくのが、良い師匠?」

 莉空「いえ。 そうは思いません」

 レヴ「寿命尽きたのに、無理矢理生かすのがルキフェル」

 莉空「はい」

 レヴ「それを天界に誘うのが、私の役割」

 詩音「天界?」

 レヴ「その反対の世界の方が多いかな?」

 詩音「でしょうね」

 莉空「一つ質問が有るのですが?」

 レヴ「なにかな? 莉空君」

 莉空「格上に精神攻撃魔術放つのは、ダメなのですか?」

 レヴ「精神攻撃魔術は、自身の懐に相手を引き込んでしまうのよ。 格上にそんなことをすれば」

 莉空「攻撃の絶好の機会を与えてしまうってことですね」

 レヴ「その通り」

 詩音「あの時、師匠は何をしたのですか?」

 レヴ「サジテリアス・Bホールを仕込んだのよ」

 詩音「凄い。 いつの間に......」

 レヴ「それと、紅蓮の火焔っていう魔術もね」

 詩音「流石ですね」

 レヴ「じゃあ、反省会終わり。 次はより厳しい戦いになるわよ。 向こうも馬鹿じゃないから」


 こうして詩音の中で行われた反省会は無事終了した。

 そして、高校生活に別れを告げた詩音。

 3年間の学び舎での、いくつかの思い出を抱えて、都幌学院を去る3人であった。

 

 

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