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悪戯と黄昏の刻に・第一紀(異能者の戦い)  作者: 嶋 秀
第一章(パラレル世界篇(詩音・聖月・莉空・蒼空を中心とした異能者の戦い))
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第2話(いきなり、戦闘開始!)


パラレル世界での、異能者の戦いに参加義務有るスキル持ちだと知らされた莉空と蒼空。


直ぐにパラレル世界に移動させられてしまう。


しかし、その場所は、現実世界と何も変わらない場所であった。


半信半疑の莉空と蒼空。


暫くすると、突如戦いが始まり、詩音や聖月、そしてヒイロに言われたことが真実だと知ることになる......


 北K道箱D市の箱D駅前に、突如現れた4人。


 今回、訳の分からないことを説明されたばかりの莉空と蒼空にとって、ヒイロによって飛ばされてやって来たこの場所は、確かに現実世界と全く同じ景色であり、それがパラレル世界なのだと言われても、実感はゼロであった。



 先を歩く詩音と聖月。

 どう見ても、観光に来た美少女2人にしか見えない。

 しかも、都幌学院の制服姿のままだから、高校生の修学旅行の様でもあった。

 「とりあえず、制服を着替えなくても良いの?」

 莉空が2人の美女に質問する。

 「これから向かう場所で着替えるよ。 流石にこの格好じゃあ、敵の異能者に襲われたら、戦いにくいからね」

と詩音は真面目に答え、

 「君達にスカートの中、見られることになっちゃうものね」

と聖月は、緊張感の無い言い方をするのであった。

 この2人の様子に、莉空も蒼空も、ヒイロの説明を信じろと言われても、信じ切れないのは無理もなかった。


 暫く歩くと、詩音と聖月は、港沿いのとある大型ホテルに入って行く。

 ロビーを素通りし、エレベーターへ。

 そして、とある階で降りると、詩音が莉空に部屋の鍵を渡す。

 「この部屋に入ったら、置いてある服に着替えてね。 そしてリュックも受け取って。 準備出来たら、ホテルの玄関先で合流」

 詩音は、それまでと表情を一変させて、真剣に話す。

 「わかった」

 その表情を見て、戦いが近いのだと直感した莉空と蒼空は短く答えて、2人と別の部屋に入る。

 すると、見知った顔の人物が部屋で待っていた。

 「海未先輩......どうしてここに?」

 莉空は懐かしい顔を見て、思わずその様に話し掛けるのであった。

 そう、都幌学院の2つ上の先輩で、AM国籍とNH国籍の両方を有するハーフの『海未うーみ・ホンゴウ・ルフェール』が待っていたからだ。


 「莉空、久しぶりだね。 元気そうで良かった」

 「そちらは、蒼空君だよね? これから1か月間、よろしくお願いするね」

 「こちらこそ、全く右も左もわかりませんが、よろしくお願いします」

 「さあ、先ずは着替えて。 話はそれから」

 そう促され、黙って着替える2人。

 着替え終わると、早速質問をする。

 「先輩、一体これはどういうことなのですか?」

 すると海未は、

 「神々達の悪戯だよ」

と、ひとことで、しかも分かり易い答えを示した。


 「神々達」

 「悪戯......」

 莉空と蒼空は海未の言葉を繰り返して呟く。

 「パラレル世界は、神々達の世界という別名が付いている。 そしてこの世界で不定期に行われる異能者同士の戦いの結果によって、人類の未来に変化が起きるのさ」

 「そんなことが......」

 海未の言葉に思わず莉空は、ありきたりな返事をするも、

 「無いって言えるかい? 何でも把握していると思っているのならば、それは人の傲慢さだよ」

 「人智を超えた世界が有るってことだね。 僕も最初は信じられなかったが、前回の戦いに参加させられて、真実を知ったという訳」

 「でも......」


 「間もなく、戦いは始まる。 僕達の陣営は最近ずっと劣勢でね。 前回迄でNH国の大半が敵陣営に陥ち、今回は北K道島からスタートだよ」

 海未の続けた言葉から、莉空は段々とパラレル世界における異能者の戦いを信じる気持ちが強くなってきた。

 「じゃあ、陣取り合戦みたいなものなのですか?」

 「命懸けのね」

 「それって......」

 「我々異能者は、こっちで死んだら、現実世界でも死亡となる」

 「でも、こっちの世界に居る異能者以外の人々は、異能者同士の戦いに巻き込まれて死んでも、現実世界での影響は無いんだよ」

 「......」

 「ただ、こっちで無関係の人々を巻き込み過ぎると、大きなペナルティが現実世界で起きる。 だから大掛かりな戦いはダメなんだ」

 「そして、異能者を現実世界で暗殺してもダメ。 現実世界では異能者の能力は一切使えないからね。 騙し討ちは駄目っていうこと。 その不文律を敵対陣営は60年以上前に犯したから、ソ◯◯ト崩壊と社会主義国陣営の崩壊が起きたっていうことらしい」

 「......」

 ここまで海未に真剣な表情で事実を交えて話をされると、莉空も蒼空も、もはや疑う気持ちは飛散して無くなっていた。


 「準備は出来たかな?」

 「はい」

 ごく普通のスポーティーな半袖シャツにジーパンという格好に着替えた莉空と蒼空。

 「先輩、こんな格好で良いのですか?」

 「気に入らないかい? 別にミリタリーな格好したければ、それでも良いけど、夏だし暑いよ?」

 「......わかりました」

 その後、用意されていたリュックを背負って、部屋を出る3人。


 暫くホテルの外に出て待っていると、ごく普通のズボンを履いて動きやすい私服姿に着替えた詩音、聖月の他にもう一人、やはり2学年上の学院の先輩である、こちらも2国籍ハーフの『紗良・ニイロ・アーベル』が現れた。

 「紗良先輩までもが......」

 「莉空君、久しぶりね。 まあ、いずれこういう形で再会するのは、わかっていたことだけど」

 「じゃあ、行きましょうか? 敵陣営は何処で襲ってくるかわからないので、6人纏まっての方が良いでしょうから。 それに2人は封印が解ける迄、戦力にならないし」

 詩音はそう言うと、聖月と紗良、海未が頷く。


 6人は、箱D駅前方向へと歩いていく。

 先頭を歩く詩音。

 その様子を最後尾から見ていた莉空は、詩音が敵に対して、まるで攻撃を誘っているように思えた。


 そして数分が経過し、駅前に到着しかけた時、

 「来るよ」 

 詩音が予知の能力で探知したらしく、全員に対して呟く。

 すると、歩いていた歩道の先の方のタイルが突然捲り上がったかと思った瞬間、6人に向かって猛スピードでぶつかって来る。

 詩音が魔術で、タイルの半分を粉砕したが、残り半分が5人をめがけて銃弾の様に降り注ぎかけた時、紗良が防御の異能を発揮して、横を走っていた路線バスを少し空中に持ち上げたと思ったら、横向きに落として盾にし、攻撃を防ぐ。

 それでも、バスを突き抜けたタイルのうち幾つかが向かって来る。

 紗良の防御の能力で、銃弾の様なタイルの破片は、急減速しつつも5人に衝突したが、その大半は攻撃の異能を持つ海未先輩が持っていた短い槍を振り回すことで、防ぐことに成功しており、実害は無かった。


 「敵は5人だよ」

 詩音がみんなに状況を説明する。

 箱D駅方向から一直線に並んで、こちらに向かって来る5人。

 周囲の人達は、阿鼻叫喚の様子で、めいめいが異能者同士の周辺から逃げ出し始めていた。


 「これは。これは。 負け続きの共和主義陣営の異能者の方々ではないですか?」 

 三十代半ば位の男が、挨拶をして来た。

 「私は、リン・シェーロン。 どうぞお見知りおきを」

 「他の4人も、ご紹介しておこうかな?」

 「こちらからサーシャ・ニコラフ、ツオ・ツオ、私を挟んで、ルー・メイリン、イワン・ハバロフスキーです。 今回のNH国方面の戦いは、この5人で攻め込みますので、よろしくお願いしますよ」

 「......」

 「しかし、君達は若過ぎるな〜。 経験不足だろうから、我々が一人分ハンデをあげているんだよ」

 リンはそう言うと、高らかに笑う。


 「それでは、挨拶代わりに......」

 サーシャがそう叫ぶと、付近の街路灯が根こそぎ抜けたと思った途端に、6人に向かって槍の様に飛んで来る。

 それを詩音が魔術で豆腐に変化させる。

 豆腐に変化した街路灯、他の3人は避けたものの、莉空と蒼空の二人は避け切れずに命中し、2人は豆腐まみれに。

 着替えたばかりの衣服が、巨大な豆腐まみれでぐちゃぐちゃになり、唖然とする2人。

 その様子を見て、笑い出す全体主義陣営の5人。


 「いやあ〜、シオンさんの魔術は見事だね~。 我々には魔術使いが不在だから、ちょっと厄介かな?」

 「だから、暫く大人しくしてて貰うよ」

 「ツオ、メイリン。 シオンの相手を」

 「サーシャとイワンは、紗良と海未の相手を」

 「そして、残り3人は私が一人で相手をして差し上げよう」

 リンはその様に指示をすると、全員が直ぐに攻撃と防御態勢に移行する。


 詩音に向かって、次々と粉砕されたコンクリートやタイルやら鉄片などの周囲のものが銃弾の様に襲い掛かる。

 それを魔術で物質変換し、液体に変える詩音。

 ただ防御一辺倒になり、ツオとメイリンに攻撃を仕掛けるタイミングに一苦労。

 しかし、漸く変換した液体を操って、無数の鉄槍に再変換して、ツオとメイリンにその鉄槍を雨霰の如く浴びせ続ける。

 それに対してメイリンが周囲の車両を操って壁を作り、鉄槍を防ぐ。

 するとツオが、詩音の鉄槍を利用して、そのまま操って詩音に無数の鉄槍を浴びせ返す。

 それを再度、魔術で物質変換して、液体化して防御する詩音。

 詩音対ツオ・メイリンの戦いは、この様な形で延々と続くのであった。


 サーシャ・イワン対紗良・海未の戦いも同様である。

 イワンと海未が周囲のあらゆるものを粉砕して、お互いに銃弾の様に浴びせ掛けるが、サーシャと紗良がそれに対して、周囲に放置された車両を使って盾を作り防ぐ。

 防いだ粉砕物をお互いに再利用し、銃弾状にして再び浴びせ掛けるが、それを防御の異能者2人がそれぞれ周囲の物を使って盾を作り直して再度防ぐ。

 まさに、千日手の様な戦いが始まっていた。



 大きな動きが有ったのは、リン対残りの3人の方であった。

 「聖月殿、ここで死んで頂きますぞ。 残りの2人は、まだ異能を使えないようですからな」

 リンに、莉空と蒼空がまだ異能のスキルを発揮出来ないと、最初の戦いで見抜かれてしまっていたのだ。

 『マズイ、このままでは』

と思った聖月。

 回復能力以外にも、少しだけ攻撃&防御魔術を使える聖月であったが、全体主義陣営最強の一人といわれるリン相手では分が悪過ぎる。

 リンの最初の攻撃は防いだものの、波状攻撃第二波をマトモに受けてしまい、聖月の動きが止まる。


 「ご覚悟を」

 リンはそう叫ぶと、最大級の攻撃を聖月に仕掛けた。

 近くの大型ホテルが粉々に粉砕され、数千トンのコンクリートとガラスと鉄片等の無数の破片が、銃弾の巨大な弾幕と化して、聖月を襲う。

 詩音が、その様子に気付き、

 「聖月〜。 危ない......」

と叫ぶ。

 しかし、2人の異能者を相手にしており、詩音にも援護する余裕は無い。

 最終手段の瞬間移動魔術を使おうとした時には、既にリンの攻撃が聖月を襲ってしまっていた。

 『しまった。 聖月、どうか無事で......』

と詩音は内心で願う。

 激しい砂塵で何も見えない、聖月の居た周辺の状況。

 暫くすると、数千トンの瓦礫の山の中から、聖月が何かに防護されて現れたのであった。


 実は、聖月にリンの最大級の攻撃が向かった瞬間、蒼空と莉空が命を張っていた。

 聖月の前に2人が立ち塞がり、攻撃を浴び続けた莉空と蒼空。

 リンの猛攻撃で周囲が粉塵まみれになり、何も見えなくなる。

 莉空と蒼空は身体じゅうを破片が貫き、その場に倒れ、ほぼ即死状態となった。

 すかさず、聖月が防壁魔術を使いつつ、2人に回復魔術を施すが、蒼空の容態が重く、回復するより死が訪れる方が早い状況にあった。

 それに気付いた聖月は、一瞬で最大限の回復魔術を施す為、蒼空に口づけをして魔術のパワーを直接注ぎ込む。

 その瞬間、蒼空の封印が解け、防御の異能が目覚めたのであった。

 その後、直ぐに莉空にも回復魔術を続けたところ、莉空の封印も解け、攻撃の異能が目覚めていた。


 聖月の周囲を、意識を失ったままの蒼空によって作られた防御のシールドが張られている。

 それを見たリンは、

 「シールド防御......異能者でその能力を持つ者が出て来るとは......」 

 その呟きは、聖月を亡き者にし、共和陣営の回復魔術を喪わせることで、一気に北K道島から北AM大陸へと侵攻し、制圧するリンの計画が破綻したことを意味するのであった。


 最大級の攻撃を防御されてしまい、リンが一瞬呆然としていた僅かな時間に、異能に目覚めた莉空が蒼空同様に無意識のうちに攻撃を仕掛ける。

 莉空の新しい異能である瞬間移動攻撃が発動したのだ。

 聖月に浴びせた攻撃をそっくりそのまま、一瞬で返されたリン。

 防御する暇が無く、大きなダメージを負う。

 リンは攻守両方の異能を持ち、詩音と並ぶ別格の異能者であったが、流石に予想だにしていなかった瞬間攻撃には対応出来ない。

 リンの姿が瓦礫の中に消えて、動揺する全体主義陣営の4人の異能者。

 サーシャとメイリンは協力して、異能を最大限使い、意識を失っているリンを瓦礫の山の中から見つけて救い出すと、他の2名と共に、詩音達を牽制しながら、市電の車両を確保し、リンを保護しながらそれに乗り込むと、一旦箱D山方向へ猛スピードで移動して行った。

 ところが、リンの負傷状況が予想以上の重傷であったことから、更に港で巡視船を奪って津G海峡を超えて、本S島方面へと撤退していったのであった。


 リンが仲間に救い出されている時に、莉空と蒼空の2人分の回復魔術で力を使い果たし、倒れた聖月。

 意識を失ったまま、初めての異能を発動した莉空と蒼空。

 詩音は3人を魔術で護りながら、撤退する全体主義陣営の5人の様子を監視し続ける。

 とてもじゃないが、共和陣営側も逃亡するリン達を追撃出来る状態では無かったのである。



 リン以下5人が、本S島方面に撤収したことを確認した詩音は、一時撤退を決断し、倒れている3人を魔術でホテル迄運ぶ。

 そして、休息の時間を取ることに。

 先ずは、回復魔術を使い過ぎて意識を失った聖月の介抱を詩音と紗良で行う。

 その間、海未は、豆腐と粉塵でベチャベチャの莉空と蒼空の衣服を脱がして、床上で横にして、詩音が来るのを待つ。

 聖月を寝かしつけた詩音が、海未のところにやって来て、魔術を使って、莉空と蒼空をシャワールームに移動させて、シャワーを浴びせて、豆腐と粉塵を流し落とす。

 それから、海未が2人の全身をシャンプーして、詩音が魔術で乾燥。

 その後、綺麗な体となった莉空と蒼空の2人をベッド上に寝かせて、意識が回復するのを待つことにした。



 「3人の意識が戻って貰わないと、困るわね」

 疲れ果てた様子の詩音が、海未と紗良に話し掛ける。

 「今、リンの攻撃を受けたら、防ぎきれないだろうね。 どうしようか?」

 海未が応援を求めることを一応提案するが、詩音は、

 「他の戦線も、手一杯の状態でしょう。 近年は共和陣営の異能者の死者数が全体主義陣営の死者数を上回っているからこそ、私達を生み出すイチかバチかのプロジェクトを実行したのですから......」


 「そして、私達が生み出された。 これは神々達の悪戯?」

 紗良が呟く。

 「そういうことです、きっと。 一時期、全体主義陣営が滅亡しかけた時に、向こうの陣営で人為的な異能者が複数誕生したのでしょ? 今回、逆に共和陣営の劣勢が顕著になった時に、私達6人が生み出された。 これこそまさにパワーバランスを取る為の、神々達の悪戯に他ならないでしょ?」

 詩音がその様に答える。


 「莉空君の攻撃を防げなかったリンは、かなりの重傷でしょうね。 だから多分こっちの回復の方が早いと予想するわ。 聖月は明日には意識が戻ると思う。 莉空と蒼空の2人が命を張って護ってくれたお蔭だね」

 敵の情勢についての説明も加えると詩音は、紗良と海未の2人にも休むよう薦めるのであった。

 今晩は、魔術師であり予知能力を兼ね備える詩音が見張るので大丈夫だと、2人に告げて......



 翌朝。

 聖月が目覚める。

 それに気づいて、安心した様子の詩音。

 聖月が起きたことで、隣で寝ていた紗良も目覚める。

 「良かった~。 聖月が大きなダメージ無く、目覚めることが出来て」

 紗良が聖月に抱き着きながら、慰労する。

 「前回は、一週間以上目覚めなかったものね」


 2年前にも突如開催された、パラレル世界での異能者同士による戦い。

 この時初参戦だった、詩音、聖月、紗良、海未の4人。

 経験不足の上に、終始劣勢で、NH国出身の最古参、しかも人為的に作り出された6人の異能者を除くと、NH国出身最後の異能者である修豪を、リンの攻撃で喪っていたのだった。

 回復魔術を使い過ぎて、一週間昏睡状態だった聖月。

 リンにその状況を見抜かれてしまい、大ベテランの異能者を喪失する結果となっていた。


 それを思い出して、苦々しい顔をする詩音。

 「あの時、私が昏睡状態に陥らなければ、リーダーを喪うことは無かったのにね」

 聖月も辛そうな顔をする。

 共和陣営は、東AジA方面のリーダーを喪ったことで、今回は最強の魔術師で2つの異能を兼ね備える詩音が、その役目を受け継いでいる。


 「あっ、詩音に言っておかなきゃイケないことが一つ有るんだよね」

 そう言うと、聖月は少し恥ずかしそうな顔をする。

 「何? そんな恥ずかしそうな顔して」

 詩音が聖月にツッコミを入れてから、直ぐに、

 「聖月、まさか......」

 「私のファーストキス、蒼空君にあげちゃった」

 そう言うと、顔を真っ赤にする聖月。

 「いやあ、聖月。 恥ずかしがっている場合じゃないよ」

 「わかっているよ。 でも私もまだ女の子だから......」

 「それで、蒼空君、全然好みじゃないんでしょ?」

 「ははは。 そうなんだけどね」

 「リンの攻撃が苛烈過ぎて、回復魔術が効く前に蒼空君死んじゃいそうだったから、致し方無かったの」

 2人の、ややピントの外れた、女の子らしいやり取り混じりの大事な報告を聞いて、少し呆れる紗良。


 そして、少し愕然としながら、

 「蒼空君には今後、回復魔術を使えないのか〜」

 「私以外の、新しい回復魔術の使い手が出現しない限りね」

と紗良が嘆き、それを聖月が追認する。

 「今後蒼空君は、過酷な運命になるかもね。 封印解けた時に、その様なことになっていたとは......」


 回復魔術は、口づけをしながら使った場合には、非常に強力な効果をもたらすが、これは1回限りの緊急避難的なやり方であり、これで回復を受けた者は、同じ回復魔術師からの回復効果を二度と受けることが出来なくなってしまうのだ。

 よってリーダーの詩音は、以後蒼空が大きな負傷に至らないような作戦を考えなければならなかった。

 大きなダメージの連続となる異能者の戦いで、回復魔術を受けることが出来ないというのは、致命的な欠点になってしまうからである。


 「そう言えば、リンの攻撃の時、あの2人はどういう行動を取ったの?」

 詩音が今後の作戦を立てていく上で、個々の性格を知っておくのは非常に重要なことである。

 「1回目と2回目の波状攻撃の時は、ただ呆然とした様子だったね。 2人共」

 「でも、3回目の最大級の攻撃の時は、2人共に私の前に立ちはだかって、攻撃の壁となってくれたの。 だから私は、防御魔術を使っていたこともあって無傷だったし、2人共ほぼ死んだので、封印が解けたんだよね」

 「そうだったんだ。 何も出来ない状態なのに、聖月の命を護ろうとしてくれたのか〜」

 詩音が感嘆しながら、そう述べると、聖月は、

 「しかも、封印解除された異能者としての能力も非常に強力だよね。 シールド防御に瞬間移動攻撃とは......」

と、新しい仲間のスキルに期待している様子であった。


 「2人が目覚めたら、御礼のキスでもしてあげようかな? 聖月は無闇に異能者にキス出来ないからね。 回復魔術効かなくなっちゃうから」

 詩音はその様に誂うと、紗良と聖月の2人にあとのことをお願いして、眠りに就くのであった。



 「聖月。 詩音も魔術師だから、回復魔術使えないの?」

 詩音が眠ってから、紗良が質問をする。

 「軽傷に対する回復魔術は使えるって言ってたよ。 ただ私の様な瀕死の重体者の命を救う様なのは、無理だって」

 「私達の能力は、所詮神々達の悪戯によるものだからね。 本当に存在するのか分からないけど、やっぱり色々な制限が有ったり、パラレル世界での勝敗の結果が現実世界に反映されているのを見てしまうと、実在するのでしょうね。 7年前の敗北が、大地震と噴火の発生に繋がってしまったということだから......」

 紗良がその様に言って嘆息すると、

 「万物の創造を為す存在。 それが何であるのか、私にも分からないけど、『神々』って、ひとことの言葉で言い表した古代の人達の創造力ってスゴイよね」

 聖月が、古き人々の創造力の豊かさを褒め称えたら、『グー』と空腹の合図が鳴ってしまった。

 笑い出す紗良。

 「聖月、魔力使い過ぎて、お腹減っていたのね。 海未に何か買って来て貰おうよ。 私達は襲撃の警戒を解けないから」

 紗良の提案に聖月が同意すると、連絡をとって、食べ物の調達をお願いするのであった。



 暫くすると、海未が紗良と聖月の部屋のドアをノックした。

 確認してから部屋へ招き入れる紗良と聖月。

 「紗良。 要望の食べ物調達して来ましたよ」

 海未が両手いっぱいに買って来た食べ物を手渡す。

 「ありがとう。 でも、大部分を食べるのは聖月だからね」

 「大食漢でゴメン。 回復魔術を使うと食欲が半端ない状態になっちゃうの」

 「それだけ、エネルギー消費するからだよ。 わかっているって」

 「ところで、昏睡状態の2人の様子は?」

 「今のところ、目覚める気配はないね。 ただ蒼空君は無意識のうちに弱いシールド防御を張っているみたいだよ」

 「それなら、リン達に奇襲されてもどうにかなるか〜」

 「向こうも、回復魔術師呼んでいるのだろうから、あと2日は雲隠れしているんじゃ無いかな?」

 「あの2人も明日ぐらいには目覚めて欲しいけど......」

 「ほぼ死亡状態からの回復魔術使用だから、明日はちょっと無理じゃないかな? リンの回復と良い勝負になっちゃうだろうね」

 海未はそう言ってから、莉空と蒼空の防護の為に、部屋に戻っていった。



 その後、日が暮れる頃に詩音が目覚めた。

 「そう言えば、莉空君と蒼空君の異能者としてのスキル封印の解除は、概ね計画通りだったのでしょ?」

 紗良が詩音に確認する。

 「聖月を守っている過程で、重傷を負って封印を解くっていうところは計画通りだったけど、まさかリンの攻撃をマトモに受けることになるとは、計算違いも甚だしいよ」

 詩音は、ほぼ失敗だと説明する。

 「もう蒼空君には、回復魔術使えないっていうのが、最大の誤算だよね。 あの防御のスキルは他に無い貴重なものだから、今後、もし途中で命を落とすようなことになったら、戦力的にも非常に痛いし、当人にも本当に申し訳ないと思う......」

 詩音は責任者として、かなり沈痛な面持ちであった。


 「莉空君と蒼空君は、なんで異能者としての記憶が封印されていたのだろう? 同じ様に誕生した私や詩音ちゃんは魔術師だから封印されなかったのかもって、ヒイロさん言ってたけど......納得出来ないよね?」

 「そういう面も含めて、『神々達の悪戯』なんだよ、やっぱり。 特に莉空君の瞬間移動攻撃のスキルが強力だから、封印された感じがするね」

 紗良も苦々しい顔をしながら答える。


 「いつか終わる日って有るのかな? 異能者の戦いが......」

 聖月の素朴な疑問に、答えを持ち合わせている者は、誰も居なかった......


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